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第1話 「かみなりの夜の子
名台詞 「子供っていうのはね、ちゃんと自分で生まれる時を選ぶのよ。こっちは待っているだけよ。」
(ロヴィス)
名台詞度
★★★
 妻が産気づいた事を知ったマッティスは、道行く旅人を襲っていた途中で敵対するボルカと口論になっていたことを忘れて、自分たちのアジトである山城に急ぎ帰る。そして妻ロヴィスの部屋に飛び込んで「産まれたか?」と問うが、ロヴィスには出産した様子もなくこの台詞を返されることになる。
 「出産」という女性とっての一大事に全く動じていないロヴィスの大胆さがこの台詞だけで見えた。落ち着き払って「その時を待つ」女性の姿を見て、多くの視聴者がこの女性が豪胆な性格であることを見抜いたに違いない。そして物語が進むと、ロヴィスの性格はまさにここで印象付けられたそのまんまの性格だから面白い。これほどまでにたった一言でその性格が決まったキャラクターという点で、この台詞はとても印象に残った。
 しかしこの女性の考え方も好きだ。子供は自分が生まれるべき時を知っていて生まれるという考え方は、子供自身が自分の運命を自らの手で切り開くものだという考えの表れに違いない。そして何よりも、その産まれてくる子供の運命というものに対し、信頼と不安を同時に感じているからこそ出てくる台詞だと私は思う。
名場面 ローニャ誕生 名場面度
★★★★
 夜になると風が強くなって雷鳴が轟き出す。山城の広間では山賊の男達が「生まれてくる子供が男か女か」で賭けが始まる。賭けた「お宝」の話題の次は、「赤ん坊を抱いたことがあるかどうか」の話題となる。巨漢のクノータスという男が「俺はある」と自慢げな大声を出せば、他の男達に静かにするよう促され静かになったところで、スカッレという長老が「早く山賊の跡取りが見たい」と訴える。そこへマッティスが駆け下りてきて、目に涙を浮かべて「生まれた…」と呟く、「俺に子供が出来たぞー」と叫びを上げる。喜びに沸く男達、「男か女か?」と問われればマッティスが「山賊の娘だ」と答えたと思うと赤ん坊を抱いたロヴィスが現れる。マッティスが赤ん坊を抱き上げ、男達に見せると一同感動で言葉も出ない。やっとスカッレが「なんと名前をつけるのかね?」と問うと、ロヴィスが「ローニャよ」とハッキリと答える。ずっと前から自分の子の名はローニャと決めていたというロヴィスの一声で、娘の名はローニャと決まる。
 「子供が産まれる」という緊張感と、実際に生まれた後の感動というのが上手く描かれていて、身内に子供が産まれるかどうかの時間を何度か過ごした自分も「ああ、こんな感じだ」と思える上手いシーンに仕上がったと感動している。やはり最大の話題は男か女か、そしてその子供が背負うべき運命、面白いのはそのシーンを演じているのが全部男、それもただの男ではなく逞しい山賊の男達だから面白い。
 そしてその名付けまで、主人公が生まれるに相応しいシーンでとても印象的だ。
感想  う〜ん、最初の感動は「実にツッコミどころの多い物語だ」と思ったのが素直な感想だ。まず山賊の山城だが、山賊のアジトというのは解るが女性がロヴィス一人しか見当たらないことは大きなツッコミどころだ。まずあれだけの男達がいるならば、男達が住み込みでないにしても賄いの必要はあるだろう。この物語の時代背景はよくわからないが、このような社会なら炊事は間違いなく女性の仕事のはずだ。もちろん男達の服を仕立てるのも洗濯するのも女性の仕事と思われるし、何よりも山賊の頭の妻がお産をするというのに産婆のようなものがいないのは無理がある。雷や落雷状況など他にも突っ込みたいところは沢山あったが…これらはこの先の物語展開が解決してくれるのかな?
