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…サルたちに捕らわれたひろしとみさえは、船内での強制労働で仕事に失敗して投獄される。その投獄された牢はロッカールームのロッカーだった。そのロッカールームに突然しんのすけとひまわりが現れる。
名台詞 「いたた、何処連れて行く…ざけんな、ちくしょー!」
(みさえ)
名台詞度
★★
 これは仕事に失敗し、サルたちに捕らえられて連れて行かれるみさえの叫びである。
 この手の子供向けのアニメとして描かれる母親とは全く違う叫びだ。こういうシーンでの女性の叫びと言えば、普通は単なる絶叫で「きゃーっ」というのが一般的だろう。だがここのみさえはただ「きゃーっ」と叫ぶだけではない。「ざけんな、ちくしょー!」と叫びながら連れて行かれる。
 それは野原みさえというキャラクターらしいところである。元はと言えば自分の失敗が原因なのだが、それを棚に上げて感情にまかせて怒る「現代女性の一面」をキチンと描いている。こんな時に悲鳴を上げつつも「私が失敗したんだから…」なんて落ち着いて反省しているのでは、まったくリアリティがなかっただろう。そんな自分の失敗よりも連れて行かれる恐怖と、その理不尽に対する怒り、それが上回って当然のシーンだからこそ、こんな面が描かれなければならないのだ。
 そしてこの一言が入ることで、サルたちの理不尽さが引き立つし、ひろしを初めとする他の捕らえられて投獄された人たちの「怒り」も上手く表現されている。その代表で怒るのがみさえというのは、そのキャラクター性を考えれば適役かも知れない。変にお淑やかで大人しい女性にこれをやらせるよりも、今どきの女性を等身大に描いているみさえだからこその台詞なのだ。
名場面 「ケツだけ歩き」大行進 名場面度
★★★★★
 しんのすけがロッカーに閉じ込められていたひろしとみさえを助けると、他のロッカーからも助けを求める声が聞こえた。しんのすけはロッカーに閉じ込められていたクルーズ船船長を初めとする船員や客など6人を助ける。だがロッカーに閉じ込められていた人達は手足を拘束され動くことが出来ず、このままでは捕まってしまう。そこでしんのすけが「ケツだけ歩き」での逃走を提案すると船長がこれに同意。彼らは「ケツだけ歩き」で船内の移動を開始する。この光景を見たサルたちは彼らを捕まえるのでなく恐怖に怯えて逃げ出したことで、ひろしやみさえはこの方法で歩くことがサルたちの弱点と気付く。彼らは別のロッカールームでさらに閉じ込められていた人々を救出し、人数を増やして「ケツだけ歩き」で船内を行進。サルたちは恐怖で混乱に陥り、強制労働させられていた人々もそのドサクサで逃亡に成功、ついには「アニメ制作部」を占拠してサルたちに勝利する。
 まずこのシーンは、しんのすけに先導された多くの人々が、しんのすけにしか出来ないであろう「ケツだけ歩き」で大行進するのが面白い。彼らはあり得ない速度で歩くだけでなく、整然と行列を組むことでその描画シーンに迫力が付いて、「ただ歩いているだけ」のシーンのはずなのに面白いシーンとなった。同時にこの描写の迫力は、そのまま「この行列を見せつけられることでサルたちが恐怖する」という敵の弱点として設定した点に大きな説得力をもたらせたのも言うまでもない。サルたちの反応に説得力を持たせるためには、この大行進でどれだけ迫力を出せるかは重大な問題だ。
 そしてもうひとつは、このシーンの存在が「しんのすけを明確に主人公に据える」という本作のテーマの中心にあることだ。「しんのすけが大人達を救出する」→「しんのすけが逃亡方法を提案してそれを実行する」→「しんのすけが救出した大人達を先導する」という要素でもって、このシーンはしんのすけが主人公として上手く機能している。救出された大人達は全て手足を拘束され、しんのすけだけが拘束にないという展開は、自然にしんのすけをこのシーンの中心に据えることが出来る上手い設定だと感心した。
研究 ・難破船2
 ここでは前回に引き続き、パラダイスキングとサルたちがアジトにしている難破船について考えたい。前回は船そのものについての考察だったが、ここでは前回の考察通りこの船が「多目的貨物船」であることを前提に、パラダイスキングのアジトとしてのこの船を考えたい。次の画像は話を解りやすくするため、この難破船をキャプチャーした画像で、画像にマウスポインタを合わせると船内構造の説明が出てくる。



 劇中の描写から確認できるパラダイスキングのアジトとしての設備は、以下の通りである。

・パラダイスキングと郷剛太郎が対面した「宮殿」
・サルたちが集まって食事をしていた「レストラン」
・パラダイスキングの功績を称えるアニメを作る「アニメ制作部」
・パラダイスキングの巨像
・ひろしやみさえが閉じ込められたロッカーがある「ろうや(ロッカールーム)」
・パラダイスキングとアクション仮面が戦う「コロシアム」

