…ドレンとの戦いを終えた「ホワイトベース」は陽動作戦のため、中立サイドであるサイド6へ向かう。サイド6ではミライが婚約者であるカムランに偶然再会する。また買い出しに出ていたアムロはサイド6の街中で偶然にも父であるテムを発見するが、酸素欠乏症の影響で別人のようになってしまった父の姿に愕然とする。一方、ジオン軍ではドズル・ザビが「シャアの無能さを証明」しようと、コンスコン一隊を「ホワイトベース」殲滅に向かわせていた。だが地球連邦本艦隊の動きが掴めず、余計な戦力を割けない中での出港となっていたのだ。 |
名台詞 |
「俺だって、生きている間くらい、人並みに上手に生きてみたいと思うけど。不器用だからな。」
(ブライト) |
名台詞度
★★★★ |
「ホワイトベース」サイド6入港時に、艦にやってきて火器類の封印をしたカムラン検察官こそがブライトが気にしていたミライの婚約者であった。乗員の多くがサイド6の街へ出てしまった中、ブライトは艦の責任者としてサイド6の役所に呼ばれていたのだろう。ミライは街に出ずに艦橋で留守番をしていた。ブライトが艦に戻ると、ミライはブライトのシャツを繕っていてこれにブライトが驚く。驚きついでにブライトはカムランについてミライに聞くと、次点欄の通りに答える。それに対しブライトが「人の縁は大事にした方がいい」と言うが、ミライはこれがブライトの本心でないと見抜き「本気?」と問い返す。この答えがこれだ。
そう、不器用な人間同士が恋愛をするからこんな「もどかしい」関係となっているのだ。それをブライト自身がよく気付いている上、自分の気持ちをハッキリ言いたいのに言えない自分の情けなさもよく分かっているのだ。でも何とか、自分の気持ちの一片だけでも伝えようと必死になって絞り出した言葉が「不器用だから」というこの言葉である。この台詞をやっとの思いで絞り出すブライトに、今まで見せてきた「ホワイトベース」最高指揮官としての面影はない。
こう言われたミライは、艦橋から立ち去るブライトの背中を見送って「ほんと…」と答える。こう反応するしかない状況ではあるが、ミライはブライトの気持ちに気付いていていい加減どっかで気持ちをハッキリさせて欲しいと感じていたことだろう。そして、この頃からミライはスレッガーにも心を惹かれ始めているのだ。 |
(次点)「違うのよね、あの人。戦争を自分とは関係ない物のように思っている。あれではたまらないわ。」(ミライ)
…上記名場面欄において、ミライがカムランについてこう言い切る。「戦争」というものに巻き込まれるという形ではあったもののこれを運命と正面から受け入れて戦うミライと、「戦争」から逃げてサイド6という安全地帯で平和に暮らすカムラン。ミライがこの違いを身に染みてカムランと袂を分かつ事という決意が固まっていることを示している台詞だ。その決定打はカムランが言った「(ミライの消息を)必死に探させた」なんだろうな…「探した」と「探させた」の違いがどれだけ大きいか、私はミライとカムランに教えられた。 |
名場面 |
ブライトとミライ。 |
名場面度
★★★ |
サイド6の港で繰り広げられる男と女の物語は、彼らの若さ故のもどかしさがあってこれまた好きだ。この「もどかしさ」は現在のアニメやテレビドラマには見られない、緊張感のある恋愛模様であり、なんか近未来の物語を見せられているのではなく、昭和30〜40年代の青春物語を見せられているような錯覚を感じる。
このシーンはもう名場面欄において説明済みなので詳細は省くが、気になっている女性…いや、「いつも一緒にいる片思いで好きな女性」をどうやってものにしたらいいか分からずに狼狽えるブライトの姿や、その女性の「婚約者」が唐突に目の前に現れて困惑するブライトの姿というのは、別の意味でこれまでのSFアニメになかった要素かも知れない。
