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第21回 「さよなら…ノーチラス号」
名台詞 「ダメだ。お前はナディアやマリーやキングを守るんだ。それが男の役目だ。いいかジャン、戦いっていうのは他人を守り、自分が生きてこそ意義があるものだ。死ぬんじゃねぇぞ。」
(サンソン)
名台詞度
★★★★★
 今回は名台詞と言える台詞が多く、どれにするか非常に悩むところでもあった。だが私の中で最も強く印象に残ったのは、サンソンがジャンとの別れ際に吐いたこの台詞だ。
 グランディス一味はこの戦いに付き合う義理はないと啖呵を切り、「グラタンで逃げる」とネモやエレクトラに言い放って艦橋から格納庫へ向かう。だが彼らが考えていたのは危機一髪にある「ノーチラス」号を救う事であり、そのために反撃に打って出る事であった。彼らが「グラタン」に乗り込むとネモに危険な的の殲滅砲を阻止する役を買って出る事を宣言し出撃となるが、「グラタン」にはジャンが潜り込んでいた。サンソンはジャンを「グラタン」の外に放り出し、「連れて行ってくれ」と懇願するジャンにこう語って別れの言葉とする。
 サンソンのこの台詞というのは、ジャンに「役割」を突きつけるものであった。「ノーチラス」が撃沈される危機にある今、これを何とか乗り越えて損害を小さくする事は乗組員の「役割」であり、そのために艦外へ出てガーゴイルの空中戦艦に反撃をするのは「グラタン」という小さな兵器を所有して「ノーチラス」号に乗り込んだグランディス一味の「役割」である。
 では、ジャンが何をすべきか…その答えは一つ。一緒に乗り込んだ少女と幼女を守る事だ。それは「ノーチラス」号の現況ではジャンにしか出来ない「役割」であり、そのためにはグランディス一味とともに打って出て生命を賭している場合ではないのだ。彼が生命を賭すものはあくまでもナディアとマリーとキングを守るためでならねばならない。
 そして、これをジャンに理解させるためにサンソンが語る論理…それは「正義」というものだ。「戦い」には必ず理由があり、その「理由」とは「誰かを守るため」というもの。そしてこの「誰かを守る」ことは生きていなきゃ出来ないという大事な論理を、サンソンはジャンに突きつけるのだ。このように「戦い」とは「誰かを守る」という信念の上でないと勝てるものも勝てないとサンソンはジャンだけでなく視聴者にも突きつけ、ジャンが「グラタン」に同行とてはならない理由を理解すると同時に、視聴者もジャンが今何をすべきかをキチンと理解する。
 そして、ジャンもサンソンもこの台詞に沿った行動をするのが見ていて気持ちが良い。サンソンはたった一発の弾丸で敵の殲滅弾を破壊すべく死力を尽くすし、ジャンはガーゴイルに浚われそうになったナディアを自分の発明品を使って間一髪で助ける。そしてこの台詞はここからしばらくの物語において、ジャンの行動理念となってゆくのだ。
名場面 反撃 名場面度
★★★★
 ガーゴイルの空中戦艦と対峙する「ノーチラス」号だが、今回はガーゴイルにやられる一方で手も足も出ない。「スーパーキャッチ光線」で空中に引き上げられた後、「原子振動砲」で艦体が壊滅的な被害を受けたところに「ガーフィッシュ」からの対空攻撃を受けた。機関は停止し電源も落ちて完全沈黙、対空砲の残数は一発で発射口も開かないなど反撃能力もなく、敵はバリヤーで完全に自分に身を防御するなどまさに万事休す。エレクトラが自爆して空中戦艦と差し違える事を具申するほどだ。
 だが一つだけ危機を乗り越える方法があった。敵が「ノーチラス」にとどめを刺すために殲滅弾を撃ってくる瞬間にバリヤーを解除する瞬間を狙って最後の対空砲を撃つ事だ。同時に防御のために敵殲滅弾を止め、「ノーチラス」号最後の対空砲の発射口は人力で開くというギリギリの作戦だ。敵殲滅弾の阻止はグランディス一味が「グラタン」で行うと進言し、ネモもこれを受け入れる。名台詞欄シーンを挟んで、作戦は実行される。
 「グラタン」が出撃すると、「ガーフィッシュ」の対空砲火を浴びる。だが「グラタン」の気球には硬化テクタイトで補強されているので、撃墜は免れる。サンソンが拳銃を構える、その弾数はだった一発。やがて空中戦艦から殲滅弾の一発目が発射され、これが「ノーチラス」号の艦首に直撃。だがまだ「ノーチラス」号は健在だ。「ノーチラス」号では機関員や甲板員が必死になって人力で対空砲のハッチを開くと、チャンスが来たとばかりにサンソンは拳銃を構える。「これで当たれば奇跡だよ」と叫ぶグランディスに、「奇跡とは自分の力で起こすもんです」とサンソンは返して引き金を引く。同時に空中戦艦から二発目の殲滅弾が発射され、サンソンの銃弾がこれに直撃。発射方向を曲げられた殲滅弾はその発射口に引っかかって止まるが、同時に「グラタン」の気球がついに破壊され「グラタン」も撃墜されてしまう。そして「ノーチラス」号から最後の対空弾が放たれ、これが引っかかっていた殲滅弾に直撃して大爆発。空中戦艦にそれなりの損害を与える事に成功し「ノーチラス」号は脱出可能となるが、その「ノーチラス」号はそのまま墜落し轟沈する。
 迫力のある戦いだ。この戦いでは「ノーチラス」号乗員と、グランディス一味が死力を尽くして敵と戦う様が大迫力で描かれている。そしてなによりも「勝ち目がない戦いでも最後まで諦めずに生き残る」という方針が貫かれている。生き残る可能性がゼロでないならそれに賭ける…なんか3年前のサッカー女子ワールドカップの日本代表みたいな感じだぞ。
 そしてその僅かな可能性が背景にあるからこそ、この大迫力が生まれるのだし決して大げさではない。とても印象的な戦闘シーンで、特にこれまで「ノーチラス」号が絶対有利な戦いが多かっただけに、このピンチとその反撃は手に汗握るものがあったはずだ。
 そしてこのシーンは、本作の中盤最大のみどころと言っても差し支えない…と思っていたのだが、次回は怒濤の展開が待っているとはなぁ。
感想  いよいよ前回の「対決近し」という流れを受けて、今回は「ノーチラス」号とガーゴイルのガチンコ勝負となった。ガーゴイルが用意した作戦と武器は「スーパーキャッチ作戦」「スーパーキャッチ光線」と気が抜ける名前だが、これが単純で気が抜けそうな名前とは裏腹に強力な武器と用意周到な作戦の上にあるものだからすごい。このガーゴイルの作戦は「ノーチラス」号を撃沈に追い込むが、その死力を尽くした反撃でガーゴイルも被害を受け、ガーゴイルの勝ちとは言え「ノーチラス」号にとどめをさせずに敵を逃がす結果に終わってしまう。
 だけどあれだけ巨大なミサイルが、拳銃で撃滅されるなんて普通は誰も思わないぞ。ガーゴイルよ、作戦を指揮した将校に「責任を問う」というのは「死んでもらう」って事だろ? ガーゴイルすら予測できなかった敵の反撃なんだから、そりゃ無いよと思う。恐らくガーゴイルの部下達の士気は、この将校の処刑で大幅に低下するだろうな。
 しかし今回は、ナディアもジャンも完全に物語の本筋に乗れていないので誰が主人公なのか解らない展開だ。ナディアが主人公らしく動いたのは、しびれを切らせて「ブルーウォーターを差し出すから戦いはやめて」と「ノーチラス」号の甲板で叫んだシーンだけだ。これでナディアはさらわれるが、ジャンが前回失敗したジェットエンジンを使って救助するこの短いやりとりは、彼らが本来の主役である事を視ている者に忘れさせない重要なシーンだ。マリーなんか泣いているだけだったし、キングに至っては壁にしがみついているだけだったもんなぁ。
 中盤のエレクトラとグランディスのやりとりは、互いの「ネモに対する想い」の違いが見えて面白い。エレクトラは「地獄までネモと一緒」と考えているが、グランディスは「自分の身が果ててもネモを救う」と考えている。どっちが大人かと言えば後者であり、ここまでこの二人がこの「道」の違いを上手く演じられるように物語を積み上げたのはここで効いたと思う。男としてどっちが良いかと言えば…状況に応じてこれを使い分けられる女性がいいに決まっている。
 次回予告が次回のサブタイトルと全然合っていないのが…今回はこれが正しいのは、次回を見てみると判明するんだけどね。
研究 ・ 
 

第22回 「裏切りのエレクトラ」
名台詞 「13年間、私を助けてくれた娘のように思っている君を、巻き添えにする事は出来なかった。エレクトラ、君がいたからだ。」
(ネモ)
名台詞度
★★★
 ナディア・ジャン・マリー・キングを脱出させるために船長室に送ったネモは、再び艦橋に戻ってくる。退避命令が出ているので艦橋には誰もいないはずだが、そこではエレクトラが一人でネモの帰りを待っていた。そして彼女は憎悪に満ちた表情でネモに拳銃を向ける。