 NHKが自信を持って世に送り出したこのアニメ、製作協力にスタジオジブリが名を連ねていて監督が宮崎吾朗となれば、嫌でもあちらこちらにジブリアニメでありがちのシーンが出てくるのは否めない。作品の無国籍風の世界観からしてそうだし、タイトルの題字もそうだし、細かいシーンで言えばマッティスが階段を駆け上がる場面でわざわざ転ぶところもそうだ。まずタイトルだ、宮崎駿作品によく見られた「○○の×× △△」(△△は主人公の名前)というフォーマットまんまだ。「アルプスの少女ハイジ」とか「風の谷のナウシカ」とか「天空の城ラピュタ」とか「崖の上のポニョ」とかこういうフォーマットのタイトルが本当に多い。え? そのタイトルは世界名作劇場にもあるだろって? 言われてみれば「ふしぎな島のフローネ」とか「南の虹のルーシー」とか「牧場の少女カトリ」とかあるなぁ。でもこのタイトルは原作通りのタイトルだから、「ジブリらしさ」を狙った訳ではないようだ。
 それと画面が「いかにもCG」って感じで、キャラクターの動きなどがわざとらしいのも視ていて疲れる。まぁ、これは話数が進むにつれて慣れると思いたい。なんか批判ばっかだなぁ、第1話なのに。

第2話 「はじめての森へ
名台詞 「ローニャ、お前はまるで小さな鳥女だ。あれと同じ位しなやかで、同じように黒い目で、同じ位髪も黒い。そうだろ!? お前達、みんな素晴らしい子は見たことありっこない。そうだろ!? この子は美しい…。」
(マッティス)
名台詞度
★★★★
 山賊達の宴の夜、マッティスはローニャを抱き上げてこう演説ぶる。その台詞の中にはこのマッティスという男の父性、何よりも娘に対する溺愛とも言える愛情が見えてくる。
 鳥女というのは山城の近くに現れる妖怪(?)で、女の顔を持った気性の荒い鳥であり山賊達が好きな存在ではない。だがその鳥の中に「美しさ」を見いだしているマッティスは、自分の娘にそれを勝手に重ね合わせる。だが不思議なもので本人がそう思えばまだ赤ん坊の娘が本当にそう見えてくる。そんなマッティスの父親としての愛情が上手く再現されている台詞だ。何よりも最後に彼が付け加える「この子は美しい」の一言が、それを象徴すると共にこの台詞の「締め」として効いているだろう。
 そしてこの台詞を言い切ると、赤ん坊だったローニャは、マッティスに抱き上げられて回っている間に突然少女に成長する。それはこの少女がここまで成長するまで、この台詞を語ったマッティスだけでなく、この台詞に同意した山賊達にも愛情を持った大事に育てられたという事を上手く示唆している。ローニャの成長が唐突だと批判する声も出そうなシーンだが、時間を掛けずにこの山城の男達によるローニャへの愛情を描くには最も優れた表現法だと思った。
名場面 ローニャが城を出る 名場面度
★★
 いよいよ森の世界を知り、理解するために城の外で活動をすることになったローニャを、マッティスが見送る。「父さん、行ってくるわ」と言い残して出て行こうとする娘に、「森には荒っぽい鳥女や、灰色小人や、ボルカ山賊共がいる。奴らに気をつけろよ」と注意を伝える。だがローニャは「どれが荒っぽい鳥女か、灰色小人か、ボルカ山賊なのか、どうやって私に解るの?」と問う。マッティスは慌てて「それは…気が付くさ」と答え、ローニャは「ええ、わかったわ」と答える。「それから森で道に迷わないように気をつけろ」「もし森で迷ったらどうするの?」「ちゃんとした道を探すのさ」「ええ、わかったわ」「それから川に落っこちないように気をつけろよ」「もし川に落っこちたらどうするの?」「泳ぐのさ」「ええ、わかったわ」「それから、地獄の口に転げ落ちないよう気をつけろよ」「もし地獄の口に転げ落ちたらどうするの?」…ここで会話が止まる。マッティスは立ち止まって「そうなったら…」と呟いてローニャが転落するシーンを想像してしまい、「もうなにもすることはないな…」と呟く。そしてその自分が想像した悲しい結末で自分で悲しみ、涙を目に浮かべながら雄叫びを上げる。これを見たローニャは驚いた後笑顔になり、「ええ、わかったわ。私、地獄の口には転げ落ちないわ。他に何かある?」と返す。「うん、まあな」と答えたマッティスはローニャの肩に手を置いて「だけどそいつは、少しずつわかってくるだろう」と語る。そしてローニャを抱きしめる。そして数秒間の沈黙の抱擁の後、力強く「さあ、行っておいで」と娘に言うマッティスに、ローニャは力強く頷く。
