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・「牧場の少女カトリ」のエンディング
「風の子守歌」 作詞/作曲・伊藤 薫 編曲・鷺巣 詩郎 歌・小林 千絵

 今回の再放送で一度聴いて「ああ、こんなんだった」って思い出したエンディングだ。詩の内容は一口で言えば「故郷でささやかに暮らしてゆきたい」というものであり、あちこちに働きに出ているカトリの本心を上手く描きだした上で、「ララバイ」を繰り返して子守歌へと落としてゆく。決して派手とは言えない本作の物語を閉じるのに、とても相応しい落ち着いた静かな曲だ。
 背景画像もとても単純で良い。紫色のバックを背景にして、カトリとアベルが様々なシーンを演じているのだ。最初はカトリとアベルが並んで歩くところから始まり、座っているカトリと「チンチン」を行うアベル、カトリとアベルが並んで寝そべる(前からのものと横からのものの二種、後者はアベルが欠伸をする)、サビに入るとカトリとアベルが並んで走り、アベルにスカートを引っ張られて困惑するカトリ、カトリがアベルに何かを命ずる、カトリがアベルを抱え上げる、二度目のサビでカトリがアベルを抱え上げて回って踊る、カトリとアベルが向かい合ってジャンプ、カトリとアベルが座ってる…と流れ、最後は背を向けて並んで歩くカトリとアベルがこちらを振り向いたところで終わるといった流れだ。このカトリとアベルの画がとても楽しそうで、落ち着いて静かな曲とのバランスがとても印象的なエンディングであった。

・「牧場の少女カトリ」の総評

・物語について
 物語は3編に分けられる。だが1話の前半はこの3編のどれにも属さないプロローグとみて良いだろう。1話後半から24話までが「ライッコラ屋敷編」、25話から35話までが「クウセラ屋敷編」、36話から49話までが「トゥールク編」だ。

 まず1話前半は前述したように、3編のうちのどれにも属しないプロローグだ。このたった半話でカトリと母の別れを盛大に描く。第1話のうちに主人公が母と別れてしまう物語と言えば「母をたずねて三千里」があったが、あれは1話全編を掛けて「主人公が母と思い出作り」をした上での母との別れだった。だが本作ではそんな思い出作りもしないまま、本当に容赦のない母との別れを描いた。これにより母のキャラクター設定は何もなく、主人公カトリの言動からそれをひもとくしかないという物語になってしまった。そしてカトリや祖父母のキャラクター設定も含めて、「母との別れ」以外の物語設定の構築は続く「ライッコラ屋敷編」を勧めながら行うこととなる。

 「母との別れ」が済むと、物語はガチでカトリの最初の勤め先であるライッコラ屋敷へ向かう。そう、母と別れてカトリが9歳に成長した瞬間から、「ライッコラ屋敷編」は始まっているのだ。1話のうちにカトリの祖父母が唯一の収入源である牛を失うという悲劇が描かれ、2話からはその事件を発端にカトリが働きに出るまでが描かれ、そのままノンストップでライッコラ屋敷への物語へと突入してゆく。カトリの二人の友であるマルティやペッカの印象を強く描き、彼らとカトリの物語を中心にカトリが「勉学」に立志するまで上手く描いている。その過程でメンヘルの奥様との物語や、アッキの登場、盗賊襲来、おとぎ話の劇中劇、クマとの対決など、物語に緩急を付けて視聴者を飽きさせない工夫がされており、「牧場の少女カトリ」の屋台骨となる展開はまさにここだろう。

 そして24話でカトリがライッコラ屋敷を解雇されて故郷へ帰ると新展開だ。そこまでにカトリの新しい勤め先が「クウセラ屋敷」であることは確定しているが、この間にキチンと「何で大金を稼いだカトリが再び働きに出なければならないか?」の理由付けとして、祖父の発作を描いたのは感心だ。またクウセラ屋敷への道のりも平坦でなく、ハンナ一味に襲われたり、クウセラ屋敷に着いてみたらカトリを雇う話が全く出来上がってなかったりと、ピンチと紆余曲折を描いて視聴者は手に汗握ったり不安になったりと忙しいところだ。だがカトリが奥様であるロッタ担当の使用人に落ち着くと、勉学を志したカトリの物語へと入ってゆく。ソフィアとの出会いやそれを通じてのカトリにある現実というものをじっくり描き、勉学の必要性に対する疑問や、カトリが勉強を続けられる理由もキチンと描く。そんな毎日を平凡に描いたところで、クウセラ屋敷の旦那様の戦死で話がひっくり返り、この「平凡」が途切れたところで次の新しい展開へと入ってゆくのが36話だ。