 まずパラダイスキングが住む「宮殿」であるが、彼が用を足すために船橋から出てきたことは上図で白で示した「船橋部分」の最上階、まさに船橋と考えて良いだろう。この船橋とその下の2フロアまでが「宮殿」スペースと考えられる。そして下の残りの船橋部分が「レストラン」を含むサルたちの居住スペースで蟻、この中に2箇所ほど「ろうや(ロッカールーム)」があると考えて良い。この船橋部分は、本来は船橋の他に通信設備や船員達の居住スペースや食堂があったはずで、パラダイスキングがこれらの設備を流用して「宮殿」や「ろうや」やサルたちの居住スペースに充てたと考えるのは自然だ。
 そして残りの施設は全て船倉にあるはずだ。この船が多目的貨物船であるとすれば、船倉は各クレーン間と、最前部のクレーンと船首部分の間、最後尾のクレーンと船橋部分の間、計5箇所となる。上図では便宜上、船首から順に番号を振った。問題は残りの施設がどの船倉に当たるかだ。
 まず「アニメ制作部」「巨像」がそれぞれ「船倉4」と「船倉5」にあると考えられる。元々この仕事はサルたちがやっていたと考えられ、作業の効率から考えるとサルたちの居住スペースと隣接している方が便利だろう。同時に人間達を捕らえて働かせる場合も、この場所ならサルたちだけでなくパラダイスキングの目も届きやすいので、逃亡防止などの面で有利なはずだ。「巨像」は船倉ひとつをそのまま使い、「アニメ制作部」は船倉の中に多層建てのフロアを設置することで設置したのだろう。
 そして「コロシアム」は、「船倉3」にあると考えられる。これは他の施設を当てはめた上での消去法的な推測もあるが、これは滅多にない外来者がない限り使わない施設だから「宮殿」からある程度遠くても良い。だが観客として、パラダイスキングの手下としてサルたちを動員するためには、あまり前方過ぎるのも問題で、「船倉3」がそのベストポジションであると推測される。
 それより前、「船倉1」と「船倉2」のうちひとつは資材置き場などに必要だ。パラダイスキングも手ぶらでは生活出来ないし、サルたちも含めて食糧を一時貯蓄するスペースが必要だ。また近代的な設備には故障に備えた予備パーツも必要だ。「船倉1」と「船倉2」の使っていない方は、船を改造したときに発生した際に発生した不要品置き場に使用しているはずだ。
 船内には電気が通っていることは確実だ。これは上のキャプ画もみればおわかり頂けるが、クレーンや船橋などの各所に付けられた風車が風力発電機になっていると考えられる。ここで起こした電気をバッテリーなどに一時的に貯め、このバッテリーを電源に船内各所に送られていると考えられる。そのための受電・変電設備やバッテリーは、赤枠で示したかつてこの船の動力があった機関室にあると見て良いだろう。そうすれば電源線を配置するのに、元からあるパイプなどを利用できるからだ。
 「船倉1」の前にもスペースがあるが、ここは普通の船なら錨を繋ぐチェーンが格納されているスペースだ。もちろんこの船は錨が収容されたままなのでこのスペースはチェーンで一杯、使えるスペースがない。
 船内の構造はこんな感じだと推測したがいかがだろう? 乗り物好きの目線で見ると、この物語は面白いんだよなー。

…ひろしやみさえを初めとする、クルーズ船の大人達はサルたち拘束から逃れ、「アニメ制作部」を占拠したことで勝利を得た。一方、コロシアムではアクション仮面とパラダイスキングの決闘が始まる。
名台詞 「あー、ほつれちゃってるよ。てめー、気をつけろ。このヘアースタイルをなんだと思っていやがる。俺って言うクールでファンキーな男のシンボルなんだよ。俺って言うのはキング・オブ・ヒーロー、王の中の王。パラダイスキングだ。(その後雄叫び)」
(パラダイスキング)
名台詞度
★★★
 名場面欄の戦いの続きだが、アクション仮面はパラダイスキングに振るったパンチを止められると、「そろそろ本気出そうぜ」と呟くパラダイスキングの顔面に蹴りを入れる。その蹴りは交わされたが、アクション仮面の脚がパラダイスキング髪を掠めたことで、彼の髪型が乱れる。パラダイスキングが髪型が乱れたのに気を取られた瞬間、アクション仮面は顔面にパンチを決める。次に訪れたのは沈黙、そしてパラダイスキングが隠し持っていた櫛で髪を整えたと思うと、アクション仮面を殴ったり蹴ったりしながらながら語る台詞がこれだ。この台詞を終えたときには、アクション仮面は力尽きてリングの上に倒れている。
 どんな作品でも、たまに「悪役がカッコイイ」と思うシーンや台詞があるだろう。本作ではこの台詞がこれに該当する。自分のシンボルで「強さ」を誇示し、そして突き詰めれば根拠のない自惚れで自分が偉いと思い込む。これだけの要素でこの台詞を文字で読むだけなら、パラダイスキングというのはただのバカでしかない。だが本作でそう見えないのは、劇中で正義のヒーローであり主人公ですら崇拝しているアクション仮面を一度は倒したからこそ、この台詞に説得力が生じて格好良くなってしまう。人間には「ちょっとワルでいたい」という欲望は、人によってその大小の違いはあれど誰にでもあるもので、その欲望を上手く刺激することで一時的に悪役が格好良く見えるようになることで、敵の強大さがさらに強くなり物語が盛り上がる。そんな台詞だ。
名場面 アクション仮面vsパラダイスキング序盤戦 名場面度
★★★
 大量のサルたちを観客に、「かすかべ防衛隊」の面々を人質に迎え、アクション仮面とパラダイスキングの戦いの幕が切って落とされる。パラダイスキングはアクション仮面がびくついた瞬間を見逃さず、積極的に攻撃を仕掛ける。だがその高速攻撃にアクション仮面は避けるので手一杯だ。「所詮スポーツ格闘技、ルール無用のジャングルでの戦いに比べたらぬるい」「俺が本当のヒーローだ、てめえみたいなガキ相手のインチキヒーローとは訳が違うぜ!」と批判するパラダイスキングに、アクション仮面は我を失ったかのように攻撃を掛けるが全く効いている様子はない。「本当のこと言われて怒ったか?」とアクション仮面を威嚇したパラダイスキングは、アクション仮面がよろけた瞬間を見逃さず、彼を突き倒したと思うと足を持って投げ飛ばす。倒れたアクション仮面に飛び乗ろうとしたパラダイスキングを、ギリギリのところでアクション仮面が避けたところで、名台詞欄シーンとなる。
 このようなヒーローもので、序盤でヒーローが不利な戦いをするのは「おやくそく」という面があるだろう。本作の戦いにおいてもヒーローであるアクション仮面は徹底的に不利な戦いを強いられる。格闘技術は明らかにパラダイスキングの方が上だし、戦いに掛ける意気込み…つまり精神面でもここではパラダイスキングの方が圧倒的に上回っている。その上でパラダイスキングは本来の格闘技だけでなく、精神的にもアクション仮面を追いつめてゆくのだから、視ている者はこの戦いにヒーローが勝てるのかと本気で不安になるだろう。
 もちろんこういうシーンを挟むことで視聴者の不安を煽り、物語を盛り上げるのが最大の目的だ。ヒーローが強くて真っ直ぐ勝つのでは面白くない、ヒーローが敵より少し弱いからこそ「その少し」を乗り越えるために物語が生まれるのが古今東西格闘ものの物語が盛り上がる点だろう。だがここでは「少し」なんてもんじゃない、圧倒的にパラダイスキングの方が強いからさらに盛り上がる。そして続く名台詞欄シーンでは、アクション仮面は一度倒されるから「少し弱い」を乗り越えようとする物語へと繋がっていくのだ。
 もちろん、本作が「クレヨンしんちゃん」である事を考えれば、その「少し弱い」を補強するのはしんのすけであることは誰が視ても想像が付くだろう。でもこの時点ではしんのすけがどうやっても敵いそうな相手ではない、それを徹底的に見せつけることで「結果が分かっていても盛り上がる」ように作るのが難しい点で、この戦いシーンはその意味で重要な役割を持っているのは事実だ。
研究 ・ 
 

