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・「クレヨンしんちゃん 超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁」のオープニング
「ハピハピ」 作詞・ベッキー♪♯ 作曲・Splash Candy 編曲・本田優一郎 歌・ベッキー♪♯
 アニメの「クレヨンしんちゃん」はここ数年頻繁にオープニングテーマが変わっているが、その中でも最も好感度が高い曲がこの曲と言っても過言では無い。詩の内容やメロディライン、それに賑やかなアレンジも含めて「クレヨンしんちゃん」らしいと思う。
 まずイントロで「Stormy Boy」というコーラスから入るのが良い。それはそのまんま原作初期の「クレヨンしんちゃん」の副題「嵐を呼ぶ園児」を連想させてくれる。この「嵐を呼ぶ…」というフレーズは原作漫画やテレビアニメではあまり使用されなくなったが、劇場版では本作も含めて現在まで使われ続けているのは面白い。そして歌詞の内容は日常のささやかな幸せを、意気を込めすぎずに自然にサラリと歌い、そこからそれが「嵐を呼ぶ元気」とこれまた「クレヨンしんちゃん」らしいオチへと向かってゆく。その背景に流れる伴奏はとても賑やかで明るく、「クレヨンしんちゃん」のいう作品世界を上手く盛り上げているように感じる。
 だが背景画像は一度見ただけでは意味がよくわからなかったのが正解だ。ぶりぶりざえもんをしつこく出したり、しんのすけとぶりぶりざえもんが入れ替わるという内容は本作内容から見るとどうかと思う。途中と最後に出てくる野原一家は「現代の野原一家」であり、本作では僅かにしか登場しないなんてこれを見ただけでは誰も思わないだろう。この画像には本作のテーマである「未来」が何処にも示唆されていないので、内容を先回りして知っていると「?」をつけざるを得ない。
 もちろん劇場版「クレヨンしんちゃん」では恒例の粘土アニメの出来そのものは素晴らしく、何度見ても見る者を圧倒することだけは間違いない。本編を見るとこのオープニングを忘れてしまうのが難点だが。

…物語は未来世界で始まる。「金有電機」の宣伝が流れる街の中心にそびえる高いビルで、アクション仮面の格好をした男が「何か」をしようと走る。それを一人の女性が防犯カメラを通じて見守っている。
名台詞 「野原しんのすけ! お前の企みもここまでだ!」
(増蔵)
名台詞度
★★
 ビルの最上階で、アクション仮面に扮した男がゴーグルのような装置をつけて「何か」を試みるが、これが失敗に終わり落胆する。ここに現れたのはこのシーンではまだ何者かは解らないが、金有増蔵という本作の悪役だ。それを防犯カメラでアクション仮面に扮する男の行動を見守っていた若い女性が制止する。すると増蔵はこう言いながら、アクション仮面に扮した男に銃を向け、光線を発砲するのだ。
 本作品最初の台詞らしい台詞は、本作の悪役であり内海賢二さん演じる金有増蔵によるこの台詞だ。今まで見た映画の中で、作品最初の台詞がいきなり主人公の名を叫んでいるなんてあまり見たことがない。そしてこの台詞で、劇中で「何か」をしようとしているアクション仮面に扮した人物こそが、未来世界のしんのすけだと人々は理解する。
 物語はこのように「未来のしんのすけ」が何かを企んでいるというところからスタートする。この未来世界のしんのすけが現代のしんのすけにどう繋がるか、視聴者は身を乗り出して見る事になるだろう。
 しかし、名台詞を吐いた登場人物がまだ何者か解らない状況なので、説明が難しかったぞ。
名場面 最初のタイムスリップ 名場面度
★★★
 名場面欄シーンで増蔵に撃たれた未来しんのすけは、身体中が緑色の何か(後のシーンで「バイオコーティング」とされる)に覆われると同時に身動きが出来なくなる。その苦しみの中で「5歳のオラが必要だ!」と叫び、マイクのような形をした何者かを増蔵ともみ合っていた女性に投げる。「待て!タミコ!」と増蔵は叫ぶが、タミコと呼ばれたその女性はマイク型の物体を受け取ってボタンを押すと、光に包まれて姿を消す。その後を静かに、金有電機の宣伝がゆっくり流れる。
 本作ではそのタイトルや予告されている内容から、「未来」がテーマであり「タイムスリップ」という要素があることが示唆されている。その現代と未来を繋ぐ「タイムスリップ」を、まだ出てきた登場人物が何者かという説明も無いまま、さらに言えば主人公やその周辺人物が出てこないままの段階でとても印象的に描いたのは見ていて面白い。
 そしてこのシーンで「タミコ」と呼ばれたその女性こそが、本作のタイトルであるしんのすけの花嫁…婚約者であることはだいたい想像が付くだろう。この人物がどんなシーンでどのような形で現代世界に現れるのか、いきなり目が離せない展開だ。
 しかし、このシーンを見ると思うのだけど、何でオープニングが映画の最初に行ったんだろう? このシーンの後で現代にシーンが切り替わるのだから、そこでオープニングを差し込んだ方がバランスが良かったように感じるけど…。
研究 ・ 
 

…現代の春日部では、野原夫妻が若い頃の思い出に浸るグッズを見つけ出していた。また、「かすかべ防衛隊」の面々は「未来ごっこ」に興じていた。
名台詞 「懐かしいなぁ。良い曲だよな、これ。よみがえる青春の日々。」
(ひろし)
名台詞度
★★
 物語冒頭、野原夫妻は各々冬物の整理をしていた。みさえがウェディングヴェールを見つけていたその頃、二階の部屋ではひろしが押し入れから見つけたレコードを再生していた。流れていた曲は小泉今日子の「夜明けのMEW」、それを聴きながらひろしはこう語るのである。
 この台詞を聞いて私も「遂に自分がそういう側になってしまった」と思った。テレビやラジオから聞こえる過去のヒット曲、それが自分の若かりし日に聞いた曲だったりすると当時はそんな興味が無かったのに「なつかしい」「良い曲だ」と感じてしまうようになったのだ。去年の紅白歌合戦でプリンセスプリンセスが出てきた時、このひろとし同じ台詞を呟いていたもんなぁ。
 この台詞の前半、「良い曲だよな、これ」までは私も実際に口にしてしまう言葉だ。その後の「よみがえる青春の日々」の口に出すのでなく、曲と同時に脳裏に浮かんでくるものだが、ここでは短時間でこれを示唆しなければならない事を考えるとこれをひろしに語らせるのは正解だ。この台詞を聞いて、子連れでこの映画を見に来た親は自分にとってそう感じる曲のひとつやふたつを思い付いたことだろう。
 そしてここで掛かった「夜明けのMEW」は、今後の物語展開におけるひとつの伏線となっている。曲の内容はどうでも良い、ひろしが「何年経っても消せない思いで」としてこの曲を何度も繰り返し聴いているであろう事が大事なのだ。
名場面 未来ごっこ 名場面度
★★
 公園では「かすかべ防衛隊」の面々が遊んでいた。美人女優のネネを中心として、マサオはネネ主演映画の原作漫画を書いているという設定、風間はネネの知人で大会社の社長という設定、そしてボーちゃんは風間の会社で新製品を開発しているという設定だ。そこへしんのすけが現れ、「みんななにやってるの?」と問う。ネネが「未来ごっこよ」と言ったのを皮切りに、それぞれが大人になったら何になりたいか夢を語る。ネネが「しんちゃんは夢とか希望とかないの?