 36話では旦那様の死を受けて、ロッタが屋敷を処分して新しい生活を決断するところからが本作の最終局面「トゥールク編」だ。ここでもロッタが屋敷を処分するにおいての変化を描くことから始まり、その新しい生活に入る過程でカトリの働き先が代わり、同時にカトリが学校へ通えることとなって「勉学への道」が開けることが確定する。続いてカトリが再度帰郷して改めて「なぜ働き続けねばならないか?」という要素もキチンと描く。同時に「ライッコラ屋敷編」では中途半端だったカトリとヘレナの対決にも決着をつけ、祖父母との別れも盛大に描いて故郷で語り残した事を全て描いた後にカトリがトゥールクに着いたときには本編の3分の1を消化してしまっているというのんびりさだ。そのせいかトゥールクでの物語が忙しなくなってしまった印象は拭えない、ここではイーネスとの対立やセルマの理解など語りどころは沢山あるのに、短い話数に無理矢理押し込んだ窮屈感をどうしても感じてしまう。特にリラク邸には良いキャラクターが多く、サロモンなど短時間で印象が強くなったキャラがいたのも事実で、もう1〜2話増えるだけでこの辺りのキャラを有効に使った面白い物語が作れたはずだ。これはトゥールクでのカトリの友人となるレオにも言えることだ。
 最終回の前の話で「勉学を志したカトリ」の当面の願いであった「学校へ行く」という結論が出る。そして最終回の後半でやっとカトリと母が再会するストーリーになり、二人が再会して並んで故郷へ帰ると共に、カトリの将来がキチンと解説されて物語は幕を閉じる。

 物語は殆ど一話完結的なものはなく、全体的な大きな流れとして最初から最後まで一貫している。その中でプロローグの「母との別れ」以外に本作では大きなイベントがないのは、視聴者に印象が残りにくい点として挙げられるだろう。また主人公が働き先を変えても、最初と二つ目は農家で結果的に同じような光景が描かれており、二つ目と三つ目ではカトリの仕事内容自体が変わっていないから同じような事を繰り返すという展開になってしまっている。物語を締める「母との再会」も、主人公が能動的に探しに行ったわけでも、母の側が能動的に探し求めたわけでもなく、「偶然近くに居た」では盛り上がるものも盛り上がらなくなってしまい、これが本作が印象に残りにくい原因の一つであると私は考える。本作が印象に残りにくい理由は他にもあるが、全部語るとキリが無い。

 ちなみに本作で私が一番好きな話は21話、一番笑った話は43話、泣けた話は30話である。21話が気に入ったのは可能な限り誰も悪役にしたくないというグニンラの人の良さに尽きる。このおかげでアベルが大手柄を挙げて飼い主のカトリの大金星になるだけでない、その上で悪役が退治される清々しさもある。なによりも盗賊が退治できるまでにアベルが毒殺され掛かるなど紆余曲折もあり、展開が解っていながらも手に汗握る話で何度見ても飽きないのだ。
 30話で泣いたのはやはり「見にくいアヒルの子」を朗読するカトリのシーン、43話で笑ったのはソフィアの自動車運転というのは言うまでもない。その上で極端につまらない話もなく、物語自体は平坦であるが今見直すと大変面白い物語であったのは確かだ。


・登場人物
 本作は3編に分かれているとしたが、その3編それぞれで個性的なキャラクターが出てくるのが特徴だ。それとは別に主人公の身近にいるキャラクターが全編通して出てくるというのが、キャラクター構成の特徴だ。

 主人公カトリは、世界名作劇場の主人公としては際だった特徴がないが、その容姿はとても可愛く描かれているのが印象点であると言えるだろう。世界名作劇場で「際だった特徴がない」主人公と言えば、私の場合はまず思いつくのはペリーヌだ。そしてペリーヌとカトリの共通点は、性格的に際だった特徴がなくても賢くて一途なところであることは確かだ。その一途さが人を引きつけるというストーリーも、ペリーヌとカトリの共通点であるだろう。そこからカトリの特徴を引き出すとすれば、周囲に集まる人が男性中心であることだろう。結果ストーリー的にカトリという少女に男が群がるような構図になってしまっている。カトリに群がる人にはソフィアやエミリアという女性もあるが、ソフィアは結果的にネタキャラになってしまい、エミリアは今ひとつ目立たない。こんな訳でカトリに「魔性の女」的な要素が、本人のキャラクター性とは別についてしまったのは本作の痛いところだろう。