 長い解説になったが、ここでローニャの現実とそれに対する父の思いをしっかり描いた。森へ出かけるとはいえローニャはその森のことを殆ど知らない。なにが起きるか解らない場所へまだ小さな娘を一人送り出す父親の気持ちが上手く再現されている。私だって、娘を初めて一人で小学校へ通わせたあの日を思い出して「あるある」と思ってしまった。
 対して娘の方はあまり不安を感じていないからこの対比がとても面白いシーンではある。その中でも娘は危険な要点をしっかり覚え、本人にとっては万全の備えをしているところが面白いのだ。
 もちろん、マッティスの注意事項はそれぞれ今後の物語への伏線になっているに違いない。でもよく考えたら、鳥女の気性の荒さやボルカについては前話で出ているし、「地獄の口」も落雷の跡として前話で登場済み、川は今話のラストまでに描かれる。よって「灰色小人」だけが次話以降で出てくる何かなのだろう。
感想  BSプレミアムの放送では第1話と第2話が途切れなくまとめられて放映された。公式には2話に分かれていることはNHKの作品公式サイトでハッキリしているので、ここでは本放送の中間点、街道を通る馬車2台をマッティスらが襲おうとしているシーンからが第2話であるという前提で考察を行った。
 で、正直言って今回はとても退屈な話だったのは否めない。特にBSで2話立て続けに見た人はそう思ったことだろう。ハッキリ言って「盛り上がりに欠ける」というのがその理由である。
 第1話では主人公の誕生というヤマ場があったが、このヤマ場はマッティスが急いで帰るシーンや鳥女との決闘、そして落雷と「地獄の口」の発生という要素でもって分散してしまい、物語に緩急が上手くつけられなかった。
 そこへ2話目ではローニャが少女まで成長するのは確かだし、サブタイトルからすれば森へ出るという「巣立ち」があるのだが、どうもここでも緩急が上手く付いていない。ローニャが成長する名台詞欄シーンや、ローニャが巣立つ名場面欄シーンはとてもよく出来ているのは確かなのだが、前後の平坦な物語に埋まりがちでどうにも目立たない。これらは今話のヤマ場なのだから、もうちょっと盛り上げても良いんじゃないかと思う。盛り上げすぎは白けるのでそのさじ加減が難しいのは確かだが、今回の物語を見た人は「何処で盛り上がるんだろう」と待っているうちに終わってしまったという人は多かったと思う。特にBSでの2話連続放送を見ていた人にとっては、「何処で盛り上がるんだろう」と2話分待ち続けて大した盛り上がりもなく終わってしまい、エンディングテーマが流れて「?」を沢山飛ばした人もあったと思う。
 たとえば成長したローニャ初登場のシーンでは、マッティスに投げられたローニャが着地を決めるがそれが印象に残らない。これはラストの森に出たローニャのシーンでも同様である。それはあのお決まりポーズの着地が他の印象にかき消されているからだ。前者は名台詞欄シーン全ての要素でかき消されるし、後者は初めて描かれた森のシーンの「しつこさ」でかき消される。あのシーンはローニャを目立たせるために、森の緑はもっと暗いトーンにしておいた方がよいと感じた。ローニャが乗っている岩なんか「苔の色」としてはあり得ないほど鮮やかな黄緑色だったもんなー。
 結果、主人公より目立つ存在が多すぎて主人公が印象に残らなくなるというシーンが多かったように感じる。まぁこれは、正直言って宮崎駿アニメで散見されるものではあるのだけど、宮崎駿監督はその辺りの処理が上手かったから結果的に主人公が印象に残る。でもこの作品ではその点がもうちょっとと感じた。
 さて、次話以降のローニャに訪れるピンチが楽しみだなぁ。

第3話「森と星と小人と」
名台詞 「世界って、広いんだわ。」
(ローニャ)
名台詞度
★★★
 森に出た初めての日、ローニャは時間を忘れて森の中を駆け回り、夕方になって昼食を取り、そして居眠り…気付くとすっかり夜になっていた。目を覚ましたローニャは帰るために一度駆け出すが、母に渡された昼食を入れた鞄を忘れたために昼寝していた岩場に戻る。岩場から空を見上げると満天の星空。ローニャはその星に手を伸ばし、ひときわ強く輝く星をつかみ取ろうとするが…星に手が届かないことに気付いたローニャが呟くのがこの台詞だ。