…野原家と船の乗客達は、アクション仮面とパラダイスキングが戦っているコロシアムに踏み込む。だがそこにいた大勢のサルたちと、リング上での二人の戦いに驚く。
名台詞 「やだ! オラ、正義の味方のアクション仮面が好きだもん! 正義の味方はカッコイイんだゾ! 強いんだゾ! 悪者なんかに負けないんだゾ! 今はやられてても、絶対最後は勝つゾ! お前みたいなバクハツ頭に、アクション仮面が負けるわけない!」
(しんのすけ)
名台詞度
★★★
 船の乗客達が現れても、アクション仮面が不利な状況は変わらず皆が見ている前で殴られ蹴られる。それをみたしんのすけがアクション仮面の元に駆け寄ると、アクション仮面は「ごめんよ、かっこわるくて…」と浸からなく語るが、ここにパラダイスキングが割り込んで「アクション仮面よりパラダイスキングの方がカッコイイだろ? 俺のファンにならないか?」としんのすけに告げる。そのしんのすけの返答がこれだ。
 しんのすけのアクション仮面への一途な思いが伝わってくる台詞だ。しんのすけにとってアクション仮面は神であり教祖であり、崇拝の対象であるのだがその思いがここに上手く再現されている。しんのすけがアクション仮面が好きな理由は、テレビの中のアクション仮面は必ず悪を倒すことで「強い」ということ、そして人々を守るために戦っているというその「思い」であろう。ここで語られるのは彼が感動したアクション仮面の「強さ」である。
 だからしんのすけはアクション仮面が倒され掛かっていることに戸惑ったり不安を感じたりしているのではない、この状況でも最終的にアクション仮面の勝利を信じている。だがその勝利のために自分の声を役立てたいというところだろう。これは誰でも「誰かのファン」になった経験があれば理解出来る思いだと思う。ファンになった対象はその分野においては完全無欠で、同じ分野において別の物にとって代わられることはないと誰もが信じるはずだ。
 この台詞はそんな「ファン」としてのしんのすけを上手く描いている。そしてこの台詞を引き出すために、劇中劇の「アクション仮面 南海ミレニアムウォーズ」はアクション仮面が不利な戦いを強いられて倒されそうになる直前で止められているのだ。
名場面 がんばれアクション仮面 名場面度
★★
 名台詞欄シーンを受けて、アクション仮面とパラダイスキングの戦いが再開される。だがまだアクション仮面は不利なままだ。ひろしが思わず「ダメだ…」と呟くと、しんのすけが「ダメなんかじゃゾ、おバカ。父ちゃんも母ちゃんもアクション仮面を応援しろ」と叫ぶと、まず野原一家がアクション仮面への声援の声を上げる。その声は徐々に船の乗客達に拡がって次第に大きくなり、彼らはリングサイドへ走ってアクション仮面の応援を始める。この光景にパラダイスキングは「まるでサルだな」と呆れるが、アクション仮面は意を決するように雄叫びを上げる。そして「吠えれば強くなるのかよ!」と叫び返すパラダイスキングは対し、始めて積極的な攻撃を加える。アクション仮面の攻撃をパラダイスキングは器用に交わすが、皆の声援を背に受けたアクション仮面は怯むことはない。そしてパラダイスキングの蹴りを上手く交わすと、そのままパラダイスキングの顔面に回し蹴りを二発喰らわし、さらに胴に一発を入れるとパラダイスキングもダメージを受けて後退する。
 「多くの人々に応援されて強くなる」というのは映画としてはガチなシーンではあるが、そんなガチなシーンがなければ悪役がはびこってしまい盛り上がりも何もなくなってしまうので必要なシーンだ。
 しかし「暴力」で相手に立ち向かうという普通に考えれば世間的に否定的なシーンだ。だが正義の味方はこれほ「暴力」で乗り切らないことには勝つことができず多くの普通の人々を苦しめてしまう。つまり正義の味方の戦いが多くの人を救うという大義名分があり、その大義名分をキチンと誰にでも解るように描かないと説得力が無いのだ。そして美しく描くことで、その大義名分に説得力が備わるのだ。こうしてこの手のシーンでは、こういう格闘モノの物語では「どれだけ美しく描くか」が問題になってくるのだ。
研究 ・サルたち
 この物語では悪役のリーダーであるパラダイスキングの手下として、多くのサルたちが登場する。ではこのサルたちの正体は何かをここで追求しよう。
 ここでこの物語に出てくるサルたちの特徴を書き出してみる。

・体格的な特徴は、手足が長いこと。特に手が長い。
・体長は劇中の大人の体格との比較で、60〜80センチメートル程度と考えられる。
・色は全体に白っぽく、胸元に黒っぽい模様がある。
・顔は丸っこく白い、目から口に掛けて黒くなっている。
・目は丸く顔面中央に寄っている。
・尻は黒く、尻尾はない。

