第27話「ニコラス先生の教え子たち」 |
名台詞 |
「聞いちゃいられねぇな、いい加減にしろよルシエン。」
(ジャン) |
名台詞度
★★ |
ストーリークラッシャーとでも名付けようか、ここまで上手に決まっていた物語を一瞬でぶち壊す台詞として視聴者の印象に強く残った台詞だろう。せっかくの雪解けムード、いや仲直りが目前にあった二人の状況を一瞬で破壊したのである。これに怒ったのはルシエンだけではない、アンネットもせっかく素直になったのを台無しにされ、ジャンに喧嘩を売ってまたルシエンに対しても意地を切り続けてしまう方向に戻ってしまう。
恐らくジャンがこの欄に出てくるほどの台詞を吐くのはこれが最初で最後と思うが、その印象的な台詞を吐いているときにジャンの顔が霧でよく見えないのが少し可哀想。だが退屈そうな顔をして頬をかいている様子が霧越しに見えるのは彼の性格を上手く示していると思う。
またこうして物語をぶち壊されたルシエンの様子がこれまたいい、ルシエンもせっかくの仲直りのチャンスが壊されつつあることに気付いて、なんとか元に戻そうと必死になるのだ。とことんついてないやっちゃな。 |
(次点)「なによデブ!」(アンネット)
…上記シーンを受けてアンネットとジャンの壮絶な言い合いが始まる。その中で「じゃじゃ馬」と言われたアンネットのこの一言で返す。「そこまで言うか〜」と思った、ジャンの反応も「ああ言ったな、俺は女にそんな言い方されたの初めてだぞ!」というものだ。「世界名作劇場」史上この言葉で登場人物を罵ったヒロインはいただろうか? |
名場面 |
霧の中の会話。 |
名場面度
★★★★ |
山の牧場に立ちこめる霧、そんな中ニコラス先生が崖下で動けなくなる。ルシエンとジャンが崖上からニコラス先生を励ましているとルシエンを呼ぶ声が…アンネットだった。
声の主がアンネットと分かると、ルシエンは声の方向へ向かって歩き出す。しかしアンネットの反応は「ダメ、こっちに来ないでルシエン」という声だった、だがその声のトーンはルシエンを拒絶しているものではない。ルシエンを受け入れようとしている明るい声だった。その言葉にルシエンも明るく「どうして?」と聞き返す、これはアンネットの声が自分を拒絶するものではないと分かったからだろう。「どうしても、なんだか恥ずかしいわ」、「けっ」と返すジャン、「だって、今までずぅっとルシエンとは口をきかなかったし、今急にこんなおしゃべりをするなんて、、なんだか変だわ」と本心を語るアンネット、「そりゃ、でも口をきかないよりずっといいや」とルシエンもまんざらではない。「私、こうしてルシエンの顔を見ないでお話ししていると、何でも言えそうな気がしてくるわ」「何が言いたいの?
言ってよアンネット」「やっぱり私、恥ずかしいわ」いよいよ二人の仲直りか?と視聴者の期待は高まる。「聞いちゃいられないなぁ、いい加減にしろよルシエン」と視聴者の期待が高まったこのタイミングでジャンが横やりを入れるのは絶妙だ。「誰?
