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2010年2月27日 小田原駅

 500系「のぞみ」運用撤退を翌日に控えたこの日、私は新幹線の撮影で何度か訪れたことのある小田原駅へ向かった。500系という人気者がもう見られなくなると知った鉄道好きの人々が多く集まり、ホームはいつもの小田原駅とは違う雰囲気に包まれていた。

 新幹線の写真をお見せする前に、小田原駅にある500系運用のための設備を紹介しよう。
 これはホーム最後尾の車掌用の停止位置目標。車掌室が中央の赤い丸印のところに停止するよう停まる。青い線の間に車掌室が来なければホーム安全柵から扉がはみ出してしまうという表示だ。
 そしてこちらは運転士が見る停止位置目標。×印が16両編成共通の標識で、隣の「W」と書かれたものが500系用。
 運転士はこの標識が自分の真横に来るように列車を停止させる。500系は先端部から運転席までの距離が他の形式より長いので、専用の標識でないと停止位置が合わないのだ。
 停止位置目標を横から見る。500系と他の車両の違いを端的に示している。
 これらの装備は500系による停車列車のない小田原駅にもあったのは、事故や災害などで突発的に停車させる事象に備えてのものだった。
 もちろんこれらの装備は3月1日以降必要がなくなる。
 停止位置目標に車両が止まっている様子。
 上写真の「×」の位置と、停車している300系の運転席がぴったりと合っているのがお分かり頂けるだろう。
 もちろん、今回は500系だけでなく他に撮らねばならない車両があったのを忘れてはいない。
 それは300系初期車だ。私が「元祖のぞみ号」として認める300系は1992年度までに製造された最初期タイプの車両で、JR東海は最初の15編成、JR西日本は最初の5編成がこれに当たる。上の停止位置目標の説明に使った写真もこの初期車に属し、特徴は側面の客室扉に「プラグドア」に採用されていて車体が平滑な点にある。
 私はこの平滑なボディの300系も最も美しいと思っている。残念ながらJR東海の初期車はN700系に取って代わられて全編成廃車になってしまったが、JR西日本の300系初期車はまだ全編成健在だ。だがJR西日本もN700系の導入を進めている現在、JR西日本の300系初期車も先が長くはないことは確かだ。現在東海道・山陽新幹線に乗る際に「JR西日本の300系を狙う」というのはこの車両に逢うためだ。
 300系の比較写真、上が初期車であるJR西日本F4編成、下は初期車ではないJR東海J57編成。
 上写真の車両は客室ドアに凹凸がないのがよくわかるだろう。
 
 ボンネット部分を真横から見て比べた初期車であるF4編成と後期タイプであるJ44編成(上写真は停止位置目標説明用写真と同じ)。
 よく見ると先頭部の帯塗装の終わり方も初期車と後期車で僅かに違うらしいが、この比較写真では分からない。あるいは検査時の塗り直しで後期車に合わせたか? 塗り分けの違いが単なる都市伝説なのか?
 もちろん最も初期車らしいこういう写真を撮ることも忘れてはいない。
 小田原駅を通過する300系初期車による「ひかり」、JR西日本の300系は「こだま」運用が多いので、このように通過線を行く300系初期車はかなり貴重だ。
 やっぱり平滑な側面が美しい。露出合わせが上手く行かなかったのが悔しい一枚だ。
 これも通過線を行く300系「ひかり」だが、JR西日本所属車でも後期タイプのF9編成。
 だがこういう写真も貴重だ、300系は徐々に花形運用から撤退しつつあり、今年中にも「のぞみ」運用からの完全撤退が予定されているともいう。
 そうこうしていると500系「のぞみ」最後の1往復の上り列車、「のぞみ」6号の通過時刻が迫っていた。私は大阪方向を向いて「その時」を待つ。
 500系「のぞみ」キターーーーーーーーーーーー!!
 これもちょっと露出合わせに失敗した惜しい写真。でも500系らしさは出ているので満足の一枚だ。今日は最後まで残った2編成のうち、私が乗ったことない方のW8編成だ。
 上り「のぞみ」6号が東京駅に到着し、折り返し「のぞみ」29号として帰ってくるまで1時間20分。私はそのままホームに残ってその時を待つことにした。ホームには多くのカメラを担い鉄道好きの人々で埋まっており、鉄道警察までが出てきて警戒に当たっていた。そんな中、こんな車両500系の「露払い」として通過、事前に情報を掴んでいなかった人も多かったようでホームからはどよめきが上がった。
 やって来たのは「ドクターイエロー」ことT4編成。休日のこんな時間に検測ダイヤとは思えないから回送だろう。
 しかし500系を目当てにした鉄道好きのカメラの放列の中に、こんな物を飛び込ませるとはJR東海も粋な事をする。
 もちろん去りゆくものがあるならば、それに代わるものも追いかけねばならない。それは私が鉄道を追いかける時のポリシーでもある。500系や300系初期車を狙うなら、それに代わるN700系だって押さえておかなきゃならないのだ。
 小田原駅を通過する最新型のN700系。500系「のぞみ」は3月からこの車両と交代だ。
 500系だけではない、N700系の台頭でJR東海から急速に私の大好きな300系が数を減らしている。前述したがJR東海では300系初期車は全て一線から退いている。
 N700系の後ろ姿。700系とは対照的に鼻筋の通った形状をしている。300系もそうであるが、鼻筋が通ることによって流線スタイルがさらに引き締まる。700系も500系も鼻筋が通ってないが、500系の美しさはそんなものを必要としないカッコよさなのだ。
 そして13時過ぎ、いよいよ先ほどの500系W8編成が東京駅で折り返して帰って来た。
 いよいよヘッドライトの明かりを煌々と輝かせた500系が小田原駅に侵入する。今回は迫力のある写真を撮ろうとホーム中程から望遠を効かせて狙うことにした。
 500系が緩やかなカーブを曲がりながら小田原駅を通過する。シャッターチャンスはほんの一瞬、少しでも速ければ小さく写ってしまい、少しでも遅ければファインダーからはみ出す。
 連写など使わない「せーの撮り」をセオリーとする私の撮影スタイルでは、新幹線の撮影は本当に一瞬の勝負だ。その一瞬に全神経を集中して撮った一枚がこれ。トリミング無しでこうも迫力がある写真になった。
 振り返って後部を撮る。400メートルの長身が通過している間に、レンズを広角気味に変更して今度は「長さ」を強調した写真にしようってえんだから忙しい。
 こちらもピンがずれたとは言え、このような忙しい撮影でよくぞここまで上手く行ったと神に感謝。
 こうして引退前日の小田原駅での撮影は終了。帰りに四十八瀬川の渓谷へ行って小田急線の撮影という寄り道をした(この写真も機会があったら当サイトで発表したい)ので、家に帰ったらすっかり夜だった。
 しかし家に帰っても休む間を惜しんで、最後の撮影地選びと翌日の行程の検討に入る。最終日、2月28日は早起きなのに夜更かしせざるを得ない状況だった。
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