…ソロモン基地が陥落してもジオンはまだ敗北を認めない。ギレンが次なる新兵器「ソーラ・レイ」を用いた作戦の承認をデギンから得ようとしていたのだ。一方戦場では、連邦のコンペイトウ宇宙要塞(先の戦いで連邦が占領したソロモンのこと)で一部の兵士や高官が頭痛を訴えたかと思うと、戦艦やモビルスーツが次々と謎の爆発を起こすという事件が起きていた。この原因を探るため「ガンダム」が出撃すると、その現象は収まったのだが…これこそララァによる攻撃の戦果であった。それと平行して「ホワイトベース」ではセイラがブライトに自分の正体を打ち明け、ジオンではシャアがキシリアに正体を見抜かれる。 |
名台詞 |
「せっかく減った人口です、これ以上増やさずに優良な人種だけを残します。人類の永遠の存続のために、地球圏を汚さぬためにです。そのコントロールには、船頭は少ない方がよろしいかと。」
(ギレン) |
名台詞度
★★★ |
なぜジオン公国が戦争を仕掛け、そして国防圏が破綻しても戦争続行にしがみつくよりどころは何なのか? これをギレンが語ってくれるのがこの台詞だ。ギレン総統は「ソーラ・レイ」を使用した連邦艦隊殲滅作戦の承認を得るため、デギン公王の元を訪れて作戦の説明を行う。デギンは国民の多くに立ち退きを強いる作戦の遂行は軍人としてあるまじき行為であるとギレンを批判し、その上で連邦に勝ってどうするのかをギレンに問う。その返答がこの台詞だ。
この台詞によれば、ジオンが戦争を起こした真の目的は地球連邦からの完全な独立ではなく(当初はどうだったのかは置いておいて)、地球連邦をも支配下に置いて自分の思い通りに人類をコントロールしようという点に行き着く。その背景には戦前は人類が増えすぎて多大な苦労をしていたという事実が潜んでおり、同じ苦労をしないためにはどうするかという問題があって…そしてこの台詞はその問題に対するギレンなりの答えなのだ。そのために彼は民主主義を廃し、誰かが人類の先頭に立ってその数をコントロールしなきゃならないという恐ろしい思想の持ち主なのだ。どっかの半島の北側にある国よりも質が悪いかも知れないぞ。
この台詞を聞いたデギンは、ギレンを「ヒトラーの尻尾」と評する。ヒトラーについて語ると長くなるのでやめておくが、優良人種とそうでない人種を分けて人類をコントロールしようという思想がヒトラーのそれにダブって見えたと言うことだろう。だがデギンに言わせれば息子はヒトラーになりきれていない、だから「尻尾」でしかないのである。それを聞いたギレンは地球連邦が行った民主主義を批判し、「ヒトラーの尻尾の戦いぶりをご覧下さい」と捨て台詞を吐いて立ち去る。
またこの台詞にもロボットアニメとして革命的な点があることも付け加えておこう。この戦いの背景に社会情勢やイデオロギーといったものを取り入れていることである。「ヤマト」のガミラスは止むに止まれず地球を襲ったという点があってデスラーの持つ主義主張というものは描かれなかった、「ガンダム」では国家体制や国家主導者の主義主張が戦争遂行に密接に絡んでいることを描き、さらにリアルな世界となったのである。 |
(次点)「ドズル閣下から左遷されてキシリア様から呼ばれたときに、いつかこのような時が来るとは思っておりましたが、いざとなると怖いものです。手の震えが止まりません。」(シャア)
…下記名場面欄でキシリアがシャアの正体を知っていたという事実が判明したときに、シャアが言った台詞だが。私はこれはシャアのお芝居だと解釈している。シャアはとっくの昔にキシリアが正体を見抜いていることに、気が付いていたと思う。 |
名場面 |
シャアとキシリア。 |
名場面度
★★★ |
キシリアはシャアが乗艦を訪れると、すぐに私室に来るように命じる。その命に従ってやってきたシャアは立ってキシリアの話を聞いていたが、キシリアは座るように勧める。シャアが椅子に腰掛けてマスクを取ると、「やはりな、言われてみれば父上の面影がある」とシャアに告げる。シャアが名台詞次点欄のように返すと、キシリアはシャアの正体を知って笑ったと言う。彼女は幼い日のキャスバルとよく遊んだと告白し、その上でシャアの動きが怪しいので調べてみたこと、そして正体がかつて一緒に遊んだ小さな子供と同一人物と思ったら腹が立つよりおかしいと言う。
そしてキシリアは問う、ザビ家打倒を諦めて何を考えているのか、キャスバルとしてではなくシャアとしての野望は何なのかを。シャアはガルマに対しての復讐で空しくなったとした上で、父の言うようにニュータイプによる時代の変革があるならば見てみたいというのが自分の野心だとキッパリ語る。これを聞いたキシリアは「ギレン総帥を好かぬ、それだけは覚えていておくれ」とシャアに本心を語る、シャアが「新しき時代のために」と立ち上がるとキシリアは「政治は難しいのだ」と捨て台詞で決める。
このやり取りを子供の時に見たときは、なんだか難しくてよく分からないやりとりだった(名台詞欄のもそうだが)。シャアの正体がキシリアにバレただけ、と感じていた。
