小田原駅で新幹線300系の撮影を終えた私は、急ぎ新松田に戻って来た。新幹線ホームで仲良くなった鉄道好きの方との話で盛り上がっていたら、予定していた急行に乗りそびれ各駅停車で移動することに。そのため「はこね」30号RSE車、「はこね」33号LSE車の撮影は諦めねばならなくなった。だがここまで紹介したように、RSE車もLSE車も既に満足な写真が撮れているのでこの現実を素直に受け止められた。
 それより、まだ満足な写真が撮れていないJR371系だ。
 続いて向かった場所は新松田駅の北側、JRと小田急の短絡線を一望出来る場所。ここで短絡線から小田急線に乗り込むJR371系を撮影しようと考えたのだ。ここなら徐行するから、失敗のリスクも低い。
 現地に着いた時には、「あさぎり」6号の松田駅発車まであと2分というタイミングだった。本当にギリギリだ。
 ところが、間もなく「あさぎり」6号がやってくるという時間になって、下り「メトロはこね」がやって来た。それどころか新松田の場内信号が停止信号で、この場所で機外停止となってしまった。まさか…
 MSE車を停めていた場内信号機が変わり、ゆっくりではあるがMSE車は走り出す。「あさぎり」6号は?と気が気でならない。MSE車がが走り去るのが長いこと…そしてMSE車の後部を見送ると、「あさぎり」6号はまだシャッターポイントより手前にいるのが見えた。安堵した瞬間がこの一枚だ。
 短絡線を伝ってJRから小田急へと渡ってくるJR371系。今後、「あさぎり」は小田急からの片乗り入れとなり、JRの車両がこの短絡線を伝って小田急に入ってくることはなくなる。
 速度制限があるので本当にゆっくりゆっくりと走ってくる。その間にレンズを広角にして編成全体が入る構図に変更した。371系らしい、「決定版」といえる満足な写真がやっと撮れた。
 この列車もRSE車と同様、2階建て車が連結されている。特に1階と2階を繋げた大きな窓は、他車の2階建て車には見られず、登場時はその大胆なデザインに驚いた。
 2階建て車が短絡線と小田急小田原線を隔てるポイントを通過する。今度のダイヤ改正は小田急の鉄路から2階建て車が消える事を意味している。
 最後は振り返りの撮影、すぐ目の前に架線柱があってこんな写真が精一杯だが、先頭車の独特のデザインがよく解るだろう。
 そして程なく、「はこね」35号としてHiSE車が通過していく。時間的にこれが本日最後の撮影列車である。ちょっと寄せすぎて下部がギリギリ、とかも先頭部ピンボケという悲しい写真になってしまった。
 その振り返りもファインダー位置が下過ぎてパンタグラフが切れてしまった。最後の最後はいつもこうだ、今回は特にJR371系で上手くいって気が抜けたのかな?
 走り去るHiSE車、多分小田急の鉄路で彼女を見るのはこれが最後だろう。もう一度乗りたかったなぁ。
 HiSE車が走り去っても踏切が上がらないので待っていたら、EXEがやってきた。本日の最後の一枚は、今の小田急ロマンスカーの主役だ。

 この日の撮影は以上である。
 実は今回撮影対象となったロマンスカー、HiSE車、RSE車、JR371系はそれぞれ1度ずつしか乗ってない。どれもバブルまっただ中に作られただけあって個性が強く、「いかにも特急」という高級感が強い電車だった。とくにハイデッキやダブルデッカーというのは、見ただけで「乗ってみたい」と思わせる作りだったと思う。いずれにしろただでさえ個性的な車両が多い小田急に、さらなる濃い「味」を付けていたのは確かだろう。
 どの車両も登場したのが「ついこないだ」と思っていたが、気付けばHiSE車は25年近く走っていて、RSE車もJR371系も去年20周年を迎えていた。どれもこれも決して新しい車両ではなく、私が若かった時代が遠くへ去ったことを今回の引退劇で痛感した。
 HiSE車は80年代末期の「のっぺりデザイン」の一員だ、同じ頃の車両として新幹線100系の「のっぺり顔」を思い付く人は多いだろう。RSE車やJR371系は「のっぺり顔」の時代が終わった後の1期生と言ってよく、その後のメタリックの時代に入る過渡期のデザインと言えるだろう。「のっぺり」をやめて流線型、貫通扉位置や形状、ブラックフェイス化などで変化を付けてきたタイプで、これは近鉄の「アーバンライナー」から始まったデザインと記憶している。JR251系や253系でその方向性が確立し、この頃に一応の完成を見たデザインと思う。その後、1992年のJR787系を皮切りに「メタリック」の時代に入って行くが、このデザインも並立して行くのは言うまでもないだろう。
 90年代から2000年代の小田急を彩ってきたこれらの車両の引退は本当に寂しい、だがこれも時代の流れと受け止めねばならないだろう。これから私の青春時代にデビューした車両達の引退が続くんだろうなー。

・過去に撮影した写真から
 東海道本線の富士川橋梁を渡るJR371系、九州ブルトレ最後の撮影の時に撮影したものだ。「あさぎり」だけでなく、入出庫を兼ねた「ホームライナー」での活躍を忘れてはならない。


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