 これらの特徴を持つサルについて調べたところ、ヒットしたのはテナガザルの一種で「シロテナガザル」であった。このサルは主にアジアに生息しており、本作の舞台である南太平洋の島々に近いマレーシアなどにも存在する。テナガザルの仲間でも身体が白いのが特徴だが、褐色や黒の個体も多く存在する。「シロテナガザル」の名前の由来は身体が白いことではなく、白以外の個体では顔の黒い部分を囲うように白い部分があることと、身体の色を問わず手足の先端が白であることだという。
 生態としては、多くの人が持つテナガザルのイメージ通り長い腕を使って木から木へと移動し、樹上の果実や葉や芽、それにそこに生息する昆虫を食べるという。ちなみに劇中の描写とは違い木から降りることは殆ど無く、地上歩行は不得意だが二本脚で歩行することが特徴だ。雌ザルが生む子は1妊娠につき1匹、寿命は野生では25〜30年と言われ、動物園での飼育下では50年以上生きている個体もあるという。大人になると生涯一夫一婦を貫き、家族単位で固定した縄張りを持つという。
 性格的には神経質で攻撃的な点が特徴だ。他のテナガザルや動物が縄張りに近付くと、大声で吠えて相手を威嚇し追い出すべく攻撃をする。また家庭的な性格もあり、子供は夫婦で共同で育てるだけでなく、年上の兄姉が幼い子の世話をすることなども知られている。
 シロテナガザルには天敵がいないとされている。それは樹上に住んでいて降りることが滅多になく、生息域が重なっている肉食動物(トラ)などに襲われることがないからだ。
 ただ残念ながら、このシロテナガザルも環境破壊によって徐々に生息域が狭められているだけでなく、かつては食肉用や愛玩用として乱獲された歴史があり、絶滅危惧種の一つとされている。なのにこの物語に出てくる島には沢山いたなー、人の手による開発が進んでなかったのだろう。でも人間があんな感じに飼い慣らすことは可能なのかな?

…船の乗客達の声援を受けてなんとか形勢逆転するアクション仮面であったが、ここでパラダイスキングはサルたちに声を掛けてリングに「ジャングルジム」を作らせる。すると第二ラウンドの始まりとなるが…。
名台詞 「やえ? やえ? あゆあゆ。わ、のあいたよよのあいあい…だーめー! だーめーーー!」
(ひまわり)
名台詞度
★★★★★
 詳細は名場面欄シーンを見て頂くとして、「ケツだけ歩き」でサルたちを追いつめた大人達は「やっちまおうぜ」とサルたちに仕返しをしようとする。そんな大人達の声を聞いてみさえに抱かれていたひまわりが叫ぶ声がこれだ。この台詞をきっかけに大人達にあった仕返しの空気は瞬時に収まる。
 この作品を追ってきた人はここで大人達がサルに仕返しをしてしまったら物語が進まなくなってしまうことを十分に予測出来るはずだ。だからここでこのムードを抑える何かが必要だと作る側も視る側も思ったはずだ。そこに利用されたのが赤ん坊であるひまわりで、ひまわりが「赤ん坊」である事自体を武器にしてこの場を上手く収める。
 そしてこの台詞には、ひまわりが兄と共にこのサルたちに救われたことが上手く利用されている。「だーめー!」の前の喃語はそこを思い出し、サルたちを助けなきゃならないとひまわりの気持ちが上手く込められ、喃語として完成させている点は感心せざるを得ない、そしてこの台詞を吐くときのひまわりの表情や、吐き終えた後のひまわりの泣き声など「赤ん坊が可愛いと思う大人ごころ」を引き出すのに十分すぎる効果を出している。
 私はこれは、野原ひまわり役としてのこおろぎさとみさんの大演技だと思っている。普段は喃語だけしか喋らないひまわりに、物語の転換を促す大台詞を吐かせるにあたって、「ひまわりは赤ん坊」という設定を崩すことなくうまくこの声を表現しているからだ。そして喃語部分の過去のシーンを振り返るような喃語表現や、その後の泣き声は見事と言わざるを得ない。
名場面 形勢逆転! 名場面度
★★★★★
 戦いの第二ラウンドは、ジャングルジム上を逃げ回って「勝たなきゃ意味がない」とほざくパラダイスキングに、野原一家をはじめとする船の乗客や乗組員達もアクション仮面と共に戦うと宣言する構図となる。するとパラダイスキングはサルたちに船の乗客達を襲うよう命じる。それに対して「いいのか?」とひろしが返した後、船の乗客達が一斉に「ケツだけ歩き」でサルたちを追い回し、そのサルたちの逃げ道をしんのすけがかすかべ防衛隊メンバーと共に塞いだことでサルたちは完全に追いつめられる。恐怖に震えるサルたちに大人達は「このサル共…」「たっぷり礼をしてやるぜ」「覚悟しろよ」「人間様に逆らいやがって」と仕返しをするべく詰め寄る。ここで名台詞シーンを挟むと、サルたちに仕返しをしても意味はないとアクション仮面が語ると人々に拡がっていた仕返しのムードは収まる。「でも、どうするこいつら?」と大人の一人が問うとしんのすけが「オラ、良い考えがあるぞ」と言うとシロに「わたあめ」という芸(身体を丸めるだけ)をさせ、これを頭に乗せる。そしてパラダイスキングのモノマネで「おサルさんたち、もう悪いことをしちゃダメ。みんなジャングルへ帰って平和に暮らすんだゾ」とサルたちの前で語る。するとしんのすけに神々しい光が差し、これを見たサルたちは一斉に頷くとジャングルへと帰っていく。
 ここまで散々演じられていたピンチは、しんのすけの先導によるアクション仮面への応援が、船の乗客達による「共に戦う」と決意を引き出してついにはサルたちの完全排除とパラダイスキングの逃亡という結果に繋がる。この一連の流れはこの作品に込められた「しんのすけを明確に主人公に据える」という一貫した方針の最たるものだと私は思う。このシーンの前に再度アクション仮面がピンチに陥るが、ここをしんのすけの機転で乗り切るシーンも描かれ、このパートは名台詞欄シーン以外は完全にしんのすけ主導で物語が進んでいて、しんのすけが主役という視点で見ると気持ちよい展開だ。
 そしてしんのすけ独自の得意技である「ケツだけ歩き」を画面上にいる何十人もが一斉に行うシーンは、この映画を象徴する迫力のあるシーンであるだけでなく、しんのすけが主役という視点でも象徴的なシーンであることは間違いない。さらに物語の全般を引っ張ってきたかすかべ防衛隊の面々も引き出して、しんのすけが「ケツだけ星人」でサルたちを追いつめれば「しなのすけが主役」としてのサル撃退の構図は完成する。その上でさらにサルたちはしんのすけの手で屈服させられるのだから、これで「しんのすけが主役の物語」として本作が完成したといえよう。これらの「しんのすけが主役」の要素がどれか一つ欠けても、物語全体が「しんのすけが主役」であるという雰囲気までにはならなかったはずだ。
 そしてこのシーンをきっかけに、物語はしんのすけ中心に突き進んでゆくようになる。ハッキリ言ってここからはしんのすけとアクション仮面とパラダイスキングの3人だけの物語になり、他はおまけになってしまうからだ。
研究 ・ 
 

