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…物語は「クレヨンしんちゃん」の似つかわしくない荒野から始まる、そこに響く少女の泣き声がこの映画の第一声だ。
名台詞 「助けて〜! アクション仮面! アクションかめーんっ!」
(ミミ子)
名台詞度
★★
 記念すべき劇場版「クレヨンしんちゃん」シリーズの最初の台詞、銀幕での「クレヨンしんちゃん」の歴史はこのミミ子の雄叫びから始まったと言ってよい。悪の組織に捕まえられ、鎖で縛られた少女ミミ子の姿が映し出され、悪人の声(「ヤマト」の真田さんの声だ)がどこからともなくきこえてくる。この映画はこんなワンシーンで始まる。
 もちろんこれは劇中劇であり、劇中での人気ヒーロー番組「アクション仮面」のワンシーンであるということは「クレヨンしんちゃん」を見たことある方ならご存じであろう。劇場版でも「アクション仮面」は複数作に渡って出てきており、その多くがこのミミ子が悪に捕まって縛られアクション仮面に助けを求めて叫ぶシーンで始まっている。いわば「おやくそく」的なシーンで全てが始まったのだ。
 だがこの映画ではテレビアニメと大きな違いがある、これについては名場面欄に回そう。
名場面 スタジオ事故 名場面度
★★★
 名台詞欄シーンを受けて、劇中劇としてのアクション仮面の物語が展開する。ミミ子を助けにアクション仮面が現れ、ポーズを決めると壮大なBGMに乗せてアクション仮面と悪の組織の闘いが始まるのである。ところがその闘いシーンの中でアクション仮面が高いジャンプを決めて着地すると、突然アクション仮面が着地した地点から閃光が走ったかと思うと大爆発をする。同時にシーンは劇中劇からドラマを撮影するスタジオシーンへと切り替わり、カメラマンと監督が爆発シーンがあるはずがないと語り合う。スタッフらが煙の残るスタジオに飛び込み、明らかに事故発生を示唆するシーンとして作られている。
 そんな中、爆発現場で倒れているアクション仮面に、お面を着けたいかにも怪しい人物が近付く。そしてアクション仮面のベルトの中から輝く石を取り出し、「アクションストーンは頂くわ」と言い残してその場を去る。その後、スタッフやキャストがアクション仮面の周囲に集まってくる。スタッフの一人が爆発した穴の大きさに驚き、一同がそれを呆然と見つめる、アクション仮面はミミ子の肩を抱いて悔しそうな表情をする。
 このシーンは物語のプロローグとして上手く出来ていると感心する。日常の中に突如現れた非日常、それが主人公不在で現れる緊張感と期待感に溢れたシーンだ。緊張感はアクション仮面が謎の人物に何を盗られたのか、その人物は何者なのかという点。期待感はこのプロローグシーンがどうやって主人公に繋がるかという、展開への期待だ。
 またここでは敢えて、ここで出てきた敵役ハイグレ魔王の顔を見せず、仮面を着けて登場させたのはポイントが高い。ハイグレ魔王のキャラクター性を考えれば、ここぞと言うときまでその素顔や正体は隠しておくべきだ。後でギャグとして成立するように…それを知ってか知らずか、ハイグレ魔王担当の野沢那智さんがここで見事に「女性」を演じてくれるのもこれまた素晴らしい。ここでのハイグレ魔王は完全に「女性」として描かれていて、その正体は徹底的に伏せられている。ここで正体がバレるようだと、今後ハイグレ魔王の正体に話が進むときに面白さが半減してしまうのだ。
研究 ・「アクション仮面」
 「アクション仮面」は「クレヨンしんちゃん」劇中世界で大ヒットしているという設定のヒーロー番組である。現実で言う「ウルトラマン」や「仮面ライダー」のように子供達の崇拝を集めている位の人気があるようで、主人公しんのすけだけでなく劇中に出てくる多くの幼児がこの番組に夢中になっていることは、原作漫画にもテレビアニメにも劇場版アニメにも散々描かれている。
 その人気は子供達だけではなく大人にも広がっていて、劇場版2000年作品「嵐を呼ぶジャングル」ではアクション仮面がテレビの中の存在ではなく本物のヒーローと勘違いした人物との闘いが物語の中心に描かれている。

 ではキャラクターとしての「アクション仮面」の歴史を紐解いてみよう。
 実は「アクション仮面」の初登場は「クレヨンしんちゃん」以前に遡ることができる。臼井儀人さんのデビュー作「だらくやストア物語」に「アクション仮面」は既に登場しているのだ。「だらくや」劇中に舞台となっているスーパーで子供達を集めてのヒーローショーイベントが描かれる回があるのだが、この時に立て看板に描かれた「アクション仮面」の全身像が初出と思われる。単行本1巻のかなり前の方に出ているので恐らく1987年連載の作品と思われ、来年初登場から25年という臼井儀人さんのキャラで最も息が長いキャラと言えるだろう。。
 この時の「アクション仮面」は「クレヨンしんちゃん」に出てくるアクション仮面と少し違う。どちらかというと仮面ライダーを意識した外観で、のちに「クレヨンしんちゃん」で描かれる事になる「アクション仮面」少し違う。「仮面ライダー」のように首にはマフラーを巻いていて、頭部は突起などはなくヘルメットに近い形状となっている。ただし胴体以下は「クレヨンしんちゃん」の「アクション仮面」と殆ど変わりはない。まさにこの「アクション仮面」が今に続く「クレヨンしんちゃん」キャラと言える。

 「クレヨンしんちゃん」には「だらくや」時代のキャラクターが何人か転用されているが、全て一時的な登場でここまで連続して出ているのはアクション仮面だけだ。また「クレヨンしんちゃん」に登場した「だらくや」キャラの中で、最も初登場が古い。つまりアクション仮面は、臼井儀人さんが描いたキャラの中で一番長期間描かれ、「クレヨンしんちゃん」のキャラクターの中で最も古いことは確かなのだ。

 ちなみに「アクション仮面」の名の由来は、当時の掲載誌「漫画アクション」に因んだものと思われる。同じように原作漫画ではしんのすけが通うようち園は「アクションようち園」だし、父ひろしが勤めている会社は「アクション商事」だ。

・「クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王」のオープニング