」と問えば、しんのすけは自分がそのまま大きくなった姿を想像して「オラ、今のままで良い!」と宣言。「子供の癖に夢がないな」と風間が言えば、「じゃ、オラの夢は子供でいること」と宣言して尻を出して踊り出す。一同はため息を付き、「しんのすけは一生子供かも知れないな」「そうね」と風間とネネが語り合う。
 この「未来ごっこ」のノリがどう見ても「リアルおままごと」なんだけど、みんな嫌がってないな…。それはともかく、ここは「普段のクレヨンしんちゃん」から「かすかべ防衛隊」のみんながどんな未来を望んでいるかという点を上手く描き出していた好きなシーンだ。マサオは原作漫画でも漫画家志望であるエピソードが描かれているし、ネネも風間もそのキャラクターのまんまであろう。ボーちゃんが「発明家」というのも、一番ありそうに感じる。
 そこへしんのすけ登場、ここは彼が何も考えていないのではなく、考え過ぎちゃったのが問題だと見るべきだろう。「大人になったら…」を姿形から入ってしまい、そのまま自分が大きくなる姿を思い描いて青ざめる辺りはしんのすけらしくして好きだ。結果は「子供のままでいい」って、あの姿形を想像しちゃなぁ。
 もちろん、これら「かすかべ防衛隊」が見る「大人になっての夢」は、この物語の今後に対する伏線である。多くの人が本作では「未来へのタイムスリップ」があると感じており、彼らの未来がどうなったかを期待してみることになろう。
研究 ・「夜明けのMEW」
 この映画でシンボル的に使用される挿入歌が、今回部分の名場面欄で紹介した小泉今日子の「夜明けのMEW」だ。この曲は1986年7月発売のヒット曲、当時二十歳の小泉今日子が歌ってオリコンで初登場2位、1986年年間ランキングで71位、「ザ・ベストテン」では最高6位、第37回紅白歌合戦出場という「大ヒット」までは行かなくても多くの人に支持されたアイドルソングであることは確かだ。
 ま、小泉今日子のシングルではその前の「100%男女交際」や、もう一つ前の「なんてったってアイドル」の印象が強すぎて、この「夜明けのMEW」やその次の「木枯らしに抱かれて」はちょっと印象が薄いという人も多いだろう。特に「夜明けのMEW」はテレビドラマや映画の主題歌やテレビCMソングとしての起用もなく、今となっては「知る人ぞ知る」という感じになりつつあるところでの本作での起用だった。
 この曲がヒットした頃、私は高校1年生だった。コンビニなどのBGMでよくこの曲が掛かっていたのは覚えている程度だ。この頃はアイドルと言えばおニャン子クラブ全盛の頃で、そのような団体に属していないアイドルが苦労していた時代でもあったようだ…あれ、この状況っていまとあまり変わっていない…。それは置いておいて、この頃の小泉今日子はまだ「CM女王」になる前だったと思う、「売り上げ10%増女」として様々なCMに出るようになったのはこの後だったような記憶が。
 劇中設定が35歳の野原ひろしが、この曲にどんな「青春」を感じているかは疑問だ。彼が映画上映時点の2010年に35歳であれば、この曲がヒットした1986年は11歳小学5年生…これじゃ「よみがえる少年の日々」になっちまう。せめてひろしが私と同い年くらいであれば、「よみがえる青春の日々」でもいいと思うんだけどなー。
 ちなみに小泉今日子といえば、NHKの朝の連続テレビ小説「あまちゃん」に絶賛出演中だ。その劇中で小泉今日子が村下孝蔵の「初恋」を歌うというそれだけで、その回の「あまちゃん」をビデオに撮って保存したのは私だけだろう。今でも良い声していたなぁ、まだアイドルで通用するぞ…姿形はおばさんになっちゃったけど。

・挿入歌 「夜明けのMEW」 作詞・秋元康 作曲・筒美京平 編曲・武部聡士 歌・小泉今日子

…「かすかべ防衛隊」がいた公園に突如強烈な光が現れ、その中から一人の女性が姿を現す。その女性は突然風間を抱き締めるが…。
名台詞 「君が野原しんのすけだってこと、間違いなさそうね。しんのすけさんと丸っきり同じだもの、こんな時なのに冗談言ってばかり。(以下略)」
(タミコ)
名台詞度
★★★★
 しんのすけと「かすかべ防衛隊」の面々の前に突如現れた変わった服装の女性。彼女は尻を出している男児がしんのすけだと解ると、「しんのすけさん、行きましょう」と声を掛ける。「何処へ?」と問い返すしんのすけに「しんのすけさんが呼んでいるんです、これから未来へ行きます」と答える。「未来…?」としんのすけが悩んだかと思うと、しんのすけとタミコでボケツッコミの掛け合いが始まる。この掛け合い一度は乗るタミコであったが、ついには呆れてしんのすけを制止したかと思うと、ひとつため息を付いてこう語る。
 この台詞とこの台詞に至るシーンから見えてくるのは、未来のしんのすけの人物像と、これとタミコが何で婚約出来るほどの仲なのかという点だろう。まず後者を説明すると、しんのすけのボケにタミコが自然についてきている点であり、これを見ているだけでこのしんのすけが成長した未来のしんのすけとタミコが名コンビ的な息の合った男女であることを誰もが想像するであろう。
 そしてここから見えてくる未来のしんのすけの人物像、それは良い意味で取ればどんなときも明るく楽しい人物だと言うことであり、現在のしんのすけの性格を受け継いでいるのは確かだと言うこと。どんな真面目な場面でも突然冗談を言って気を抜かせたり、適度にボケて辺りを和ますという点は未来へいっても変わらないと言うことだ。いやーっ、面白そうな青年だな。
名場面 二度目のタイムスリップ 名場面度
★★★★
 タミコはしんのすけを未来に連れていこうとするが、「かすかべ防衛隊」の面々は「知らない人について行っちゃダメ」という理由でこれを制止する。そこでタミコは自分が未来世界でのしんのすけの婚約者だと名乗り、未来のしんのすけが呼んでいるから未来へ行くとするが、今度はしんのすけが乗り気でない。だが結局はタミコに「未来世界の限定チョコビ」で釣られ、「オラ未来へ行きますっ」と答える。タミコが「よし」と答えるとタイムマシンを起動させ、タミコとしんのすけが光に包まれる。「かすかべ防衛隊」は声を上げ、その光の中に突進して行く。そしてその光が消えると、しんのすけとタミコだけでなく「かすかべ防衛隊」の面々も姿を消していた。誰もいない公園に、マサオのスケッチブックだけが残っている。
 こんなドタバタしたタイムスリップは余り見たことがない。今度はタミコと「かすかべ防衛隊」のやり合いが面白いし、何よりもタミコの正体が解ったときの皆の驚きようとしんのすけのボケがこれまた良い味を出している。一同はしんのすけにも恋人が出来た事に驚き、何よりもしんのすけ本人も好みでなかったのか、嬉しそうな顔ではない。