…サルたちを撤退させた野原家を初めとするクルーズ船の人々は、島を脱出して船に戻った。だが船を出すとパラダイスキングが小型ヘリに乗って追いかけてきた。
名台詞 「よーし、いっちょ飛ぶか! しんのすけ君、ありがとう。皆さんはここにいてください、ちょっと行ってきます。」
(アクション仮面/郷剛太郎)
名台詞度
★★★
 名場面欄シーンを受け、アクション仮面も野原一家と共に船内に待避する。「相手が空ではどうにもならない」と語るアクション仮面に、しんのすけが「アクション仮面は空飛べるでしょ?」と聞く。アクション仮面は「あれは映画の中の…」と言いかけたところで、彼は船上でのイベントで自分の登場に使用したジェットパックがある事に気付く。そしてこう語って走り出す。
 アクション仮面の「正義の味方」らしい台詞でもあるが、状況が状況だけにこういう台詞が自然に出てきてもおかしくないという良い台詞だ。まずアクション仮面の「飛ぶ」という宣言は、観客に「対抗方法がある」という事を示すと共に、彼が物語序盤でジェットパックで登場したことを思い出させる意味があるだろう。同時にこれはアクション仮面の「反撃の狼煙」であり、直後のシーンでしんのすけがこれに共感して勝手に着いていくということに説得力を持たせる役割もあるだろう。この「飛ぶか」は、アクション仮面演じる玄田哲章さんも力を込めて演じていることがよく分かる。
 そしてこの台詞の最後、ただ野原一家にここにいるように言うだけでなく「ちょっと行ってきます」と付け加えたのが、アクション仮面をカッコよくする重要な要素だ。悪人を倒すために気負って出て行くのでなく、「いつものことをしに行く」みたいなノリで走り去るという要素でもって彼の「強さ」が演じられている。もちろん彼にとって慣れない空での戦いは苦戦の連続になるのだが、そんなことを予感させないカッコ良さが彼に備わったのは確かだ。
名場面 パラダイスキング再襲撃 名場面度
★★★★
 クルーズ船が島から離脱し、人々が安堵した頃に船に近付く飛行物体がある事に気付く。それは超小型ヘリコプターに乗って船を追うパラダイスキングであった。「おい奴隷共、よく聞け。奴隷が主に背いたらどうなるかを、これからたっぷりと教えてやるぜ」と拡声器を使って叫びながら、彼はクルーズ船全体をなめるように飛行する。ブリッヂでは船長が船を全速で走らせて逃走することを指示するが、大型船が小型とはいえヘリの速度に敵うはずがない。パラダイスキングは名作「地獄の黙示録」でおなじみの「ワルキューレの騎行」を口ずさみながらダイナマイトに火を付け、船へ向けて投げる。このダイナマイトは船への至近弾
となって、船に大きな動揺をもたらす。甲板を逃げ惑う野原一家をよそに、パラダイスキングはダイナマイトを何発も船の至近に浴びせかけ、船内に人々の動揺が広まる。
 ここまでこの映画を見てきた人は、アクション仮面とパラダイスキングの勝負に決着が付いてないことは言われるまでもなく気付いているはずだ。この映画がこのままハッピーエンドで終わるはずがなく、パラダイスキングとの最終決戦の勃発を期待しながら島からの脱出シーンを見ていたはずだ。そこに待っていましたとばかりに出てくるこのシーンは、物語を盛り上げる要素が沢山詰まっている。
 一つはパラダイスキングがノリノリな点だ。「ヴァルキューレの騎行」を口ずさみながらダイナマイトに火を付けるシーンは、この映画のパラダイスキングの仕草において最も印象に残ると思う。同時に原作漫画では映画のワンシーンのパロディなどを積極的に使用している「クレヨンしんちゃん」や他臼井先生作品らしい描写もあり、私のような古くからの臼井先生ファンも胸が熱くなるシーンでもある。また、ダイナマイトがクルーズ船の至近弾となって爆発する様を上空から描いたシーンでは、まるで海軍モノの映画を見ているような迫力があって、これも物語を盛り上げる大きな要素であろう。
 そしてこのシーンでは、野原家や船の乗客・乗員側サイドにとっての「暗転」も上手く描いている。無事に島から脱出して安堵の空気をたっぷり流しておいてから、一気に危機に落とすこの「暗転」はこの物語を盛り上げる要素として上手く効いていると思う。「安堵」の部分でも「暗転」の部分でも、なるべく多くの船客たちの姿を映し出し、また双方において乗組員達の動きをキチンと描いたことで、船全体を覆う緊迫感を上手く演じている。だからこそアクション仮面が「何とかしなきゃならない」と一人で動き出すことに説得力がつくし、観客も一緒に「暗転」を感じさせられて物語に見入るのだ。
研究 ・パラダイスキングの小型ヘリ
 本作の終盤では、アクション仮面とパラダイスキングによる「空中戦」が描かれる。「空中戦」は生身の人間が行うことは出来ないので、必ず「乗機」が必要になる。ここでこのサイトらしく、「空中戦」における双方の「乗機」を考察してみたい。まずはパラダイスキングが乗る小型ヘリコプターだ。
 パラダイスキングが乗るヘリコプターは一人乗りで、機体などはなくフレームとエンジン類がむき出しになっている軽量機だ。登場人物との対比から全長は2メートル程度、全高は1.8メートル程度とみて良いだろう。機体中央上部にメインローター、メインローター前に1人用の乗員席、メインローター下部にエンジン、エンジン後部に後ろ向きのプロペラ、その後方には安定翼がある。足下を見ると降着装置としてフロートを兼用したスキッド(ヘリコプターの底部にある「脚」のこと)が装着されているので、このヘリは着水も可能と考えられる。
 さて、ヘリコプターなどの乗り物に詳しい人なら出てくる疑問は、「このヘリは実は飛べないのではないだろうか?」というものだと思う。結論を言うとこのヘリが飛行するのはかなり困難だと思う、このヘリコプターはヘリを構成する重大な機構が付けられていないからだ。
 ヘリコプターは機体上部に取り付けられた巨大なプロペラ(メインローター)で揚力を発生させて飛行することは、多くのことがご存じだろう(このヘリにも機体中央部に大きなプロペラが着いている)。このプロペラは巨大が故にヘリコプターにある問題を発生させる。それはエンジンでプロペラを回すと機体がプロペラを回そうとする力と同時に、プロペラが機体を回そうとする力が働いてしまうことである。つまりヘリコプターはそのままでは、プロペラの回転と逆方向に機体もぐるぐると回ってしまい飛べなくなってしまう。
 このために一般的なヘリコプターには、機体後部に長く伸ばした尾部の先に横向きのプロペラを付けている。これは「テールローター」と呼ばれ、このプロペラが発生する推力で「メインローターが機体を回そうとする力」を打ち消すものである。劇中に出てくるパラダイスキングのヘリコプターには、このテールローターがついていないので飛ばそうとすると機体がぐるぐると回ってしまい浮上出来ないはずなのだ。
 もちろん現実界にはテールローターのないヘリコプターも存在する。だがそれらは全て「メインローターが機体を回そうとする力」を打ち消すための対策が取られている。もっともポピュラーなのは「多重反転式プロペラ」と呼ばれるもので、メインローターが上下二段式のプロペラとなっていて、上段と下段のプロペラがそれぞれ反対方向に回すことでこの「メインローターが機体を回す力」そのものが発生しないようにしている。もちろんパラダイスキングのヘリコプターにはこのような機構はない。
 ちなみにパラダイスキングのヘリコプターには、エンジンから後方へ向けたプロペラが着いているが、空力的にはこのプロペラは全く意味がないはずだ。メインローターからの強烈な下降気流によって、この位置にこの向きのプロペラを付けても前方への推力は殆ど生まれないはずだ。本来このプロペラは機体尾部へ向けて長い柄を伸ばして、横向きにしてテールローターにすべきものだったはずだ。前進推力は、機体そのものを前傾させることで生じさせるのだから前進推力を生むプロペラは必要ないのだ。
 ちなみにこちらのサイトでは、パラダイスキングのヘリコプターにソックリなヘリコプターの写真がでている。これを見ると小さいながらも「多重反転式プロペラ」を装備して、機体が回転しない対策を取っている事は解るだろう。これに拡声器とダイナマイトに火を付けるシガーライターを装備すれば、飛行可能なパラダイスキングのヘリコプターになるぞ。機体だけで5万ドルか…。