だが今見直してみるともうこう言うしかない、「やーい、キシリアさん引っかかった〜」と。シャアは何もかもお見通しだったのだろう、キシリアが自分の正体を見抜いていたこと、キシリアにどう言えば「ザビ家打倒はやめた」というハッタリを信用してもらえるかということ。そのためにはシャアは手が震えている演技までして見せている。そしてここでさりげなく重要な事実がシャアにとって明らかになっている、シャアの父であるジオンを暗殺したのは間違いなくデギンであるという事実だ。それを示唆する言葉を実はキシリアがさらっと言ってしまっているのである。
つまり、やはりキシリアは「坊や」であったガルマの姉で「お嬢様」なのだ。確かにドズルよりは勘が鋭く、物事の本質を見抜き、世の中を渡って行くのは上手いだろう。ドズルはその不器用さ故にソロモンで散ったという見方も出来るし、かつドズルはシャアの正体を見抜くことすら出来なかった。それでもキシリアはやはり「詰めが甘い」のだ、シャアがキシリアに正体を見抜かれて怖がっているという芝居に騙され、シャアの野望からザビ家殲滅が消えていると判断してしまう。その判断をしてしまったら突然に警戒感を無くしてしまい、言ってはならない自分の本心…つまりキシリアがギレンを好いていないという「ザビ家に亀裂が入っている事実」を語ってしまうのだ。その事実はザビ家打倒を狙う者にとって、有利な情報に他ならないのに。
だがこの後、シャアはザビ家打倒という目的を一時的に見失うことになるのは皮肉な事だ。さらに物語が進むと、キシリアやドズルだけでなく、ギレンも甘ちゃんだったと言うことが芋づる式に分かってくるからこの物語は面白い。 |
研究 |
・ジオン公国
「密閉型コロニー四十数機を持って形成されたジオン公国。総人口は1億5千万を数え、今次大戦における損害が最も少ないサイドとも言える。」
波平さんがジオン公国についてこう解説する。ジオン公国は地球から見て月の裏側に当たるサイド3が地球連邦から独立して出来た国家だ。スペースコロニーについては前に考察しているが、ここで出てきた「密閉型コロニー」というのは他のコロニーとちょっと違う。以前解説したコロニーでは、円筒のうちの半分は採光窓となっていて使える土地も円筒の内壁のうち半分だけだ。だがサイド3のコロニーはさらなる人口の増加に備え、採光窓の部分も土地として使えるように改造したコロニーである。つまりコロニー内壁の600平方キロメートルを丸々大地として使うことができ、山岳や森林など居住以外のスペースに他のコロニーと同じ位の面積を取ったとしても、それでも1コロニー辺り倍の人口を受け入れることが可能になる。従って1コロニー辺りの人口は600〜900万人となり、サイド3のコロニー数が40機としても最低で2億4千万人の人口を受け入れることが出来るのだ。この数値のズレは、サイド3には軍需産業を中心とした工業地帯が多いという解釈を取れば説明は付くだろう。またこれほど余裕があるから「ソーラ・レイ」を作る際にコロニー丸々1個分の住民に立ち退きを強いても対応することが可能だったのだ。
採光窓が無くなったからには代わりの手段で太陽光を導入しなければならない。そのためサイド3のコロニーの周囲には巨大な太陽電池パネルが多数浮いていて、これで発電した電力によって巨大な照明設備を稼働させているようだ。また水も多く必要になるはずだが、それはどうなっているのだろう?
それに円筒の真ん中は巨大照明設備のわけだから雲を作る事は出来ず、雨を降らせることが出来ないような気がするのだが…。
今回見えてくるのはサイド3の事だけでなく、ジオン公国の政情についても見えてくる。主権はデギン公王が持っているようだが、実権はギレン総帥が握っているのみならず、事実上はギレンの独裁政治という状況のようだ。一応議会があって「首相」もいるので選挙制度によって国会議員が選任され、そこから国民の代表として首相が選ばれてはいるようだ。だが議会の決議は総帥の承認を得ないと実行されないように憲法で決まっていると考えられ、システム的に総帥が国を思うように操れるような機構になっているのだろう(劇中に首相が「我々は傀儡だ」と言うシーンもある)。このように表向きだけ民主主義というかたちになっているのは、連邦からの独立に当たって「選挙制度による議会民主主義」制度を採ることが条件とされたのだと考えられる。
だが首相というのは対外的には国家の代表として認められており、劇中では首相が外交ルートを通じて地球連邦と和平を結ぶルートを開こうとしている設定になっている。これは中立を宣言しているサイド6経由の外交ルート以外には考えられず、なかなかルートが開かないのはサイド6にもたらす利権で揉めていると考えられる。それに業を煮やしたデギンは軍事ルートで和平を結ぶべく、地球連邦艦隊と接触して司令官であるレビル将軍と休戦条約を結ぼうと画策したと考えられる。首相というのは実態として外務大臣みたいな扱いなのかも知れない。 |