「オラはにんきもの」 作詞・里乃塚玲央 作曲・小杉保夫 編曲・加藤みちあき 歌・野原しんのすけ(矢島晶子)/野原みさえ(ならはしみき)
 曲そのものについての感想は「カスカベボーイズ」の時に書いた通りであるが、「カスカベボーイズ」のオープニングではサビだけを使用した簡略版であった。こちらでは1番フルコーラス収録の正調版とも言える音源を使用している。メロディの合間にみさえがしんのすけの名を呼んだり怒鳴ったりするボイスが入っていて、さらに「らしい」仕上がりになっている。
 背景映像はしんのすけが様々な格好をしながらひたすら踊っているもので、後の劇場版シリーズのようにねんどアニメでは無い。もちろんみさえのボイスが入るところで、画面の右からみさえが割り込んでくるといった具合だ。このオープニングで初めてしんのすけが映画のスクリーンに出てきたわけで、特にサビのところでしんのすけがドアップになるところと、最後のしんのすけとシロが並んでアップになるところは、古くからのファンは昔の「クレヨンしんちゃん」の画風を思い出すところだろう。あー、懐かしい。
 しかしこの曲、耳に付くと離れないなー。

…マサオを先頭に、しんのすけ・ボーちゃん・ネネと4人で街中を走り抜けるシーンに切り替わる。一行が向かった先は街のコンビニだった。
名台詞 「はぁーあ、まだ8枚か。ママ、なかなかチョコビ買ってくれないもんな…」
(風間)
名台詞度
★★★
 名場面欄を受け、仲間達と分かれた風間はため息を付きながら一人で街を歩く。そしてポケットから「24番」のアクション仮面カードを出してそれを見つめながらまた大きなため息をつき、こう呟くのだ。
 この台詞には今も昔も変わらない風間のキャラクター性がうまく出ている。つまり優等生として塾や勉強で忙しい彼は、友達と一緒にスナック菓子のおまけを集めている暇自体がないのだ。結果、仲間達の話題に乗ることはできず、それでいて負けず嫌いな彼は「少ないけど集めている」と皆に言うのでなく「そんなのは興味が無い」と嘯く道を取る。でも彼はやっぱりカードを集めていて、プライドが高いばかりに仲間達とその話をすることができない寂しさや悲しさというのをちゃんと知っているのだ。
 なら素直に「自分も集めている」と言えばいいのだけど、それができないのが彼の不器用さであって、それは今の風間も変わらない。こうして「大人」を演じる事でプライドを保つことで彼は精神を安定させていて、だからこそ「かすかべ防衛隊」でも自分がリーダーたろうとするのだ。
 またそんな彼は不器用な故に、すぐボロを出すのも昔も今も変わらない。名場面シーンでもしんのすけに突っ込まれるし、本作品に限らずそういうシーンは沢山あったはずだ。
 なお、原作漫画の初期の初期の風間にはこのような面は全く無く。単なる嫌味でキザなお金持ちの息子として描かれている。その設定はかなり早いうちに無くなった。ちなみに風間はよしなが先生と並んで幻の連載第1話から出ている「クレヨンしんちゃん」で最古参級キャラの一人だ。
名場面 「アクション仮面カード」を見せ合う 名場面度
★★★★
 のちに「かすかべ防衛隊」と呼ばれることになるメンバーのうち、風間を除いた4人はマサオを先頭に街のコンビニに飛び込む。そしてマサオが「チョコビ」という劇中で子供達に大人気のお菓子を買い、そのおまけに付いている「アクション仮面カード」を確認する。だが出てきたカードがまた悪人カードで落胆する、同じ悪人カードを5枚も引いたと嘆く。
 これをきっかけに皆がそれぞれ自分が持つカードを自慢し合う、マサオは36枚カードを集めたとし、しんのすけは9枚しか持っていないと落胆し、ボーちゃんはカードホルダーを当てた上に50枚位持っているとし、ネネは女の子ながらも「アクション仮面」ヒロインのミミ子のカードを集めていると告白する。
 この中でしんのすけがマサオが持つ「No.77」のアクション仮面のカードを発見する。マサオが「77番のアクション仮面はなかなか出ない」と主張し、ネネが「33番のミミ子のカードもなかなか出ない」とこれに同意する。そこに通りすがりの風間が現れぞろ目のカードがなかなか出ない」と口を挟む。同時にこのカードのルールについて「1から100まで集めるとアクション仮面変身セットがもらえる」と説明してくれた上で、「ゾロ目のカードは少ししか作ってない」とし、「中でも99番のカードは滅多に出ない幻のカードと呼ばれている」とする。これにしんのすけが「集めてないのによく知ってるね」とツッコミを入れ、風間は「おやくそく」通り「英語塾があるから」と立ち去る。
 何ともない冒頭シーンに思えるが、ここでは後々のストーリーに重要な伏線を張っているので覚えておかねばならないことが大きい。「アクション仮面カード」というお菓子の付録の存在、これが1から100まで通し番が打ってあって全部集めると豪華なプレゼントがもらえる設定はどうでも良い。その通し番でもゾロ目が貴重で、「99番」というのはこれからの物語で特別な意味を持つことになることをさりげなく表現してくれる。そんなシーンだ。
 あと、このシーンでは凄い「懐かしさ」も感じる事が出来た。のちに「かすかべ防衛隊」と呼ばれる5人のキャラクター性が、原作漫画の初期の頃の役割で配置されていた点だ。風間やマサオは現在も大して役割は変わっていないが(初期の初期だとまた違う役割に変わる)、ネネは現在の荒っぽい性格はなりを潜めて他の男子4人の交通整理的な役割と、逆で止まってしまいがちな物語を再び動かす役を持っているし、ボーちゃんはとことん無口で今のように喋らない。素早く動くだけでギャグになる(本場面中にもそのようなシーンあり)という状況だ。「クレヨンしんちゃん」を連載開始時から読んでいた私にとって、「これだよ、これ」と唸らせるシーンであったのは確かだ。
研究 ・アクション仮面カード
 今作品前半のキーワード、それは子供達が集めている「アクション仮面カード」である。劇中で子供達に大人気のスナック菓子「チョコビ」のおまけとして1箱に1枚付いているようだ。
 これは名場面シーンで風間が説明していた通りで、カードは100種類で通し番が打ってあり、これを全部集めると「アクション仮面変身セット」という劇中の子供達が憧れる玩具が当たるようだ。森永「チョコボール」の「金銀のエンゼル」と同じように、条件が揃えばもれなくもらえるシステムなのだろうと思う。