 そんな感じでタミコによるしんのすけの連れ去りは一度は頓挫し掛かるが、「チョコビ」で釣られるしんのすけがこれまでの「クレヨンしんちゃん」の設定を上手く使っていて感心する。そして唐突にタイムスリップシーンとなり、驚いた「かすかべ防衛隊」の面々がこれに巻き込まれるという形で一緒にタイムスリップすることで本作が「しんのすけとかすかべ防衛隊の物語」であることが確定する。
 と解説を長々と書いたが、ここで一番印象的なのはこんなドタバタでみんながタイムスリップしてしまい、誰もいなくなった公園の描写だ。5歳の子供達がまとめて4人も姿を消すという「異常事態」として上手く描かれていると思う。同時にマサオがずっと持っていたスケッチブックを描き忘れることはなく、むしろその異常事態を示すアイテムとして上手く転がしたのはとても印象に残り、本作序盤では最も良いシーンだと思った。
研究 ・ネオトキオその1
 この二度目のタイムスリップでは、しんのすけとタミコの時間移動を通じて未来世界では「何が起きたのか」を上手く解説している。これから見える本作の舞台である未来世界の都市、「ネオトキオ」について考察しよう。
 まず描かれるのは現代の風景の中に隕石が落ちてくるシーンだ。タミコの解説ではこの未来世界は「一日中夜のように真っ暗」だとされているし、未来世界に到着したしんのすけは「寒い」と呟いている。隕石衝突とこれらは明確な関連性があることは確かだ。
 今後のシーンから想像すると、隕石が衝突したのは本作中の「現代」である2010年なのは間違いない。この時に大きな隕石が地球に衝突したのは確かだ、今年ロシアに落下して話題になった隕石とは比較にならない。とは言えあまり大きな隕石だと今度は人類が滅んでしまう。人類が滅びない程度に地球の気候に数十年単位の影響を及ぼすのならば、直径数キロの隕石ひとつで充分だ。劇中で描かれたような隕石群だと人類が滅亡してしまうので、複数の隕石が落ちているように見えるのは一度衝突した隕石の破片が飛び散ったのだと解釈しよう。
 このサイズの隕石が地球に落ちれば、衝突地点の周囲は衝撃波と高温で何もかもがなくなってしまう。直径も深さも数十キロに及ぶ巨大クレーターが生まれ、衝突時に飛び散った破片は火の玉となってクレーター周辺だけでなく地球上の広い範囲に降り注ぐ。これが世界的な火災を発生させて大量の煤を上空に巻き上げる。
 隕石が海に墜ちるとさらに悲惨で、こうして発生する火災にさらに高さが何十メートルもある巨大津波が世界各地の沿岸部に押し寄せる。劇中では現在は内陸にある埼玉県春日部市が海辺になってしまった旨が示唆されているが、これはその巨大津波で標高の低い関東平野が洗い流されてしまって埼玉県南東部が陸地として残ったと推測出来る。そこに日本政府が首都機能を移転させて出来た街が「ネオトキオ」なのだろう。
 火災により上空に巻き上げられた煤は、数年に渡って上空に留まる。特に小さい煤は長期間に渡り上空に留まるが、その期間は10年ほどとされている。しんのすけがタイムスリップした未来は10年後では効かないと思うので、ひょっとすると同程度の隕石がもう一つ落ちたのかも知れない。または隕石衝突により人が住める土地が少なくなったことで、土地の奪い合いが始まり核戦争が起き、さらに煤が上空に巻き上げられたのか…。
 このような隕石衝突を発端とする煤が上空に巻き上げられ、太陽光を遮られる現象を「衝突の冬」と言う。これが核戦争が発端であれば「核の冬」となるわけだ。ネオトキオが暗く寒い理由はこの「衝突の冬」か「核の冬」によるものなのは確かだろう。
 そしてひの上空に巻き上げられた煤が減少し、空の晴れ上がりが近くなった頃が本作の舞台と考えられるのだ。

…しんのすけとタミコは未来世界の日本の首都であるネオトキオに無事到着し、未来のしんのすけの元へ向かう。一方、「かすかべ防衛隊」一行はタイムスリップ時にしんのすけやタミコとはぐれてしまい、ネオトキオの外周にある街を彷徨っていた。
名台詞 「おおっ、アクション仮面! アハーン、かっこいいゾ!(以下雄叫び)」
(しんのすけ)
名台詞度
★★
  タイムスリップしてネオトキオに到着したしんのすけの第一声は「寒い」であったが、彼はこれに引き続き街中のあちらこちらに立っているアクション仮面の像を見つけてはこのように叫んではしゃぐ。
 もうこの台詞はしんのすけを演じる矢島晶子さんの年季の勝利としか言いようのない台詞だ。しんのすけの「アクション仮面に憧れている」という設定、それを見つけた興奮がとても「らしく」演じられているのは確かだろう。絶対に他人には真似の出来ない、等身大の5歳児野原しんのすけが上手く表現されでいる。
 本作品は「クレヨンしんちゃん」という漫画が登場して20周年を迎えた翌年に公開されているが、その20年を経て完成した「しんのすけ」というキャラクターをまざまざと見せつけてくれる台詞であろう。もちろん、「しんのすけ」はこれからも成長し続けるであろうが。
 文章では伝えられないこの台詞に込められた抑揚、そして台詞の後の雄叫び…この台詞の凄さはこれを実際に聞いてみないと解らないと思う。興味のある方は是非ともDVD借りるなり買うなりして見て欲しい台詞だ。
名場面 対面 名場面度
★★★★
 タイムスリップ中にしんのすけやタミコとはぐれてしまった「かすかべ防衛隊」一行は、とにかくバラバラにならないよう街を彷徨う。その途中でボーちゃんがコンビニを見つけると、一行は空腹を感じていたこともあって喜んで店内に入る。店内には若くてやる気のない男性店員、そして切れかかった蛍光灯が薄暗く店内を照らす。僅かに売れ残った食べ物から「チョコビ」を見つけると、なんと1800円。その価格に驚いて一行は店を出ようとするが、マサオだけは店を出ようとせずにやる気のない店員を見つめていた。「ちぇっ、何だこの新連載…」漫画本を読みながら店番をする男性店員の顔は、マサオそのものであった。鼻をほじりながら漫画雑誌に一人でケチつける未来の自分を、マサオはじっと見つめる。そのうちに男性は気が付いて「何か用かよ? オニギリ坊主」とマサオに声を掛ける。マサオは一瞬首を振りつつも「マ…漫画家?」と声を上げる。男は「俺の漫画知ってるのか?」「三週で打ちきりになったけど」と戯けるが、マサオは「連載20本持つんじゃなかったの? アニメ化は? 映画化は?」と自分が語った夢の通りの事を問うてみる。「うっせえ! 何なんだよ?」と返す男に、「お前こそ何やってんだよ!? お前なんか…僕じゃない! がっかりだーっ!」とマサオは叫ぶと走って店から飛び出してしまう。男はその後ろ姿を見送りながら「僕じゃない? なんのこっちゃ?」と呟く。
