第52話 「また会う日まで」 |
名台詞 |
「さよなら、樅の木さん。さよなら、丸い窓。さよなら、アルムの山…。」
(クララ) |
名台詞度
★★★★ |
夏の終わりも近付き、いよいよクララは下山してフランクフルトへ帰ることとなる。「おじいさん」の背負う背負子に乗り、小屋を出発したクララはヨーゼフに別れの挨拶をした後、「おじいさん」ら立ち止まるように言う。そして小屋をじっと見つめたまま、静かにこの台詞を吐くのだ。
クララのアルムに対する想い、「来て良かった」と心からの思い、そして自分を成長させてくれた場所との別れ…この場所がクララにとって忘れられない場所になったというという彼女の気持ちが、ここでは上手く演じられている。まさに「後ろ髪を引かれるような」というのは、こういうことをいうのだろう。
私も旅先でこのような思いをしたことは何度かある、だから今の私がこの「アルプスの少女ハイジ」最終回を見ると、自分の経験談と重なって最も印象に残る台詞はこれだったのだ。
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(次点)「そうね、クララが春を運んでくるんだわ。」(ハイジ)
…名場面欄シーンの後、ハイジは「早く春にならないかな」と語る。ペーターが「クララが来れば春だよ」と返すと、ハイジがこう語る。この台詞もとても印象的で、ハイジがクララの再訪を春の訪れと共に待っているという思いが上手く込められている。名台詞欄をどっちにするか最後まで悩んだ。 |
名場面 |
クララ再訪の期待 |
名場面度
★★★★★ |
冬のある日、ハイジとペーターはいつものようにソリ遊びを楽しむ。その途中にマイエンフェルトを出発して行く汽車が見えた。「あの汽車に乗ればクララの所へ行けるのね」「クララもあれで来るんだね」と語り合うと、二人は「クララーっ! 早くおいでーっ!」「クララーっ! 早く来いよ〜っ!」とそこらに向かってクララを呼ぶように叫ぶ。すると「ハイジーっ! ペーターっ!」叫びながらクララがこちらに向かって走ってくるではないか。3人が抱き合うと辺りの風景は唐突に夏の景色に変わり、3人は走って山の上のお花畑まで駈けて行く。ヤギ達も嬉しそうに駈けてくる、山の動物たちも顔を出す。3人はお花畑で思いきりはしゃぐ、3人で花を撒き散らせてはしゃぎ花のシャワーの中にいるような景色だが…その景色が徐々に雪が降るシーンとなり、辺りはまた雪景色に戻る。そして名台詞次点欄シーンへと続く。
「アルプスの少女ハイジ」のラストを象徴するシーンだ。既にクララもフランクフルトに去っているが、ハイジやペーターはクララの再訪を心待ちにしている。それだけでない、まだヨチヨチ歩きだったクララが、今度の春には走れるようにまでなってここへ再訪するという期待にまでなっているのだ。このクララの再訪という期待と、雪国の人々には待ち遠しい「春の訪れ」を重ね合わせ、二人が持つクララへの友情と次の再会ではクララと共に走り回れるという予感を上手く描き出している。
そんな理論的なことはともかく、このシーンは本当に上手く作られていて、最終回のラストを飾るに相応しい爽やかなシーンとして描かれていてとても印象的だ。このシーンで物語にうまく「オチ」がついて締まり、「アルプスの少女ハイジ」という物語は完成したと言っていいだろう。とにかく長編小説を時間を掛けて最後まで読んだような爽快感と、登場人物達が「春」に何を望んでいるかが見えてきて、さらにその期待通りになるという事まで想像させられる素晴らしいシーンだ。ホント、どっかの某長い旅には見習って欲しいラストシーンだ。
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感想 |
「アルプスの少女ハイジ」は、名場面欄で上手く話がオチた。あのラストシーンは子供の頃に見たのをハッキリ覚えている。序盤のゼーゼマンや「おばあさま」がクララの自力歩行を見て盛大に驚いたシーンと同じ位、私の印象に残っていた。もうホント、今回はどの台詞を名台詞欄にして、どの場面を名場面欄シーンにするか悩んだ。
序盤のゼーゼマンと「おばあさま」に自力歩行を見せつけるシーンは、ここまでの展開を考えればどうしても必要な食べ残しだったシーンで、これが無ければ「アルプスの少女ハイジ」は終われないというのは誰もが同意するところだろう。そして次は「おばあさん」の事も忘れずにうまくオチをつける。それはゼーゼマン家からクララ自力歩行の「御礼」をハイジが辞退し、代わりにそれを「おばあさん」に進呈するという展開で描かれた。こうして「おばあさん」が「フランクフルトのハイジのベッド」を進呈されるという事で、「おばあさん」がハイジの優しさを受け取るという形で「ハイジとおばあさんの物語」もうまく結論付いたと言っていいだろう。
こうして語り残しや食べ残しを消化した後で、物語はクララとの別れという物に行く。ここは典型的な別れが描かれたが、この中でもクララの名台詞は自分の体験と照らし合わせるととても印象的で、名台詞欄はこれに落ち着いた。そして物語はクララとの別れを描いて終わるかと思ったら、ここからがこの最終回の本題だった。
クララが去るとアルムにはあっという間に冬が訪れ、ハイジらの冬の生活が描かれる。その中でクララが日に日に足が良くなっていることが明確にされ、ワンシーンではあるがフランクフルトでのクララとロッテンマイヤーの様子が出てくる。ロッテンマイヤーはクララの成長に心を入れ替えた様子が、このワンシーンだけで分かるという優れた物だ。そして名場面欄へと展開し、最終的にハイジやペーターとクララの友情をしっかり描いて、物語が終わる。
実に印象的な最終回だ。事務的にあっさり「クララが歩きました、そして山から去りました、終わり」ではなく、皆の思いやキャラクター性が落ち着くところへ落ちたという感じである。その中でロッテンマイヤーの変化をちゃんと描いたのは秀逸。だがデーテは結局画面に再登場せず、印象の悪いまま消えてしまったことになるが、再び画面に出すには完全に機を逸していたのでそれで良いだろう。風呂敷は上手く畳まれ食べ残しもなく、最後は爽やかに終わったのは本当に好感が持てる。
これで本編考察は終わるが、総評と追加考察で皆さんにはもうちょっと「アルプスの少女ハイジ」の世界に付き合って戴こう。 |