「あにめの記憶」過去作品・8

「クレヨンしんちゃん(劇場版)
 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」

・世代を問わず楽しめる映画
 いよいよこのサイトで「クレヨンしんちゃん」を取り上げる日が来た。本当はもっと先に行う予定であったが、当サイトでも追悼記事を書いた通りこの9月に「クレヨンしんちゃん」作者で、かつ私が最も好きな漫画家である臼井儀人さんが遭難死するという悲しい出来事があり、当サイトではその追悼企画として予定をかなり前倒しにしてこの作品を取り上げることとした。
 追悼記事の方にも書いた通り、私はアニメの「クレヨンしんちゃん」をテレビ版・劇場版問わずに殆ど見ていない。だが「殆ど」としているのは「いくつかは見てはいる」という裏返しであることも多くの人が想像つくだろう。その「クレヨンしんちゃん」劇場版のうち、3作ほどは様々な偶然があって視聴した経験がある(旅先の宿でテレビを付けたらやってた・以前別れた妻の実家に行った際ケーブルテレビで放映されていた)。今回はその3作品の中で最も印象に残った作品を取り上げることとする(このコーナーで「クレヨンしんちゃん」を取り上げるにあたり、テレビアニメ版だと話数が多量でかついつ終わるか分からない状況であるため劇場版を取り上げるというのは自然な流れとしてご理解戴きたい)。
 これが「クレヨンしんちゃん」劇場版2001年作品である「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」である。私は5年位前に偶然この作品を視聴する機会を得たのだが、正直言ってこの作品を見て鳥肌が立った。

 その前にアニメ「クレヨンしんちゃん」について少し説明するが、「クレヨンしんちゃん」のアニメは1992年4月から放映が始まった。当初はテレビ局も制作者もそれほど力を入れておらず、「半年持たせてくれ」という状況だったという。原作が「知る人ぞ知る」という状況だったこともあって放送開始間もない頃は低視聴率に喘いだというが、やがて「これは面白い」と噂が噂を呼び放映開始翌月から徐々に視聴率を上げ始め、「持たせる」目標だった半年後には20パーセント以上という視聴率を叩きだすことになった。この「クレヨンしんちゃん」のヒットは子供が独特の台詞等をマネするので「教育上良くない」とPTAから叩かれることとなり、賛否両論の社会現象を引き起こすことになる。
 だが作品そのものの人気は誰もが認めるものとなり、すぐに劇場版長編の制作が決まって1993年夏にその第一作「アクション仮面VSハイグレ魔王」が公開、記録的な興行収入を叩きだして大成功となったために「クレヨンしんちゃん」の映画は毎年制作されることとなった。こうして「クレヨンしんちゃん」は「ドラえもん」とともに、今やテレビ朝日系を代表するアニメとなったのはいうまでもないだろう。これら「クレヨンしんちゃん」のアニメは海外にも輸出され、世界各地で賛否両論の騒動を起こしつつも大ヒットしている。中国ではあまりの人気に海賊版が本物となってしまう騒動まで起きている。

 追悼記事にも書いたことだが、「クレヨンしんちゃん」以前から作者である臼井儀人さんの漫画作品を読んでいた私は、「クレヨンしんちゃん」原作第一話が雑誌掲載されたのをリアルタイムで読んだ記憶を持つ。この「クレヨンしんちゃん」という国民的大ヒット作品を、私はその誕生の瞬間から知っているのだ(無論当時はこの漫画が大ヒットして国民的作品になるなんて思わなかったし、それ以前にアニメ化されるなんて想像すらしていなかった)。
 私はアニメの「クレヨンしんちゃん」を最近まで殆ど見ていなかった、もちろんこれも追悼記事の方に詳しく書いたことだが、原作の雰囲気が大好きでアニメ版と距離を置いていたのが最大の理由だ。だが自分の子供がついにこの「クレヨンしんちゃん」のアニメを見るようになると、少なくとも最近の作品は原作のノリや良さを大事にしつつも違う方向性を模索するという方針がしっかりしていることがわかった。今は週末になると娘と一緒にテレビアニメ版を楽しく見ている。