それに対するミライの描写もいい、部下の立場ながら煮え切らないブライトを見守っている母性的な反応を示し、その裏には「早く態度をハッキリさせないとどうなっても知らないから!」という小悪魔的な要素も加わっている。「ガンダム」には魅力的な女性キャラが多く、ミライも間違いなくその一人であろう。そしてその魅力に振り回される一人の男がブライトって訳だ。
ミライの魅力はマチルダと同じく「母性的」な面が強いという共通点があるが、同時にその「母性的」の方向性が違うという点も見逃せないポイントだ。マチルダが「母のたくましさ」を象徴する女性なら、ミライは「母の優しさ」を象徴している女性だと私は思う。ちなみにミライの声優さんは白石冬美さん、私にとっては中学〜高校時代に聞いていたラジオ番組の司会者としての印象が強い。ちなみにアニメキャラならパタリロを思い出す人だ。 |
研究 |
・サイド6
「ホワイトベース」は陽動作戦の一環としてサイド6に寄港する。サイド6はこの地球連邦とジオンの戦争において、どちらの陣営にも属さない「中立」を宣言し、領空内での戦闘行為が一切禁止されているという設定である。こんな中立地域、あるいは休戦地域が出てくるのもSFアニメでは初めてじゃないだろうか?
だが実際の戦争において、「中立」を宣言する国や地域というのはある意図がある場合が多い。「中立」であることによって補給基地としての役割を果たして戦争による利益だけを呼び込む目的があったり、「中立」であることで戦争中の陣営の仲介役となり和平を結ぶ過程で自国にも優位に話を誘導するのが目的だったり、どちらかの陣営に与しつつも相手側陣営との関係も切れず、表面上は「中立」を宣言して「緩衝地域」になることで事実上与している陣営の力になるという意図の場合もある。
サイド6の場合、ここに挙げたうちの後者と考えると説明がつくと思う。それはブライトの台詞に「(サイド6の)ランク内閣はザビ家がてこ入れしているのさ」とあることから想像できよう。サイド6は政治的にジオンの影響が強く、戦争自体もジオン側についている勢力なのだと考えられる。
考えてみればサイド3という単一の勢力だけで、残りの人類全部を敵に回すような戦争を仕掛ける事は無謀なのだ。だからジオンは戦争開始前に少なくとももう1勢力の味方が、もっと正確に言えば敵にならない勢力が欲しかったに違いない。そこで各サイドの政権に接触して、ジオン側陣営に入るよう交渉していたと考えられるのだ。その中で唯一ジオン側に色よい返事をしたのがサイド6なのだろう、ザビ家はサイド6に有利な条約を結んで少なくとも「敵」に回らないように色々やったはずだ。恐らくジオンとサイド6単独での相互不可侵条約みたいなものもあったに違いない。これがブライトの言う「ザビ家のてこ入れ」だと考えられる。
だがサイド6にも地球連邦を敵に回せない何かしらの理由があったと思われる、恐らく地球連邦とは軍事協定のようなものがあったのだろう。そこで開戦となったとき、サイド6が取った道は「中立」を宣言することで地球連邦との軍事協定は破棄しつつジオンとは相互不可侵は守るという形を取り、「中立地帯」のためにサイド周辺を休戦地域にすることでジオンに対する緩衝地帯となる。このような形でジオンに寄与するという体制を取ったのだと考えられる。
問題はサイド6が地球連邦にどんな「弱み」を握られているかだ。最初は食糧や資源を地球から輸入していると思ったが、もしそうだとすればこれらの禁輸政策を採られて地球連邦に服従するしかなくなってしまう。サイド6は資源や食糧というライフライン以外の、小さな事だけど大事だという微妙な件で地球連邦に「弱み」を握られているに違いないのだ。だからこそ「ジオン陣営に入る」のでなく、積極的にジオンにも与さない「中立」という立場で地球連邦にも面目が立つような立場にしているのだ。 |