 そしてエレクトラの長い独演…13年前の出来事とその後の事について語られた後、エレクトラはネモがガーゴイル殲滅のためならなんでもすると思ってついてきたのに、愛してきたのに、娘ナディアが現れた事で愛する男から一人の父親になってしまったとネモを責める。そしてたった今のガーゴイルとの戦いにおいて、なぜ自爆してガーゴイルを道連れにしなかったのかと問う。これにネモは「同じ過ちを二度繰り返す事は出来ない。そうだ、犯した罪は償わなければならない。私はただ、そのために生きているに過ぎない」とした後に、再度エレクトラに問いただされた時にこう返すのだ。
 こんな緊迫したところで出てくる、ネモを取り巻く恋愛騒動の結論だ。エレクトラがネモを愛していると言う事は前々回で自白済みだし、グランディスの事は言うまでも無いだろう。そのネモが心を寄せていたのは誰か、それはエレクトラだったという解答だ。
 たぶん視聴者も、ネモがガーゴイルに対して自爆戦法を採らなかった事はナディアがいるから、と思った事だろう。だが彼の胸の内にあったのは、「カーゴイルを殲滅するのに、これ以上生命が失われる事があってはならない」という思いであり、ガーゴイル殲滅のために家族を奪われたエレクトラを自爆の巻き添えにする事こそを「同じ過ちの繰り返し」と考えていたのだ。その上で副長として自分に尽くしてくれた若い女性に対して単なる信頼ではなく、ちゃんと「愛」があるからこそその女性を殺す訳には行かない、彼はそう思っていたのだ。
 この台詞を聞かされたエレクトラは涙を流し、「ずるいですわ、その言い方…もうあなたを撃てないじゃないですか…」と呟き、ネモに向けていた銃口を自分のこめかみに向ける。そして銃声…だがギリギリのところでネモがエレクトラの自殺を制止する。このシーンにエレクトラが「自分が愛している男を、愛してくれる男を責めてしまった」という後悔がうまく描かれていると思う。
名場面 脱出 名場面度
★★★★
 名台詞欄シーンを受け、船長室にはネモとエレクトラのやりとりがインターホンを通じて聞こえていたため、ナディアがショックで項垂れていた。そのインターホン越しにネモは「ナディア、生きろ!」と叫ぶと船長室を分離するレバーを引く。マリンスノーの中に消えてゆく「ノーチラス」号の残存艦体、項垂れるナディアと隣に座るジャンの後ろ姿…ただならぬ雰囲気にマリーも「ナディア…」と呟く事しか出来ない。そんな状況でキングが床に落ちている「何か」を見つけてイタズラ開始、「キング! おやめ!」マリーが叫ぶとその「何か」のスイッチが入る。するとそこに現れたのはネモの家族の立体映像だった。そこには母に抱かれる赤ん坊の頃のナディアの姿もある。これを見てナディアが初めて「お父さん…」と呟き、拾い上げていたこの装置を腰掛けていたベッドに置くと、静かに泣き始める。ナディアの肩をそっと抱き、手を握るジャン。ジャンに握られたナディアの手がアップで写ると、その背景で例の立体映像装置の電池が切れたのか、そっとネモの家族写真も姿を消す。
 激しい戦い、そして過去の謎が一気に明らかになる怒濤の展開、この最後を飾るに相応しい静かなこのシーンは、ナディアらの「ノーチラス」号最後のシーンとしても印象に残る事だろう。静かに流れるBGMはとても印象的で、またネモらを乗せた「ノーチラス」号残存艦体がマリンスノーの中に消えてゆくシーンは、とても情緒的に描かれここまでの「主役艦の最期」をうまく視聴者に印象付けた。
 そして何よりも、自分の出生の秘密も知ったナディアのショックが、ナディアにほぼ何も語らせずに静かに再現されたことだ。これまで自分や周囲に理不尽な事を命じ続け、かつガーゴイルと「殺し合い」をしている男こそが自分の父親だったショックと、その父親が自分を生かすためにこのようなかたちで示した愛情、さらに父親がそこにいると解っていながら既に顔すら見に行けない現実…これらにショックが重なった少女の姿を上手く描いていると思う。
 そしてこの静かなシーンで今回が終わるが、同時に「ふしぎの海のナディア」という物語は新展開へと突き進んでゆくのだ。
感想  前回の戦いを受け、今回は「その後」を描く。「ノーチラス」号はどうなるのか、そして敵側はどうなるのかという問題もさることながら、サブタイトルが「エレクトラの裏切り」では展開が全く予想がつかないというところだろう。
 そしてその「エレクトラの裏切り」の前に、また一人新キャラクターの登場に視聴者が驚かされる。前回からネオアトランティス側に「皇帝」というガーゴイルの上役がいる事が示唆され始めているが、この「皇帝」が突如画面に現れるのだ。そして出てきた「皇帝」は、どう見てもナディアをそのまま男にしたような顔つき…「ああ、第19回で登場が示唆されたナディアの兄というのはこいつなのか」と見ている人は瞬時に理解しただろう。現に私も2012年の再放送ですぐにピンときたし…そうじゃなくて、この「皇帝」が動くたびに機械音がするのがなんなんだと思ったものだ。まぁそれは、物語が進むと明らかになるのだが。
 しかし今回はガーゴイルに言動不一致が見られるのが惜しいなぁ。「ノーチラス」を見失った事やとどめを刺せなかった事、何よりもその前段として「ノーチラス」のレーダーの艦影が二つに分解した事で「撃沈だ」と断定した部下の事や、それによりとどめを刺しに差し向けたガーフィッシュを全て失った事などで、部下に文句言ってたのになぁ。そのガーゴイルが同じ口で、舌の根も乾かぬうちに「皇帝」に「ノーチラス撃沈」と報告するんだから、私がネオアトランティスの高官だったら「もうやってらんないわ!」と叫んで投げ出すと思う。ま、それで殺されちゃうんだろうけど。
 そして万を侍して描かれるエレクトラの裏切りだが…これどう見ても、「エレクトラの独演」「エレクトラの痴話喧嘩」と言った方が正しいような気がするけど。オチは彼女が裏切ったのはネモではなく自分自身という事になるんだけどね。自分で自分の墓穴を掘っておきながら、結局はその裏切ったはずの相手に助けられ愛されちゃうんだから、エレクトラって言うのは幸せな人なんだなぁと思う。
 最後はナディアが完璧に「ノーチラス」が脱出させられ、物語は「ノーチラス」号やネモとは無関係な方向に流れ出す。もちろん最終回までにはネモら一行と再会し、ガーゴイルとの戦いの決着もつくだろうし、ナディアと「皇帝」の出会いも描かれるんだろうけど…そこまでどんな紆余曲折があるのかと残り話数を見てわくわくさせられた。だってまだ半分近く話数が残っているんだよ…グランディス一味との再会はそんなに遠くない、というのは予測できたけどね。
 それともう一つ、これまで次回予告がずっと当時の視聴者からのイラスト紹介を背景にしたキャラクターによる内容説明だったのに、今回初めて次回の劇中シーンが流される「普通の次回予告」となった。だけどその画像に従ってジャンとマリーが劇風に演じるのが新鮮だ。
研究 ・ 
 

第23回「小さな漂流者」
名台詞 「いいわ、そんなこと調べなくても。この島には私たちしかいないわ、他には悪い人も嫌な人もいない。私、マリーやキングと一緒だったら、この島で一生過ごしてもいいわ。」
(ナディア)
名台詞度
★★★
 無人島に漂着した最初の夜、ジャンは砂浜に色々と式を書いて何かを検討していた。ナディアがこれは何かと問うと、ジャンは星の位置から島の位置を割り出そうとしているという。これを聞いたナディアは砂浜一杯に書かれた式を足で消し始め、ジャンにこう語る。
 ナディアが語ったのは流れ着いたこの島について、彼女はこの島を「悪い人も嫌な人も誰もいない」という理由で「理想郷」と感じたのだろう。自分の考えを否定する人もいないし、自分に理不尽な事を言う人もいない。そして何よりも(自分から見て)悪い事をする人がいない。偶然にたどり着いた「理想郷」を語るナディアは、ある意味幸せであろう。ここでどんな苦難が待っているかも想像できずに、この島の「良い面」だけしか語れないのである。
 もちろん、ジャンはそんな事がわかりきっているから、島の現在位置を探り脱出する術を考えているのであるが、その前提がないナディアにはジャンがなぜここから逃げだそうとするのかも理解できないだろう。そんな二人の関係をこの台詞だけで上手く描いていると思う。
 この台詞に対し、ジャンの反応が意外で笑った。人との関わりが無いと生きてはいけないというありきたりの事を言うのでなく、この台詞に自分の名が出てこない不満を訴えるのである。この点がジャンが年相応の少年だと上手く表現しており、この台詞を含んだシーンはまさしく少女と少年が幼女とペットを連れて無人島に流されたという現実を、上手く表現して視聴者に突きつけたと思う。
名場面 ハッチを開ける 名場面度
★★