…小型ヘリからダイナマイトで攻撃を仕掛けてくるパラダイスキングに対し、アクション仮面はジェットパックを使って応戦する。これにしんのすけが勝手に着いていって…。
名台詞 「アクション仮面、オラがあいつをやっつける。」
(しんのすけ)
名台詞度
★★★★
 名場面欄シーンによって何とかパラダイスキングのヘリにしがみついたアクション仮面&しんのすけだったが、アクション仮面はヘリにしがみつくことしか出来ず形成は不利なままである。「手も足も出ないとはこのことだ」と言うアクション仮面に対し、しんのすけはこの言葉を放ってパラダイスキングがいるヘリの操縦席へと上ってゆく。
 こんな簡単に台詞は久しぶりだ。この台詞は本作のテーマである「しんのすけを主役に据えた物語」にようやく行き着いた瞬間だ。敵が圧倒的有利な状況で全ての大人達が手を出せない状況に追い込まれ、もうしんのすけしか反撃する手段がないと言うところまで物語を追い込み、やっとしんのすけが自ら主人公になって「敵を倒す」と宣言した瞬間だ。この台詞を境に、戦いの様相も「アクション仮面vsパラダイスキング」ではなく、「しんのすけvsパラダイスキング」に変化する。そしてこの台詞を聞いた者は、「どのようにしてパラダイスキングがしんのすけに倒されるのか?」という期待を込めて物語を見る。だからここからは明確にしんのすけが主人公として、この空中戦の続きを演じることになるのだ。
名場面 燃料切れ 名場面度
★★★
 アクション仮面とパラダイスキングの空中戦は、ジェットパックによって飛行するアクション仮面の奮闘でなんとか互角の戦いで持ちこたえていた。だがパラダイスキングが火の付いたダイナマイトをアクション仮面のブーツに差し込んだことで均衡が崩れる。アクション仮面はしんのすけとともにこのダイナマイトの除去に成功するが、ダイナマイトが至近で爆発したことで二人が吹き飛ばされてしまう。その間にパラダイスキングはクルーズ船に迫り、やっと戦いに復帰したアクション仮面は全速力でパラダイスキングを追うが…ここでジェットパックに無理をさせすぎたことで燃料切れ、二人は空中を泳いだりしんのすけの「おならターボ」で前進したりしながらなんとかパラダイスキングのヘリにしがみつく。
 これはこれまで互角だった二人の戦いで均衡が崩れたシーンであることは、上記のシーン解説でした通りだ。だがこの均衡が崩れるシーンは重大なもので、アクション仮面側の危機を描いて圧倒的不利にすることで物語の不安感が上昇して盛り上がるだけでなく、展開は名台詞欄で記したように「しんのすけが主人公」とした戦いへの大きく舵を切っているのである。ここで生じるアクション仮面の圧倒的不利は、しんのすけが戦うしかないという状況に物語が追い込まれた瞬間なのだ。
 この物語が「しんのすけ主人公」として優れているのは確かだが、その起点はここという意味でこのシーンを名場面欄に挙げた。
研究 ・ジェットパック
 今回はアクション仮面とパラダイスキングの空中戦において、アクション仮面が飛行するために用いたジェットパックについて考察しよう。
 ジェットパックは多くの方もご存じの通り、ランドセルのように背中に背負う飛行器具である。このタイプの飛行器具は多くのSF作品で当然のように活躍しており、当サイトの考察作品でも「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」「サンダーバード ARE GO!」でも登場している。それ以外でもイギリスのスパイ映画の名作「007」等の実写映画作品でも大活躍の飛行器具だ。
 ジェットパックは元々はNASAが宇宙開発において、宇宙飛行士の船外活動のために開発されたものである。スペースシャトルの記録を見ると、ジェットパックを用いた船外活動の写真や動画が沢山出てくる。1984年2月には、NASAのブルース・マッカンドレス飛行士がジェットパックを用いて命綱無しの宇宙遊泳を行った(ちなみに万一の事故に備え、命綱無しでの宇宙遊泳は基本的に禁止されている)。
 そしてこの時の宇宙遊泳の技術を使い、地球上を飛行するためのジェットパックが開発された。これは小型のロケットエンジンを装備したもので、液体燃料を触媒で分解した時に発生する多量の水蒸気を噴射して飛行する仕組みの物であったが、燃料搭載に限りがあることなどから飛行時間は1分と持たなかったとされている。このジェットパックは1984年のロサンゼルスオリンピック開会式で実演されて世界中の話題をさらい、翌年には日本の茨城県つくば市で開催された国際科学技術博覧会でも実演されて話題を振りまいた。
 以降、ジェットパックの技術開発は飛行時間や距離の延長などをもたらしている。21世紀に入ってからは従来のロケットエンジンによるジェットパックではなく、飛行機のようにジェットエンジン(ターボファンエンジン)を小型化したジェットパックが主流になっている。こちらのサイトではジェットエンジン式のジェットパックの飛行シーンなどが動画や画像で見ることが出来るが、本作品の世界観に合っていると思うがいかがだろう?
 本作品でアクション仮面が使用しているジェットパックは、前述のようにロケットエンジンを使用した物で液体燃料を触媒で分解して水蒸気を噴出するタイプの物だと考えられる。外見や動作状況だけでなく、短時間で燃料が切れるという設定もこれを裏づけているだろう。ただ上映当時はジェットパックは現在より高価な物で、とてもアクションヒーローショーで使えるような代物では無かったと思うけどなぁ…フィクションだからまぁいいか。