 これまで山城から出たことのないローニャは、城の外に広がる森という世界位は知っていたはずだ。なぜなら城の中からも外が見渡せるはずで、これまでのローニャは山城と外に広がる森が世界の全てだったはず。その彼女にとって世界の大半を占める森という世界をある程度知ったローニャは、星空というものを見つめることで森の外にさらに世界が広がっていることに気付いたのだろう。その台詞にはキチンとその広い世界に対する好奇心などが込められている点がこの台詞の良いところだ。
 ローニャが見ていた星は何だろう? 色的にはおおいぬ座のシリウスだと思うが、季節的には違うようだ。夏の星座で明るい星と言えば、こと座のベガかなぁ。このシーンの星空でローニャが掴もうとした星の周囲を見るとこと座とは違う、どっちかってーとシリウスを中心にしたおおいぬ座に見えないことはない。あの森はああ青々としていてあれでも冬なのか? しかもあの星、次のシーンでは消えてるし…(他の星はそのままなので別の方向を見ていることはあり得ない)。
名場面 ローニャvs灰色小人 名場面度
★★★
 本作で最初に訪れる主人公のピンチ、名場面欄シーンの後に今度こそ帰宅しようと岩場から降りようとしたローニャは、森の方からささやきのような声が聞こえたと思うと小さな生物が近づいてくるのに気付く。視聴者はすぐにその生物がマッティスの言っていた「灰色小人」である事に気付いただろう。気付いたときにはローニャは既にこの生物に囲まれており、立ち上がって強気に「あんたたち、どうするつもり?」と声を上げる。しかし灰色小人はそれにひるむことはなく、様々にささやきながらローニャが乗っている岩に迫る。なにが起きるのかと辺りを見回すローニャをよそに、灰色小人は岩場に到達するとささやきをやめる。そして何処に隠し持っていたのか、小枝で岩を叩き始めるのだ。そのあまりの不気味さにローニャの顔が恐怖に歪む。「もーやめてぇぇぇぇぇぇーっ!」恐怖の限界に達したローニャが叫ぶと、灰色小人達は「灰色小人、かみつく」とささやきながら岩を登ってローニャに迫る。思わず後ずさりするローニャの背後にも彼らが迫る。鞄を振り回して応戦するローニャだが、灰色小人のうち何匹かは飛びかかってローニャを襲う。こうなるとローニャは恐怖心で満たされて、ついにしゃがみ込んで耳を塞ぎ「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!」と叫ぶ。そこへ森の中に松明の灯りが…「消えてなくなれーっ、灰色小人どもーっ」と叫ぶマッティスの声に、ローニャは立ち上がる。叫びながら走りくるマッティスをみて退散する灰色小人、これを松明で威嚇したマッティスに、ローニャは泣きながら抱きつく。「もう大丈夫だ」と娘を抱きしめながらマッティスが言う。
 とても印象的な戦いだ。しかも主人公の初陣だからといっていきなり主人公に勝たすことはせず、最初は気丈に振る舞った主人公も恐怖に心を支配されてついには折れてしまう心境変化を上手く再現している。これが簡単に主人公が灰色小人を退治してしまったら面白くないし、何よりも何の教訓もなく物語が終わってしまう。そしていよいよヤバいというところで月光仮面のようにはやてのごとく現れるマッティス。ここは彼の「山賊の頭領」という役柄を考えれば、これで不自然ではない。
 そして物語は、これを教訓として森ではどうあるべきかという教えへと繋がる。このシーンは今話の根幹となるだけではなく、灰色小人をうまく不気味に描いてローニャを起用府のどん底にたたき落としたからこその大迫力シーンとして印象に残った。
感想  今話は前半は台詞らしい台詞のないまま進む。だってローニャが初めての森の中を駆け回っているだけだから…だが今回はローニャの「開放感」を時間を掛けて描いたことは、彼女の「初めて山城の外に出た」という設定を際立たせるために必要だったはずだ。そして夕方になってからの昼食、居眠りと視聴者に「これは絶対にピンチになる」という想像を描かせた展開は面白い。
 そして名台詞欄シーンで最後の「開放感」を描いた後、万を侍してローニャをピンチにたたき落とすというやり方はおやくそくとは言え、見応えがあったのは事実だ。