 ナディア達の脱出カプセルとして「ノーチラス」号から分離した船長室だったが、ガーゴイルによる攻撃の影響であちこちから浸水が始まり、ついには座っているナディアやジャンの胸の辺りまでの推移となる。なおも止まらぬ浸水にジャンは、「ハッチを開けて外へ出よう」とナディアに進言する。もちろん「ハッチを開ければさらに大量の浸水がある」としてナディアは反対するが、ジャンは船長室で見つけた傘を出して、これに船長室内の残りの空気を貯めて浮上することを提案。この案が了承されてついにハッチは開けられる事となった。傘を差してハッチに手を伸ばすジャン、傘の空気があるとは言え好きを思い切り吸い込んで水中へ飛び込む事に備えるナディアとマリーと涙目のキング。「じゃ、行くよ」…ジャンが語ると物語の緊張感は頂点に達する。「いち、にーの、さん」でジャンがハッチを開いた。悲鳴と共に水流に流されるマリー、ナディアの悲鳴、そして3人と1匹の運命を暗示するかのように、画面は真っ暗になる…2秒の暗黒と沈黙を挟んで出てきたのは、青空に輝く太陽だった。そこからゆっくり視線が下へ動くと…、船長室の艦体は岩場に打ち上げられており、その上で傘を開くジャンと目を閉じて立っているナディア、そしてナディアに抱きつくマリーと、水もないのに必死に泳いでいるキングの姿があった。ナディアとジャンは互いに目を見合わせた後、「助かったの?」「…みたい」「心配して損しちゃった…」と気の抜けた声で語り合う。
 間違いなく今回はナディアとジャンによる「ノーチラス」号からの大脱出劇が描かれると、前回の次回予告の影響もあって多くの人が感じていた事だろう。動力も無い船長室に乗せられて深海に放り出された上に、その船長室が疲労破壊して浸水するというピンチを迎えるのだから、誰もがここからの脱出は必要不可欠と思うし、そのために水中を泳がされるような怒濤の展開を予想したはずだ。そして物語は若干のギャグを入れつつも、ギリギリまでその方向に引っ張る。ジャンがハッチを開く瞬間から3人と1匹の生命を賭した避難行がはじまると、多くの人が固唾を呑んで見守るほどこの直前は緊張感あふれているし、画面が真っ暗になるまではその通りになったと誰もが感じた事だろう。
 そこから一気に「実はもう岩場に打ち上げられていました」という前半のオチへ行く訳だが、この転換を瞬時に切り替えるのでなく、じわじわとやったのはみどころだ。緊張シーンは一瞬にしてギャグに変わり、とりあえずナディアらが「ノーチラス」号からの脱出に成功したという大事なシーンを印象的に演じる。このシーンをこれまでの「ノーチラス」号艦内シーンとは違いギャグを印象的にする事で、「物語が新しい段階に入っている」という事を上手く視聴者に印象付けたと思う。
 なにせ、前々回からこういうギャグは一発もなかったもんなー。そろそろ息抜きは欲しいけど、今回は息を抜きすぎにも感じた。
感想  物語は新展開に入る。考えてみれば前々回が「ふしぎの海のナディア」という物語の折り返し点、ここに劇的なガーゴイルとの戦いを入れて「ノーチラス」号が撃沈されたことで、全ての物語をリセットして心機一転で後半戦に臨むと言ったところだう。今回は冒頭の「前回までのあらすじ」は、時間をたっぷりと掛けて第一回からの流れを全部解説するというものであった事は、制作側が「今回から新展開」ということを視聴者に示したかったのだと思われる。
 そして物語は、前回のラストを受けて「静」から入ってゆく。ここからどうやって物語を進めるための「動」へと転換するかは普段ならそんなに難しい話ではない。だがここでは登場人物であるナディア・ジャン・マリー・キングが完全に外界と隔離され、しかもナディアは色々と知ってしまったショックが大きすぎるという前提もある。こんな状況で物語りを「静」から「動」へ転換させるのは至難の業だったはずだ。
 まず「動」へ切り替えに最初に使ったのは、同行する幼女であるマリーであった。マリーはお得意の「つまんない」攻撃で一人で動き始め、船長室のパイプオルガンで遊び出す。これをきっかけにジャンが「いつものジャン」に戻りナディアを怒らせるという突破口を作り、物語は「動」に転換。そこに「船長室が浸水」というピンチを差し入れる事で物語を次の目的地へと進めるのだ。
 その「次の目的地」は、ナディアらが流された無人島である。うん、間違いなくこの無人島のモデルは「世界名作劇場 ふしぎな島のフローネ」であろう。中央部のそびえる山や、砂浜や岬、そして島全体が岩場に囲まれている様子はそれそのものだ。そして漂着するという展開もほぼ同じだ。
 そこに先に漂着したものとして「ガーフィッシュ」の残骸が出てきたのは、前回までのあの戦いの臭いを感じさせるものであるが、ジャンがよく調査すると別の戦いで撃沈されたものと判明する。こんなシーンと、しつこくてくどい「島が無人島と判明するシーン」を挟むと、いよいよサバイバル生活の始まりだ。「ふしぎの島のフローネ」のように問題がやってきて、それを解決しながら生活基盤を作るのだろうと誰もが思う。そしてその最初の問題として「食糧問題」が発生するが、これは難なくマリーが船長室から缶詰を持ってきて解決。続いて缶詰があっても缶切りがないという問題で発生し、キングが物語の前面で目立つ活躍をする。
 今回は基本的にナディアらが無人島に流された事だけで、他は何も進んでいない。彼らがこの先どうなるかも全く見えない物語となった。確か、しばらくこの展開が続いてたような記憶が…。
研究 ・ 
 。

第24回「リンカーン島」
名台詞 「でも、しょうがないもん。こうしないと私たち、飢え死にしちゃうもん。お魚さんだってわかってくれるもん。」
(マリー)
名台詞度
★★★
 「自分は自然に生きる」「科学には頼らない」と宣言して一人別行動をとるナディアだったが、彼女は何を思ったのか沖で座礁したままの「ノーチラス」号船長室へ赴く。だがその際に船長室が流されてしまい、ナディアも水難しかかる。ギリギリのところでジャンが作ったボートに助けられるが、ナディアはそのボートにジャンが食糧として釣った魚が大量に載っていた事で「だから魚に助けを求めても助けが来なかった」「ジャンがみんな釣ってしまったからだ」とジャンを責める。これにジャンが反論するより先に、マリーが割り込むように反論したのがこの台詞だ。
 前回の名台詞をきっかけに、ナディアの我が儘は留まるところを知らない。ここが楽園と信じ勝手な行動をするが、結局は食べ物に困りジャン達が保管していた缶詰を盗むなどやりたい放題だ。こんなナディアに、誰かがこの島の「現実」を突きつけねばならない。ここではきれい事だけでは生きてゆけないこと、きれい事を通したらそこに待っているのは「死」だということ、これを避けるためにはきれい事を言っている場合ではなく全員が一致協力する必要性がある事。これをどうジャンがナディアに突きつけるのかと思って見ていたら、その役が幼いマリーに回ってきたので驚いた。
 無人島に限らず、人間が生きていく上でどうしても必要なのは食糧だ。「ノーチラス」号の缶詰を食べ尽くしてしまったことで、ジャンとマリーはこの「食糧問題」に真っ向から向き合っていたが、ナディアはそこにどんな困難があるのか全く理解していなかっただろう。別行動しつつ「食べ物はジャン達がなんとかするに違いない」という甘い考えと、「それでも動物は食べない」という意地があっただけだ。しかしここで生きてゆくためには、どちらの考えも捨てないと飢えてしまう。これは物語を追っている者も、劇中のナディア以外の人物も充分に理解している事だ。
 マリーはその現実を突きつけるだけでなく、ナディアに「心の持ち方」も説いている。つまり自分たちが生きてゆくために生命を分けてもらう事を、この魚たちは承知しているという考えだ。だから食べ物は大事なのであり、ありがたく戴かなければならない…この台詞にはこういう論理が加わっている事も明白だ。
 マリーからこんな台詞が出ることは、序盤で両親を失っているからこそだ。マリーが「生」と「死」というものに幼いながらも向き合い、そして今、自分が「死」に直面している事をキチンと理解しているからこそマリーのこの台詞は重いのだ。ナディアはこのような事を幼児であるマリーに言われた事だけでなく、この言葉の裏にある「深み」を受け取ったからこそジャンと仲直りする道を選んだと考えるべきだ。
名場面 仲直り 名場面度
★★
 今回のラスト、名台詞欄を受けた二人は仲直りする。ナディアはジャンが船長室からナディアの家族写真(立体映像投影装置)を回収してきてくれた事に感謝し、昼間の別行動について謝罪する。これに対しジャンは「人は自然とだけでは生きていけない」とし、「自然と人間を共存する科学が必要」とナディアに説いたと思うと、読んでいた百科事典に異変があるのに気付く。なんと事典の空白にはマリーが「お絵かき」をしていたのだ。そしてこの「お絵かき」を背景に、マリーの声でマリーの生い立ちとナディアとジャンとキングへの思いが綴られる。両親が死んでも一人ではないとし、ナディアもジャンもキングも大好きだとする内容だ。「なんだい、こりゃ?」とジャンが口を開けば、ナディアは自分が「好き嫌いが多く、すぐ怒る」と評されたことに表情を歪める。ジャンが笑うと、二人のいつもの調子での言い合いが始まる。