 そんな状況なので劇場版「クレヨンしんちゃん」を映画館で見たことはまだないのだ。テレビ放映等で劇場版を全編通して見た3作とは今回取り上げる「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」の他に、1997年作品の「暗黒タマタマ大追跡」と2005年作品の「伝説を呼ぶブリブリ3分ポッキリ大進撃」である。どれも素晴らしい作品であるが、私は特にこの「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」が印象に残っている。

 理由は劇中に様々な要素が描かれていることだ、1970年頃の流行や風俗の描写を中心にしたノスタルジー要素、大人達が町から消えてしまうというホラー要素、何が起きているのかが少しずつ分かって行くサスペンス要素、しんのすけらの戦いを派手に描くアクション要素、「ひろしの半生」が走馬燈のように流れるシーンに代表される芸術的要素、トヨタ200GTやスバル360等現実の自動車が活躍するメカニック要素、いつもの「クレヨンしんちゃん」らしいギャグ要素。それらを上手く混ぜ合わせて物語を構成し、この物語を通じて「家族」と「未来」というテーマを見る者に投げかけるという映画に仕上がっている。またこれだけの要素を詰め込んでおきながら窮屈感がなく、物語が単純にまとまっている点も見逃せないところだ。
 野原一家の「敵」との戦いも、基本的に「走る」という行為が中心であって殴ったり蹴ったりという直接暴力がほぼないのは魅力的であろう。
 そのようにしてこの作品は世代を問わずに楽しめる作品に仕上がっていると感じた。ノスタルジー要素は大人達が楽しんで見る要素であるし、「ひろしの半生」やしんのすけが未来を求めて半死半生の状態で「敵」に迫るシーンは涙もので大人にしか分からない感動があるだろう。子供達もホラー要素部分でしんのすけらと共に怖がり、アクションシーンでハラハラし、ギャグシーンで大笑いするという子供なりの楽しみ方が出来る。そのように大人と子供を同じシーンで同じように楽しませるのでなく、大人は大人なりの、子供は子供なりの楽しみ方や感動を作り別けられている点は秀逸だと感じた。スタジオジブリのアニメも世代を問わず楽しめる要素はあるが、これとは全く違う方向性でオールマイティなアニメ映画を完成させたのである。
 当サイトでは、それぞれのシーンにどのような要素が強く含まれているかも考慮しながら、考察を続けてみたい。

 この映画は各方面で評価は高く、2001年の映画作品のランキングでは数々の部門で上位にランクイン。「映画秘宝」という雑誌のランキングでは2001年度のベスト1に選定された(アニメ部門ではなく、洋画も含めた全ての映画の中でである。ちなみに同雑誌のランキングで1位になった邦画はまだ当作のみとのこと)。「ガンダム」でお馴染みの富野由悠季氏もこの作品を絶賛。主人公野原しんのすけの声を担当する声優さんも、この作品が1番と自信を持って進めているという。私もこれらの評価は間違っていないと感じた。

・「クレヨンしんちゃん」関連リンク
 「クレヨンしんちゃん」についてもっと知りたい、他の方の考察も見てみたいと思われる方はこちらをどうぞ。
 どちらも原作者である臼井儀人さんの漫画を20年に渡って読んできた私ですら知らない世界が、沢山発表されています。

「クレヨンしんちゃん研究所」
チョルス様による「クレヨンしんちゃん」の研究サイト。原作もアニメ版も扱っています。
「クレヨンしんちゃん」考察ではこのサイトの右に出るものは無いと思います。研究内容から作品に対する愛を感じるほど熱心な方です。
「クレヨンしんちゃん的ページ」
Mr.K様による「クレヨンしんちゃん」の研究サイト。こちらはテレビアニメ版が主となっています。
放映内容の紹介や、閲覧者からの質問に返答する形で「クレヨンしんちゃん」が理解できます。一回限りの脇役まで網羅したデータベースや、科学的考察は必見。