 カトリの一の友人として登場するマルティは、最初の方で演じる役者さんの演技が安定しないが、安定するとカトリが好きだというキャラクター性が板についてくる。その上で少しのんびりした性格とカトリに負けず劣らずな一途な正確で描き、カトリについて「自分と似たようなところがある」という意味で好きになってゆく理由付けも上手く出来たと思う。

 カトリの二の友人として出てくるペッカは、最初はカトリを見守る兄貴分的と思わせておいて、カトリに対して鼻の下を伸ばすような性格になって行く。特にアッキが出てきた後はその傾向が強くなったのは確かだ。その上でサボり癖があり仕事よりも私情の方が表に出てしまう自分勝手な性格と、優しさの両方を上手く兼ね備えたと思う。

 アッキはカトリを見守る大人であり、かつカトリに文学などの素晴らしい面を伝える役割から物語に入ってくる。最初は逮捕されたりとか危なっかしい大人として描かれるが、その点を上手く使ってカトリの危機を救う存在となったところで「主人公を見守る大人」としての地位を確固たるものとする。

 ソフィアは最初は賢そうな女医としての登場だが、物語終盤ではまさかまさかのネタキャラへの変化を遂げる。自動車で暴走する彼女の姿は見ていて楽しかったし、物語終盤をある意味盛り上げたのは確かだろう。

 ロッタはカトリが二番目に勤めた家の奥様で、最初は優しさだけが強調されたキャラだった。だがカトリを見守るうちに強烈な母性を発揮するようになり、本作で最も印象的な女性キャラになったのは確かだろう。カトリに優しく接するだけでなく、ある時は厳しく当たる真の大人の姿を上手く描いたと思う。

 その他、詳細に分析すべきキャラクターは沢山いるが、本作はキャラクター数が多くここで全部語りきれない。このキャラクターの多さもこの物語を盛り上げているところである。

 最後に名台詞欄登場の数である。本作ではキャラクター数が多いという特徴通り、名台詞欄に名が挙がったキャラクターも多い。その上で1話限り登場のゲストキャラが名台詞欄に殆ど出ていないのが特徴だ。また主人公の家族である祖父母が全く登場していないのも驚いた。
 トップは主人公カトリだが、13/49回というのは「世界名作劇場」シリーズ主人公としては少ない方だ。だがカトリは物語中盤で印象的な台詞は少なく、20話代では全く名台詞欄に挙がってこない。
 そして2位は後半だけ登場のロッタ、27話以降当時要だから5/22回であり登場頻度はトップのカトリに近い。その後はマルティ、アッキと続く。