 この回の仲直りは、ただ単にナディアがジャンを認め、感謝して謝るだけで済まさなかった点は印象深い。ここぞとばかりにマリーの存在を上手く使い、マリーが「お絵かき」で綴った「思い」を再生する事で二人の気持ちが本当に繋がったと言えるところだろう。このシーンではマリーについて様々な情報がわかるが、それはこの際どうでも良い。二人が感じたのはマリーが自分たちを大好きだからこそ、いがみ合っている場合ではないということだ。
 こうしてナディアとジャンとマリー、それにキングの3人にある「絆」というものが、このマリーの「お絵かき」を通じて上手く表現され、この島に3人と1匹しかいないという事を上手く印象付けてくると同時に、この3人と1匹だけの物語に視聴者を上手く引き込む作りになっている。この「お絵かき」発表のために今回があったのだと思うし、マリーがジャンが遊んでくれないので「つまんない」と不満を言うシーンがあったのだろう。夕方からこのシーンまでの間にマリーが落書きをしたと解釈すればつじつまが合う。「ノーチラス」号船長室にクレヨンの装備があったかどうかについてはこの際考えてはいけないのだ。
感想  無人島での生活が回り始める最初の回だ。前回の名台詞がナディアの中で暴走し、ナディアはこの島での困難を考えずに別行動を取る。まぁナディアに言わせれば自分が正当で、ジャンとマリーとキングこそが別行動と考えていたのだろうけど。
 ジャンは既にこの島の生活で起こりうる問題を予期し、これに則って行動するあたり「頭が良いやっちゃな」と思うところだ。船長室から必要なものを回収し、彼が着手したのは「住居」としてテントを作る事、「飲み水」を入手する手段、船が接近した際に救難信号を発する事だ。同時に持ち込んだ缶詰が底をついた事からマリーと共に「食糧問題」にも対処する。自作で釣り竿とリールを用意し、マリーだけでなくキングにも釣りをさせるのだ。
 対して、ナディアは何も考えていない。理想ときれい事が頭の中にあるだけで、それでは生きていけないという現実にすら気付いていない。空腹になればジャンらの元から缶詰を盗み出す。しかも缶切りがないからそれを開けられないというオチがつくが…いずれにせよ、徹底的に甘い考えのナディアが「現実」に向き合うまでが今回の本筋で、それを突きつけるのがジャンでなくマリーというのが印象的だ。
 しかし、釣りをしているときのキングのおっさん臭さは何なんだ? だいたいこれまでキングに麦わら帽子の用意なんてあったか? かと思えばマリーとしりとり遊びをしているし…しかし、キングとしりとりして負けるなよ、マリーよぉ。そりゃともかく、この無人島でのキングは、これまでに無い一面を沢山見せてくれるので面白い。
 しかし、無人島に来てから話が進んでないようで進んでいるのが面白いなぁ。ギャグも多くて見ていて楽しい、ジャンとジャンが正面衝突するシーンは一番笑った。
研究 ・ 
 

第25回「はじめてのキス」
名台詞  「ねぇ、ジャン…私、夢の中で見たの。人間はみんな一人では生きてゆけないのね。今まで私、そんな事一度も考えた事がなかったわ。世の中は一人で生きていけるって、昔からずっと信じていたし…今まで生きてくるのに、誰も力も借りたりしなかったって信じていたの。でも、誰もいないこの島で生活してきて、初めてわかったの。一人はみんなのために、みんなは一人のためにっていう言葉の意味が。私は今までみんなに支えられて生きてきたのに、自分の知らないところでいつも誰かが私の事を考えていたし、誰かがいつも私の事を思っている事を…いつか、きっとアフリカに連れて行ってくれるのね? もう何も言わないで、ジャン……メガネ外して……ずっと、一緒にいてね。」
(ナディア)
名台詞度
★★★★
 名台詞欄シーンで変なキノコを食べたジャンは、マリーに引きずられてテントに戻ってくる。意識を失った上にうわごとのようにつまらないダジャレを繰り返すジャンを見て、ナディアはジャンが自分のためを思って行動した結果こうなってしまった事を知り泣き崩れる。
 その夜、マリーが就寝した後もナディアはジャンの看病を続ける。その時にジャンに語りかけた台詞がこれである。
 無人島に上陸してからナディアの我が儘は留まるところを知らなかった。前回ではナディアとジャンが仲直りしたが、今回は食事のシーンでジャンが肉を出したためにナディアの怒りが再燃。引っ込みがつかなくなったナディアは、食べ物も水もいらないと高らかに宣言。もちろんジャンの食べ物を拒否すれば腹が減る訳で、マリーが拾ってきたガーゴイルの缶詰に手を出して倒れる。それでも意地を張っていたナディアのために薬草を探しに行ったジャンが、あんな姿になって帰ってきてしまったのだ。
 この一件を通じて、ナディアは「共同生活」というものの重要性を知るのである。誰かが自分を支えるからこそ生きていけるのだし、自分が誰かを支えるからこそみんなが生きられる。そしてこれがこの島の事だけでなく、人間社会そのものだと言う事に気付くのだ。病に倒れたナディアが見た古い記憶の夢が、うまくこれを補強している。酷い目に遭わされたサーカスでの体験も、その中で誰かが自分を支えていたという事に気付くのだ。
 この島の生活でもジャンが自分を支えていた。だけどそれに対し、自分は我が儘言うだけだったという現実にナディアは気付かされただけではない。ジャンはその我が儘があってもなお自分を支えようとしてくれたのだ。本来なら「出て行け!」と怒鳴られても仕方の無いところだし、その上で自業自得の病にかかった事で見捨てられてもおかしくないところだが、それでもジャンが支えてくれた事実に、ナディアはやっと素直な気持ちを表す事が出来た重要な台詞でとても印象深い。
 この台詞を言い切ったナディアは、そっと目を閉じて寝ているジャンの口づけする。その瞬間は画面の外だが、キングだけがその様子をしっかり見ている点は面白い。一時はどうなるかと思った今回の展開だが、サブタイトル通りに上手くオチを付けたという点でも印象的な台詞だ。
 (次点)「あたしは幼児体型だもん、デブじゃないわ! ベーッ!」(マリー)
…名場面欄シーンで、マリーが百科事典でジャンを殴った直後の台詞。この一連の流れでマリーにとって何がショックだったのかが良く現れている。「太っている」と言われた事に対する反論が、幼児が使う台詞ではないというギャップは、あの瞬間に場がギャグシーンになったからこそ許されるものだ。この台詞がなければ名場面欄シーンはあそこまで面白くはならなかっただろう。
名場面 洞窟にて 名場面度
★★★★
 倒れたナディアのため、雨の中一人で薬草探しに出かけたジャンだが、なんだかんだでマリーもついてきてしまう。そして二人が見つけたのは洞窟、「こういうところに薬草があるはずだ」とジャンはマリーに入り口で待っているように言って洞窟に入る。「なんだか嫌な予感がする」と呟くマリーは、やがて雨が上がった事に気付いて洞窟の中のジャンに向けてこれを伝える。だが返事はなく、不気味なBGMが流れている。その頃ジャンは、洞窟内で光るキノコをみつけてその正体を百科事典で調べていたが…「おなかすいたから、早く帰ろうよ」と叫ぶマリー、これに対し洞窟の中から「マリー、おいしいよ。マリーも早くおいでよ」とジャンの声が聞こえてくる。次のシーンではジャンがキノコをむさぼり食っている、だんだん顔色が悪くなり目つきが狂ったようになってゆくジャンの目には、そのキノコが豪華な食事に見えていたのだ。そこへ心配になって洞窟へ入ってきたマリーが現れる、だがジャンにはマリーが大きな七面鳥の丸焼きに見えてしまい「これがメインディッシュか…ころころ太ってて美味しそうだな…」と呟いてマリーに襲いかかる。「ジャンのバカーっ!」怒ったマリーは落ちていた百科事典でジャンの頭を殴る。倒れるジャンに名台詞欄次点の台詞を吐き、ジャンをテントまで引きずって連れて帰る。
 ホラーのギャグの融合、と言ってしまえばそれまでのシーンだが、このシーンではちゃんとそれぞれが感じて空気や感情という物が上手く込められている。不気味な同口の入り口で一人待たされているマリーの恐怖感はもちろん、薬草探しに夢中なジャンにも「空腹」という現実があるからこそ、何かに取り憑かれたようにキノコを食べ始めるまでの感情変化。そのそれぞれの思いと行動がキチンと表現されていて、特にマリーのシーンではBGMまでがホラームードにしてあって、視る者を不安に陥れる。