 また名場面欄でのボーちゃんコレクションを見ていると、一定数「あたり」が含まれていてこれが出ると専用のカードホルダーがもらえるというシステムのようだ。
 恐らく全100種類のカードを集めた場合は、その100枚のカードを菓子メーカーに送ると送った100枚のカードと共に「変身セット」が送られてくると考えられる。ボーちゃんが当てたホルダーは、「あたり」のカードを買った店に持って行くとその場で引き替えてくれるシステムなのだろう。「チョコビ」1ケースにつき1枚か2枚の割合で「あたり」があり、その割合に従ってケースの中に入っているのだろう。
 ゾロ目の割合やラッキーアイテムについては、本来は都市伝説的な噂であり1番から100番まで平等に入っているべきと考えられるが、買う側は選ぶことができない以上平等にはならないのでこういう噂が立つのは世の常だ。ゾロ目が出る確率は100枚中9枚、9%でしかないのだからなかなか当たらないのは当然だ。しかも物語が進むと99番については一般に流通していないことが解るので、ゾロ目の確率はさらに落ちる。

 なお現実にも劇中のしんのすけらが持っているのとほぼ同じパッケージで「チョコビ」というスナック菓子が発売されている。当初は「クレヨンしんちゃん」の人気に目を付けたロッテがタイアップ企画として発売したが、現在はDVDや玩具などキャラクター商品を扱うバンダイが東ハトと共同で販売している。アクション仮面カードは入っていないが、「クレヨンしんちゃん」のシールが1枚ずつ入っていて、現在は都道府県毎の「ご当地しんちゃん」のシールが入っているとのことだ。

…しんのすけが帰宅すると既に門限の時間が過ぎていて、母みさえが怖い顔をして玄関に仁王立ちしていた。
名台詞 「…負けるわけにはいかない。地球の平和を乱す貴様達のような悪党に、負けるわけには行かないのだ。」
(アクション仮面/郷剛太郎)
名台詞度
★★★★
 前回取り上げた風間の名台詞シーンの後、画面は一度だけあの事故があったアクション仮面撮影現場に戻る。そこでは剛太郎が怪我をしてしまったために代役によって「アクション仮面」の撮影が続行されていた。その撮影時のアクション仮面の台詞に会わせて、怪我をして撮影に参加できなくなった剛太郎がこう呟く。
 この台詞は一見すると撮影に参加できなくなって代役を立てられてしまった剛太郎が、悔し紛れに同じ台詞を口にしているだけのようにきこえる。だがよく見ていると事故の時に出てきた謎の人物に向けての台詞であるようにもきこえるのだ。つまり剛太郎は「アクション仮面のベルト」を開いて「アクションストーン」を持ち去った者が何者であるかをよく知っていて、それが自分だけでなく地球人類全体の敵であることを知っているのだ。つまりこの映画が向かうべきストーリーが最初に出てきたのがこの台詞である。
 この時の剛太郎の表情はサングラスによって隠されているが、担当声優の口調は「大事な物を盗られた」という悔しさと、大きな敵と戦わなければならないという緊張感を上手く演じている。この後は普段の「クレヨンしんちゃん」に一時的に作風が変わるため、その前にキチンと本題を置いておいたという意味でこの台詞は上手く出来ているだろう。
 ちなみにアクション仮面/郷剛太郎を担当するのは玄田哲章さん。私にとってこの人の演技で最も印象に残っているのは、「梅干し食べてスッパマン!」だ。本サイト考察作品では、「カスカベボーイズ」の保安隊隊長と、「機動戦士ガンダム」のドズル・ザビ(劇場版限定)で出てきている。ちなみにテレビ版のスレッガー・ロウはこの人だ。
名場面 アクション仮面放映終了時シーン 名場面度
★★★
 帰宅したしんのすけは、門限から遅れて帰って来た事で母みさえに叱られ、「アクション仮面」放映時刻にテレビのリモコンを取り上げられる。壮絶なリモコンの奪い合いの末、みさえが根負けしてしんのすけは「アクション仮面」の視聴を許される。だがその日の放送内容は冒頭で事故があったあのシーンであった。途中から代役に変わっているアクション仮面を見て、「何かが違う」ことに気付いていた。アクション仮面の決めポーズである「ワッハッハッハッ…」という笑いも真似せず、そこをみさえに聞かれると「違う…うそんこのアクション仮面だ。あんなアクション仮面、絶対うそんこだ」と力説する。その言葉に呆れてみさえはテレビのスイッチを消して立ち去るが、そのスイッチが消され「砂の嵐」が出た一瞬に、冒頭シーンでアクション仮面から「アクションストーン」を奪った謎の人物がテレビ画面に出てくる。これに驚いたしんのすけが「テレビになんか変なのが映った!」と母に訴えるが、みさえは「自分の顔でしょ?」と言い捨てて立ち去る。
 このシーンには二つの要素があろう。まずはしんのすけがアクション仮面が代役であることを見抜いたこと。声も似せているとは言え違うし、何よりも演技の細かい違いを彼は見過ごすことができなかったのだ。つまりしんのすけはそれほどアクション仮面をよく知っていて、真剣に番組を見ていたのである。
 そして突如野原家のテレビに一瞬だけ登場する、冒頭の謎の人物。実はこの一瞬の画面がテレビに映ったのは野原家だけであるということは後のシーンで判明するが、それを待たずに何らかの危機が野原家に迫っていることが容易に想像が付くだろう。つまりこの二つの要素を掛け合わせると、しんのすけがアクション仮面について細かい演技の違いも見逃さないほど心酔しているからこそ、この謎の人物を見てしまったという事が理解できる。
 こうして物語は、「いつものクレヨンしんちゃん」らしい日常的ギャグストーリーを演じつつも、この後に徐々に非日常冒険アクションストーリーがあることを明確に示唆して、なおも日常的ギャグストーリーで物語を膨らませるという方向に入って行くのだから、この辺りの作りは驚きだ。劇場版ならではの「非日常」だけでなく、普段のストーリーも大事にしてこの作品が出来上がっているのだ。
研究 ・アクション仮面放映日
 ここでは劇中のテレビで「アクション仮面」が放映されている。ではこのシーンから劇中の人気ヒーロー番組「アクション仮面」がいつ放映されているのか推理してみよう。