ジェットパックを失ったしんのすけとアクション仮面であったが、しんのすけがヘリ上のパラダイスキングの元へ上がって何とか1対1の戦いを続けていた。だがパラダイスキングに落とされ掛かる。
名台詞 「小野田さーん、横井さーん。」
(しんのすけ)
名台詞度
★★
 戦いの途中でしんのすけがパラダイスキングのアフロの中に入り込んだときのギャグだが…このノリが大好き、恐らく本作を原作者の臼井儀人先生が書いていたとしても、同じギャグをやったと思う。
 そしてこのギャグ、この作品を見た子供達に意味が分かったのかな? パラダイスキングが「古いギャグをやりおって…」とツッコミを入れていたけど…しんのすけを演じる矢沢晶子さんだって、私より僅かに上の世代の人だからリアルタイムで知っているかどうか微妙だゾ。
名場面 決着 名場面度
★★★★★
 しんのすけとパラダイスキングのヘリ上での戦いは、やはりヘリを操縦しているパラダイスキングが有利に進むが。そんな中でもしんのすけは何とかパラダイスキングの正面に回り込む。一度は超至近距離で拡声器による大声を浴びせられて気絶するしんのすけだったが、「あのな、島の秘密を知ったお前らを生きて返すわけには、いかねぇんだよ!」と叫んでダイナマイトに火を付けたパラダイスキングに、履いていた靴を蹴りつける。するとパラダイスキングが持っていたダイナマイトに靴が当たり、彼のアフロ頭の中に飛んで行ってしまう。慌てて頭の中のダイナマイトを探すパラダイスキングに、しんのすけが「ケツだけアタック」を喰らわせるとパラダイスキングは気を失う。「やった、よし飛び降りるぞ」と叫ぶアクション仮面に「このおじさんもだよ」としんのすけが答え、しんのすけはパラダイスキングのシートベルトを外し、アクション仮面はパラダイスキングを引きずり下ろすべく彼の脚を掴む。しんのすけが「ちょっと待った」と言ってパラダイスキングのアフロ頭に潜り込み、点火されたダイナマイトを出して「これこれ」と言うとアクション仮面が「捨てるんだ」と叫ぶ。だがしんのすけは何を血迷ったか、その点火したダイナマイトをパラダイスキングの背中にある袋に他のダイナマイトと一緒に片付けてしまう。その間にヘリはクルーズ船に迫る、「飛ぶぞー」「よっしゃぁぁぁっ!」2人が叫ぶと2人はパラダイスキングを捕まえたままヘリから飛び降りて、クルーズ船のプールに飛び込む。操縦者を失ったヘリは船の上空を通過して爆発する。
 パラダイスキングとの長い戦いの決着である。最後はしんのすけとパラダイスキングの1対1の戦いとなって、まさにしんのすけが主人公となって悪役を倒して全てが解決する展開を上手く描いたと感じた。何よりもしんのすけが「ケツだけアタック」でパラダイスキングに決定打を与えるという展開は、彼らしくて良いと思う。
 そしてこれらのシーンがとても迫力を持って描かれている点もこのシーンに花を添えているし、特にクルーズ船に接近してプールに飛び込むまでのシーンは迫力があって良い。その時のBGMがオープニングテーマの「とべとべおねいさん」を勇壮にアレンジしたものである点も、曲のタイトルとこのシーンの「飛ぶ」という内容が上手く合致していて良く出来ていると思う。本作で最も印象的なシーンであり、その迫力は私の稚拙な文章では伝えられないので多くの人に見てもらいたいシーンだ。
研究 ・ 
 