 そしてキノコを食べているジャンのところにマリーが現れれば、一気にシーンはホラーからギャグに転換だ。マリーが七面鳥の丸焼きに見えたジャンの台詞に、マリーは「太っていると言われた」と反応。その瞬間にこれまでの緊張感は消え、マリーの大立ち回りと面白い台詞でシーンにオチがつく。こうして「ナディアを助けるために洞窟に入ったはずのジャンが倒れてしまう」というシーンを上手く印象付けている。もちろん、マリーの大立ち回りをきっかけにジャンは空腹モードからつまらないダジャレをうわごとのように繰り返す病人モードにシフトするのも面白い。
 様々な要素が物語を盛り上げ、ギャグで落としてこのシーンは今回で最も印象的なところだ、この無人島シーンで一番面白かった瞬間かも知れない。
感想  無人島での新展開3回目、いよいよ視聴者はこの3人と1匹だけの展開に飽きてくる頃だ。だけどサブタイトルがサブタイトルなだけに、色々と期待を持ってみる人も多い事だろう。
 なのに冒頭は「食べ物に肉を入れた」という我が儘な理由でナディアとジャンが言い争っているシーンを数分間に渡って見せられる。もちろん、ジャンの言い分の方に理があるのは誰が見ても当然だろう。この毎度毎度の言い争いは、多くの視聴者にサブタイトルを忘れさせる役割があったと思う。現に私もサブタイトルをこのシーンで忘れた。
 そして言い争いに決着がつかないまま、何の脈略もなくグランディス一味が画面に再登場。だがここでは彼らもまた海上を漂流している事が示唆されるだけだ。ナディア達の現状と照らし合わせれば、グランディス一味とナディア達の合流はそんな遠い話でない事も理解できるだろう。そして次に現れるは、ガーゴイルが再登場してネオアトランティスによるネモの葬式が描かれる。こうして単調になりつつあった「無人島での物語」に変化を持たせ、視聴者を飽きさせないよう上手く作ってきた。もうここまで来たらサブタイトルなんかどうでもいい。
 そして前々回で伏線が張られた「ガーゴイルの缶詰」に手を出すナディア、もちろん彼女は腹を壊して倒れる事となる。そのナディアの夢を通じて、ナディアが過去にどんな生活を送っていたかが流されるが、これはラストシーンに上手く繋げるためのシーンでありナディアの謎が明かされる訳ではない。そして名場面欄シーン、名台詞欄シーンと流れて、最後の最後に視聴者が今回のサブタイトルを唐突に思い出すという、うまいつくりに感心した。
 しかし、あの状況でガーゴイルはネモの葬儀をやっちゃうかな…だってとどめを刺していない事で部下を叱咤していたから、ガーゴイルはネモが死んでいないと踏んでいたはずだけどなぁ。まぁ、そういう細かい事は考えない方がいいか。しかし、あの空中戦艦には何人の人が乗っているんだろう? 謎だ。
 どうでも良いけど、前回と今回の「前回までのあらすじ」のナレーションは誰の声? いつものナレーターじゃないんだけど。
研究 ・ 
 

第26回「ひとりぼっちのキング」
名台詞 「…キノコの時だ。………僕はなんて、バカなんだーっ!」
(ジャン)
名台詞度
★★★
 夜、海の近くでナディアと望遠鏡で月を見ていたジャン。そこでいろいろあって二人はまたも口づけを交わす。ジャンが「初めてだった」と白状した瞬間、突然ナディアの怒りに火がつき「自分は二度目だった」と語る。ジャンはショックでナディアの最初のキスの相手が誰だったかいろんな登場人物の名を出して問うが…「初めてのキスの相手がこんな人だなんて、最低だわ!」とナディアに突き返される。驚くジャンにナディアは「何にも覚えてないなんて…ジャンのバカーっ!」と吐き捨てると走り去ってしまう。呆けた表情で走り去るナディアの後ろ姿を見送ったジャンは、「いやーん、覚えてないんじゃナディアが可哀想」とマリーに言われたのを思い出す。そして一人で叫んだ台詞がこれだ。
 女の子との初キス、そんな人生最高とも言える時間が記憶にないなんてそれだけで不幸なのに、その事実を相手の女の子に知られてしまうなんて…ジャンはバカというより「不幸」という言葉の方がしっくりくる。
 そして折角良いムードになったのを、この事実が知られてしまった事で全て台無しになってしまって振り出しに戻ってしまった悔しさが、この雄叫びに上手く表現されている。担当の役者さんの迫真の演技であり、ジャンの「男心」をうまく演じてくれたと思う。だからこそこの台詞は男の胸に響いてくるだろう。
 だが、この一件に関して実はジャンには罪はない。だが大事な初キスをこんなかたちでぶち壊されてしまったナディアに対する同情できる。ジャンはまじめな故にあのシーンで「初キス」だったと告白するのはある意味当然だが、これはカッコイイ男として隠しておくという手もあったのだ。でもナディアにとっての初キスがぶち壊された事に同情しても、初キス自体が記憶にないジャンの方がもっと可哀想だと思う。
名場面 ナディアとマリー 名場面度
★★★
 キングが行方不明になり、皆で探しに行った夕方。ジャンとは別行動でキングを捜していたナディアとマリーは夕日を見ながら語り合う。「キング、きっとジェラシーだよ」とマリーの言葉で始まれば、ナディアがその理由を問うと「ナディアがジャンと仲良くなっちゃったから」とマリーは言葉の意味を突きつける。「私か…?」とナディアは下を向くと、マリーは「知ってるのよ、何でも」とキングについて語った後「ナディアはジャンの事好きなの?」と単刀直入に問う。ナディアは「わかんない」と首を振ると、マリーはクスッと笑った後「ナディア、かわいい」と言う。「どうして?」と問うナディアに、「好きになったり嫌いになったり、自分の気持ちがわからないんだね」と突きつける。「マリーっ」と返すナディアに「顔が赤い」とマリーは指摘するが、ナディアは「夕日のせいだ」と誤魔化し「何処で覚えたの? そんなこと」と切り返す。
 このナディアとマリーの会話シーンは、ナディアのジャンに対する気持ちが露わになるとても重大なシーンだ。前回から今回にかけての二度のキスシーンだけでなく、今回の前半では二人は恋人同士のような甘い時間も過ごしている。だがその後のナディアは「初キスがぶち壊された」ことを理由にジャンに冷たくなっているし、前回も生きるか死ぬかの問題でジャンに厳しく突きかかっている。ジャンがナディアを好きなのは第一回からの流れを見れば明らかだが、それにナディアがどんな答えを用意しているのか…これが初めて語られたのはこのシーンと言って良いだろう。
 過去にエレクトラに「ジャンをどう思っているのか?」という問いを突きつけられていたが、その時は「お友達」と誤魔化している。だが今回はそうはいかない、マリーはともかく視聴者の前では二度同じ答えを繰り返す訳に行かないはずだ。そしてついに出てきた答えは、「わからない」という建前と、「顔が赤くなる」と言う本心であった。
 いや、「わからない」は建前ではなくナディアの口から自然に出た言葉かも知れない。彼女は咄嗟に「良い子なんだけど…」と思った事だろう。だがどこかに引っかかりがあってマリーの前で素直に「好き」と言えないのだ。そこを「好きになったり嫌いになったり、自分の気持ちがわからないんだね」とマリーに自分の本心を突かれた事で突然素直になる。これがマリーの指摘する「顔が赤い」であり、ナディアは本当はジャンが好きなのだ。
 だけどナディアはまだ素直になれないだろう。恐らくこの時点でのナディアは、素直になるのはジャンが本当に自分を故郷に連れて行ってくれたとき、と無自覚に決めつけているのかも知れない。これが私の解釈だ。
感想  冒頭からノリが良くて印象的な話だ、ジャンが崖から落ちるシーンだけは「史上最強のギャグ漫画家」臼井儀人さんのファンが見るのは辛いものがあるが(あの光景が荒船山ソックリで…)、とにかく乗りが良くて勢いが止まらない。その中にナディアとジャンのまっとうなキスシーンをはじめとする子死人同士の甘い時間や、夢の中とは言えジャンが発明に失敗して苦悩するシーンなど、様々な要素で緩急を付けてくるのも忘れない。無人島のストーリーでは私はこの回が一番好きだ。
 しかし、劇中のジャンやマリーじゃないが、機嫌が良くて鼻歌なんか歌っちゃっているナディアに違和感が…やっぱりナディアは短気じゃなきゃ。裸を見られて「きゃーっ…エッチ…」だけで済んでしまうのは「いつものナディアじゃなーい」(←「クレヨンしんちゃん」のネネちゃん風に)ってところだ。もちろん、そんな機嫌の良さがぶち壊されるのもお約束で、次回予告の通りにジャンが初キスを覚えていないという展開になると「いつものナディア」に戻る。
 そんな流れだから、キングが行方不明になった「サブタイトル通りの展開」がどうも印象に残らない。後半は丸々その話のはずだが、そこに挟まれる「ジャンが見た夢」のインパクトが強すぎて、キングの件が完全に霞んでしまうのだ。私だったら今回のサブタイトル、「ジャンの夢」とかにしちゃいそうだけど、サブタイトルでそれが語られないからこそあの強烈な夢が印象に残るのかも知れない。