 いよいよ「かすかべ防衛隊」メンバーの未来の姿が出てきた。その一発目はマサオで、しかもいきなり本人同士の対面。それだけでなく未来のマサオは現在のマサオが夢見ていた通りの道を歩いていたが、何処でどう道を誤ったのか上手く行ってない様子だ。マサオが見たものは「上手く行っていないなら上手く行っていないなりに何とかしよう」と頑張っている自分の姿でなく、夢に折れて挫折し立ち止まっている男の姿だ。こんな未来の姿を見せられたらたまったもんではない。そのマサオのショックを上手く描いている。
 マサオ当人が気付いていないのは、これが未来の自分の最終形ではないこと。大人の自分がこの時点で漫画を諦めているかどうかもこのシーンではハッキリしない。だがこの「未来の夢」と「未来の現実」のギャップを目撃してしまえば、そんな事なんか思い及びもしないという点も上手く描いていると見るべきだろう。
 またこの最初の「未来の自分との出会い」を描いたのがマサオというのも、演出としてとても面白い。しんのすけですらまだ未来の自分がいるはずの場所に着いていない段階だ。しかもこうして見せられたのは「成功している姿」ではなく、「上手く行っているとは言えない姿」である。このシーンには見ている子供達に「努力」の必要性を訴えているように、私には見えた。
 このシーンを見て、これから「かすかべ防衛隊」や野原家の未来の姿が出てくると多くの人が期待を寄せるだろう。これは物語に人を引き込む効果もあり、色んな意味で印象に残った。
研究 ・ネオトキオ2
 しんのすけや「かすかべ防衛隊」の一行は未来世界に到着するが、しんのすけはタミコとともにネオトキオと呼ばれる未来都市に到着し、「かすかべ防衛隊」一行はしんのすけらとはぐれてネオトキオ外周部のスラム街とも言える特に到着してしまう。ここから街の構造について考えたい。
 ネオトキオは清潔で近代的なビルが建ち並ぶ大都会だ。ここは隕石衝突による災害で水没した東京を再建してできた街だと思われる。そのような災害があったなら国内の他の都市に遷都すりゃ良いと思うあなたは甘い。前回考察の通り隕石が海に墜ちて世界的に大津波に襲われたとすれば、日本の大都市の殆どが海に流されてしまっているはずだからだ。その津波の規模は東日本大震災の何倍にもなったはずなので、内陸にある都市以外は滅亡だろう。日本の場合残った街は、県庁所在地ならば北から順に札幌、盛岡、山形、宇都宮、前橋、長野、甲府、岐阜、京都、奈良程度のものだろう。これに無事かどうか微妙なところが水戸とさいたまだ。特に関東平野は標高が低く、隕石墜落クラスの超巨大津波で壊滅したと考えられる。だが日本の首都機能を遠方へ移すことも困難で、関東平野で無事だった場所にその移転先を求めたと考えるべきだろう。関東地方で無事そうな場所と言えば台地状で標高が少し高い東京多摩と考えられるが、ここは既に宅地開発によって人口過密で首都の移転など出来なかったに違いない。また台地状のため無事だったエリアとそうでないエリアの標高差があり(ここは重要)、被災エリアは完全に海になって新たな都市を作る場所がなかったと考えられる。
 そこで埼玉県南東部、春日部市隣接地帯に移動することになったのだろう。もし春日部市街地がギリギリで津波被害を免れたとすれば…こちらは台地状地形ではないので標高の変化は緩やかであり、津波に流されて更地になった場所で都市を作る事が出来る。つまり、その被災地の再建によって首都としたと考えるのが適切だろう。恐らく、「ネオトキオ」の位置は東武スカイツリーラインの草加駅からせんげん台駅にかけての一帯ではないかと考えられ、ここは劇中の災害で津波に流されたと見ていいだろう。そしてせんげん台駅と春日部駅の間辺りが海峡となり、スラム街になった現春日部市街と隔てられているイメージだ。
 現春日部市街の辺りがスラム街なのは、物語が進むと現在の野原家がそのままスラム街にあることがわかるため動かせない事実だ。恐らく現春日部市街はギリギリで津波災害から免れたのだろう。結果ここには首都移転前から災害を生き延びた人々が集まったと考えられる。またさいたま市やその周囲の岩槻、川口、鳩ヶ谷、蕨、戸田という街も津波で甚大な被害を受けたと考えれば、春日部への人の集中は説明出来よう。そして隣接地に首都が移転してきたとすれば…他の地で災害を免れた人が首都を目指し、隣の春日部にも集まってくることは容易に想像出来る。こうして現春日部市街エリアはスラム街となったのだろう。

しんのすけとタミコは冒頭シーンで増蔵と大人しんのすけが戦った塔の最上部を目指していた。その頃、増蔵は社長室で若い男と電話をしていた。
名台詞 「任せて下さい、皆さんがちゃんと働いてくれればいくらでもお世話しますよ。顔も性格も年収も、全てが優秀な独身男性を。ははははははははっ…。」
(大人の風間)
名台詞度
★★★
 増蔵と業務上の様々な連絡を電話でやり取りしていた若い男性。その声は「クレヨンしんちゃん」を見た人なら既に何処かで聞いたような声であり、場合によっては正体まで突き止めていることだろう。その男性が社長との用件が済み電話を切ると、ほぼ同時に別の電話を受ける。電話の相手は女性の声で、甘えた感じで「私たちの縁談はどうなっているの?」と問うている。それにこの男性はこの台詞のように返すのだが、この台詞の途中でこの男性が何者かがハッキリする。そう、大人になった風間トオルだ。
 「かすかべ防衛隊」の面々の中で、2番目に未来の姿が出てきたのは風間ということになった。そしてその姿は先ほど子供の頃の風間が語ったように、大会社でかなり出世しているという夢は叶えている。だがここで出てきた風間は本作での「悪役側」に付いていることも簡単に想像が付く。増蔵の忠実な側近として働いているであろう事が示唆されるだけでなく、増蔵との電話の後のこの台詞が大きくなった風間が持った「腹黒さ」を上手く表現している。
 それは電話の相手の女性を完全に見下しているであろう口調、「顔も性格も年収も全て優秀」が本当は自分の事だと言わんばかりの態度、これらが上手く演じられているのだ。そしてその最後の高笑いは自分が「勝ち組」にいて、電話の相手であるモテない女性を使う側にあるという彼の「立場」が上手く出ている。この台詞でこの「大人の風間」が悪役チームで増蔵のすぐ下の地位にいることが明確になる。
 この台詞は、やはり風間が悪役側に付いた「夕陽のカスカベボーイズ」のこの台詞と同じ効果がある。しんのすけを本気で殴るようなショッキングなシーンは無いが、本作での彼の「立場」が明確になり見ている者の不安を煽る効果があるのだ。
名場面 タイムマシン 名場面度
★★★★
 塔の最上部についたしんのすけとタミコ。しんのすけが「オラがいるの? どこ?」と問うが、タミコは「あれから時間も経っているし、連れ去られたかも」と答える。続いて「わざわざ連れ去られた後に戻ってこなくても、連れ去られるちょっと前に戻って来れば良かったんじゃないの?」としんのすけがもっともな疑問を呈すると、タミコは「それが出来ればね…」と返してしんのすけに「タイムマシン」を見せる。そのタイムマシンは「むかし」「いま」「みらい」と書かれたボタンがひとつずつついただけの簡単な構造、「わかりやすーい」としんのすけが言うがタミコは「適当って言うのよ」と呆れる。