 まずは放映日、今回抜き出した部分から先のストーリーを見れば、この日はしんのすけの父ひろしが会社へ出社していることが解る。呑みなどの「お付き合い」もなくまっすぐ帰ってきていて、翌日も出社している事を考えればこの日が金曜日であることは消える。また翌日と言えばしんのすけもようち園に通っているため、やはり金曜日という線は消えるだろう。
 つまりこの日は月曜日から木曜日の間ということになる。その中でも有力なのは木曜日だ。なぜなら、物語が進むとこの翌々日に一家で海へ行くシーンとなる。劇中設定が上映年と同じ1993年とすれば、週休2日はかなり広がっているので海へ行ったのが土曜日と考えられるわけだ。
 だが、一家が海へ行った翌日は平日であることが解っている。海の翌日はしんのすけはようち園の「夏休みプール」で通園しようとするし、ひろしも通常通り出社している。すると海へ行くことになるこの翌々日が土曜日というのは外れとなる。
 ここに別の事実がある。このシーンの翌日夜、みさえがひろしにわざわざ「明日休めるの?」と確認していることだ。それから察するにこの海へ行った日はひろしが有休を取ったと考えるべきだろう。その次の日も平日だから海へ行ったのは木曜日より前、このシーンは月曜日か火曜日と言うことになる。
 続いて放映時間だ。これはしんのすけが帰宅してみさえから門限に間に合わなかったと叱られるシーンで判明する。この叱っているときに「いまは(夕方の)5時」だとする台詞があるのだ。これを聞いたしんのすけが「アクション仮面見なきゃ」とテレビの前に走って行くし、リモコンを取り上げられつつも本体のスイッチでテレビの電源を付けると放映中であったことから、「アクション仮面」は夕方5時からと考えて良いだろう。ヒーロー番組の常識で考えれば、方円時間は30分だ。
 つまりこの作品中での「アクション仮面」放映時間は、毎週月曜か火曜の夕方5時からと断定できる。この時間帯で週イチというのは当時としては無いかも知れないが、このテレビ局では夕方5時代に毎日違う子供向けの番組をやっているのだろう。初期の頃からやはり劇中でのロボットヒーロー番組として「カンタムロボ」が設定されているし、最近では魔法少女アニメも劇中で流行していることが解る。これらの放映時間は劇中では決まって夕方のシーンとして描かれているのだ。

…夕方、しんのすけがシロの散歩に出かけて帰ってくると父ひろしが帰宅する。ひろしがしんのすけへの手土産として持って帰ってきたのは、「アクション仮面ひみつ大百科」という子供向けの本だった。
名台詞 「私も、夏休み欲しいなぁ…」
(みさえ)
名台詞度
★★★★
 トイレで「アクション仮面ひみつ百科」を読みふけっていたために、しんのすけはまたいつものようにようち園の通園バスに乗り遅れる。「すみません、あとで送っていきますので…」と謝罪するみさえに対し、「いいえ、明日から夏休みですから」と返すよしなが先生。それを聞いたみさえは青い顔をして言葉を失う。「大変ですわね、これから…」とよしなががフォローを入れるが、みさえはため息をつくばかり。そして送迎バスが走り去って一人になったところで、家の門扉にもたれかかったみさえがこう呟くのだ。
 この台詞はこの映画の本筋からは外れている。だが当時、子供に連れられてこの映画を見に行ったお父さんやお母さんには最も印象に残った台詞だろう。夏休みの子供の世話は洋の東西を通じて大変な労力であり、このみさえの台詞はそんな苦労をしている「親」の気持ちを代弁している。現在でこそ「クレヨンしんちゃん」の映画は毎年GWの前後にやっているが、本作品は夏休みに上映されたこともあって引率の親の多くがこの台詞に頷いたであろう事が容易に想像できる。
 こうしてこの映画は子供の引率できた「親」の心をもゲットすることに成功しているはずだ。この映画が上映されていた頃に、子供を連れて映画館に来た親というのは今どのくらいの歳だろう? 1993年に30代だとすればもう50代になっているのか。当時の小学生で夢中になって「クレヨンしんちゃん」を見ていた世代がもう20代後半で、そろそろその子供の世代が「クレヨンしんちゃん」の視聴を始めている頃だろう。その当時の小学生達がいま、20年近い年月を経てこの映画に出逢ったとしたら、やはりみさえのこの台詞に一番同感すると思う。
名場面 アクションストーンの秘密 名場面度
★★★
 ひろしが買ってきた「アクション仮面ひみつ大百科」を、しんのすけはむさぼり読む。就寝前に布団の上で読み、朝が来れば用を足しに入ったはずのトイレで座って読みふけっているのだ。
 その時にしんのすけが読んでいたページが、「アクションストーンのひみつ」というページであった。そのページにはアクション仮面がアクションストーンの力でこの世界にやってきたこと、そのストーンがベルトのバックルに隠されているという「設定」が書かれていた。
 このシーンで今度は冒頭の「事件」と野原家が繋がるといって良いだろう。前名場面欄シーンより、いつもの「クレヨンしんちゃん」らしい日常生活をベースにしたギャグファミリードラマが演じられていたが、この中でしっかりと今作品の「本筋」を忘れずに進めていた事がこの辺りで解ってくる。ひろしがしんのすけに「お土産」として本を買ったという話は決して無関係ではないのだ。
 そして視聴者が驚くのは、冒頭の事故シーンとこのしんのすけが読んでいる本に書いてある「設定」が見事に合致していることだ。冒頭の事故で謎の人物がアクション仮面のベルトのバックルから「アクションストーン」を盗んでいて、その「アクションストーン」が劇中劇のヒーローとしてのアクション仮面の設定にちゃんとあるというこの合致は、「アクション仮面」という存在の謎を大きくすると共に、この先に展開される物語やその設定について非常に期待を持たせるうまいつくりになっていると感心した。
 なによりも、しんのすけがこういう重要なページを読んでいるシーンが、トイレに座って大きい方をしながらというのも、しんのすけらしくてポイントが高いと思う。
研究 ・ひまわり体操
 この間のシーンに野原家の朝が描かれる。朝、起床時間になるとタイマーセットしたラジカセから子供向けの音楽が流れ、しんのすけがこれを聞いて「幼児の習性」で踊り出すので目を覚ますという設定のシーンだ。これら釣られて何故かひろしとみさえも踊り出して目を覚ます。