 そして教訓は「森の中では何事にも恐怖を感じてはならない」というものであった。怖いと思うから怖い、出来ないと思うから出来ない、そんな論理をローニャと視聴者に訴える展開だった。もちろん、その教訓に説得力を持たせるよう灰色小人という生物にうまく性格付けをしてあった、名場面欄シーンをよく見るとローニャが恐怖に震えれば震えるほど彼らは調子に乗るように描かれていたのだ。ただかみついたり叩いたりするだけで、本当は害がないようだが…彼らは夜間に迷い込んだ人間を怖がらせて意地悪をする習性があるのだろう。あのささやきは実際に真っ暗な森の中で出会ったら、大人でも怖いと思うぞ。

第4話「聞こえる口笛」
名台詞 「なぜ兵隊はみんなの邪魔をするの?」
(ローニャ)
名台詞度
★★
 森から帰るローニャは、その帰り道で仕事を終えて山城へ帰る途中の山賊達と出会う。「たんと稼いできた」と語るストゥルカスに、「いっぱいなっていたのね」の答えるローニャ。それを聞いたクリッペンが「兵隊にも出会ったが蹴散らしてやったぜ」と意気を上げると、突然神妙な表情になったローニャが問うた台詞がこれだ。
 つまり、ローニャはまだ「山賊の仕事」を知らないと言うことになる。街道を行く馬車を襲って宝物などを盗んでは金にして、これを生活に糧にするという自分たちの生活スタイルを知らないのだ。もちろんこれは、ローニャがどこかで真実を知る伏線であると思いたいが。いずれにしてもローニャはいま自分が置かれている立場や、今後自分がどうやって生計を立てねばならないかも知らない。つまり本来は森のことなんかよりも大事なことを知らないというとんでもない設定が明らかになったのだ。ローニャは山賊達が運んでいる宝物を見て「たくさんなっていたのね」と答えているから、あの高価な壺などは木の実のような存在だと思っているのだろう。
 これに対し、山賊達は返答に詰まる。フョーソクという年上の山賊が「雨は何で降っているか?」と問い、「考えたことがない」と答えられると「そういうものなんだ」と諭したことで、この疑問の返答としたのだ。
名場面 出会い 名場面度
★★★★
 森で鳥女に喧嘩を売ったことで鳥女に追われる身となったローニャは、その日の森での居場所に困ることとなる。そして選んだのは山城の中の探検、母に見つからないように山城に帰ると灯りを持って城の中を歩き回るのだ。そしてローニャがたどり着いた場所は、ローニャが生まれた日に落雷による崩壊で誕生した「地獄の口」と呼ばれる城の裂け目だ。
 まずローニャは石を落とし、この裂け目の深さを測ろうとする。確かに深いことだけは解った。だが好奇心旺盛なローニャは父の「地獄の口に転げ落ちるな」という注意事項を思い出しつつも、口が最も狭まっている地点を探し出して「ここなら飛べる」と判断した場所で口の反対側へ飛ぼうとする。その瞬間、口の向こうから口笛の音が聞こえてきてローニャはギリギリのところで飛ぶのをやめる。口笛の聞こえる方向を見ると一人の少年が座って口笛を吹いている。少年はローニャに気付くと「やぁ山賊娘、君が誰だか僕は知っているよ」とちょっと棘のある口調で言う。ローニャは「じゃあ、あなたは誰なの?」と問う。「地獄の口」を挟んで向かい合う少年と少女のシーンで、今回が幕を閉じる。
 この少年とローニャとの関わりが、今後の物語の主手展開なんだなと明確に解るシーンだ。主人公以外で唐突にしかも印象的に画面に現れた少年は、ローニャと共に物語を背負うという雰囲気を上手く漂わせての登場だ。恐らくこの少年は、マッティスと敵対するボルカ山賊の息子とか養子とかそんなところだろう。2話でボルカも街道を行く馬車を襲う途中で帰ってしまうシーンがあったので、その時に生まれたかボルカが世話をしていたのがこの少年なのだろう。つまりローニャと同い年と考えて良さそうだ。
 ただ山城にはマッティス一味しかいないはずだし、ボルカ山賊はどこかの穴ぐらを根拠地にしているとのことだから、この少年はローニャと同じように普段は森を駆け回っているのだと思われる。ただローニャとかち合わないのは、彼は早い段階でこの山城を発見していて、マッティスらが行かなくなって無管理状態の「地獄の口」の反対側を「ひみつ基地」にしているのだろう。
