第13話「すれ違うこころ」 |
名台詞 |
「ちょっとその鏡を見てご覧、アンネット。どうだい? ひび割れていてもちゃ〜んとお前の顔が写っているだろう?
ちっとも変わったところなんかありゃしない。そりゃね、どんな仲が良い友達でも喧嘩することぐらいはあるさ。相手が嫌いになったり、どうしても許せないって思うことだってあるさ。でもその気持ちをいつまでも持ち続けることはよくないよ。お前とルシエンだってそうさ、鏡の中のお前が変わっていないように、二人の気持ちに変わりはないんだよ。そこをよ〜く考えてみることだね。肝心なのは怒ったままで一日が終わるようなことがあってはならないってことなんだよ。アンネット。」
(クロード) |
名台詞度
★★★★ |
「第一の事件」(「今回のアンネットVSルシエン」欄参照)を受けて、アンネットは当然のことながら手鏡をくれたおばあちゃんに事件を報告したのだろう。そしてルシエンが許せないという自分の現在の素直な気持ちを吐露したに違いない。そんなアンネットに向けてクロードは笑いながらこう言うのだ。
そう、鏡がひび割れていようが何だろうが鏡は鏡としての機能を失ってない。だから友達同士も同じ筈だというのがこの言葉の論理である。さらに最後に付け加えた「怒ったままで一日を終えてはならない」という論理は「愛の若草物語」でメアリーがジョオに言ったのと全く同じ事である。どちらも原作にも出てくる論理だが、「雪のたから」を読んでこの全く違う二つの物語に同じ論理が描かれているのは偶然でないことを知った。というのもこれが聖書に書かれている言葉であることが「雪のたから」にはハッキリと書かれている。
この言葉を聞いた後、アンネットはダニーを迎えに外に出る。そこで雄大なアルプスの山々を見たことも手伝ってルシエンに謝ろうと決意する。そして名場面シーンへと繋がり、また物語がひっくり返るのだ。ま、「第二の事件」を先に知っている視聴者としては、この台詞はむなしく聞こえるだけになってしまうのだが…。 |
(次点)「何が、どう食い違ってしまったのでしょう。クラウスの事はもちろんアンネットの誤解です。でも一度こじれてしまったアンネットの気持ちをルシエンはどうすることも出来なかったのです。二人がこんな気持ちになったのは初めてのことでした。そして、これから先長い間、あんなに仲の良かった二人はそのために苦しみ続ける事になるのです。」(ナレーター)
…今回1話の展開の結果について、アメリア先生が上手くまとめて解説してくれた。しかもそれだけではない、二人は仲直りできないまま長い間を過ごすことになるという視聴者への宣告だ。まさか二人が仲直りするのは最終回の手前辺り?と私も心配になっていた。 |
名場面 |
「絶交よ!」。 |
名場面度
★★★★★ |
名台詞欄シーンを受けてアンネットはルシエンに謝罪することを決意するが、そこへダニーが泣きながら帰って来る。そして「第二の事件」を知らされるのだ。「第二の事件」とはダニーがモレル家を訪れた際にクラウスが作るのに二週間も掛かったルシエンの木彫りを壊し、これに腹を立てたルシエンがクラウスを叩いて怪我をさせてしまったというもの。これを聞いたアンネットは先ほどの決意もすっかり何処かへ行ってしまい、ルシエンを問い詰めるべくモレル家へ走る。
薪を運ぶルシエンに声をかけたアンネットは、すぐにルシエンの元へ掛けて「クラウスを放り投げたのは本当なの?」と問い詰める。「放り投げた訳じゃないよ、ただ僕は…」「放り投げたの?