 実はこのシーン、本作品の中で私が最もズッこけたシーンだ。タミコがマイクのような形のタイムマシンを使用していたのは画面に散々出ていて、そのシーンを見ながらそのタイムマシンの構造や操作法に思いを巡らせていたものだ。だがここでのしんのすけのツッコミで「言うことはごもっとも」と私ですら思い、対してタミコの返答はそれが不可能であることを示唆している。私のような視聴者はタイムマシンの構造や操作についての興味がさらに盛り上がったところで、見せられたのは超シンプルなタイムマシンである。「むかし」「いま」「みらい」の3つのボタンだけでどーやって時間移動しろって言うんだ?と突っ込むのを忘れて、マジでズッこけた。
 こんなシンプルなタイムマシンは、どんなSFにも出ていなかったと思う。何年前に移動するとか、時間移動先の何処へ行くかなんて操作は一切無しだ。タイムマシンの詳細を見たい人を盛り上げておいて、瞬時に落とすというギャグとして完成されていて、私のような視点で物語を見ている人は皆ズッこけたであろう。
 このシーンは本作のギャグシーンとしては、最も印象に残った。
研究 ・タミコが持っているタイムマシン
 今回、タイムマシンの構造がハッキリする。名場面欄で語った通り、マイク型の物体の側面に「むかし」「いま」「みらい」という3つのボタンが付いているだけというシンプルな構造だ。ここではこれをギャグと捉えず、このタイムマシンでどのようにタイムスリップするかを考えてみたい。
 これまでの劇中でのタイムマシンの使用はこうだ。タミコがこのマイク型のタイムマシンを握り、ボタンを押すと光に包まれタイムスリップする。誰にでも使えそうな簡単な時間旅行であるように描かれている。
 まず冒頭シーンでは、大人しんのすけによって投げられたこのタイムマシンをタミコが受け取ると、タミコはそのまま「むかし」というボタンを押して過去へタイムスリップしたと考えられる。そしてタミコとしんのすけや「かすかべ防衛隊」が出会った公園シーンでは、タミコはしんのすけの手を繋いで「みらい」というボタンを押したと考えられる。
 恐らくこのタイムマシンは、「むかし」ボタンを押せば一定時間過去へ、「みらい」ボタンを押せば一定時間未来へ行くというシンプルな構造なのだろう。なんだ外観も使い方もシステムも単純だから、簡単に説明が出来でしまった……って、時間旅行には大きな問題があるだってば。詳しくは「ドラえもん(劇場版)のび太の恐竜」のこの研究欄を見て欲しい。
 詳細は省くが、タイムマシンで時間移動する以上は同時に宇宙規模で正確な移動が出来る「瞬間移動」をしなければ、時間移動した人はその瞬間に宇宙空間に放り出されることになる。つまりこのタイムマシンには、そのような瞬間移動機能も備わっているということだ。そして時間移動と同時に、地球や太陽や銀河系の公転活動によって移動する地球を追尾し、地球上の同じ場所に着くようになっていると考えられる。
 あとはこの「むかし」ボタンや「みらい」ボタンでどれくらい時間移動出来るかだ。本作で出てくる未来キャラを見ていると、しんのすけや「かすかべ防衛隊」は20代半ばの青年として描かれているのできっかり20年と考えて良いだろう。つまり「むかし」ボタンで20年過去へ、「みらい」ボタンで20年未来の地球上の同じ場所に時間移動出来るのだ。これで未来世界の登場人物の年齢も確定だ、しんのすけや「かすかべ防衛隊」は25歳、ひろしは55歳、みさえは49歳、ひまわりは20歳だ。
…って盛り上がるのはよいけど、このタイムマシンにあるもう一つのボタンである「いま」ボタンは何に使うのだろう? よく考えたら「むかし」ボタンと「みらい」ボタンで事が足りてしまうぞ。これは「よく考えれば必要のないボタンが付いている」というギャグなのだろうか…?

しんのすけとタミコは金有電機が雇った「花嫁(希望)軍団」という集団に追われてスラム街へと逃げ込む。一方「かすかべ防衛隊」は、未来の自分を見て落ち込んでいるマサオを慰めていた。そして逃亡するしんのすけとタミコはそんな「かすかべ防衛隊」と合流する。
名台詞 「そうね、たしかにしんのすけさんはおバカでお下品。ちゃらんぽらんで、ルーズで、グダグダで、頼りにならなくて、適当でどうしようもなくて、いいとこなんて殆ど無い人。だけど…だけど、一緒にいてあんなに楽しい人はいないの。そうよ、君たちだってしんちゃんと一緒だと楽しいでしょ? 嫌な事があっても、一緒に遊んでいると明るい気持ちになるでしょ?」
(タミコ)
名台詞度
★★★★
 金有電機がタミコ捕獲のために雇った「花嫁(希望)軍団」の追跡を何とか振り切った一同だが、「かすかべ防衛隊」の面々は「変な人に変なところに連れてこられ、こんな人に追いかけられた」としんのすけに詰め寄る。それを聞いたタミコは「その最初の変な人って私のこと?」と問うとしんのすけも含めた一同は頷く。タミコは「私はしんのすけさんのお嫁さん」と強くいうが、「それがそもそも一番変」「しんちゃんの何処がいいのか?」「そう、それ」と問われる。しんのすけが「顔ですかな?」と言うのはお約束。タミコはしんのすけとの出来事を語ってのろけるが、全て「おねいさん目当て」「居眠りしていただけ」と突っ込まれ、「客観的に見るとダメ男に引っかかるダメ女って感じ」と結論づけられる。これにしんのすけが「タミさん負けるな! 頑張れ頑張れタミさん!」と尻出し踊りで応援するが、これに対してタミコが語る台詞がこれだ。
 いよいよタミコが「しんのすけの何処に惚れたか」を明確にする。それはタミコのキャラクター性を上手く利用しての、しんのすけの「良いところ」だ。20年掛けて成長した「野原しんのすけ」というキャラクターがどんな「良さ」を持っているか、これを語ることがタミコがしんのすけを選んだ理由となる。
 そしてこの台詞はタミコというキャラクターがどれだけしんのすけに惚れているかという「本気度」も上手く再現している。この台詞で彼女が語るしんのすけの「良いところ」の前に、しんのすけの「欠点」を先に語っている点だ。この欠点や短所をキチンと理解し、これを認めた上で彼女が「好きな男の良いところ」を語るから、この台詞を聞いた人に「本気度」が伝わる。そういう意味ではとても印象的な台詞だ。
 そして劇中でも、「しんのすけに結婚相手がいる」という事実に懐疑的だった「かすかべ防衛隊」メンバーを納得させ物語を進行させるという重要な役割を持っている。このような物語上の役割がハッキリしている台詞だからこそ、タミコの「本気度」が問題となるのだ。
