…オデッサ作戦に参加するため砂漠地帯を行く「ホワイトベース」、しかしその前にまたしてもランバ・ラル部隊が立ちはだかる。これに反撃しようとした矢先、セイラが勝手に「ガンダム」に乗り込んで無断出撃してしまう。セイラが乗る「ガンダム」はランバの「グフ」のパワーに圧倒され、コズンの「ザク」に生け捕りにされかかって中破。しかし「ガンキャノン」に搭乗したアムロの活躍で逆にコズンの「ザク」を拿捕して捕虜にする。同時にセイラは無断出撃の罪で3日間の独房入りに課せられる。その際、コズンからシャアのことを聞き出そうとするが…。 |
名台詞 |
「気にすることはないわ。私たちだって、いつああなるか…」
(セイラ) |
名台詞度
★★ |
「ホワイトベース」が捕虜に取ったジオン兵、ランバ・ラル部隊のコズン少尉が尋問の後脱走する。無断出撃の罪でコズンの隣の独房に入っていたセイラが、ブライトの命令により独房から出され、コズンを追う。その間、コズンは第二通信室を占領してランバ・ラルに自分が知った「ホワイトベース」に関する情報を送るのだ。それに気付いたブライトが通信回路を遮断、これに気付いたコズンが通信室を出たところでセイラと出くわし、軽い格闘戦の後コズンは逃亡する。途中でカツ・レツ・キッカ・ハロの攻撃も受けながらなんとか外部へ通じるエアロックを見つけここから脱出を図ろうとするが、セイラと合流したオルム(「ホワイトベース」乗員のチョイ役で階級等不明)が放ったバズーカが直撃し、コズンは脱出を目前にして地上に落下してしまう。これを見たオルムが竦んでいると、セイラがこう呟いたのだ。
そう、セイラがコズンの死を見て感じたのはこれが決して他人事ではないという事実だ。自分達も戦いの中に放り込まれ、いつジオンの銃弾によって倒されるか分からない。それだけでなく自分達の生命を守るためとは言え、連邦の最新兵器を無断で使用している罪も何処かで着せられるかも知れない。そうなれば自分達は味方である連邦軍によって処刑される可能性があるのだ。セイラのこの台詞の裏にはこのような彼女の覚悟と、「ホワイトベース」乗員が置かれた状況というものが如実に表れているのだ。 |
(次点)「捕虜の扱いは南極条約に則ってくれるんだろうな?」(コズン)
…SFアニメで戦時条約の存在が初めて語られた台詞ではないだろうか? てゆーか戦時条約が設定されているSFアニメや映画なんて見たことがなかった。 |
名場面 |
アムロ脱走。 |
名場面度
★★★ |
勝手なことを始めたのはセイラだけでなかった。「ホワイトベース」は進路を塞ぐ形で存在するジオン軍の小さな鉱山基地と対峙することになったが、アムロは「ホワイトベース」護衛として「ガンダム」で出撃しろとのブライトの命令を無視して「ガンタンク」で出撃する。彼は拿捕した「ザク」をもとに独自にシミュレーションを行い、その上で今回の任務はモビルスーツ相手でないから「ガンダム」を出す必要はないと判断したのだ。しかし敵鉱山基地はランバ・ラル部隊に援護を求め、結果ランバ・ラルが「グフ」と新たに補給を受けた「ザク」を出撃される。こうなってはブライトも納得いくわけがない。
それにも懲りずにアムロは勝手にシミュレーションを行う。そのコンピュータが置いてある場所をブライトとミライが通りかかるのだ。2人が相談していたことは「アムロをガンダムから下ろす」と言うことであった(ただしミライは反対の立場であった)。アムロがこれまでの戦果によって増長し、自分を特別だと思い始めているのがいかんというのがブライトの理由だ。
これを聞いたアムロは泣いて走り出し、荷物をまとめて部屋から出て行く。フラウが「何処へ行くの?」と問えば「ホワイトベースを降りるんだ、元気でな」と涙声で言う。そして艦内を走り…彼が向かった場所は格納庫だった、何とアムロは「ガンダム」に乗って「ホワイトベース」を脱走したのだ。その報せに寝ていたところをたたき起こされたブライトは下着姿のままブリッジへ。そのブライトが呆然と見送る中、発進した「ガンダム」は闇夜へ溶けるように消えて行く。
遂にアムロが増長した。仕方なく乗り込む→最初はいい気になる→疲れればフテる→腕が上がり結果が伴ってくる→自分は1人で何でも出来ると勘違いする…とまぁ年相応の少年が成長するに当たってたどりそうな道筋を忠実になぞってきたわけだ。ミライやフラウはアムロには優しく接してはいたが、ブライトはそうでなかった。多分ブライトは若いながらもこうなることを見抜いていたのだろう。アムロに強力兵器を与えれば増長してこうなるのだと。だからブライトがアムロに「ピンチ」を与えるために「ガンダム」から遠ざけようとしたのは間違いではない。これが気に入らずに艦を降りたとしても、こんな砂漠の真ん中じゃ遭難するのが関の山だ。
だがブライトは大きな誤算をしていた、アムロが「ガンダム」に乗って脱走を図るとは考えていなかったのだ。だから「アムロをガンダムから下ろす」という決断をアムロに聞かれた段階で、「ガンダム」のキーを取り上げることをしなかった。いや、若くてそこまで頭が回らなかったと言うのが正解かも知れない。たとえアムロが「ガンダム」のキーを持ったまま艦を降りても、外がこんな状況ならすぐ帰ってくる…ブライトはそう思っていたに違いない。
