第21話 「自由に飛びたい」 |
名台詞 |
「ハイジ、その小鳥はね、山よりそのカゴの方が良いのよ。ハイジ…みんながあなたと同じじゃないの、その小鳥は山なんか知らないのよ。私だってこの家からほとんど出たこととはないわ。でもね、ここには山にはないものがあるわ。さっき見せたお人形だって、ご本だって…。」
(クララ) |
名台詞度
★★★ |
ハイジはクララが飼っていた小鳥を空に逃がしてしまうが、しばらくするとその小鳥がクララの部屋に戻ってくる。ハイジは小鳥も山が良いに決まっていると思いよかれと思ってやったことであり、小鳥が帰って来た事が理解出来ない。そんなハイジにクララがこう語る。
この台詞を通じて訴えられているのは「価値観の違い」という論点だろう。ここまでのハイジをみていれば解るが、ハイジは山で育ったが故に山がとても良いところで、そこが一番の楽園であり帰りたいと思っている。そしてハイジはみんなが山に行ければ幸せだとも考えている。小鳥を逃がした行為もその考えから出たものだが…そのハイジの言動は正しくない。
都会人には都会人の楽園があり、都会人には都会人なりの「良いところ」という概念があり、それは山育ちの者とは違うという厳然たる事実がこのクララの台詞に込められているのだ。都会で生まれ都会で育ったからこそ、都会の良いところも悪いところも本当に理解しているクララならではの台詞である。このクララの台詞は正論なのだが、ハイジは幼いことも手伝って理解出来ない。
だがこれはハイジの次なる決意に繋がる。詳しくは名場面欄にて。しかし、吉田理保子さんの声って良いなぁ。
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名場面 |
ハイジの決意2 |
名場面度
★★★★ |
名台詞欄の台詞を受け、ハイジはクララに反論する。「小鳥が山や林よりカゴの中が良いなんて、そんな事ないわ」とした上で、「山に来てみれば解るわ、どんなに嬉しそうにピッチーたちが飛び回っているかを見れば」と踊りながら言う。だがクララは沈んだ声で「いいわね、ハイジは…」と呟く。しばらくの沈黙の後、ハイジがクララの元に歩いて「ごめん」と謝る。またしばらくの沈黙の後、「お食事の時間です」とチネッテが飛んでくる。クララが明るい声で「行きましょ、遅れるとまた叱られるわ」と言うと、ハイジはクララの車椅子を押す。そして「山へ行ってみない? 私の山よ、アルムの山へよ。どうしてもクララに、一度あの山を見せてあげなくっちゃ!」とクララに語る。クララはこれに笑顔で答える。
ハイジは名台詞欄でクララが語る「価値観の違い」というのを理解出来なかったに違いない。だがひとつ考えたことは、クララにしろロッテンマイヤーにしろ小鳥にしろ「山」を見せればその良さが解ると言うことだろう。同時にクララは足が悪くこの家のことしか知らないからこそ山の良さを知らず、都会が良いと感じているのだと判断したのだと思う。ハイジはそんなクララが可愛そうだと思い、何が何でもアルムにクララを連れて行くという決心をしたのだろう。この辺りの一部はこのシーンの直後にナレーターが語っている。
このハイジの決心は、この物語の終盤を牽引することになる貴重な点だ。ハイジに「クララをアルムへ連れて行く」と強い意志がなければ、クララは山へ行く事を許されないのだ。それはクララの特殊事情…病で車椅子生活をしているという点を考えれば、大きな壁である。その壁を乗り越えるに辺りどうしても必要なのは、ハイジの強い思いだ。それがここで明確にされている。
そしてそのためには、クララ自身にも「山へ行きたい」という強い意志が必要だが。ここではそれはない。クララの笑顔は「ハイジのそんな気持ちが嬉しい」といったところだろう。クララ自身はハイジの言う「山」へ行くのは夢物語だと、この段階で考えているに違いない。
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感想 |
いよいよ、ハイジのフランクフルトでの生活が始動する。その過程でハイジによって歯車が狂ったゼーゼマン家のドタバタぶりが描かれ、ハイジの存在で「平穏な日々が狂っちゃった」感を強く描いたのは面白い。「仕事を増やしやがって…」と愚痴るチネッテがなんともいい味を出しているし、「どうしよう…あの娘のためにこの家はメチャメチャになるわ」と張りを失った声で呟くロッテンマイヤーも良い。だがその中でも、セバスチャンだけは自分は以前からこんな感じだという感じで演じるのがこれまた良い。セバスチャンはハイジによってゼーゼマン邸内の歯車が狂っていることを楽しんでいるに違いない。この人の演技は味があって良い、声は999の車掌のあの人だ。
その過程でここまでのハイジを彩ってきたアイテムがひとつ失われる。それはここまでハイジがずっと着用していたあの服だ。ハイジはチネッテに入浴させられた後、あの服はなんと燃やされてしまうのだ。あのハイジ定番の衣装がこんな感じで燃やされていたなんて、今回視聴し直すまで気付かなかったなぁ。あのシーンは短いながらも、ハイジがハイジでなくなるようでちょっと怖かった。同時にフランクフルトでのハイジを印象付ける、あの白い服の登場だ。
ここではハイジが地下室に閉じ込められて反省させられたりしても簡単に染まらず、ハイジの暴走を止めたのが名台詞欄〜名場面欄シーンでのクララというのは本当に上手く作ったと思う。ここで普段のゼーゼマン家において、ハイジを制御出来るのはクララだけという構図も上手くできたと思う。ここはハイジが「いつかクララをアルムへ連れて行く」という決心をするのと同じ位に、今話で重要なポイントであろう。 |