 ここで使われる音楽、つまり挿入歌が「ひまわり体操」だ。この曲は原作者の臼井儀人さんが作詞、原作漫画のワンシーン(運動会のおゆうぎ練習)が初出だ。
 この曲も「クレヨンしんちゃん」の知名度が上がると共に有名になった曲の一つかも知れない。原作漫画ではアニメ化が決まる前の連載で出てきた曲なので、まさかこの詞にメロディがつくなんて私は想像すらしていなかった。だがこの映画でこの曲が流れると、実際にようち園のお遊技で採用したところもあるらしく、ネットでこの曲の感想が載っているところを見ると若い世代の人が「運動会のお遊戯で踊った」などの想い出を書き込んでいたりするのだ。
 臼井儀人作品に「クレヨンしんちゃん」以前から付き合っている私は、この曲が載っているエピソードが「アクション」に掲載されたのをリアルタイムで読んだのをハッキリ覚えている。後に「アクション別冊 クレヨンしんちゃん特集号」(1991年12月)にもこのエピソードは出ている。だからこの歌詞を見ると、自分がまだ20代前半だったころの若き日を思い出すのだ。
 ちなみにこの「ひまわり体操」と同じエピソードで「北埼玉ブルース」も初出になっている。

挿入歌「ひまわり体操」
作詞:臼井儀人・浅田有理 作曲:荒川敏行 編曲:林有三 歌:河井英里

ようち園では夏休み前の終業式が行われていた。ここでしんのすけの仲間達が昨日の「アクション仮面」について語り合う。
名台詞 「そんな暢気なこと行ってる場合じゃないでしょ。アクション仮面は代役が立っちゃうし。アクションストーンがないと、私たち向こうの世界に戻れないのよ。」
(ミミ子)
名台詞度
★★★
 野原家やふたばようち園の面々が日常生活を演じている合間で、「本筋」の物語も少しずつだが進行している。爆発事故を受けて医師の診察を受けた郷剛太郎が診察を終え出てきて、同伴のミミ子に「医者が驚いていたよ、あんまり回復が早いんで」と診察結果を伝える。これにミミ子は剛太郎の前に立ちふさがってこう答える。
 この時点においての物語の「本筋」は、冒頭でアクション仮面からアクションストーンを奪ったのは何者か、という点だろう。これについて進展があるのがこの台詞なのだが、驚くべき事にアクションストーンの秘密やそれを奪った人物のことを知っていそうな台詞を先に吐いたのがミミ子だという点だ。そしてこの台詞の中に出てくる「向こうの世界」という言葉…ここへ来てアクション仮面という存在そのもの、つまりアクション仮面はテレビヒーロー以上の何者かであるという可能性が示唆されたのだ。
 こうして物語には「アクションストーンを奪った人物」という謎だけでなく、「アクション仮面は何者か?」という謎にも踏み込んでいくことになる。そしてアクション仮面だけでなく、この台詞をミミ子が吐いた事でミミ子についても「アクション仮面に出てくる子役でなくそれ以上の何者か」という事が明確になるのだ。
 こうして、ここへ来て物語には少しサスペンス的な要素が加わってくる。そして謎を植え付けただけで大して盛り上げもせず、どちらかというとしんのすけらの日常生活の展開がしっかり印象付いたところで、次の展開でいきなりアクション仮面やミミ子としんのすけが繋がるのである。
名場面 組長園長先生のお話 名場面度
★★★★
 しんのすけが登園すると、ようち園の講堂では夏休みを前に組長園長先生が夏休みの生活の注意事項を語っていた。まずはマサオを筆頭にしんのすけや風間が「本筋」と言える、この前の日の「アクション仮面」の放映について語り合うが、いつしか脱線して風間の真面目な英語としんのすけのいい加減な英語での会話となり、これが発端で風間が叫んでしまいよしなが先生に叱られるという「おやくそく」が演じられる。
 すると今度はこれをきっかけに、よしなが先生にまつざか先生がばら組の自慢と夏休みにハワイへ行く自慢を始める。もちろんまつざか先生専用のBGM付きだ。これによしなが先生が意地を張ると、この二人は園長の話を無視して言い争いになる。
 同時にしんのすけが前日のアクション仮面放映終了時に何者かが映ったという話を風間に振り、これまで「アクション仮面は見ていない」と言い張っていた風間の秘密がバレると共に、「昨日のアクション仮面にビデオには映らない幽霊が映っていた」と話が園児達に広まって行く。園児達は園長の話そっちのけでざわつき始め、これによしなが先生とまつざか先生の言い争いが加わってもう誰も園長の話を聞いてない。それに気付いた園長がトボトボと壇上から去ろうとすると、「何言ってるのよその顔で、しっかりしてよ組長」と副園長が声を掛ける。すると園長は怖い顔全開でヤクザモードに入ってしまう。
 このシーンは「クレヨンしんちゃん」らしくてとても好きなシーンだ。もう園長の話などどうでも良いのは最初からの「おやくそく」として描かれていて、その上で「前の日のアクション仮面放映内容」という本筋に行くのかと思えばそちらもどんどん話が逸れていき、並行してよしなが先生とまつざか先生が言い争いを始めればもう本筋をやっているにはやっていてもどうでも良くなっている。この「流れ」がとてもらしくて好きなのだ、画面に向かって「ちゃんと話を進めろ」とツッコミを入れたくなるような、しんのすけと同じように落ち着きのない展開は臼井儀人作品の特徴の一つだ。
 そしてそのオチを物語の本筋に持って行かず、「おやくそく」の定番ギャグとして流すからさらに面白い。園長の「気は小さいが怖い顔」というキャラを使い、ギャグをやるためのキーワード「組長」を使って、本筋を忘れさせて「いつものギャグ」で落とすからこそこのシーンは面白いのだ。この段階では本筋は裏でアクション仮面とミミ子が頑張っていればいいと言わんばかりに。
 このシーンはみんなそれぞれの役の持ち味を上手く出している。まつざか先生の「オーッホッホッホッ」も良い味出しているし、よしなが先生も性格を上手く出している。何よりも園長先生演じる当サイトでもお馴染みの納谷六朗さんの演技がとても良い。「組長」と呼ばれる前、その一言で「変身」して別人のようなドスの効いた演技、そして適度な間と元に戻る一瞬。納谷六朗さんのこの園長の演技は本当に凄いと思う。前にも何処かで語ったが、「怖い顔」「優しくて気は小さい」というこのキャラクターの相反する特徴を本当に上手く演じているのだ。