名場面 ふたばようち園 名場面度
★★★
 未来の自分の姿を見て落ち込むマサオを、「かすかべ防衛隊」メンバーが慰める。「人生山あり谷ありで、今が谷なんだ」「これ以上悪くなりようはない」と風間とネネが言うと、マサオは立ち上がって「みんなだってどうなっているか解らないぞ!」と訴える。ネネは「やーね、私は大丈夫。きっと私は広いお庭で、たーくさんの子供達に囲まれているのよ!」と目を輝かせながら言うが、次のシーンで出てきたのは「ふたばようち園」。そこにいたのは面倒くさそうに庭の掃除をしながら私用の電話に出る先生の姿だった。園児達が現れその先生を「ネネ先生」と呼んだかと思うと、「今Telってるし」と怒鳴り返して園児達を泣かせる。その様子を、ようち園の柵にしがみついて顔をひくつかせながら青ざめた顔で見るネネ。「まぁ、広い庭だし」「子供達に囲まれてるし」「物は考えよう」と風間・マサオ・ボーちゃんが語ると、ネネはがっくりと力が抜ける。
 マサオ、風間に続いて、今度はネネの未来の姿がでてきた。もちろんマサオ・風間と続いたところでネネがどんなことになっているのか、見ている者の注目点であっただろう。マサオの例に漏れずその姿は「夢が実現している姿でない」事は誰もが想像は付く、しかもネネは普段から自分を必要以上に美化し、「リアルおままごと」などで大人の世界を再現するキャラだからこそ、そんなものとは違う世界にいる「大人のネネ」を誰もが想像することだろう。
 そしてその結果は、見ている者の大方の予想通りだから笑える。芸能デビューとかセレブ婚はともかく、彼女が普段夢見ている幸せな世界とは全く違う、面倒くさそうに今日を生きている女性の姿だ。大人ネネ自身も「何処でどう道を誤ったのか…」と悩んでいる事まで想像出来るその光景は、ネネには悪いが多くの人の笑いを誘ったと思う。
 しかし、ようち園の先生になれるということは、ネネはその関係の勉強をしたって事なんだろうな。悪い人生ではないと思うけど
研究 ・ネオトキオ3
 前々回部分ではネオトキオの位置や、街の外周にスラム街がある理由などを考えて見た。次に考えたいのはネオトキオの「街」についてである。
 この都会は陸地から切り離された島のような構造になっていることは、劇中のあらゆるシーンから想像可能だ。だが橋が壊されていたりして、スラム街側からだとなかなか街に入れそうもないように出来ているようだ。
 恐らく、これはネオトキオという街が離れ小島になっていることと関連していると思われる。限られた土地に都会を持ってきたため、都市に入れる人口を制限せざるを得ないのだろう。こうしてネオトキオ自体が過密都市になるのは防いだが、周囲が過密してスラム化してしまったというのが正しい解釈だろう。ネオトキオ都市内部は計画的な都市計画に沿った計画的な街となったが、その外周はそうでなくなってしまった。結果ネオトキオへの人口流入を防ぐために道路橋などの一部を寸断したのだと考えられる。物語が進めばスラム街の住民もネオトキオの街に出入りする事自体制限されていない事は分かるから、人種差別的な物は無くあくまでも適度に不便にすることで人口増加を防ぐ手段として道路を寸断したのだろう。
 この「島」でひとつの自治体を作っていると考えるのが自然だろう。大きさは恐らく出はあるが、埼玉県越谷市のほぼ全て、草加市の北部と春日部市の南部といったところだ。これだけの土地があれば、市域内での移動が発生するために鉄道が存在するのも頷ける。走っている電車はどう見ても昔懐かしい地下鉄丸ノ内線、営団地下鉄500系電車だ。
 この街が未来世界の「日本の首都」と考えている理由は、この街に暮らす金有増蔵に総理大臣が面会するという設定があることだ。総理大臣が一企業の社長に会うとは言え、それを理由に簡単に遠出したりしないだろう。つまり首相が住んでいる官邸はこのネオトキオの中にあると考えるのが妥当だ。だからネオトキオは日本の首都、恐らく皇居もあって皇族方もここに住んでいるのだろう。

…しんのすけが一度は「花嫁(希望)軍団」に捕まるものの、何とか逃げ出して一行は海辺までやってきた。
名台詞 「チョコビは美味いなぁ。一緒にチョコビを食べられる、小さいけれど確かな幸せ。なっ。…じゃあチョコビ代、一億万円ね。ローンも可。」
(大人しんのすけ)
名台詞度
★★★★
 「花嫁(希望)軍団」の追跡を振り切って海岸まで来たしんのすけとタミコ。ここでタミコがしんのすけに「守ってくれてありがとう」と言うと、「お助け料いちおくまんえん、ローンも可」と言いながらしんのすけは歩き去る。その後ろ姿を見てタミコはある日のことを思い出していた。父に「価値がない」「邪魔でしかない」と罵られた事を悩んでいたタミコに、大人のしんのすけがチョコビを差し出して語ったこの台詞だ。
 大人のしんのすけ言い事言うなぁ、と感心した台詞である。恋人と味わうささやかな幸せ、自分に愛情を注がない家族に罵られた事実とどっちがよいかは言うまでも無いだろう。そのささやかな幸せを大人のしんのすけはキチンと知っていて、その大切さを自然かつ印象的に恋人に伝える。
 そしてその印象的な台詞を、照れ隠しにギャグとして流す点はしんのすけと同じであり、彼の良いところでもあろう。これをタミコは「優しいけど素直でない」と評するが、裏を返せば優しいだけの人間より信用出来るかも知れない。優しさや格好良さというものは常に「照れ」を生じるものであり、その「照れ」を自覚し認識しているからこそ「照れ隠し」をする。この台詞からは照れ屋さんのそんな行動理由まで見えてくる。
 しかし、「お助け料いちおくまんえん」は大人になっても言い続けるのか、こいつ。それはそれでいいんだけど…そのおかげでこの「おとなのしんのすけ」も臼井儀人キャラの一人として完成したと思う。色んな意味で印象に残った台詞だ。
名場面 タミコが消える 名場面度
★★★
 名台詞シーンの直後、海を背景に立つタミコの後の水面から、巨大なロボットが姿を現す。と思うとしんのすけ一人のシーンとなり、彼が「そうだ…タミさん、未来チョコビ!」と叫びながら振り返る。だがそこにはタミコの姿は無かった。しんのすけは「タミさん!」と声を上げて捜すが、声も聞こえない。そこに「かすかべ防衛隊」の一行が追い付き、「あーよかった、ここにいたんだ」と声を上げる。だがネネが「あれ、タミコさんは?」と問うが、しんのすけは何も答えられない。
 このシーンは私が解説するより、本来ならDVDを買うなり借りるなりして皆さんに見て頂きたいシーンだ。突然タミコが姿を消したその喪失感というのを上手く描いている。それに対するしんのすけの驚きようも良い。今まで自分に優しい言葉を掛けてくれていたおねいさんが突如姿を消し、驚きのあまり声も出ないというのを上手く再現している。同時にそれは、自分達が元いた世界に戻れないという焦りも生んだはずだ。