そこで立ち聞きしているの誰よ? 失礼ね」…完全に空気は壊れた。
とにもかくにも、このシーンがダニーが崖から転落してから、雪の夜にアンネットが遭難したことがきっかけでルシエンと和解するまでの間、最も二人の距離が縮まり最も仲直りが近かったシーンである。ジャンの横やりが無ければアンネットは自分が意地を張りすぎたことを語り、それに対しルシエンは謝罪と自分の気持ちを吐くことで二人は心を許しあい、そして感動の和解に至ったはずだ。
霧で相手の顔が見えないことでアンネットは意地を張るのをやめて素直にルシエンに接することが出来た。顔が見えないことで自分の中の憎しみや意地を覆い隠すことが出来たのである。現在でも喧嘩した相手と電話でなら素直に話が出来るなんて体験をしたことあることがいるだろう。顔を見ないで相手の息づかいを感じながらの会話というのが二人の距離をここまで縮めたのだ。
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今回の アンネット VS
ダニー |
いよいよダニーが先に山を下りるときがやって来た。山を下りたくないダニーは屋根裏の干し草の中に隠れてしまう。匍匐前進で屋根裏を探すアンネットだが、どうしてもダニーが見つからず、ついに飛び上がりながら屋根裏中響き渡る大声を出す。「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」「うわ〜っ」干し草の中から飛び上がるダニー。「待ちなさいダニー」「嫌だ、僕帰るの嫌だ」「ダメ、今日はどうしても帰るのよ」「いや〜っ、帰るのいや〜っ、痛い痛い」「こっちへいらっしゃい、ダニー!」「やだよ、帰るのいや〜っ」「ダメ、帰らなきゃ。明日はあんたのためにお医者さんが来るのよ。お医者さんすっぽかしたらどんなことになるか知ってるの?」「どうなるの?」「あのお医者さん怒ると怖いんだから、本当に怒ったらあんたのおへそなんかくり抜いちゃうんだから」「え〜?」「おへそが無くなったら、もうあんたなんか蛙になるしか道がないのよ」「うそだ〜っ」「嘘じゃないのよ」「僕は蛙になんかならないよ、おねえちゃんの嘘つき〜っ」「あんた小さいとき、この話本気で聞いてたのに、どうして今になって嘘だって言うの?」「うそだ〜っうそだ〜っ」…なんとか山を下る馬にダニーを乗せましたとさ。 |
感想 |
いよいよ山の話もこれで最後のようだ。帰りたくないダニーとの大騒動(今回のアンネットVSダニー欄)は笑った。今回はアンネットの対決シーンは多く、ダニーにペーペルにルシエン、ジャンとは2回も対決している。「今回の○○VS○○」欄の選定が凄く難しかった。
しかしニコラス先生が山に登ってくるのが唐突だったような気もするが、前々話位に伏線が張ってあったっけ? でもそれならそれで先生が高山植物などに興味を持っているとかいう話をもっと出しておけばよかったのに…、それなのに山に不慣れというのは設定上不自然だが、それで楽しい物語が展開したからいいや。
そして今回の見どころはアンネットとルシエンの接近だろう。霧の中で二人を会話させて仲直りを感じさせるという脚本には本当に感心した。その場をぶち壊すためにジャンが存在したのも不自然ではない。あれがジャンじゃなくてフランツだったら二人に気を使って聞こえないふりをしただろう、またアントンだったら空気を読まずに二人の会話に割り込もうとしただろう。女の子の友達だったら…「なんなの?」と素朴に聞いてしまうだろう。そう色んなシミュレーションができると言う点でこの話は面白い。
←別にペーペルを食べている訳じゃありません。 |
研究 |
・「わたしのアンネット」第二部完
この回が終わったところで「わたしのアンネット」は2幕目が終わったと考えて良いだろう。鉄道開通の話は番外編として、11話のクラウス登場からここまでが一つの物語として展開している。もちろん次回へと物語は流れているのだが、次回からは明らかに展開が変わり、特にルシエンの苦悩は続くのだがこれまでと苦悩の質が変わるのだ。11話からここまでのダニーの転落事故〜ルシエンの苦悩〜ルシエンの償い〜アンネットによる拒絶〜ダニーの許し〜雪解けムードというここまでの展開を私は「ノアの方舟編」と勝手に命名している。
原作でも展覧会の前で話に一区切り入れられる。原作でも展覧会を境にアンネットの苦悩という新たな展開が加わって物語の展開がガラリと変わるのだ。原作でもアニメでも、その前の話はルシエンの苦悩と償いが中心に置かれていて、この中でルシエンが「取り返しの付かない事をしてしまったらどのように行動すべきか」という教訓を見せてくれるのである。だがそれは簡単には上手くいかない事も教えてくれるし、何度挫けてもその考えを忠実に実行するルシエンの姿はどちらも魅力的だ。 |