 え!? この物語の原作の内容とか、調べてないですよ。ここまでは私の勝手な「今後の展開」の想像です。
感想  先週の次回予告とか、NHKの番組紹介などでは今話のことは「ローニャが鳥女に襲われる話」だったのに、サブタイトルがこれと合致しないから変だと思っていたらこんな物語の曲がり角(名場面欄)があったなんて。次回予告とサブタイトルや物語展開との不一致のひどさは「南の虹のルーシー」級だね。でも「聞かされても腹が立たないネタバレ」とか無いから、「名作」になるにはまだまだですな。
 しかし、鳥女って妖怪みたいなもんで1羽しかいないのかと思ったら、今話では2羽も出てくるじゃん。2羽もでで来るからあれはつがいなんだ、ああ見えてどっちかが雌でどっちかが雄なんだろう。秋になると気が荒くなると言うことは産卵を控えているのかも知れない。安全に交尾や抱卵や子育てが出来る場所を探しているから気が立っているのだろう。しかし、あの鳥が交尾している姿を想像すると…オエーッ。

 では、本サイトの恒例行事を始めよう。今回測定するのは「地獄の口」の深さだ。これは物語後半、ローニャが「地獄の口」がどれだけ深いかを知ろうと石を落とすシーンがあったからだ。このシーンをストップウォッチで計ってみると石がローニャの手を離れてから落下音がするまで6.85秒であった。石のサイズはローニャの手の大きさから太さ2センチメートル、長さ5センチメートルの円柱形に近いものと想定し、ここから得られる石の重さは石の比重を2.6と想定して40g、空気抵抗係数には球と同じ0.47として計算してみた。出てきた答えは…驚くなかれ、なんとたったの6.19メートルで落下速度は3.29km/h…ひ、低い、低すぎる。これの何処が「地獄の口」なんだ? この高さならローニャが万一落ちても打ち所さえ悪くなければ、大怪我はしてもすぐに処置をすれば生命に別状はないと思われるぞ。高さ的にも一般的な二階建ての日本家屋の高さでしかなく、ローニャのように器用なジャンプが出来るなら上手く着地できる高さかも知れない(現に高さ5メートル位のジャンプならローニャは実行済みだ)。
 これではいかん、と思い石の形状を球ではなくもっと空気抵抗の低いものにして計算し直した。流線型タイプ自動車では、その空気抵抗係数はスカイダイバーと同じ0.24程度になるという。これを入力してみたところ8.6メートルで落下速度が4.6km/h…落ちたら死にそうな高さにはなったけど、劇中に描画される「地獄の口」ほどの迫力にはならないなぁ。三階建ての二世帯住宅の高さよりちょっと高い程度だからなぁ。
 結論、あんな小石では「地獄の口」の深さは測れないということだ。ローニャにはあの年齢の少女が両手で抱えて持つほどの重量…1kg程度の少し大きい石を落として欲しかった。そうすれば「地獄の口」の深さは空気抵抗係数を球と同じにしても、30メートル程度の深さ(落下速度16.5km/h)になったのになぁ。

第5話「城にはいった敵」
名台詞 「ああ、そうだろうとも。だけどこんな事があった後は、僕は君につながれているかも知れないな。たとえ、こいつがなくたってね。」
(ビルク)
名台詞度
★★★
 前話のラストで登場した「地獄の口」の向こう側にいる少年の名は、ビルクと言いボルカ山賊の息子であることが判明する。これに腹を立てたローニャのもとにビルクはジャンプしてくるが、いつしかこの「地獄の口」を挟んだ追いかけっことなり、その過程でビルクが転落してローニャがこれを助ける。その後、ローニャがビルクを助けるためにつないだロープを見て「私、必要以上に長くあなたとつながれていたくないの」としてロープを外すように訴えると、ビルクが穏やかな口調でこう答える。
