…デパートの中で「イエスタディ・ワンス・モア」の構成員や、洗脳されてしまったひろしやみさえに終われるが「かすかべ防衛隊」一行はなんとか逃げ切る。一行が逃げ込んだ先は、ようち園バスの床下だった。一行はさらにバスの車内に逃げ込んだところで袋のネズミとなってしまい、状況打開策としてしんのすけがバスを運転して逃げることを提案する。子供じゃ運転できないと一同は反論するが、ボーちゃんが「園長先生の運転を見てたから出来る」ということでこの計画は実行に移された。 |
名台詞 |
「オラもうこんな地味な仕事嫌だ。それにずるいぞボーちゃん、一人だけ運転して、不公平だゾ。」
(しんのすけ) |
名台詞度
★★★ |
「クレヨンしんちゃん」には幼児や子供の本音を何に臆することなく表に出しているという魅力もある、そういう視点で見るとこの台詞はこの「クレヨンしんちゃん」という漫画の特徴的を示す台詞でもあろう。
何とかバスを走らせてデパートの駐車場から脱出した「かすかべ防衛隊」一行は、さらに逃走を続けるべき速度を上げようとする。ハンドルを握るボーちゃんが「4速」と命じるが、クラッチ担当のしんのすけが言う事を聞かずギアが変わらない。これに風間君が文句を言うとしんのすけはこう答えたのだ。
そう、子供に言わせれば「運転者」というのはハンドルを握って一番目立つ席にいる人のことなのだ。子供の目線で見れば見れば船の船底に近い機関室で必死にエンジンを動かしている人ではなく、船橋で指揮を出している船長か舵輪を握っている操舵手が「船を動かしている人」に見えるだろう。それと同じ事がここで起きただけと言えばそれまでだが、しんのすけがこの論理に従って反乱を起こす事は彼らの子供らしさを引き出す重要な点なのだ。この台詞でしんのすけは、「目立ってカッコイイ事がしたい」という子供らしい我が儘を見せるのだ。このような子供の論理や行動は、多くのアニメ等で「物語の展開優先」のため見落としがちな点でもある。
そしてこの台詞はこの後のカーチェイスシーンを盛り上げるために、「かすかべ防衛隊」の子供達全員が車の運転を経験するという名シーンへと繋がって行くのだ。子供達が子供らしく立ち回ることによって名シーンや名ギャグが生まれる「クレヨンしんちゃん」の素晴らしさが、この台詞に表れていると言っても過言ではないのだ。 |
名場面 |
やれ(ギャグ要素) |
名場面度
★★ |
上記名台詞を受け、ボーちゃんが全部の役をローテーションしようと提案、これは早速実行に移される。最初の運転担当はマサオだが、マサオは「僕地味な役で良いよ」と泣きながら遠慮する。それを見たネネが例のウサギのぬいぐるみの顔を殴り「やれ」と言って、あごで運転席を指す。それを見たマサオは直立不動になって「はいっ」と答える。
これも臼井儀人作品らしいギャグの一つだ。ネネがウサギのぬいぐるみを殴るギャグは、「クレヨンしんちゃん」定番ギャグの中で最も臼井儀人作品らしいもののひとつだ。本来ならばこのギャグは、本当は短気で怒りっぽいのに人前では優しいママを演じ、そのギャップに耐えきれなくなったネネちゃんママが憂さ晴らしにやっていたという設定だったのだが、いつの間にか娘のものになってしまったという経緯がある。だがネネがウサギのぬいぐるみを殴るシーンも非常に様になっているのは確かだ。
そしてこのネネの様子を見たしんのすけの驚いた表情やマサオの反応が臼井儀人作品らしく仕上がっており、かつネネの表情は出さずに目が描かれず口の動きだけというのは「脅し」という行為に走るネネの二面性を示し、ネネを悪役にしないための配慮でもある。ただこのシーンにひとつ足りないもの…それはネネに殴られているウサギのぬいぐるみが冷や汗を流していない点だ(これがあれば★4つだった)。
名場面欄でしんのすけに思い切り子供を演じさせておきながら、続くこのシーンでは皆が子供らしからぬ言動を取る。この落差こそが「クレヨンしんちゃん」のギャグの醍醐味であり、この漫画がギャグマンガとして成功した理由の一つであることは確かだろう。 |
研究 |
・ようち園バス
物語はこの映画で最も派手なアクションシーンであるカーチェイスシーンとなって行く。だが今回取り上げたのはその直前の部分だ、何とかデパートから逃げ出した「かすかべ防衛隊」の一行は、普段自分達が通園に使っているようち園バスを奪って逃走する。子供がバスを運転できるのか?という疑問があるだろうが、それはボーちゃんが毎日「園長先生が運転しているのを見ていた」から覚えていたという展開で解決する。
バスは一般的なようち園送迎バスだとすればマイクロバスだと考えられる。小さなようち園ではトヨタ「ハイエース」などのワゴン車が通園バスとして使用されている例が多いらしいが、「クレヨンしんちゃん」に出てくるものは乗降口が折り戸になっていることや、床が高くステップがあることを考えればバスタイプなのは間違いない。だが劇中に出てくるバスは乗降口が最前部にあり、一般的なマイクロバスが中央部に乗降口を持っていることと異なる。まぁこれは気にしないことにしよう。
園児送迎バスに詳細を調べるべく日野自動車のサイトへ行ってみた。ご覧の通りメーカーオプションとして園児送迎バス仕様がラインナップされているのだが、これによると車体の大きさによって42〜52人の幼児を乗せられる事が分かるだろう(ただし園児送迎バスの客席には大人は乗れない)。原作ではこのバスに保護者も乗せて遠足に行くシーンがあるので、これは幼児送迎用途のバスではなく普通のマイクロバスを改装した可能性が高い。すると定員は大人なら26〜29人(補助席含む)、子供なら単純計算でその1.5倍乗せられる。このバスがマイクロバスであるという結論は、次の研究欄で出てくるので覚えておこう。
さらにこのバスは改装されており、車体全体にネコが描かれている。屋根の上には「耳」がついており、ヘッドライトが「目」になっている。車体にはネコの身体の縞模様が描かれ、リアには猫の尻尾まで描かれている。こんなバスあんるか?と調べてみたら、世の中広いもんでこんなのを作っている専門の改装業者がいるのだ。こっちの方が「クレヨンしんちゃん」のバスより凄いと思う…。
バスはマニュアル車、子供達はこれを運転するという離れ業をやってのけた。ボーちゃんが運転席に座るが、ハンドルやシフトレバーに手が届かず、アクセルやブレーキに足が届かない。そこで考え出されたのは、それぞれの子供がアクセルやシフトレバーを個別に操作し、運転役は運転席の上に立ってハンドルを握るという方法だ。これに従ってボーちゃんがハンドル役(もちろんハンドル役が周囲の状況を確認するのだろう)となって総指揮を執り、アクセルには風間が、ブレーキにはネネが、クラッチはしんのすけ、シフトレバーはマサオという配置で運転することになったのだ。ボーちゃんが周囲を確認しながらハンドル操作をし、ギアアップを命じるとまず風間がアクセルを緩め、しんのすけがクラッチペダルを押し、マサオがシフトレバーを動かし、しんのすけがクラッチを戻し、風間がアクセルを押すという手順となるのだ。う〜ん、確かにしんのすけが一番地味かも、マニュアル車全盛の世の中なので、今時の子供はクラッチなんて知らないんだよな…。
ちなみに、このバスは組長先生の個人所有物であるらしい。 |