…闇に向かって吠えるピー助を見て、しずかがジャイアンとスネ夫を説得。一行はピー助を白亜紀の日本に連れて行くことに決まり、黒い男を出し抜く準備に掛かる。一方、未来世界ではドルマンスタインという富豪の元に、「黒い男」からの通信が入る。 |
名台詞 |
「手に入れたも同然なんですがね、最後の詰めをだんなご自身の手でって言うのもどうかと思いまして…。どうせ、飼い主の子供達はすんなり手放すはずがありません。明日は一騒ぎあるはずなんです。だんな、人間狩りだけはまだご経験なすったことはないでしょう?」
(黒い男) |
名台詞度
★★★ |
未来世界の富豪、ドルマンスタインの元に「黒い男」からの通信が入る。これに通信を受けたドルマンスタインが「手に入れたか? 例の人に慣れた恐竜とかを?」と訊く。この返答として「黒い男」が語る台詞がこれだ。
前回部分のラストで、のび太らが「黒い男」ら恐竜ハンターを出し抜こうと色々と作っているシーンがあった。だが悪役の方が一枚も二枚の上手だと言うことを、視聴者が思い知らされる台詞だと言って良いだろう。「黒い男」にとってはのび太がピー助を手放さないのは折り込み済みで、その上でのび太らを捕まえてピー助を奪取する計画を立てているのである。
ドルマンスタインは「黒い男」ら恐竜ハンターに、コレクションとするべき恐竜を捕獲するように依頼した主であろう。「黒い男」らはドルマンスタインだけでなく、多くの富豪などから「闇の依頼」を受けて様々な時代で動物の捕獲活動を行っているのだと考えられる。その捕獲時には依頼者を呼んで、依頼者自らに捕獲させることもあるのだろう。だが彼らが唯一自分達で捕獲しておらず、依頼者にも捕獲させていない生物がいる。それが人間であろう。
だから「黒い男」は、ピー助の事を依頼したドルマンスタインにこのような事を持ちかけるのである。恐らく20世紀のピー助を発見したのは、「黒い男」ら恐竜ハンターではなくドルマンスタインなのだろう。
こののび太達に向けた「人間狩り」と言う台詞に、特に見ている子供達はのび太らのピンチを知って恐怖することだろう。思わず画面に向かって「危ない」とか叫んでしまう子供達もあるだろう。こうしてピンチを煽ることで物語を盛り上げる要素が、この台詞の役割でもある。 |
名場面 |
いかだで川下り |
名場面度
★★ |
のび太らは『ラジコンねんど』というひみつ道具を使い、陽動作戦は計画する。それは成功するには成功したが、予想以上に早く陽動作戦であることが見破られ、「黒い男」らはのび太らを追いかけ始める。
その頃、のび太ら一行はいかだで川を下っていた。のび太がラジコンの送信機を操り、ドラえもんとジャイアンがいかだを操縦する担当である。だが陽動作戦に気付いた「黒い男」らがもう近くに迫っている。ジャイアンが独り言のように今回の作戦の全容を語ると、しずかは冷静に「ねんど細工で誤魔化すのも、そう長くは持つとは思えないわ」と作戦の欠点を語る。ほぼ同時にのび太はラジコン送信機の異常に気付き、「ラジコンのコントロールが効かなくなった」と声を挙げる。するともういかだの背後に「黒い男」たちの航空機が迫ってくる。
何の警告も無しにドルマンスタインが発砲、のび太が「しまった」というがもう為す術がない。それどころか前方には落差のある滝が迫ってくる。ドラえもんとジャイアンが必死に漕ぐが、ドルマンスタインの射撃が正確であった。ドルマンスタインは正確にいかだの左右を繋ぐロープを、しかもいかだの中心線に沿って狙ってくる。いかだを真っ二つにして一行を二分割しようという頭のよい作戦だ。その間も迫って来る滝、ドルマンスタインが最後の一撃を放つと、その光線は正確にいかだを最後まで繋いでいたロープに当たり、いかだは真っ二つに割れて片側にはのび太とドラえもんとピー助が、もう片側にはしずかとジャイアンとスネ夫がのった形となる。のび太が乗った方のいかだはそのまま滝を落ち、しずかたちのいかだは銃撃された勢いで滝上の川岸に打ち上げられる。そしてしずか、ジャイアン、スネ夫の3人は「黒い男」の手に落ちる。