・「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」の登場人物

野原家
野原 ひろし 野原家の大黒柱で35歳、髭面と臭い足が特徴で劇場版ではこれらを武器として使うこと多し。
 …しかし、ヒーローの「ひろしSUN」っていったい…。
野原 みさえ しんのすけの母で29歳、胸が小さく尻がでかいことでいつもしんのすけにからかわれる。
 …魔法少女になって童心に返るシーンは可愛くて良かったぞ。
野原 しんのすけ 皆さんお馴染みの主人公で5歳、その性格から「嵐を呼ぶ園児」だ。
 …今作品では走る走る、普段はギャグの固まりだが劇場版では違う面を見せてくれる。
野原 ひまわり しんのすけの妹で乳児、乳児とは思えない行動で活躍するがよく見ると寝ている時間の方が長い。
 …たいのたいのたいの!
シロ ある日しんのすけが拾って来た野原家の飼い犬、今回はバスの運転をさせられる。
 …「クレヨンしんちゃん」ではこの犬の存在は欠かせない、今回も最後に勇気を見せてくれた。
かすかべ防衛隊
風間 トオル 幼稚園でしんのすけと同じクラスの秀才、だがしんのすけらにのせられる事も多い「いじられ役」も兼ねている。
 …リーダーになろうとしてしんのすけとネネに振り回されるのはいつも通りの役回りだ。
桜田 ネネ 幼稚園でしんのすけと同じクラスでかすかべ防衛隊の紅一点、イライラするとウサギのぬいぐるみを取り出し…。
 …キャバレーのママになりきっているシーンは、すんごくはまってたなぁ。
佐藤 マサオ 幼稚園でしんのすけと同じクラスの臆病な子、しんのすけやネネに振り回されてばかり。
 …幼稚園バスのハンドルを握った瞬間に性格が変わったのがらしいと思った、以外はいつもの情けない役。
ボーちゃん 幼稚園でしんのすけと同じクラスにいる謎の子、丸い顔に鼻水がトレードマークだ。
 …なんで原作者はボーちゃんの本名を明かさずに逝ってしまったんだ!
周囲の大人達
高倉 文太
(園長先生)
しんのすけが通う幼稚園の組長園長先生、幼稚園で働いているとは思えない程の怖い顔だが優しい人だ。
 …今回は「僕のバス!」というネタキャラに徹していた。。
副園長先生 文字通り幼稚園の副園長で園長先生の夫人、普段は暴走しがちで個性的な先生方を止める役だが…。
 …今回はあまり目立たなかった。
吉永 みどり
(よしなが先生)
幼稚園ではしんのすけの担任、可愛い顔をしているが気が短いのが欠点。
 …これまでの優しい先生とは違い、しんのすけに辛く当たるシーンを上手く演じたと思う。
まつざか 梅 幼稚園でばら組を担当する先生、対抗心が強く性格はキツイのだが…。
 …いつもはしんのすけに振り回される役だが、今回は逆に振り回したようにも見える。
上尾 ますみ 幼稚園でさくら組を担当する先生(アニメ版設定)、大人しいが眼鏡を外すと性格が豹変する。
 …この人も目立つ活躍が無かった、原作の「藁人形を常に持ち歩いている」という設定は笑える。
大原 ななこ しんのすけが恋する「ななこおねいさん」、作家の娘でとても優しい女子大生だ。
 …今回も目立った活躍はないが、原作ではしんのすけと両思いかという目立つ存在。
イエスタデイ・ワンスモア
ケン 「20世紀博」の主催者、大人達を「20世紀の臭い」で洗脳して世の中そのものを20世紀に戻そうと企てる。
 …「クレヨンしんちゃん」のキャラとは思えないクールな悪役、しんのすけのペースに乗せられることがないのが凄い。
チャコ ケンの恋人でケンの考えに共感し、共に「20世紀博」を通じた企てに手を染める。
 …言動は酷く我が儘な面もあるが、シロに牛乳をやるシーンなど優しい面もあるようだ。

総評はここから(1月17日更新)

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