だからブライトはアムロが「ガンダム」を持って出た事に驚愕し、自分の情けなさに腹を立てていたのだと思う。こんな形で「ガンダム」を失えばどうなることか、間違いなくブライトに思い処罰が下るはずだ。もしもアムロが「ガンダム」をジオンに渡すようなことがあったら…ブライトは腹を切るしかない。
アムロはそんなブライトの胸中に気付いてないだろう、今自分がやっていることこそがブライトに対する最大の仕返しになっていると。ただ「ホワイトベース」から出て行きたかった、それでけである。「ガンダム」をジオンに渡せばヒーローになれるとか、他の連邦軍の部隊に合流すればいいとか、そこまで考えていないはずだ。なんてったって「坊やだからさ」。 |
(次点)キッカが浴室の水道の蛇口を壊す
…偉いぞキッカ、よくやった。サービスタイム…ムフフ(はーと)。 |
研究 |
・捕虜と情報
この部分のエピソードでいよいよ「機動戦士ガンダム」にも「捕虜」という存在が出てくる。「ザク」が1機アムロ操縦の「ガンキャノン」に撃破、大破した「ザク」を拿捕し乗っていたコズン・グラハム少尉を捕虜として捕らえるのだ。SFアニメで「捕虜」が出た前例はこのサイトでも取り上げた「宇宙戦艦ヤマト」13話がある。
この捕虜を捕らえたことで、お互いに敵について知らなかった情報を得ることになったのだ。これについで考えてみたい。
まず「ホワイトベース」側である。ブライトがコズンを尋問していろいろ聞き出そうとしたが、彼の口が堅く大事なことは教えてもらえなかったようだ。劇中の台詞にもあった通り、ランバ・ラル部隊の規模や戦力、それにオデッサ基地におけるジオンの陣容を知りたかったのだ。だがランバ・ラル部隊の戦力については口を閉ざしていたのは間違いないが、コズンはオデッサ基地の情勢については何一つ知らなかったと思われる。これはコズンの上官、ランバ・ラルとは管轄の違う軍隊が仕切っている場所だからという理由だ。だから例え様々な手段でコズンからいろいろ聞き出したくても、肝心なオデッサ基地については何一つ分からなかった可能性が高い。ブライトからしてみればこの捕虜からオデッサ基地のことが聞き出せれば、手柄になったかも知れないという算段もあっただろう。
だが「ホワイトベース」側はこの捕虜の存在によって大事な情報をいくつか入手している。ガルマ・ザビを討ったのは自分達であるという事実は間違いなく知らされているはず、なぜならセイラがコズンからシャアについて聞き出そうとしたとき、「おたくらがガルマをやった時…」とコズンが語っても誰1人驚く表情はなかった。つまりこのシーンの前までに、ブライトはランバ・ラル部隊の目的だけは聞き出せたのだろう。「ガルマ・ザビの敵討ちとしてホワイトベースを倒すのが任務」だと。
それだけではない、新型の青いモビルスーツの名前が「グフ」であると言うこともコズンからの情報だ(カイの台詞による)。さらにアムロが「ザク」の具体的な性能を知ったのも、大破したとは言えこの一件で「ザク」を拿捕したからであろう。「ザク」を分解してアクチュエータの動的性能や、搭載されている制御機器の性能などは実物がないと解らないものだ。さらに宿敵であるシャアが「ガルマを守りきれず失脚したが、キシリアに引き抜かれたらしい」という情報も得ており、また何らかの形でシャアと闘う可能性があることを彼らは理解する。
では次にジオン側が知ったことだ。脱獄したコズンが通信室を占拠してランバ・ラルに伝えた内容は、「ホワイトベース」に搭載されているモビルスーツの機数と形状、および名称である。「白いモビルスーツ」は「ガンダム」、「陸戦タイプ」は「ガンキャノン」、「戦車」は「ガンタンク」で、これが各1機ずつだということだ。戦闘機の数については「不明」と送信している。恐らく劇中に語られていないところでは、「ホワイトベース」の正式な艦名や艦長の名が「ブライト・ノア」であること位は語られているだろう。ただし乗組員の多くが少年少女という点については送信できていないはずだ、それは物語が進むと「ホワイトベース」に乗り込んだランバ・ラルが乗っているのが少年少女ばかりであることに驚くシーンがあるからだ。
情報量としては「ホワイトベース」が得た情報の方が多いが、その内容というとどっちもどっちだ。「ホワイトベース」側から見れば「ザク」の実物を分解して具体的な性能を知ることが出来たのは大きいし、ランバ・ラルから見れば「ホワイトベース」にモビルスーツは3機しか乗っていないという戦力を知ったのは大きい。だが結果だけでいえば、どちらの情報もあまり役に立っていないと思う。むしろ双方とも知らなかった「敵モビルスーツの名前」を知ったことの方が大きいと思う、相手の名を知るというのは相手が心理的に実体化するように感じることで、「誰か解らない相手と闘っている」という状況から救い出してくれることで多少なりとも戦意が上がるといわれている。
ちなみに「宇宙戦艦ヤマト」の時は、捕虜のガミラス兵からは何も聞き出せなかったようだ。それはガミラス軍が徹底した秘密主義を採っており、戦闘機に乗っている一般兵には戦争の目的や別部隊の行動を知らされていないという特徴があった事による。あのガミラス兵が基地に帰投して、上官に「ヤマト」の事を聞かれても問題はなかっただろう。何てったって「ヤマト」単艦で行動しており、戦力等は目的もほぽ知れちゃっているんだから。 |