名台詞欄シーンを受けて、最もハラハラする展開はここだろう。手前のバギーカーのシーンでは、そんな便利な物があるのに本人達が使わないことを考えれば、勘のよい子供は「陽動作戦」だと気付くように作ってある。そしてその陽動作戦が予想以上に簡単にバレてしまい、のび太もドラえもんもそうとは思わない時点で敵が襲ってくるから緊張感が高い。
ここは正直言うと、「いかだで川下り」→「滝」というおやくそく的な展開ではあるものの、ここにさらに「敵襲」を加えることで非常に面白くなっている。また展開上ここで皆が捕まってしまうのか、それとも逃げ切るのか予想がつきづらいこともこのシーンを盛り上げる要素だ。そして結果はこれまで一致団結していたのび太とその仲間が二分割して、片方が捕まってしまうという予想外の展開だ。だがその展開こそが物語を「黒い男」やドルマンスタインとのび太やドラえもんの対決へ、そして大団円へと運ぶ大きな転換点となるのだ。 |
研究 |
・「黒い男」を出し抜く方法 今回の焦点は、のび太達がいかにして「黒い男」らを魔の手から逃れるかという一点に掛かっていたことだろう。ピー助の譲渡を断るにしても、何とかして「黒い男」らを出し抜かない限りはまた追いかけられる事は明白だ。だから彼らには「逃げ切る」事が絶対条件となる。
そこで考えられた作戦は、『ラジコンねんど』を使用してバギーカーを作り、これに泥で作った自分達の人形を乗せて走られるという方法で陽動作戦を行い。その間に自分達は恐竜ハンターの基地に乗り込んで『タイムマシン』を盗むという作戦を考えたのだ。『タイムマシン』を盗めば犯罪だが、相手が「恐竜ハンター」という犯罪組織であり後ろ暗い事を考えると、警察などに通報される心配はないと踏んだのだろう。『タイムマシン』が奪えれば、例えばその時間から5分後の日本に行ってピー助を日本の海に放す事が出来る。そして自分達も20世紀に帰ることが出来るのだ。ピー助はのび太達の手を離れるが、日本海域で他のフタバスズキリュウの群れに混ざってしまえばもう解らない、そのような作戦のはずだ。
そして『ラジコンねんど』で作ったバギーカーに「黒い男」は引っかかり、一度は盛大にバギーカーを攻撃する。だがドルマンスタインの銃の威力が強すぎて、バギーカーが簡単に撃破されたことで、ドラえもんが予想していたより早く陽動作戦がバレることになったのだろう。恐らく作戦の考案者であるドラえもんは、相手が「人間狩り」を仕掛けてくることは想定していなかったと思う。死なない程度に自分達を銃撃してくるという想定が無かったからこそ、いかだで川下りという手段で川下の恐竜ハンター基地を目指したのだろう。いかだで川を下る速度では、空を飛んでくる人工の航空機から逃げ切れるはずがない。こうして5人のうち3人が捕まってしまうことになる。
もちろんドラえもんは相手がどんな悪党でも、自分達に銃を向けてくることは想定していなかったはずだ。過去の世界とはいえそれは殺人罪であり、恐竜ハンターなんかよりも余程罪が重いはずだ。これはドルマンスタインも解っていることで、その腕前で人間に「当たらないように」銃を撃っているのは確かだ。彼が銃の扱いに慣れていてプロ級の腕があるからこそ、「当たっちゃう」ことも無かった。バギーカーの時もいかだのときも、あくまでも乗っている乗り物を破壊して足を止める事を念頭に置いて銃撃しているように描かれている。その上、いかだの時は真っ二つに割って乗員を二分することで、必ず片方は捕まえられるという賢い手段を使っている。彼は動物を「生け捕りにする」ことにも長けているのだろう。
こうして5人中3人が敵の手に落ちたことで、物語はいよいよ最終段階に入って行くのだ。 |