…シャアの襲撃をなんとか交わした「ホワイトベース」は連邦軍の宇宙軍事拠点である「ルナ2」に到着する。ここで避難民の下船を訴えるが、「ルナ2」のワッケイン司令はこれを拒否するだけでなく、素人の寄せ集めでしかない乗員にそのまま連邦軍本部のジャブローまで「ホワイトベース」を回航するよう命令する。こうしてアムロなど戦いを経験した民間人はなし崩しに現地徴用兵となることとなってしまうのだ。いっぽう、シャアが乗るムサイ形宇宙戦艦「ファルメル」は「ルナ2」の近くで補給を受け、次の戦いに備えていた。 |
名台詞 |
「知るもんか、我々に出来ることと言えば『サラミス』1隻付けてやるだけ。彼らの幸運を…ジャブローは前線のことを何も…。ジオンとの戦いがまだまだ困難を極めると言うとき、我々は素人まで動員してゆく。寒い時代だとは思わぬか?」
(ワッケイン) |
名台詞度
★★ |
「ホワイトベース」とそれに乗り込む人々を冷たくあしらったワッケイン司令は、司令官室から地球へ向け出航して行く「ホワイトベース」を見送っていた。最新鋭とはいえ、なし崩しに現地徴用となった民間人が動かす戦艦が無事にジャブローまでたどり着けるのか?
この誰でも考えるような疑問を副官が口にすると、ワッケインは途中で涙を交えながらこう言うのだ。
そう、連邦軍本部の決定である「ホワイトベース」を現状のまま回航という決定に、それを冷たく本人達に告げたワッケイン本人が納得していなかったのだ。誰がどう考えても「ホワイトベース」がジャブローにたどり着けるわけが無い、それは視聴者も感じただろう。ワッケインはその連邦軍本部からの命令に背かない範囲で「ホワイトベース」に力を貸す、それは護衛にサラミス級巡洋艦(艦名不明)をつけることであった。
そして最前線にいる自分達の声が届かない怒りと諦めを感じ、素人まで動員させてしまった悔しさを語るのである。それは同時に多くの軍人を失ってしまった悲しみでもあるだろう。
…ちなみに、テレビアニメ版ではこの「ルナ2」でパロオ艦長が戦死しており、この台詞はパロオ艦長の死を悼む台詞とされている。 |
名場面 |
補給。 |
名場面度
★★ |
「ホワイトベース」がルナ2に寄港したその頃、付近の宙域ではシャアの「ファルメル」が補給を受けていた。実はこれはSFロボットアニメで描かれた最初の「補給」というシーンかも知れない。私が知る限りこのようなアニメで「補給」というシーンを見た記憶がないのだ。
というのは多くのSFアニメが「補給」を必要としない設定だった点もある。それまでのヒーローは固定された基地を中心に活躍しており、敵も必ずその基地の周辺に現れるので小移動ができればよかったのだ。「宇宙戦艦ヤマト」についても遠距離の旅が予定されていたので1年分のものを詰め込んでいけばいいから基本的に「補給」の必要は無い、ただ食料が不足気味だったせいか途中の星で「確保」はしている。
「機動戦士ガンダム」では「兵站」という概念がキチンと取り入れられているのだ。戦艦が行動すれば燃料は使う、弾薬も使う、乗員の食糧もいる、これらを生命を賭して前線に送り届ける補給部隊がないことには戦争が進まないという意味でのリアルさを取り入れたのだ。サイド7近辺でもシャアは上官のドズル・ザビ中将に「武器・弾薬が底を尽き…」と補給を要求しており、このような概念があると予測させる物だった。そして実際に「補給」を受けたシーンがここである。
「機動戦士ガンダム」において、この「補給」という行動は重要なものになってくる。物語が進むと「ホワイトベース」に物資を届ける補給部隊の役割が大きくなるからだ。こういうところにスポットを浴びせたという意味で画期的なSFアニメだろう。 |
研究 |
・ルナ2に見る戦艦の誘導航法
「ホワイトベース」がルナ2に到着するシーンで、昔から「面白い」と思っていたシーンがある。それは「ホワイトベース」だけでなく同時にルナ2に入港する戦艦もそうなのだが、レーザー光線のような物で発着口まで誘導されているのである。またブライトやミライが度々「操縦はコンピュータが…」と「ホワイトベース」について語るので、これらの誘導装置と自動操縦装置が組み合わされた完全自動入港システムが完備されているだけでなく、似たような描写がサイド7でもあったことや、物語が進むと他のコロニーや宇宙基地でも見られるので、地球連邦・ジオンといった陣営を問わず規格は統一されていると見るべきだろう。
このようなシステムはSFアニメだけの物ではなく、現実世界にも存在しているだけでなく、我々が身近にこれを体験することも可能だ。それは旅客機の着陸である。多くの空港では滑走路からある周波数で指向性の強い電波が発射されており、旅客機はこの電波に誘導されて着陸コースを自動的に認識し、自動操縦と組み合わせることによってほぼ自動で着陸することができる。これは「ILS」と呼ばれ、全世界の空港に統一された規格で備わっている。
「機動戦士ガンダム」で描かれるこの誘導航法システムは、この「ILS」の電波が可視光レーザー光線に変わったシステムだと考えれば良いだろう。「ホワイトベース」のブリッジにある舵輪の上にメーターのような物が描かれているが、これは方位を示すコンパスや姿勢を表示するメーターだけでなく、このような誘導航法システムのゲージでもあるのだろう。そこにはこのレーザー光からどれだけズレているかが表示されているに違いない。
このような誘導航法システムが明確に描かれたのも「機動戦士ガンダム」の特徴であろう。 |