 どうでも良いけど、無人島に来てからのキングは多少暴走気味だ。おっさん臭いなりで釣りをする程度ならまだ許せるが、前回は自分で変な石像を作って雨乞いしているし、そして今回は荷物を持っての二足歩行。しかも家出に際しては置き手紙を残し、滝に打たれ修行するというとんでもない状況だ。無人島上陸まではキングを「ナディアのペット」と割り切っていたし、今後の展開でもそうなのになんで無人島だけこんな暴走をするのか解らない。この展開を初めて見た2012年の再放送では、今にキングが人間の言葉をしゃべり出すのではないかとひやひやしてた。
研究 ・ジャンの夢
 今回、夢の中でジャンが発明して作ったものは以下の通り。

・ダイオードと永久磁石の原理を利用した超長波映像送受信機(ブラウン管式テレビとテレビカメラ)
・電子式重油機関と油圧シリンダを利用した冷却型高効率掘削機(ジェットモグラ)
・磁気によって音声を電気信号にして記録する高速回転式録音機(フロッピーディスク)
・卓上鍵盤で入力した電気信号を演算処理する電子頭脳(パソコン)
・噴射した燃料を再燃焼させて高い推進力を得る事が出来る圧縮推進器(ロケットエンジン)
・土の中のケイ素から抽出したシリコン樹脂で作った積層型密集回路(IC)
・小型モートルと磁気記録型反復装置を応用した工作用人造人間(モビルスーツ)
・発振素子と増幅回路で宇宙からの電波を受信する電磁望遠アンテナ(パラボラアンテナ)
・夜を真昼に変える人工太陽(人工太陽)
・自動操縦装置付きの大型ジェット推進航空機(サンダーバード2号)
(良く聞き取れなかった1件は飛ばした)

 いやーっ、19世紀末にこんなアイデアを持っていたんだから天才としか言いようが無い。だって最初のものなんか、今や時代が終わっちゃっているアイデアだからなー。どうでも良いけど今回は「サンダーバード」の影響が多大だ。掘削機なんかどう見てもジェットモグラだし、ナディアとマリーを乗せて大空に飛び立つ航空機はどう見ても「サンダーバード2号」。しかも発進シーケンスまで同じだし。
 これをこの時代に全部作っていたら、間違いなくネ申だ。

第27回「魔女のいる島」
名台詞 「何ヶ月もかけてここまで作った一大科学文明も、たった一晩の台風の前にはひとたまりもないのね。」
(ナディア)
名台詞度
★★★
 無人島が台風に襲われ、ジャンが作ったテントだけでなく、シャワー装置など数々の「文明」が破壊されてしまった。その上、テントが破壊されたときにキングが強風に吹き飛ばされる。台風が過ぎ去り、台風一過の夜空の下でこれら壊れた「文明」の画像を背景に、ナディアが呟いた台詞がこれだ。さらに、この台詞にジャンが「大自然の脅威か…」と付け加える。
 そう、ジャンが語ったとおりナディアら一行が突きつけられたもの。これは大自然の脅威としか言いようがない。自然から受ける「有情」と「非情」…ここまで無人島という自然の「有情」を受けて何とか生きてこられた3人と1匹が、今回受けた試練というものを上手く表現した台詞だ。ここで生活するために、「自然」を活用しながら快適な文明生活出来るまでに作り上げた様々な物も、大自然の前には無力だという現実だ。
 我々がその現実を経験する可能性については、3年前の東日本大震災を例に挙げるまでもなく今の日本人は多くが理解している事だろう。災害によってこれまで積み上げられてきた様々な物が失われる現実、この手の物語ではどうしても避けて通れない部分でもある。無人島漂流モノの王道と言えるアニメである「ふしぎな島のフローネ」でもこのような物語は再現されており、視る者に「大自然の大きさ」と「人間の小ささ」を同時に伝えてくる。
 これを伝えるために、ナディアのこの台詞は上手く言葉が選ばれていて感心した。「一大科学文明」と「たった一晩の台風」という言葉はどちらも的を射ていると思う。そして彼らがすがっていた「文明」を瞬時に失った悲しみが、上手く表現されていて印象に残った。
名場面 ナディアに餃子を食べさせた後 名場面度
★★
 ジャンはナディアに肉を食べてもらって体力を付けさせようとコッソリ取った作戦、それは百科事典に沿って餃子を作り「肉が入っている」という事実を告げずに食べさせる事だった。この作戦は上手く行き、ナディアは肉が入っている事に気付かずに全部平らげる。そして食後の皿洗い、作戦が上手く行ってご機嫌に皿洗いをするマリーの横で、ジャンは浮かない顔をしている。マリーが「どうしたの?」と問えば「結局、騙しちゃったんだよな」とジャンは呟く。マリーはご機嫌な表情を変えずに「いーじゃないの、バレたら騙した事になるけど、バレなかったら騙した事にはならないわよ」と語る。ジャンが「でも、なんか心苦しくて…」と返せば、「いい男っていうのは、過去を悔やんだりしないものよ。ジャンももっとしっかりしなさい」とマリーはグランディスのような口調で語る。
 ジャンがナディアに肉を食べさせる事に成功するが、作戦成功でもそれを素直に喜べないジャンの心が上手く描かれている。理由はどうあれ「好きな女の子を騙した」という罪悪感が彼の心を支配し、後悔の念に駆られているのだ。だがこのシーンではそれだけでなく、この状況においてジャンが心をどう持つべきかという点も「マリーに語らせる」というかたちで上手く描いている。
 このシーンではマリーが「バレたら騙した事になるけど、バレなかったら騙した事にはならない」という詭弁とも取れそうな台詞を語るが、実はこの論理はこの状況においては正しいと言わざるを得ない。なぜならジャンがナディアを騙したとは言え、それに「理由」があるからだ。その理由は何よりもこの島での生活で最も大事な「生存する」と言う事であり、そのために「体力を付ける」ということだ。それには肉を食べて動物性タンパク質を取る事は回避する事は出来ず、食べ物が枯渇すれば「肉は食べない」と宣言し実行しているナディアが真っ先に生命を落とす事が容易に想像が付くからだ。これを回避するという立派な理由のため、ジャンはやむなくナディアを騙したのだ。
 そして何よりも、過ぎてしまった事は取り返せないし、なによりも正しい道を進んだのだからもっと自信を持てと、マリーはグランディスの言葉を借りて「こうなってしまった場合の気持ちの持ちよう」を説いているのがとても印象的だ。
 無人島での話になってから、マリーの活躍が目立つようになってきた。やっぱり「ノーチラス」号の展開ではマスコット以外に使い道がないキャラだったからなぁ。ここ数回、マリーの台詞がいちいち面白いのでマリーに目が行きがちだ。
感想  物語は前後半で真っ二つだが、その間の移り変わりのストーリーが上手く出来ていて、流れも切らさないよう上手く考えられているので、前後半で全く違う物語になっていると見ているその時には気付かないという凄い回だ。
 前半は前回までの流れを受けた「無人島での生活」の続きである。ただ前回までと一つ違う点は、3人と1匹の努力目標として「島からの脱出」が明確にされる点だ。これはナディアがやっとジャンに心を開いた事で実現したと言って良いだろう。そして前回同様、キングがオモチャにされて酷い目に遭うという「王道パターン」を、しかも二度も繰り返す。この「同じ事の繰り返し」は普段なら物語をつまらなくするマイナス要素だが、ここでは後にプラスに転じてくるから面白い。二度目が後半で別展開になるきっかけだからだ。
 そして名台詞欄シーンを挟むと、いよいよ物語は後半の展開に向けて動き出す。別の島の登場と、なによりも3人と1匹だけの物語が唐突に終わる事だ。その無人島の物語の終わりを告げる登場人物は…見ているこっちが「あれ? 誰だっけ?」って思ったよ。
 エアトンの再登場はいいが、完全に時機を逸しているし、そのために完全にネタキャラにされてしまった。ネタキャラにするなら第3回の登場時にハッキリとネタキャラにしておくべきだったと思う。第3回のエアトンはネタキャラともまじめなキャラともどっちとも付かない描かれ方だったからなー。
 それだけでない、このエアトンは今回の再登場で人が変わっちゃっているのである。まず声が違うし、何らかの理由で担当声優が変わったのにどう考えてもその役作りやキャラクター性が二人の役者の間で引き継ぎがされていないとしか言いようがない。恐らく、今回を見た多くの初見の視聴者は彼がエアトンだとしばらく気付かなかったであろう。しゃべり口調等が本当に別人だからなー。
 そしてラスト、エアトンが大げさに「魔女」の存在を語れば、勘の良い人はそれがグランディス一味だと気付くであろう。勘が良くなくてもラストに出てくるのはどう見てもグラタンだし。ああ、こうしてグランディス一味と再会して物語が再び3人と1匹でなくなるんだなと理解できる。
 しかし今回、ジャンが「キングが二足歩行している」事実に驚いていたが、奴は前回も前々回も二足歩行していたぞ…気付かなかったのか?