名台詞登場頻度
順位 名前 回数 コメント
カトリ 13 物語の主人公だけあって名台詞欄登場回数は当然のようにトップだが、中盤展開である21話から13話に渡って本欄への登場がない。印象的な台詞は15話と48話、前者が働き出した学びたいカトリの思いで、後者はその答えだろう。
ロッタ 主人公に対して強烈な母性を見せてくれたせいか、特に終盤の41話から4話連続で名台詞欄登場した。その中でも44話、自分が留守中のカトリを気遣う台詞は、カトリを甘やかすだけでない親心がキチンと描かれ、強印象だ。
マルティ 主人公の親友という立場ながら、登場回数の少なさもあって本欄への登場も思ったより少なかった印象が。その中でも印象に残った台詞は3話と12話、特に3話ではカトリとは友人であって主従関係になりたくないという思いが良かった。
アッキ 主人公を支える「大人」の一人として描かれたが印象的な台詞は少なかった。本欄登場の3回も、他に良い台詞を言ったキャラがいないから取り上げたようなものばかりだ。彼の台詞で最も印象に残ったのは、初登場時の詩の朗読だ。
エスコ ライッコラ屋敷内で主人公を支える役回りだったが、屋敷のみんなが優しいので回を重ねる毎に存在感が薄くなったキャラ。10話のペッカの気持ちを視聴者に突きつける台詞が印象的だった。
ウッラ 主人公の勤め先、ライッコラ屋敷の奥様。最初はメンヘルだったので一時はどうなるかと思ったが、すぐに優しい奥様に。印象的なのは24話の台詞で、なぜカトリが病を治してくれたのか上手く語られたと思う。
ペッカ カトリがライッコラ屋敷にいた頃から登場、鼻の下を伸ばしながらカトリを助ける。19話の名台詞はその「鼻の下の伸び具合」がよく現れていて好きな台詞だ。ペッカが良い台詞を言う回は、他のキャラがもっと良いことを言ってしまうという不運多し。
ナレーター 物語の名解説と言って良いだろう。17話のハンナ初登場時の解説は、視聴者が第一印象で持ったハンナというキャラクターに対する不信を確定させてしまった名台詞だと思う。
ソフィア カトリに進むべき道を示す女医だったはずだが、物語がトゥールク編に入ると「ハンドルを握らせると暴走娘になる」というネタキャラになるとは思ってもいなかった。彼女の二度の名台詞は印象的なものばかりだが、最終回のものが最も印象的だった。
クラウス カトリが勤める屋敷の坊っちゃん。幼児という役どころで名台詞には恵まれていないが、それでも二度の登場だ。どちらも非常に短い一言で、35話は「幼児から見た父の死」というものを上手く再現したと思う。
11 サラ 第一話と最終回だけ登場の主人公の母(回想除く)。1話の名台詞は親の純粋な本音を、とても上手く演じていて胸に来た。第一話で主人公と別れてしまう潔さが、この物語を盛り上げたのは確かだ。
テーム ライッコラ屋敷のご主人。厳しくて怖そうな第一印象とは裏腹に、唯一の名台詞ではカトリとアベルが幼くても認めるところはちゃんと認めて一人前に扱う心の大きさを演じている。あの台詞がなければテームの印象は大きく変わったはずだ。
ヘレナ マルティの従姉妹で、一貫してカトリを批判し続けたキャラ。13話で取り上げた名台詞では、彼女の「家畜番なんかに負けたくない」という思いが描かれているが、それに対して自分で何もしなかったから悪女として完成したと思う。
グニンラ ライッコラ屋敷に冬の間だけやってくる雇い人。21話の名台詞はハンナの悪行を阻止し、アベルに手柄を立てさせるという内容だけでなく、その優しい口調が印象的だった。この人が亡くなって翌冬のライッコラ屋敷はどうなったんだろう?
ビヒトリ ライッコラ屋敷の雇い人で家畜管理担当。エスコの存在感が薄くなるのと反比例して存在感を増した。23話ではカトリに現実を告げるだけでなく、カトリを認める台詞を上手く吐いた上で、カトリ解雇への道筋をうまくつけたと思う。
マリ マルティの姉、最初はマルティやカトリにあまり優しくなかったが、カトリに本を贈ったことでそのキャラクター性は一変。名台詞ではマルティに対して誰もが言いたいことを口に出してくれただけでなくも、彼女の性格もでていた。
ビリヤミ クウセラ屋敷を事実上取り仕切る雇い人だが、後に主人になる。唯一の名台詞はペッカやカトリに公と私を使い分けるように訴える教育上も良い台詞だった。ペッカと同じく、言い台詞を言うと他の人にもっと良いことを言われてしまうキャラだった。
アンネリ ライッコラ屋敷の雇い人だが、彼女の存在感が強くなったのはクウセラ編に入ってからだ。30話では主人公に夢が叶わないと皆が突きつける中、孤軍奮闘してカトリに夢の実現を訴えたのが印象的だった。
ラスキ クウセラ屋敷に出入りする靴職人でゲストキャラ。彼の名台詞は、主人公が何のために学ぶのかということを、主人公だけでなく視聴者にももう一度考えさせる深い台詞だった。
アリーナ クウセラ屋敷雇い人で、後にビリヤミの妻となり屋敷の奥様になる。彼女の名台詞はその「奥様」という台詞に酔うものであり、とても可愛かった。
セルマ リラク邸の使用人で、最初はカトリを嫌っていたが、カトリの働きぶりを見て徐々に態度を変える。その名台詞は、そんなカトリが必死に働いている事を認めた簡単な台詞だが、主人公が認められて視聴者もホッとしたところだ。
サロモン リラク邸の庭師、チョイ役かと思ったら印象的な台詞が多いキャラで驚いた。特に名台詞欄に載った47話、「強さ」というテーマを最初に語った台詞は、きれいになるためにはきれいなだけじゃダメという教訓がしっかり込められている。

・はいじま的「牧場の少女カトリ」解釈
 「牧場の少女カトリ・完結編」
 2000年に制作されて放映された「牧場の少女カトリ」の総集編。

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