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普代駅の先で列車はトラス橋を渡る。トラスの隙間から町の灯りが漏れてくる、写真にしたら印象的な光景となった。
田野畑駅を前にして最後のトンネルの中に、田野畑駅進入の可否を運転士に報せる場内信号機がある。トンネル出口の向こうは闇ではなく、田野畑駅の灯りだ。
列車は無事に田野畑駅に到着。ここでの折り返し時間は27分、その間に宮古から久慈へ向かう列車が一本先行する。
先行列車があるため、客が降りると車内の灯りは消される。これは私のような物好き以外の客に「先に行く列車がある」と報せるためだ。
やがて宮古側のトンネルから、前照灯の光が漏れてきた。先行の久慈行きの灯りだ。
トンネル内の灯りはゆっくりゆっくりと近づいてくる。本来は闇であるトンネルの方が、夜の闇より明るいという不思議な光景は「夜鉄」ならでは。
列車がトンネルを出た瞬間、トンネルは闇に戻り今度はトンネルの外に前照灯の光が溢れる。その灯りがレールに反射し、幻想的な光景だ。
久慈行きの列車は僅かに停車したかと思うと、すぐに扉を閉めて去って行く。そのテールランプの灯が美しい。
テールランプの灯を残して、36-700型が闇夜に消えていった。峠のトンネルに入る汽笛の音を残して…。
上の写真を撮り終えた頃、私をここまで乗せてきた列車は、最終の久慈行きとして室内灯を点灯させた。テールランプの灯りがこちらも美しい。
ホーム側から見ると、車体広告が賑やかなのが解る。車内の灯りが暖かそうだな…乗り込んでみよう。
事実上は「休日運休の最終列車の回送」なのだろう、発車間際になっても車内はこの通り。おかげで36-200型の純粋な車内写真を撮影できた。
いよいよ出発信号機が青を示した。手前にあるのは隣のホーム用で、この列車は奥にある青信号に従って出発だ。
この休日運休の久慈行き最終列車は、現在の三陸鉄道では唯一の快速列車で、途中の白井海岸・堀内・陸中宇部の3駅は通過となる。
これは白井海岸駅通過の一瞬。
もちろん、真っ暗だからビューポイントでの徐行や停車のサービスもない。これは大沢橋梁、あっという間に通過だ。
堀内駅通過、「あまちゃん」ロケ地として有名になっても、夜の闇は同じように訪れる。
こちらも昼間なら停止サービスがある安家川橋梁。コンクリートトラスの美しい橋梁だが、この列車は速度も落とさず一気に渡りきる。
野田玉川駅進入中にシャッターを押してみた。駅の灯り、信号機の灯り、前照灯の灯り…夜の鉄道の美しさが全て出ている写真になったと思う。
陸中野田駅通過シーン、駅の灯りだけでなく線路際の停止位置目標の灯りがスピード感を盛り立てている。
久慈駅の場内信号、そして前照灯に照らされた線路の向こうに久慈の町並みの夜景。いよいよこの夜の鉄道旅行も終わりだ。
無事に久慈駅に帰ってきた。回送列車代わりの列車だったが、実は私を含めて客は二人だった。
駅に着いたら列車の行き先はあっという間に「回送」に。
おやすみなさい、そしてまた逢う日まで…。

こうして今回の三陸鉄道を巡る旅は終わった。この夜の一往復はとても印象的な旅で、他では見られない美しい「夜の鉄道」の情景を見ることができた。
このサイトのご覧の方にも、是非ともこのような「夜のローカル線の旅」をお勧めしたい。夜行列車が殆ど消えてしまった今でも、このような形で「夜の鉄道」を楽しむことができるのだ。

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