研究 ・ 
  

第28回「流され島」
名台詞 「あいつらは、月みたいなもんだからね。いつも私の周りをぐるぐる回っていて、それ以上近づいては来ないんだよ…。」
(グランディス)
名台詞度
★★★
 グランディスは夕日を見ながらナディアに問う、「ネモはナディアの父だったのか?」と。返事をしないナディアにグランディスは一度謝った上で、「切ないんだよ…これが」と答える。「でもサンソンやハンソンがいるじゃない」と返すナディアに、グランディスはこう答えた。
 グランディスが言う切なさ、これはつまり片思いの相手であるネモが既に妻子持ちだという事実だ。それは目の前にいるナディアがネモの娘であるという事実でハッキリしている。グランディスはナディアがネモの娘である事に薄々感づいてはいたのだろう。ナディアに対するネモの態度、そしてナディアをよく見ればネモに似ているところもある。それをここまでは見て見ぬふりをしていたが、ネモに再会できるかどうか解らない切なさを抱えている彼女は、そこも無視できなくなったというところだろう。その思いをナディアに語ってしまう。
 その結果で彼女が口にしたこの台詞は、グランディスとサンソンやハンソンとの関係というものを上手く描いている。つまり彼らにとってグランディスは主人であり、手を出してはならない「聖域」なのである。一方グランディスにとってはそんな主従関係は今やどうでもよく、自分を女と見てもらっても構わない…なのに近づいてきてくれないのがこれまた切ないのだ。だが彼らの関係はそこだけでない。
 劇中で二人(特にハンソン)がグランディスに仄かな恋心がある事は何度が描かれている。その仄かな思いにグランディスは気付いていると同時に、彼らが主従関係を気にして近づいてこないという事も理解しているのだろう。そんなグランディスがサンソンとハンソンの「気持ち」について「全てお見通し」だという事が容易に想像できる、そんな言葉を選んだ台詞でとても印象に残った。
名場面 お引っ越し 名場面度
★★
 エアトンだけでなく、グランディス一味とも合流したナディアら一行は、今までいた島が遠ざかっている事に気付き、ジャンが「百科事典が必要」だとしたことで一度島へ戻る。恐らく彼らが必要なもので島においてある物を取りに行くという名目だろう。
 ジャンが作った足こぎボートを島へ急がせる道中、ナディアが「それにしても、ずいぶん遠くへ行っちゃったわね…やっぱり(島が)動いているのかしら?」と口を開き、「明日になったらもっと離れちゃうな」とジャンが返す。これを聞いたマリーが「サンソン達のところへお引っ越しね」と喜んで語り、「おかしな島に移る事になるけど、みんないいの?」とジャンが確認する。「マリーあの島がいい。だって、みんないるもん」とマリーは明るく返せば、「そうね、私たちだけで暮らすより、みんなと一緒の方が心強いわ」とナディアが続く。ジャンが「そうだね、小屋も壊れちゃったし、ちょうどいいのかな」と結論を出せば、ナディアが「もしあの島が動いているんだったら、いつか私の生まれた国に行けるのかもしれないのね」と締める。そして島へ足こぎボートが音を立てて向かうシーンで前半が終わる。
 やっと「他の仲間に合流できた」という「安堵感」が表現されたシーンだ。新たに見つけた島は見るからに怪しい。エアトンは存在そのものが怪しいし、その島では体力が強くなったり、グランディスの言う「誰もいないのに誰かに見られているような気がする」という言葉も不気味だ。だがそんなおかしな島に対する不安より、今の彼らが持っているのは「知った仲間と合流できた」という安堵感だ。ナディアも、ジャンも、マリーも口々にこう語るシーンを上手く描いた。
 何よりもナディアが無人島の生活を通じて、「他者の存在」というものを強く感じ成長した点をここにさりげなく描いたのは大きい。やっと彼女が主人公らしい言動を取ったとも言えるだろう。これが無人島漂着前のナディアだったら、グランディス一味との合流は歓迎しなかったに違いない。今までいた無人島での「自分たちだけしかいない理想郷」の方を取った事だろう。ナディアがグランディス一味と合流する前に、無人島での5回が必要だった事が、さりげなく示唆されていて印象的だ。
感想  視聴者はサブタイトル「流され島」で、劇中の登場人物より先に「新たに登場した島が動いている」という事実に気付いている。だから今回の見所の一つに、この島が動いているという事実に登場人物達がどう気付くのか?という点は大きかったと思う。そのきっかけは唐突に、しかもネタキャラと化したエアトンが上手く作ってくれた。エアトンはグランディス一味の元を脱出し、無人島で一人で生活…なんて考えていたんだろうなぁ。
 その前の展開は、グランディス一味の再登場と彼らがここにいる経緯であり、その後の展開は「ノーチラス」号の日常のようにナディアらとグランディス一味の共同生活が描かれる。違うのは他のメンバーが「ノーチラス」号の仲間達でなくエアトン一人である事だが…そのエアトン、後半に髭をそり落として出てくるとまた違う人間になっているし…制作側はエアトンのキャラクター性をコロコロと変えるのをわざとやっているのか、それともこのキャラを大事に扱っていないだけなのか、その辺りの解釈は難しいなぁ。
 そして料理に目覚めるナディアと、サンソンやハンソンから色々と吹き込まれるジャン。ジャンの方は以前の展開でもあったが、ナディアが自分から新しい事に挑戦するという展開は初めてであり、ここでまた彼女の成長が窺える。だが出来上がった料理を食べたジャンが泡吹いて倒れるって…どんな料理だったんだろう?
 これをきっかけにナディアは「自分の気持ち」にも気付き、ジャンに嫌われる事を恐れるようになる。これもナディアが見せた成長だ。それに対してグランディスが姉貴のようにナディアを諭すシーンも名場面欄にしたかったけど、長くて…。
 いずれにしても今回は「ナディアの成長」が目立った回だ。ようやっと彼女が主人公らしく振る舞ったと言えるが…果たして今後もナディアはこのように落ち着いたままなのか、不安でたまらない。
研究 ・ 
 

第29回「キング対キング」
名台詞 「両雄並び立たず、双方共倒れ。ま、それが関の山さ。ふたつとも同じ図面から作ったんだ、性能は全く同じだからさ。」
(エアトン)
名台詞度
★★
 サンソンとハンソンの喧嘩は、エアトンの発案で「サンソンはキングを調教し、ハンソンはメカキングを作って対決させる」という方向性に決まる。だがサンソンはキングの調教に失敗すると、ハンソンからメカキングの図面を盗み出し、ジャンにメカキングを作らせて対決に挑むこととなる。そしていよいよ対決当日、向かい合う2台のメカキングを前に「どっちが勝つのかしら」と口にしたナディアに、エアトンがこう答える。
 前回、前々回とネタキャラに徹していて良いところがなかったエアトンが、今回は名誉挽回とばかり良い役と良い台詞を取ろうとする。ひとつはネモとの恋を巡ってのグランディスとの会話、そしてもう一つがこの台詞と言って良いだろう。
 この台詞は、このサンソンとハンソンの対決の行方の状況を冷静に分析して的確な予想をしていると言い切って良い。本欄に前述したあらすじを考えてみれば多くの人が納得できるはずで、2台のメカキングは同じ図面から同じ材料で作られているからレースの結果は引き分けになるのは目に見ているのだ。サンソンのメカキングについてはジャンが改良点を見いだしているが、ジャンがサンソンに手を貸すのはこの改良点の技術情報をハンソンにも渡す事が条件だってので、結局は全く同じなのだ。
 だがその事実は、よく考えてみればこの騒動に加わっていないナディアやマリーが知る由もないのは確かだ。こうしてエアトンが二人への説明役を買って出る事で、視聴者にもこのレースのオチが先に明示されるという意味でとても印象に残った。
名場面 レースのオチ 名場面度
 いよいよ始まった2台のメカキングによるレース、これは名台詞欄でのエアトンの予想通り2台は全く同じ速度で進むために全く差が出ない。なぜかキングが喜んで2台のメカキングを追いかけると、マリーが「みんな追いかけないの?」と問う。これにサンソンが「ここで待っていれば戻ってくるのさ…俺のブラックキングが」と答えると、ジャンとハンソンは衝撃の表情を浮かべる。そして二人く口を揃えて「まっすぐ走るだけなんだ!」と叫んで、メカキングを追いかけ始める。なぜかマリーとナディアとグランディスもこれを追う。メカキングがこのまま海に飛び込むしかないと解ると、ジャンは「僕の小型電池が!」と叫んで猛スピードで走る。ジャンはやがてメカキングを追うキングを追い越すが…メカキングに追いついたと思ったその瞬間、崖から海に転落する。
 さあ、いつもの考察の時間がやってきました。このシーンでジャンがどのくらいの高さの崖から落ちたかの計算だ。このシーンでは「南の虹のルーシー」18話と同じく、ジャンの落下シーンが完全に描かれている。これを元に計算してみよう。
 まずはジャンの落下シーンをストップウォッチで計ってみる、すると3回平均で6秒22というタイムが得られた。これにジャンは14歳という設定なので日本人男児の14歳平均体重53.91kgとし、空気抵抗係数はスカイダイバーと同じ0.24を取った。
 すると…ジャンが墜ちた崖の高さはなんと152.3メートル、ジャンは海面到達時に145.6km/hの速度が出ていた事が判明する。う〜ん、ラストシーンでサンソンやハンソンが「ジャンが崖から落ちて死んだ」という前提で話をしていたのは、これでは当然だなぁ。152メートルと言えば、日本ならば札幌テレビ塔より数メートル高く、瀬戸大橋の中の「櫃石島橋」の主塔とほぼ同じ高さである。うん、こんな高さから海に飛び込んだらまず無事ではない。
 でもこのシーンはまだましな方だ。ジャンが海に墜ちるだけだから…落下時間から2メートル以上墜ちているはずの主人公をボーイフレンドが手を伸ばして助けた例とか、落下時間から落下距離を割り出すと崖の高さ以上の落下をしている上にやはり救助に来た青年に助けられた例など、日本のアニメは「人の落下」についてはシビアに描いていない。このシーンはジャンが海に墜ちる事により話が進む(島の秘密に迫る)という点が大事なのであって、ここでジャンが科学的考察通りに死んでしまったらお話にならないだろう。
 なお第26回でもジャンが崖から落ちるシーンがあったが、これは落下時シーンが既に「気を失ったジャンが見た夢」という設定になっている事から、「落下時間不明」で高さの計算が出来なかった事をお許し戴きたい。
感想  グランディス一味との再会で話が賑やかになってきたなぁ。グランディスは相変わらず「ネモ様…」だし、今回はサンソンとハンソンが大喧嘩を始めるし…その中でエアトンが突然ネタキャラでなくなるのはちょっと驚き、なんか制作者側はこのエアトンというキャラをその時その時で都合の良いように使っているようにしか見えない。
 そんなエアトンから今回のサブタイトル「キング対キング」が提案され、物語はそれに向かって進んで行く。その合間にナディアやグランディスの胸中についての物語があるが、基本的にはどれも「本筋」から見れば「だからどうした?」な話。今回で必要なシーンは名場面欄シーンの直後のたった数秒、海に転落したジャンが海底で「何か」を見つけるシーンだけだ。
 ジャンが見つけた「何か」と、「島が動いている事実」…これでこの島が天然の物でないという展開は多くの人が予想が付いているはずだ。この島もアトランティスやらなにやらと関係があり、今後の物語にとって重要なものだと多くの人が気付けば、今回は成功である。
 しかし僅か数秒のシーンのために、丸々1回ドタバタ劇で終わらせるとは…こういうアニメ好きよ。
研究 ・ 
 

第30回「地底の迷路」
名台詞 「道だと!? 道なんてものは、俺様の通ったあとに出来るものだ!」
(サンソン)
名台詞度
★★★★★
 この台詞、大好き!