研究 ・ 
  

…ようち園からの帰宅時、しんのすけは偶然母みさえと出会う。二人はそのまま買い物へ出かける。
名台詞 「ほう? 母ちゃんにも子供の頃があったのか。その頃オラは何処にいたの?」
(しんのすけ)
名台詞度
★★
 「クレヨンしんちゃん」の野原しんのすけというキャラクターの魅力の一つに、普段はギャグばかりで少々生意気にところがあってもたまに純粋な子供らしくなるところがある。単なるギャグキャラクターなのに「子供としてのリアルさ」を演じさせることを忘れない点、この台詞はまさにそんなしんのすけの魅力に満ちた台詞と思う。
 名場面欄シーンで謎の駄菓子屋に入り込んだしんのすけとみさえ、みさえは店内を見回して懐かしさのあまり「子供の頃を思い出しちゃう」と口走る。その台詞に反応したしんのすけの台詞がこれだ。
 そう、子供にとって自分の親に「子供の頃があった」という事実は信じられない驚くべき大発見なのだ。同時に「では親が子供の頃には自分は何処で何をしていたのだろう」という疑問が湧いてくる。5歳位の子供にとっては自分がこれから大きくなる存在でもなく、かつてはもっと小さい存在であったとも思わない。今の時間が過ぎていくというそれが全てなのだ。そんな幼い子供としてしんのすけがキチンと描かれた瞬間であろう。
 これに対してみさえは「その頃は影も形もなかった」と言ったところで息子がショックを受けているのを悟り、瞬時に「その頃は赤ちゃんの世界でママが大人になるのを待っていた」と幼児向け模範解答の台詞を吐く。その瞬間、しんのすけは「いつものしんのすけ」に戻って「子供だましだな」と呟く。このギャップがまた「野原しんのすけ」であり、このアニメが長生きしている理由の一つでもあると思う。
名場面 駄菓子屋 名場面度
★★★★★
 しんのすけとみさえは街の商店街でギャグをしながら買い物をしていると、ふとしたはずみでしんのすけがこれまで見たことない路地を見つけ、まるで吸い寄せられるようにその路地へ走る。それを慌てて追うみさえ。そして路地を抜けると二人の前に突然、「クレヨンしんちゃん」とは無関係のはずの「昭和の臭い」をプンプン漂わせた駄菓子屋が現れる。二人は迷うことなく店に入り、名場面欄シーンを挟むとその店員の老婆が現れる。
 「何にしましょう」と老婆が問えば「チョコビ」を要求するしんのすけ、「こんな昭和の臭いが漂う駄菓子屋にチョコビなんかあるわけない」と画面の中のみさえと視聴者は突っ込みたくなるところだが、なんと次の画面では一杯に並べられたチョコビが出来る。しんのすけがチョコビを1個選んで取り上げると、母が代金を払う前に開けてカードを確認してしまう。出てきたカードは前の方のシーンで仲間達と話題になったゾロ目のカード、しかも金色に輝く「99番」のカードであった。老婆の顔が不気味にニヤつく。
 そしてしんのすけとみさえが店を去ると、この店に突然剛太郎が姿を現して老婆の正体が解るまでが一連のシーンだろう。
 ここは物語の展開点であることは後になって解るところだ。これまでは表でしんのすけらが日常生活を演じ、その裏側で冒頭の爆発事故を発端とするアクション仮面の謎を追う物語が進行していた。この二つの物語が初めて行き会うのがこのシーンで、視聴者はこのシーンの最後に剛太郎が出てきたところでそれを理解するだろう。
 その瞬間を盛り上げるべく、この駄菓子屋のシーンは上手く作られていると思う。しんのすけが路地へと走り駄菓子屋を見つけるまでは不気味な予感を漂わせるBGMで「何かが起きる」ということを漂わせ、出てきたのが駄菓子屋と解り名台詞シーンの前後では昭和のノスタルジーを感じさせるBGMに切り替わって視聴者を一度油断させる。続けて老婆が登場するシーンでもう一度不気味な雰囲気のBGMに戻す事で、今度は「何かが現在進行形で起きている」と見ている者の心を盛り上げるのだ。そして99番のカードが出てきた時の神秘的なBGMはしんのすけが「物語を進める」ための鍵、つまり「非日常冒険アクションストーリー」への入り口であることを上手く示しているだろう。
 このBGMを細かく変えて物語を上手く盛り上げているという点と、駄菓子屋の情景が薄暗く上手く描き込まれた点が相乗効果をなし、今作品前半で最も印象的なシーンに仕上がっている。そしてここから明らかにいつもの「クレヨンしんちゃん」とは違う、劇場版として差別化が図られた物語へと変わってしまったのだ。
研究 ・「99番」のカード
 今回、しんのすけは「チョコビ」おまけの「アクション仮面カード」の中の「99番」を手に入れる。風間が「父の知り合いのお菓子会社の人」から聞いた話として、「ゾロ目は数が少なくて、中でも99番は幻のカードと言われている」ほど出荷量が少ないとされているものだ。このカードを物語が進んでいくと解るが、たたのお菓子のおまけではなく一般流通されていない特殊なカードであるである。カードそのものはデザイン化されたアクション仮面の絵が特殊加工で金色に光るというもので、おそらくめっき処理がされていると考えて良いだろう。
 だがここである問題がある。前述したようにこのカードが一般流通されていないとなると、「カードを前部集めたらプレゼントがある」というルールが詐欺になってしまわないだろうか? しんのすけがこのカードを手に入れた駄菓子屋は、しんのすけに「99番」のカードを引かせるためだけに存在していたと思えるのだ。
 だがここでは見る側が発想を変えねばならない。駄菓子屋のシーンでズラリと「チョコビ」が並べられたシーンが出てくるが、やはり「99番」はあの中の1個だけと考えるのだ。つまりアクション仮面こと剛太郎らはあのような形で多くの子供達をあの店に招き入れ、誰かが1個だけの「99番」を引くのを待っていたのだろう。そしたらしんのすけがいきなりそれを引いてしまったと解釈するのが妥当だ。
 だがやはり「99番」はこの駄菓子屋で直接アクション仮面らから手に入れるしかないことには変わらない。だがこの解釈であれば一応日本全国の子供達に1個だけしかない「99番」が手に入る可能性は残る…やっぱ詐欺まがいだなぁ。