…本作のラスト、「オチ」として「アクション仮面」の映画の続きの上映がされる。
名台詞 「ミレニアムビぃーーーーーーーーーーム!」
(小林幸子アクションミレニアムビーム発射装置)
名台詞度
★★★★
 これまで何度も本作中で演じられた劇中劇「映画アクション仮面 南海ミレニアムウォーズ」のラストシーンが、ここでやっと上映される。燃えさかる炎に落とされるミミ子を救ったのは、たった今悪人にやられたはずのアクション仮面であった。アクション仮面は悪人のビーム攻撃を「変わり身の術」で交わして、ミミ子を救ったのだ。そし対決の続きをしようとしたアクション仮面の元に、北春日部博士が現れて敵を倒すための新兵器を持ってきた。それが「小林幸子アクションミレニアムビーム発射装置」であり、その外見はどう見ても「紅白歌合戦」の巨大衣装を身に纏った小林幸子であった。「まじめにやれ」と叫ぶ悪人と、「私はいつだってまじめだ」と返すアクション仮面。そしてアクション仮面が技の名前を叫ぶと、装置も小林幸子の声でこのように発する。すると強力なビームが放たれ、「あの衣装はだてじゃなかった!」と叫んで悪人は倒される。
 この台詞を含むシーンは本作の「オチ」としてとても好きだ。劇中劇とはいえアクション仮面が倒されそうになっていて、それがどう解決するのかと思っていたら「小林幸子特別出演」というサプライズで終わるなんて誰が想像するだろう? しかもあの伝説的な「紅白歌合戦」の衣装をネタにして…。
 その上で、この台詞を吐く小林幸子がノリノリなのが伝わってくるのも良い。「ビーム!」の部分では上手くこぶしが利いていて、力を込めてビームを発射しているのを想像して吹き込んだんだろうなぁと想像させてくれる。小林幸子がアニメ声優として声を演じているのを聞いたのは、他にリメイク版「ヤッターマン」での演技を知っているが、どちらもノリノリで「自分がネタにされる」ことを喜んでいるように感じた。
名場面 映画終了後 名場面度
★★★★
 劇中劇の映画が上映し終わると、しんのすけは「ほうほう、アクション仮面が勝った。やっぱりアクション仮面は無敵だゾ」と隣に座って映画を見ていたアクション仮面に語る。アクション仮面は「その通り」と返すと、しんのすけは「だけど今回はオラの方がかっこよかったゾ」と続ける。この言葉に一度アクション仮面は下を向いて考え込んでしまうが、親指を突き出して「その通り」と返す。これだけのシーンだ。
 ここで「しんのすけを主人公にした物語」にも上手くオチはついた。悪人が倒されたのはしんのすけの活躍であることが再確認され、本来はその場で最も力があり悪人に狙われていたはずのアクション仮面がこれを認めたのだ。だがアクション仮面がこれをすんなり認めるのでなく、少し悩むのがこれまた良い。アクション仮面は自分が子供達に対してのヒーローでなければならず、その対象の子供達に逆に救われてしまった形だ。だがそれでも彼は、この事実を受け入れてしんのすけを「主人公」として立てる。こんなヒーローが実在したら良いじゃないか…と思った。
研究 ・小林幸子アクションミレニアムビーム発射装置
 名台詞欄に書いたように、本作の劇中劇「映画アクション仮面 南海ミレニアムウォーズ」でアクション仮面が敵を倒した新兵器がこのビーム発射装置だ。本来は西暦2000年ということでただミレニアムビームでも良いのだろうが、それだけでは面白くないからと本作の主題歌を担当している小林幸子を引っ張り出してきたのだと考えられる。
 このビーム発射装置は紅白歌合戦で伝説的になった巨大衣装を着用した小林幸子の姿となっていて、この衣装は1993年の紅白歌合戦で小林幸子が「約束」を歌った際に使用した「ペガサス」というものである。これは最初は小林幸子が青い巨大ドレスを着用していて、歌の進行に合わせて巨大ドレスが金色に変わると同時に、背後にペガサス描かれた金色の巨大な羽が現れて衣装が完成するというものだ。この金色の羽には空気が送られていて、これによって揺らめくような動きをしていた。
 このビーム発射装置で再現されているのは、この衣装の最終形態である金色の羽が現れたあとの形である。だが悪人を倒すビーム発射装置がこの形をしている理由はどこにもないだろう。恐らくアクション仮面が持ちパワーと連動してビームを発射する仕組みなのだろうが…自分がファンだからと言う理由だけでこのような形に仕上げてしまう北春日部博士は、やっぱりただ者じゃないなぁ。いったらこのビーム発射装置、ビーム発射装置本体以外の部分にいくら掛かったんだろう?

・「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル」のエンディング

「さよならありがとう」 作詞・松本隆 作曲・松本俊明 編曲・岩崎元是 歌・こばやしさちこ
 静かな伴奏に小林幸子の声で力強く歌うこの歌を聴いていると、確かに劇場版の「クレヨンしんちゃん」はこの作品で終わらせるつもりだったんだろうなと感じる。歌詞の随所に別れや旅立ち、それにいつの日にかの再会わ示唆するフレーズがちりばめられている。もちろん歌のタイトルである「さよならありがとう」もそうだ。制作者が「しんのすけを明確に主人公に据えた物語を見せたあと、最後に「別れ」をキチンと歌ってしんのすけの銀幕での活躍を終わらせよう」と考えていたことがよく分かる。だが皮肉なことに、この作品で興行収入を伸ばしたことで劇場版「クレヨンしんちゃん」は存続が決まるのだが…。
 背景映像はしんのすけらの今回のクルーズ船旅行でのスナップ写真的な画像と、サルたちのその後が描かれている。まずはヤシの木だけのカットが1つ、続いて野原一家を中心に登場人物達が南の海で遊んでいる7カット、その次には野原家とアクション仮面のスナップが2カット。そしてしんのすけがパラダイスキングと戦っているときに落とした靴が島に流れ着き、これがサルたちに拾われるまでの過程が4カット。ラストはサルたちが砂浜でなにやら騒いでいる様子のカットで終わる。
 このエンディングはどちらかというと派手な物語の余韻を静かに味わえるので好きだ。

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