「あにめの記憶」過去作品・１１
「クレヨンしんちゃん」原作漫画２０周年記念特別企画・「史上最強のギャグ漫画家」臼井儀人さん一周忌企画

「クレヨンしんちゃん（劇場版）
　嵐を呼ぶ！ 夕陽のカスカベボーイズ」

・劇場版「クレヨンしんちゃん」異色作
　あれから２０年、何から２０年って？　私が漫画「アクション」誌で「クレヨンしんちゃん」原作漫画の第一話を読んで２０年の月日が流れた。今回の連載はこの素晴らしいギャグ漫画が２０周年を迎えたことを記念し、９月に他界してから１回忌を迎える「史上最強のギャグ漫画家」臼井儀人さんに捧げたい。

　当サイトで考察する「クレヨンしんちゃん（劇場版）」２作目に選んだのは、２００４年に公開された「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ！夕陽のカスカベボーイズ」である。劇場版「クレヨンしんちゃん」は、前回紹介した「嵐を呼ぶモーレツ！オトナ帝国の逆襲」と「アッパレ！戦国大合戦」と続けてクオリティの高い感動路線を貫いて評価を上げた。その次の「嵐を呼ぶ！栄光のヤキニクロード」（２００３年）では担当監督が替わった事もあり「クレヨンしんちゃん」らしい強烈なギャグ路線へ転向、またこの作品から劇場版もデジタル制作となり絵柄が多少変わっている。そのような変化が起きた次の作品が、この「カスカベボーイズ」となる。

　私はこの１年でさらに４作品の劇場版「クレヨンしんちゃん」を視聴した。その物語の多くが野原一家を中心に物語を展開させ、一家の家族としての絆を通じて「家族愛」と「子供達の未来」を訴えている。物語の構成としては、最初に家族にとってピンチとなる出来事が置き、それに対し前半は主人公しんのすけの友人達である「かすかべ防衛隊」の面々が事件現場へしんのすけを送るための活躍をし、後半は野原一家がその絆と力を結集して事件を解決させる。これが劇場版「クレヨンしんちゃん」基本フォーマットであることは「嵐を呼ぶモーレツ！オトナ帝国の逆襲」の考察で書いたことだ。
　だがこれはあくまでも「基本フォーマット」でしかなく、当然このフォーマットから外れている作品もある。２００２年作品「嵐を呼ぶアッパレ！戦国大合戦」や２００５年作品「伝説を呼ぶブリブリ３分ポッキリ大進撃」は前半の「かすかべ防衛隊」の活躍がなく、野原一家とゲストキャラを中心に物語を展開すると言う点で基本フォーマットから外れている典型例である。だがこの２作も野原一家の絆を通じて「家族愛」とその力をテーマとしている点では、他の作品と変わらない。

　そしてこのフォーマットから大きく逸脱し、「家族愛」というテーマからも外れた異色作がある。これが今回取り上げる「カスカベボーイズ」である。この物語が他の劇場版「クレヨンしんちゃん」と大きく異なる点は、ピンチに陥るのが野原一家ではなく「かすかべ防衛隊」面々の友情であり、この友情を取り戻す過程を描くことで彼らの友情物語としての展開を見せる。野原一家は他作品における「かすかべ防衛隊」に相当する役割を持たされることとなり、一時的にピンチに陥るもののこれは物語の主軸とはならない（他作品に「かすかべ防衛隊」の友情がピンチになる展開はあるがやはりそれは物語の主軸とはなっていない）。このように物語のテーマという根本的な部分や、物語の展開という根幹が他作品と大きく違い、劇場版「クレヨンしんちゃん」の中でも他とかなり印象が異なるものとなっている。

　劇場版「クレヨンしんちゃん」には、作品ごとに物語展開のためのテーマが与えられる。前回考察の「嵐を呼ぶモーレツ！オトナ帝国の逆襲」ならば２０世紀のノスタルジー、今年春上映の最新作「嵐を呼ぶ！オラの花嫁」ならば未来世界、去年上映の「オタケベ！カスカベ野生王国」ならば環境問題、という感じのテーマだ。この「カスカベボーイズ」はテーマに「西部劇」を選んでいる。
　それもただ「クレヨンしんちゃん」のキャラを西部劇に放り込むだけではない、アメリカ出身の本場西部劇のパロディを多用したり、用心棒の声優に名画「荒野の七人」の日本語吹き替えキャストを使う、映画解説でお馴染みの水野晴男をモデルにした人物を出す、などの凝ったつくりを見せている。それとは別にアクションシーンは派手で迫力があり、見る者を魅了する。
　また多くの「クレヨンしんちゃん」に出てくる悪役は、拷問や強制労働などの非人道的な悪役として登場し物語を盛り上げる。それだけでなく「かすかべ防衛隊」の一員でしんのすけの友人である風間君が、しんのすけ相手に悪役となって手加減無しの暴力を振るうなどショッキングなシーンもある。このように物語に「負」の部分をしっかり描き、主人公やその友人達との友情のピンチをリアルに描いている。

　私はこの映画のＤＶＤを初めて見たのが２００９年年末、近所の本屋（本だけでなくＣＤやＤＶＤも売っていた）の閉店セールで投げ売りされていたのを購入したものである（同時に２００９年作品「オタケベ！カスカベ野生王国」のＤＶＤも購入、双方とも１０００円であった）。
　この映画を見て最初の感想として、「クレヨンしんちゃん」の原点に立ち返っていると感じた。元々「クレヨンしんちゃん」というのは野原一家の家族劇ではなく、現在「かすかべ防衛隊」と呼ばれている友人達とのドタバタを幼稚園を舞台に描いた物語であったはずだ（もちろんその後の展開も私は嫌いではない）。野原一家の出番や活躍度が薄められたことで、こんな昔の「クレヨンしんちゃん」を思い出させてくれる作品だと感じたのだ。ちなみに当サイトで「クレヨンしんちゃん」２０周年記念の連載にこの作品を選んだのはそんな理由だ。ま、そもそも本来はこの時期に昨年考察した「オトナ帝国の逆襲」を考察するつもりだったが、作者の急死という事態でこちらを繰り上げて連載した経緯もあるのだが。
　続いて物語の構図の複雑さが目に着いた。これは第一印象の「クレヨンしんちゃんの原点」とは相反するものだが、この相反する展開がうまくひとつにまとまっていて新しい方向性を見いだしている点も私の注目どころとなった。物語の構図については考察が進行と共にその都度説明したい。

　もちろん、この映画も他の劇場版「クレヨンしんちゃん」と同様、大人から子供まで幅広い世代が楽しめるように作られている。こんな物語の魅力がご覧の方に少しでも伝われば、と願いつつ考察を進行することとする。

・「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ！夕陽のカスカベボーイズ」の登場人物

総評はここから
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