 「99番」には本物と偽物があるに違いない。しんのすけが引いた「99番」のカードは本物で、これにそっくりなニセモノが「チョコビ」とともに全国に流通しているのだろう。もちろん、ニセモノの方には今作品で今後しんのすけが使うことになる特殊な機能はない。だが同じ柄で、風間が言うように少量だけ流通させてプレミア性を高めるカードになっているに違いない。そうすれば詐欺ではなくなる、うんうん。
 その前に、カードを100枚集めるのが大変だろう。お菓子を100個買って、そのおまけが前部違う確率ってものすごく低いと思う。つまり何百個もチョコビを買わないと100枚のカードを前部集めるのは不可能だろう。1日1個では数年がかり、その間他のおやつは食べられない。やっぱ詐欺でも誰も解りはしないんだな、きっと。

…やがて夜になると、会社から帰宅したひろしが突然「明日は海へ行こう」と言い出す。
名台詞 「よーしっ、父ちゃんも前だ。」
(ひろし)
名台詞度
★★★
 名場面欄に記した日常→非日常への転換シーン。この中で一家は「時空移動マシーン北春日部6号」に乗せられるが、これに乗り込む際にひろしがこう言いながら前席に陣取るしんのすけの隣に割り込む。ありきたりの台詞だが、ここはこの本人達が無自覚に起きている「異常事態」を示すのに重要な役割を果たしている。
 それはこのどう見ても不自然な海岸のアトラクション(しかもタダ)になんの不信感も抱かずに家族と愉しもうとノリノリの父の姿を純粋に描いているのだが、これと対照的にこのアトラクションに対し不信感で一杯のみさえの心境を上手く描き出している。みさえの不信感は「これで本当にタダなの?」というギャグに流すが、彼女の本心がそれだけで無いことを浮き彫りにする役割が、夫のこの台詞にあるのだ。
 「クレヨンしんちゃん」登場人物のキャラクター性を考えて見ると、こういう状況でノリやすいのはひろしよりもみさえである。しんのすけに限らずみさえがノせられるという役回りは、原作漫画でもテレビアニメでも劇場版でも多いことは「クレヨンしんちゃん」をよく見ている人は理解している事だろう。当サイト考察作品でいえば「カスカベボーイズ」で「映画の中の世界」に一家が入り込んでしまったとき、ひろしとみさえがどうなってしまったかを考えれば分かり易い。
 だがこのシーンでは普段の夫婦の役回りが完全に逆になっている。この状況にノせられて染まってしまっているのはひろしの方で、いつもノリノリのみさえがノリが悪く状況を疑う、こん風に描かれている。それを強調する台詞がこれなのだ。
 もちろんこの映画を見ている「クレヨンしんちゃん」に見慣れた子供達も、この二人の関係がおかしいのに潜在的に気付くだろう。そして「何かが変だ」と思うはずである。そうやって場を盛り上げることでこの物語の大転換シーンを印象付けているのだ。
名場面 アクション仮面アトラクションランド 名場面度
★★★★
 いよいよ物語は中盤の最大の見どころに差し掛かる。海へ行こうとした野原一家は途中で大渋滞に巻き込まれ、我慢できなくなったひろしが脇道に入ってしまう。そしてなんとか海岸に出ると、その海岸には巨大なアクション仮面を中心に大きなテントで作られたイベント会場のような施設があった。アクション仮面の存在に惹かれてしんのすけが走り、その後を両親が追う。そして不気味な案内人(郷剛太郎の変装)にしんのすけが出会い、例の「99番」のカードがここの入場券であることを知らされる。そして一家はそのスペースのアトラクションの一つである「時空移動マシーン北春日部6号」に乗せられる。
 実はこの「時空移動マシーン北春日部6号」はアトラクションなどではなく、本当に時空移動をしてしまうという事が分かるのはまだ先のことであるが、名台詞欄の要素も含めてこれが「本物」であることをうまく示唆する演出がしてある。特に案内人が出てきて以降、「北春日部6号」に乗り込むまでは画面全体をピンク色に染め、たまに映る海までもがピンク色になってしまっている。この描写は不気味さを盛り上げるだけでなく、ここで何か取り返しの付かないような展開が待っていることを上手く表現している。さらに案内人の台詞の選び方、その中でも「野原しんのすけ」を前から知っているという設定にしたのは、このシーンで「何かが起きる」事を上手く盛り上げてる。
 こんな不気味で「何かか起きる」という事が見ている方が明確に理解したところで、一家はマシーンに乗せられてしまう。そして彼らがマシーンの中で体験したことは既に「非日常」に入っており、既に一家がこれから体験する「冒険」が始まっていることになる。その直前の展開では不気味さを演出することで「平和なのはここまで」と上手く盛り上げ、うまく物語の境界を繋いだと、とても感心したシーンだ。
研究 ・アクション仮面アトラクションランド
 実はこの部分からは設定は大きく違うものの、物語は「アクション仮面VSハイグレ魔王」の原作漫画に沿う形となる。本作の原作漫画は一家が海に行った帰りに道路渋滞に巻き込まれ、そこで偶然「アクション仮面ハウス」という施設を見つけて入るところから始まるのだ。そのハウス内で偶然に不思議な体験をして時空移動をして別世界に行ってしまうという展開は、本映画が踏襲したと言って良いだろう。
 映画では既に伏線が張られていて、アクション仮面自らがしんのすけを別世界に呼び寄せるための入り口として描かれた。つまりハウスの代わりに設定された「アトラクションランド」はしんのすけのためだけに作られたと言っても過言ではない。しんのすけが駄菓子屋で「99番」のカードを引いたことで、アクション仮面側がしんのすけや家族の性格を調べ上げてトラップを張ったとしか思えないだろう。ひろしの勤務先を調べることで彼に「海に行きたい」と暗示を掛けることに成功したし、ここに迷い込む最初のきっかけである道路渋滞もアクション仮面側が仕掛けた可能性が高い。しかも一家の車がちょうど脇道のところに止まるように計算し尽くしたようだ。こうして一家の車が海岸のある一点に来るように誘導するトラップを仕掛けて、海岸にアトラクションランドを設営したのだろう。