 だがこのシーンは最初に言った、文章では説明が困難な「タミコが消えた」という喪失感の再現がとても良い点に尽きる。私の文章力でそれを紹介出来ず、申し訳ない。
研究 ・ 
 

…タミコが突如姿を消したことで、しんのすけと「かすかべ防衛隊」の一行は再びスラム街を彷徨うことになる。空腹でイライラが募り言い合いまで始める始末であるが、ボーちゃんが廃公園の水道を発見して皆で水を飲もうとする。
名台詞 「アン、ワン、キャン、アン、クン、キュン、アン、オン、アン、アン…(以下省略)」
(シロたち)
名台詞度
★★★
 名台詞欄を受けて、未来の自宅に戻ったしんのすけは飼い犬であるシロと再会する。ところがシロは1匹ではなく、何匹にも増えていた。直後のひろしの台詞によると、シロ太、シロ吉、シロ子、シロ美、シロ太郎、シロ次郎、シロ丸、シローネ、シローン、シロットの10匹だが、画面をよく見ると最大12匹の「シロ」がいることになる。しかも出てくるシーンによって「シロ」の数が11匹になったり12匹になったりしているなんて突っ込んではいけない。
 何よりもここで驚かされるのは、この最大12匹の「シロ」を風間役の真柴摩利さん一人が演じていることだ。一人13役なんて…というより、ここで出てくる10匹の「シロ」を瞬時に演じ分けている辺りなんか、純粋にすごいなーと思った。さすがにこのシーンに風間を出せとは、誰も思わないであろう。
名場面 帰宅 名場面度
★★★
 廃公園に水道を見つけた一行は、水を飲もうと公園の中へ入って行く。ところが水道が止まっていてあえなく失敗…と思ったら、その廃公園の遊具に見覚えがあることにしんのすけが気付く。ブランコ、滑り台、山…それらは全てタミコと出会いタイムスリップする直前に皆で遊んでいたものだ。そして画面が引くと視聴者もそれが「劇場版クレヨンしんちゃん」でお馴染みの「川のそば公園」であることに気付くだろう。これに気付いたしんのすけは走り出す、「父ちゃん、母ちゃん、ひまわり、シロ…」と叫びながら。だが見慣れた街も夜の闇では幼児が歩き慣れているはずもなく、しんのすけは道に迷う。途方に暮れたしんのすけの耳に入ってきたのは、タイムスリップ直前に父ちゃんが聴いていた昔のヒット曲、小泉今日子の「夜明けのMEW」であった。そのメロディが聞こえる方向に向かって歩くと、しんのすけはついに自宅を発見する。多少荒れているように見えるが健在のようだ。「夜明けのMEW」のメロディも、明らかにこの家から聞こえていた。
 しんのすけがようやく「自分の居場所」に気付いたとも言えるシーンだ。一行が辿り付いた廃公園が自分がよく知る風景であることに気付き、後は本能的に家路についたと考えるのが自然だろう。同時にタミコによって未来の自分がいると言うことは、この世界には未来の家族やペットがいることも幼いながらに理解していて、その家族に会いたいという気持ちが上手く演じられている。
 それだけでない、しんのすけに素直に自宅に着かせずに一度道に迷わせるのは効果があると思う。その時にはしんのすけの姿を照らす街灯の演出がよい、まるでスポットライトのようにしんのすけを照らしていた街灯は彼の心細さと「本来の世界ではない場所」に来たという状況をうまく再現していると思う。
 そして冒頭で伏線として提示した小泉今日子の「夜明けのMEW」が、しんのすけを目覚めさせ、同時に親子再会シーンの鍵となるのは上手くできている。
 この3つの手順が無理なく自然に、かつ大胆に描かれているからこそこのしんのすけ帰宅シーンは見ていて面白い。もちろん「彼は道に迷って家に帰れない」という心配も考えられるが、実際に見ると「しんのすけは絶対に自宅を見つける」と感じさせるように作ってあるからだ。
感想 ・シロたち
 名台詞欄でも語ったように、ここではしんのすけの飼い犬「シロ」の未来の姿が出てくる。もちろんシロが小型犬であることを考えれば20年も生きているとは考えられず、このシーンに出てくるシロは全てシロの二代目や三代目と考えるべきであろう。
 名前も名台詞欄に書いた通り、ひろしは出てきた最大12匹のうち10匹の名を呼んでいる。その名前の最後の方はやけくそに聞こえたのは気のせいではないと思うが…そうでなくて、これらシロの子孫がみんな同じ外観というのはちょっと驚きだろう。犬の子供がここまで量産型のように同じようになるのか?
 あるとすれば、シロが同種で同じ毛色の雌と交尾して子孫を増やした可能性だろう。だがこの場合、隔世遺伝で子犬に父犬か母犬の特徴が出る可能性がある。それが「同種で同じ毛色」でなければ違う種類が混じってしまいそうだが…。
 シロは現代からさほど遠くない時間に子供を作っていると考えられるが、問題は何処で雌犬と知り合い交尾したかという点だ。ひとつ考えられるのは、しんのすけかひまわりが同種で同じ毛色の雌犬を拾ってきた可能性だ。何だかんだでこれを野原家で飼うことになり、その時にみさえがケチって犬小屋を増やさなければ…犬小屋の表札が「シロたち」となったのはこの時であろう。狭い犬小屋に同種の雄犬と雌犬が暮らせば…そりゃ犬同志とはいえ、あんな事やこんな事になるのは時間の問題だろう。
 普通の家庭なら、こうして出来た子犬は近所の犬を飼いたいという人に譲渡することになるであろうが、野原家は何故かこの子犬たちを全部飼ったと考えられる。小型犬の寿命が15年程度であることを考えれば、前述のように最初のシロが生きているとは考えられず、ここで出てきたのはシロの子供の世代が中心だろう。シロの最初の子供が孫の代になっているとも考えられ、ひょっとするとひろしが最後の方で名前を呼んだカタカナだけの名前(シローネ、シローン、シロット)の3匹が、孫の代なのかも知れない。
 いずれにしても最大の謎は、最大12匹の「シロ」があの犬小屋にどうやって入っていたかだ。
(本欄では「シロ」の数を「最大12匹」と表現しましたが、これは短い登場シーンの中で場面により描かれている数が11匹だったり12匹だったりして、数を特定することが出来なかったからです)

…空腹で困っていた「かすかべ防衛隊」一行は、しんのすけの両親に食事させてくれと懇願。一行は未来の野原家に泊めてもらうこととなる。一方、タミコは増蔵に捕らえられていた。
名台詞 「ハッ! 一人前の口をきくのは、お前が利益を出して、金有電機を儲けさせてからだ。(中略)価値がない物、役に立たない物を片付けるとき、どうすればいいか解るか? 昨今、捨てるだけでも手数料を取られるからな。リサイクルだよ、リサイクル。」
(増蔵)
名台詞度
★★★
 タミコを捕らえた増蔵は、「お前は出来損ないだ」とタミコを罵る。「このままだと、お前は金有電機に最大の負債を出す」と娘に突き付ける増蔵に、タミコは「自分は金有電機の製品ではない、人間です」と返す。これに父である増蔵が返した台詞が、この台詞である。