名場面 地底の迷路の行き止まり 名場面度
★★★★
 ナディアは「山羊が行方不明になった」として、これを捜すためジャンと一緒に森に入る。だが二人が見つけたものは、明らかに人工物であるトンネルだ。このトンネルに入って行くナディアとジャンは、地下に「ノーチラス」号と同じ艦が沢山ある空洞を発見する。床はいつしか動く歩道となり、ナディアはこれに乗せられてどこへともなく連れて行かれる不安を語るが、ジャンは楽観的な返答を返す。その際にジャンがナディアの名を呼ぶと、ナディアの胸のブルー・ウォーターが突然輝き出す。ナディアは目を閉じたまま「そう、私の名前はナディア」と語り出し、ジャンが「どうしたの?」と問うが返答がない。そうしていると、ジャンはこの「動く歩道」が光る壁に突き当たって行き止まりになっている事に気付く。「たいへんだ! 行き止まりだ!」…ジャンの叫びにナディアは無表情のままで「ジャン、私の大事な友達です」と見えない何者かに語りかけている。「たいへんだ! ナディアがおかしくなっちゃった!」叫ぶジャンに、歩道の終点の光る壁が迫る。必死にナディアを呼び戻そうと声を掛けるジャン、いよいよ光る壁にジャンは背中からぶつかる。何とかナディアを食い止めているが、動く歩道の力が強くナディアがどんどん壁に押しつけられて行く。「くっそーっ!」ジャンの叫びに目を閉じて無表情だったナディアの瞳が開く。そして笑顔でジャンを見て「大丈夫よ」とだけ語る。これに驚いたジャンが気を抜くと、ナディアも光る壁に衝突…と思うと彼女の身体はこの壁をすり抜けて消えてしまうのだ。すり抜ける際にナディアの衣服が滑り落ちるように脱げ、ナディアは全裸で壁に吸い込まれるかたちであり、このナディアの服がジャンの手に残る。ナディアが壁の中に消えると、辺り一帯の光は失せて沈黙が支配する。目を震わせて壁に向き合うジャン…13秒の沈黙を経てナディアの名を呟いた彼は、壁を叩いて大声でナディアの名を呼ぶ。
 前回のラストシーン、ジャンが海に落ちたシーンでこの島が人工物らしい事は示唆されていた。そして今回もジャンが再び海底に潜った事でこれが確定的になり、その謎解き展開…と思ったら唐突に島が人工物である事が明確になるだけでない、その施設に入れるのはナディアだけであり彼女がこの中に消えるというショッキングなシーンを迎える。
 そして「ノーチラス」号撃沈シーン以降、その描写が最小限に留められていたブルー・ウォーターがこの施設と何らかの関連がある事、さらにナディアがこの施設に吸い込まれる際に画面とは出てこない何者かと語り合っていた事は上記のあらすじを見ればご理解頂けるだろう。いよいよ「ナディア」「ブルー・ウォーター」「ノーチラス号」という劇中に提示された謎が、一つに繋がるという重大なシーンを迎えようとしているのであり、このシーンではその重大シーンへの緊張感を盛り上げるべくうまく構成されていると思う。
 このシーンでナディアが豹変するまであくまでも二人は普通の会話をしており、その会話の中でジャンがナディアの名を呼んだ事がきっかけとなっているのが面白い。「ナディア」がこの施設のキーワードであり、彼女が特別な存在である事がここで明確になる。そして何のきっかけもなく床が「動く歩道」になっている点は、二人が自らの意思とは別にあるところへ連れて行かれるという緊迫感を嫌でも視聴者にぶつけてくるだろう。そしてブルー・ウォーターが光り、ナディアが「おかしくなっちゃった」ことで視聴者は不安を煽られると同時に、ナディアが画面に出てこない「何者か」と会話した事で、彼女が「壁に吸い込まれる」事を了解しているという点について説得力がでる。
 何よりも、ナディアが壁に吸い込まれる直前の表情が何とも言えない。文章で表現するのがとても困難なので省略するが、とにかく彼女がこれまでに無いきれいな表情で描かれているのだ。その後に一瞬出てくるナディアの全裸なんかどうでもいいと思えるくらい。
 こんなシーンからどんな謎がわかるのか、それは次回に回されたが物語がひとつのヤマ場を迎えた事は確かだ。それが明確になったという点でもこのシーンは印象的だ。
感想  物語は、あくまでも前々回にグランディス一味と合流して以降のノリを維持して進む。前回はハンソンとサンソンのいがみ合いであったが、今回はエアトンの勝手な行動を軸にドタバタ劇が進む。その中でもナディアとジャンが少しずつ別行動を取るようになるが、多くの視聴者は名場面欄シーンに行くまで今回から「本筋」が大きく動く事に気付かないままだろう。
 ただし、この「ドタバタ劇」の中でも、ジャンが再び海中に潜り色々と発見するなどこの「島」についての伏線はキチンと張られている。そのためにナディアとジャンが別行動を開始したようなもんだろう。後はグランディスとエアトン、サンソンとハンソンというそれぞれ別行動が描かれ、マリーがそれら全ての交通整理役として動くのが見ていて面白い部分だ。
 そして突然やってくる「島の謎」への核心部分、名場面欄シーンに到達するまで多くの視聴者が「ナディアとジャンが何か発見した」程度で終わると思っている事だろう。それほどまでに前回以前のノリから変化していないと言う事だ。ドタバタ劇は瞬時に「本筋」を進める真剣勝負となり、名場面欄シーンは緊迫感を持って演じられている。
 だが名場面欄での緊迫感を演じつつも、ドタバタ劇の続きを忘れないところが今回の物語の良い点である。グランディスに告白したエアトンがまた砂に埋められ、「首人間」にされてしまうというオチをノリを変えずに演じ続けさせる点は彼らが「まだ何も知らない」を表現したという点でまた緊迫感が強くなる。このシーンの「首人間にされたエアトン視線」でのマリーがこれまた怖いんだ。それはともかく、そのノリを演じきったところでナディアとジャンの不在に気付き、名場面欄を受けての島の異変が描かれて終わりということで、グランディス一味側のノリを変更するのは次回からという事になった。この作りは物語の雰囲気があっちのシーンとこっちのシーンで変わるので視ていて疲れるが、ちゃんと物語に区切りを置いて次に進めているという点は評価できる。
 さて、いよいよ次はナディアとブルー・ウォーターの謎が明らかになる。初回視聴時はこの一紙夕刊が待ち遠しかったなぁ。
研究 ・ 
 

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