投げないの?」「ごめん、悪かったと思っているよ」「クラウスは足の先に怪我をしたわ、ダニーはずっと泣いてるわ。卑怯よルシエン、私への腹いせにダニーをいじめるなんて」…予想外の展開にルシエンの表情が明らかに変わったのはここだ。誤解されている、僕は誤解されていると気がついたに違いない。「学校でルシエンを殴ったことは私が悪かったわ、でもこんな仕返しをするなんて…私…私…ルシエンを見損なったわ!」…アンネットのさらに辛辣な言葉が続くと、ようやくルシエンもその事情を説明しようとする。ところがもう何を言ってもアンネットには言い訳にしか聞こえない。「ルシエンとは…ルシエンとは…絶交よ!」と吐き捨てると走って帰ろうとするアンネット、ルシエンはすかさずアンネットを追いかける。話を聞いてもらって理解して貰わねばならない、ルシエンの頭の中はそれだけだ。
追いついたルシエンはアンネットの腕を掴んで話を聞いてもらおうとする。「話を聞いてくれよ!
アンネット」「聞きたくないわ!」…今回だけで二度目の平手打ちが決まる。無言のままにらみ合う二人、14秒間の沈黙の後、アンネットは走り去ってしまう。
「違うんだよ…アンネット」と消えゆくアンネットの後ろ姿に呟くルシエン。そう、ルシエンはここで殴られたことによって何か取り返しの付かない事態に陥ってしまったと感じたに違いない。確かに悪かったのは自分かも知れないが、だからといって何も話を聞いてくれないアンネットに対して怒りや憤りを感じたのでなく、不安を感じているに違いない。この誤解は二度と解けないのではないか?という気持ちと、自分たちの仲はこれからどうなってしまうのだろう?という思いだ。そのルシエンの不安な気持ちと、そこに至る過程が上手に再現されている。特にアンネットが平手打ちを決めた後の14秒間の沈黙に、この思い全てが込められているように見える。
この大喧嘩は原作を知らない視聴者に対し、二人がどのように仲直りするのかと期待させることになるが、このシーンの直後にあるアメリア先生のナレーションを聞いてさらに驚かされることになる。そう、二人は当分は仲直りすることのない展開に入ると次回予告の前に告げられてしまうからである。だがこの時点でも原作を知らずに見ている人は、まさか「世界名作劇場」シリーズ最大の大喧嘩へと物語が突入するとは思わないだろう。私も次回、あんな悲劇が待っているなんて思いもしなかったし…。
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今回の
アンネット
VS
ルシエン |
本当にここで取り上げたい部分は「名場面」欄に記してしまったので、最初の事件の方を。勉強に身が入らないことで先生にこってりと絞られたルシエンは、皆より遅れて昼休みの校庭に出てくる。ジャンに一緒にボール遊びしようと誘われるが、とてもそんな気分になれない。そこでシーソーに腰を掛けているアンネットを発見、後ろにそっと近付いて脅かしてやろうという悪戯を思い付く。悪戯は成功、だが今日のアンネットはいつものアンネットとちょっと違った。アンネットの手にあった手鏡は落ちて無残にも割れてしまい、アンネットは怒りに燃えるのだ。「ハハハハハハハ、ハハハハハどうだい?アンネット、びっくりしただろう?
フハハ、こんなに上手くいくとは思わなかったなぁ、フハハハハ…」と暢気に笑うルシエンは、アンネットが目の前に立ちふさがり平手打ちの構えを見せたところで「はぁ?」という表情をする。そして今回1回目の平手打ちが決まる。「痛いなぁ、何するんだよ?」「ルシエンなんか大ッ嫌いよ!」「おい、アンネット…一体なんだっていうんだよ!
おお、痛…」。ルシエンは大した事件に感じていなかったが、これが全ての始まりだったのだ。 |
感想 |
クロードやピエールが急にアンネットのお転婆を気にするようになり、また突然女の子らしくしようと言い出したクロードに対してアンネットが素直に受け入れる(特別なことがなければ「愛の若草物語」のジョオみたいな反応をするのが当然)のはアレだ、前の日がお赤飯だったに違いない。うん、きっとそうだ…ダメだなぁ、大人になってこの話を見るとそうとしか思えなくなる(本放送時はそういう知識が入ってくる直前だった)。ところでスイスでもお赤飯なんだろうか?