 この台詞は劇中で見ると、タミコに同情していることもあって増蔵が娘すらも金儲けの道具にしか考えない「冷酷非道な父」と見えることだろう。だがこの台詞の内容をよく見ると、言っている事はもっともであり増蔵の気持ちはともかく、言い分は理解出来る点がある。
 例えばこの台詞の前半は、かみ砕いて言えば、ガキの癖に大口を叩くなということだ。世間も社会も解ってない奴が一人前の口をきくことへの腹立たしさがキチンと込められていて、増蔵を演じる内海賢二さんもそのような演技をしていることは聞いていてわかる。タミコがどんな仕事で生計を立てているか知らないが、もし親の脛をかじって生活しているならタミコは利益を出していないのは確かだ(実はこれ、金有電機が中心で動いている劇中世界ではあり得る話だ)。
 そしてこの台詞の後半は、言い方はともかくこのままでは一人前になれないのなら(と増蔵が思っている)、「利益」が出るように使おうという親心が「悪い方」に出た結果である。そういう親心で成人している子供の仕事を世話したり、結婚相手を捜したるする親の考えを究極に突き詰めていけば、この台詞に行くのだ。この台詞の後半を言う増蔵の演技は、「バカ息子に呆れる親」のその口調なのはそこまで考えられていると思う。
 内容的には正しいこの台詞だが、言い方はどうかというのは劇中以外の場所で何度読み返しても変わらない上手い台詞だ。つまりこうして「正論だがおかしい」という台詞を完成させ、増蔵に「悪役」としての味付けを完成したという意味でとても印象的だ。またこの台詞を演じた内海賢二さんも、この台詞に「正論だがおかしい」という点を上手く叩き込んだと思う。前半では増蔵の最も印象的な台詞だ。
名場面 結婚命令 名場面度
★★★
 名台詞欄のように増蔵がタミコを叱責していると、部屋に大人の風間が入って来る。「お呼びでしょうか?」と入室した風間に、増蔵は「全従業員中、最もコストパフォーマンスが良いのはお前だ」「そこで特別ボーナスをやる」とした上でタミコとの結婚を命じる。驚いて目を見合わせるタミコと風間…と思うとタミコは立ち上がり「嫌です」と言葉を残して部屋が出て行こうとする。だが「野原しんのすけ」と増蔵が声を上げるとタミコは立ち止まる、「言ったはずだぞ、大変な事になると」「あれは私が大切に保管してある、しかしどうなるかはお前の選択次第だ」と増蔵が続ける。怒りの表情のタミコ、「あの、社長、僕は?」と声を上げる風間を「良かったな、これでお前も次期社長だ」と遮る増蔵。風間も思わず困惑の表情を浮かべる。その困惑の風間の顔が、そのまま5歳の風間の顔にオーバーラップして次のシーンへと流れる。
 名台詞の「リサイクル」の答えがこれだ。増蔵は「利益を出さない娘」を「利益が出る娘」に返るために考え出した策は、成績優秀で跡継ぎを任せられそうな社員と結婚することである。これにより増蔵は優秀な跡取りを息子として迎える事が出来、恐らく世襲制となっているであろう金有電機の将来は安泰というわけだ。
 だが当人達がこれに納得するわけはない。タミコは当然のように拒否の返答をするが、これに対して増蔵は大人しんのすけを使った脅迫に出る。このやり方はいくら何でも酷すぎると、見ている人々はタミコと一緒に怒り顔になったことだろう。そして風間はそれらの感情以前の問題として困惑する。彼にとっては悪い話ではないはずだが、話が急すぎて何が起きているのか解らないという困り方であろう。彼は本来「考えさせて欲しい」などの返事をしたかったはずであるが、増蔵がこれを許さないのは風間の言葉を遮ったことでわかるだろう。
 このシーンは何よりも、増蔵が結婚を命じたときのタミコと風間の動きや描写が良い。これらに二人の「怒り」「困惑」という思いや気持ちを上手く再現していて、これを通じて増蔵の自分勝手ぶりが浮き上がってくる。同時に風間の足下では掃除ロボか裾に食いついて離れようとせず、これを何とかしようと足を動かす彼の素振りも面白い。
 こうして物語はいよいよ、しんのすけらが増蔵からタミコと、大人しんのすけを奪還する展開へと移り変わって行くのだ。
感想 ・ネオトキオと金有電機
 今回部分で、ひろしが未来世界で何が起きたかを解説する。この台詞を抜粋しよう。

「隕石の衝突で世界は変わっちまった、春日部もな。一日中真っ暗闇、薄ら寒くてな…。もう一度這い上がるためには、金有電機の力が必要だった。しかし、社長の金有増蔵は自分に従わない者、自分の儲けにならない者は、次々取りつぶしていった。父ちゃんが勤めていた双葉商事もな…。」

 また、この台詞の前にはひろしが「ネオトキオを仕切っているのは金有増蔵」と言ったりしている。この辺りからネオトキオと金有電機の関係を考察してみたい。
 まず金有電機が何を扱っている会社かだ。劇中ではこの会社は家電製造・販売を扱っているように見える。だが隕石衝突による「衝突の冬」が起きている事、それとこのひろしの解説から考えると、金有電機という会社はそれだけではないと考えられる。発電や送電設備などの重電関係なども幅広く扱う総合電機産業であることは間違いないだろう。
 この「衝突の冬」に金有電機がどう対処したか、答えは簡単で彼らは太陽光が遮られている状態で効率的な発電システムを作り上げることに成功したのだろう。隕石衝突でCO2濃度はかなり上がっているはずだ、つまり火力発電などで石油を燃やすことは許されないだろう。となると再生可能エネルギーだが、太陽光は言うまでも無く発電に使えないし、水力は天変地異でダムが破壊されたりしてアウトだろう。風力は海辺が壊滅状態であれば多くの発電所が被災して使えない。こういう時の原発だが、これも海辺にあることが多く隕石衝突の津波と天変地異で破壊されたことだろう。
 だから効率的な発電システムをいち早く作り、それを特許で囲ってしまえばこの世界の主導権を握れる。これに成功したのが金有電機ということだ。どんな発電システムを作ったのかは解らないが、この世界では昼も夜も同じ暗さなので電力使用量は現代と比較にならないほどおおきいはず。
 その暗くて寒い世界は、現代の「石油」と同じ地位に「電力」を追いやったと思う。つまり「電力」を制する者は世界を制するというわけだ。そんな世界で指折りの大企業の本社があるネオトキオは、その世界的大企業金有電機が落として行く税金で潤っているはずだ。ネオトキオだけでない、日本全体がそうであるはず。するとネオトキオの地番が「金有○丁目」だったりすることも頷けるし、増蔵に総理大臣が金をせびりにくるのも頷ける。増蔵はネオトキオどころか、この時代の日本…いや世界を牛耳っているのだ。

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