 そしてここに「北春日部6号」という時空移動マシーンがあるが、これは物語が進むとアトラクションではなく本物だと解る。この装置は特定の人物や物を時空移動させるだけではなく、異時空間の通信機能も付いていることは確かだ。それは一家がマシーンに乗り込んで起動した後に、ミミ子が異時空にいるリリ子とこの装置の操縦部分から連絡を取り合っていたことで理解できる。
 この装置は、異動元と異動先の時空に1台ずつ必要のようだ。アクション仮面はアクションストーンで時空間を移動できるようなので、どちらかの時空でこの装置が開発されればアクションストーンを持った人物が図面を持って時空移動することで開発されてない側にも装置を設置することは可能になる。装置には時空移動する人物が中に乗り込み、操縦者は外から操縦するシステムになっていて、さらに見ていると操縦者は送信側と受信側に必要なようだ。この時は劇中で描かれた側の時空には剛太郎とミミ子がいて操縦士、反対側の世界ではリリ子が操縦していたことになる。送受信側の双方に人が必要ということだ。
 では「向こう側」の野原一家はどうして「こちら側」に呼ばれる必要があるのか。それは互いにかち合わないようにして同じ家を使えるように配慮したのだろう。「向こう側」の野原一家も同じ過程で海岸沿いのアトラクションランドに呼び寄せられ、北春日部博士が案内人役になってリリ子がマシーンを操縦したのだろう。「向こう側」の野原一家は「アクション仮面の実在しない世界」を堪能して帰ったに違いない。

…海から帰った翌朝、ひろしがいつも通り会社へ出社するが、街に異変が起きていることに気付く。
名台詞 「そ、そりゃあ……若いギャルのハイレグは、嬉しかったにゃー。」
(ひろし)
名台詞度
★★★
 夏休みプールのため通園するため、しんのすけとみさえが玄関前でようち園バスを待っているところにひろしが「大変だー」と叫びながら帰ってくる。ひろしは妻と息子に街に異変が起きたこと、その異変が「人々がみんなハイレグの水着姿になってる」事であることを告げる。みさえは冗談だと受け流そうとするが、しんのすけは「ハイグレ(ハイレグの言い間違い)の感想は?」と聞くとひろしは頬を赤らめながらこう答え、しんのすけと一緒に笑う。
 「野原ひろし」というキャラクターがアニメにおける「父親キャラ」として人気が高いのは、こういう面があるからに他ならないだろう。父であり夫であり一家の大黒柱たる父親も、一人の「男」であり女性には目がないというリアルな父親像が設定されている。日常生活を描くアニメの多くは「父親」は父性を前面に出して聖人君子的に描かれるが、それとは違うリアルな父親が「クレヨンしんちゃん」に存在する事をさりげなくアピールしている。
 だからといってひろしは浮気をするようなプレイボーイではなく、こういう面が純粋に「男の本能」として描かれている点が良いのだ。また息子がああいう性格のために、こういうところで話が合う絶妙なコンビネーションもこれまた面白い。この絶妙なキャラ同志のコンビネーションと、ノリこそが「臼井儀人作品」であるのだ。
 このひろしとしんのすけのやり取りを横で見ているみさえの反応は「おやくそく」通りだが、この3人のバランスが絶妙だからこそ、この漫画はギャグマンガとしても日常生活を描く漫画としても、どちらにも成立したのは確かだ。
名場面 リリ子との出会い 名場面度
★★★★
 名場面欄のおバカなやり取りが終わったかと思うと、突然一家3人の前に壊れた車がドリフトしながら突っ込んでくる。すぐにその追っ手が現れて車を銃撃…と思ったら車の中からミミ子にそっくりな少女が出てきて反撃して何とか追っ手を撃退する。「やったわ」と立ち上がる少女に「アクション仮面のミミ子おねいさんだ」としんのすけが声を掛け、続いてみさえが「随分派手な撮影ね」と口を開く。「お願いです、助けて下さい」と少女が救いを求めると、「撮影カメラは何処にあるの?」「生で見ると可愛いね」「なっとうにはネギ入れるタイプ?」と一家は事態の深刻さに気付かずに声を掛け続ける。「あの〜皆さん、私の話を聞いて下さい」と言うと少女は自分が「アクション仮面の可愛いパートナー、桜リリ子よ」と自己紹介…と思ったら自分がミミ子と間違えられた事に気付き、野原一家が「アクション戦士」に選ばれマシーンに乗ってこの世界に来た人達であることに気付く。赤い顔して「99番」のカードにサインが欲しいとねだるしんのすけに、「ひょっとして君、しんのすけ君?」と聞く。リリ子が「ミミ子の奴、選ぶ子を間違えたのでは…」とため息を付くと、北春日部博士の登場だ。北春日部博士は車の中でずっとトイレ(大用)を我慢していたという設定だ。
 ここで物語は完全に「スリルと冒険」という非日常チャンネルへの転換が終わる。しんのすけたちが悪の組織と戦う直接的なきっかけを手に入れるのだ、このシーンにくるまで上映時間の半分を費やしてる…なんて贅沢な映画だ。
 その「出会い」は印象的に描かれてしかるべきだが、ここでは「日常生活」の中の物語であるという「クレヨンしんちゃん」の空気を大事にしている点が注目どころだ。こうすることによって視聴者が持つ「いままでにないクレヨンしんちゃん」に対する抵抗感を消すことに成功しているのだ。つまり普段の野原一家3人の言動とノリを大事にし、そこにリリ子という非日常が紛れ込んできても普段の作品が持つ空気をそのままにしているのだ。その最たる物は状況を読まず勝手に展開させようとする野原一家であり、と言いつつも発する言葉がバラバラで落ち着きが無く、しんのすけは相変わらずで、この状況に出逢った「いつもの野原家」を徹底的に演じるのだ。それだけでない、このシーンで新登場の北春日部博士までが「いつもの臼井儀人作品」を演じてくれるのはとても面白い。北春日部博士がそのギャグ路線へ行けば、リリ子も自然についてくるのは秀逸だ。
 ここは原作漫画版「アクション仮面VSハイグレ魔王」を完全に踏襲している。原作では同じ展開でミミ子が現れるのだが、やはり野原家の3人に徹底的に「いつもの野原家」を演じさせている。原作者である臼井儀人さんのセンスが光っている部分であり、臼井儀人さん自身がこうして今までにない作品に対して抵抗感が生まれないように配慮して物語を作り、これが映画にも引き継がれた部分だ。
感想 ・ 
 

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