「本題」の入り口に当たる11〜12話の流れを受けて、いよいよ物語は殺伐とした「雪のたから」らしい展開へと突入して行く。前回までの物語はここへ話がいくようになるための前哨戦でしかなかったのだ。特に前話でルシエンを「カッとしたら何をやらかすか分からない性格」として描いたのは成功している。前話ではルシエンのそんな部分がプラスに作用して最後はアンネットから「好きよ」の言葉とキスを貰うきっかけともなったが、今回はそれをマイナスに作用させることでアンネットとの仲を最悪の展開に持ち込むようにしたのだ。前話にしてもあくまでも怒りの矛先がアンネットと同じだったからプラスにいっただけの話で、大人になってから初見の人は怒りの矛先が変われば当然こうなるという予測が出来た上で見られるのがこれまたいいつくりである。
またアンネットの性格がお転婆で猪突猛進型というのもこのように話をこじれさせるために必要だった点だろう。もちろん今回のアンネットはルシエンの言い分を聞こうともせず、自分の描いたストーリーによって勝手に話を進めようとするのである。
今回の平手打ち2発、クロードからアンネットにプレゼントされた手鏡がすぐに壊れる点、ダニーがルシエンに泣かされるなど、今までの物語の展開と違うことは本放送時も感じた。このままじゃ二人の仲はとんでもないことになるんじゃないか?という視聴者が不安に感じたところで、次から次へと話が悪い方向へ行ってしまう。まるでドミノ倒しのように話が倒れていくのである。クロードの説教を持ってしても勝てない今回の展開は、ある意味すごいと改めて感じた。 |
研究 |
・アンネットのちこく
クリスマスに一度原作と合流し、その後また原作から離れたアニメだが、次話のダニーの事故へ至る直前に始まるアンネットとルシエンの喧嘩についてはアニメでは大きく書き換えられた。これはもちろん、アンネットとルシエンは大の仲良しという設定に変更されたためで、アニメでは上記のようにルシエンの悪戯でアンネットの手鏡が割れてしまう「第一の事件」と、クラウスがルシエンの木彫りを壊してしまってカッとなったルシエンがクラウスを叩き付けてしまうという「第二の事件」として展開した。
しかし原作ではこの辺りの事件は全く違うものになっている。原作ではこの段階ではまだ冬、ソリで登校中のルシエンが同じくソリで学校へ向かっていたアンネットと衝突事故を起こすところから喧嘩が始まるのだ。アンネットは衝突の弾みで雪が溜まった溝に落ちてしまい、持っていた教科書なども泥だらけにされてしまう。そこで二・三言い争いをしたあと、ルシエンはアンネットを救助せずにそのまま逃げてしまうのだ。アンネットは雪の中から出るのに苦労して遅刻し、さらに手や足は血だらけとなり、ボロボロになった教科書を持って学校にやって来たために事件が発覚する。アンネットだけでなくクラスメイトや先生までもがルシエンを責め、ルシエンはむち打ちという罰まで食らってしまう。これが原作での「第一の事件」。
その日の午後、この事件だけでなくテストでクラス最下位となったり、朝登校前に母親に叱られたりとさんざんな一日となったルシエンは泣きながら下校していた。そこへ雪だるまを作っていたダニーと会い、「ルシエンが泣いているのは先生にむちで叩かれたからだ」といわれてしまう。ルシエンにはそれが意地悪に聞こえ、ダニーが作った雪だるまを破壊する。ダニーが大声で泣くとアンネットが現れ、ルシエンに平手打ちを見舞うという痛快な展開だ。ルシエンが殴り返そうとしたところでピエールが現れたので、ルシエンはありったけの罵詈雑言で対抗する。この事件が原作での「第二の事件」となる。
原作の場合、重要なのは「第二の事件」でアンネットがルシエンに平手打ちを一発決めたのに対し、ルシエンは暴力的な仕返しを出来なかった点にある。これは次話の研究欄で出てくるのでよく覚えておくように。そして二人とも一度は謝ろうと気の迷いが生じる、アンネットはクロードに「怒りを持ったまま一日を終えぬように…」と教えられていたことから、ルシエンはアルプスの自然を見て心が広くなったことからそう感じるのだ。しかしどちらも結論として「相手が先に謝るべき」としてしまったため、二人は謝罪することなく春を迎えることになる。そして次の大事件へと話が展開して行くのだ。 |