 この台詞のやりとりで「直情的なローニャ」と「論理的なビルク」という関係性が上手く設定されたと思う。ローニャはここでロープを外さずに、そのままビルクをマッティスのもとに連れて行けばボルカ山賊の人質を一人確保することとなり、城に敵が侵入したという事態に上手く対処できたはずだが、頭に血が上ってとにかくこの少年と離れることしか頭にない。だがビルクはこの状況における「自分の立場」というものをキチンと心得ている。ローニャが頭に血を上らせて自分と離れたがっていることを察しているのはもちろんのこと、自分はマッティスの山城に単独で侵入した敵であり、捕らえられてもおかしくない立場であることを心得ているのだ。その上で「今のローニャが自分を捕まえることはない」と判断して、かつ自分の身を守るためにローニャに対して神経を逆なでする台詞を連発する。ローニャは余計に頭に血を上らせて、ビルクを捕らえて父親の前に突き出すという考えからどんどん遠ざかる…実はこのシーンの二人のやりとりはこの繰り返しであり、この台詞でそれはビルクが仕掛けていることが明確になると言って良いだろう。
 この台詞の後、ローニャは最初にビルクに対して宣言したように、ビルクの鼻を一発殴ろうとするがビルクに交わされる。その時のビルクの返事は「そんなことはしない方が良いって、忠告しておくよ」である。これは今のローニャではビルクに絶対にかなわないという事を明確に示唆している。その上で、ビルクはローニャが気に入ったのだろうし、実は心の奥底でローニャもビルクのことが気になっている事をビルクが見抜いていることまで示唆している台詞だと私は思った。
名場面 八つ当たり 名場面度
★★
 夜、マッティスはローニャから昼間の出来事の報告を受ける。「地獄の口」の向こう側である北の城にボルカ山賊が移り住んできたこと、彼らは北の城を勝手に「ボルカ砦」と名付けたこと、そしてボルカの息子ビルクがその情報源であること…マッティスは最初、これはローニャの冗談と受け取りローニャを叱ろうとするが、全てが事実であることを知ると肉の塊を投げ、酒の入ったジョッキを投げつけとそこいらにあるものを投げて八つ当たりをする。これから必死に逃れようとする山賊達の姿をよそに、この状況でも何事もないかのように料理を続けるロヴィスだったが、マッティスはロヴィスが料理していたシチューの鍋を取り上げてそこいらにぷちまけようとする。だがその直前、ロヴィスがいつもの変わらぬ表情でマッティスの前に「これをあげるわ」と卵を差し出す。フリーズするマッティスに「ただし、後片付けは自分でやるのよ、覚えておいて」と鋭い声で突きつける。マッティスは静かにシチューの鍋を下ろし、卵を受け取るとロヴィスが鍋を持ち去って料理の続きへと掛かる。ここでマッティスが再起動、ロヴィスから受け取った卵をあちこちに投げつける。今度は山賊達が卵を割らないようにこれを拾うのに右往左往する。マッティスは卵を投げつけ終わると「ここならきつねが穴にいるように安心だったのに…それなのに…」と訴えて涙を流し、今度は地団駄を踏んで泣き出す。そんなマッティスの頭からロヴィスは水をぶっかけて、「それくらいでおしまいにしたら? 頭にシラミがいたからといって騒いだって、なにもなりゃしない…さっさと起きて何か手を打ちなさい」と周囲を片付けながら言う。これでマッティスは大人しくなり、当面の対応を考え出す。
 ここはロヴィスが夫を上手く操縦している面白いシーンだ。マッティスが怒りに震えたらしばらく暴走させて、疲れたところでとどめを刺すという操縦方法で、マッティスの怒りを収めて落ち着いて物事を考えるように仕向ける。恐らくマッティスは親の代から守ってきたこの城に敵に侵入を許したことがとてもショックであり、かつ前例のないことであるからその対応に困って頭の回線がひとつ切れちゃった状態だったのだろう。ショックはある程度暴れることを見過ごすことで乗り切らせ、悩みは水を掛けてるという荒治療法で対処することで、悩みから来るストレスや立場上逃げられないという精神的な障害を瞬時に取り払う。これを行うために表情も一つ変えないというこの女性のたくましさが見えてくる。そんな意味で印象に残った。
感想  前話のラストで出会った少年が何者か、だいたい予想通りだった。だけど違ったのは既にボルカ山賊が山城の「地獄の口」の向こう側に引っ越してきてしかも根拠地としていたことだ。しかし、ローニャとビルクが同い年どころか同じ日の生まれとは…それをマッティスの部下の山賊達が知っていて、これまで黙っていたというのは笑える設定だ。
 しかし、ローニャが「マッティスがボルカが北の城に来たことを知った場合」を想像したシーンが凄かった。まるで「北斗の拳」のワンシーンのように体中から力をたぎらせるマッティス、その勢いだけで崩れる山城…いくらなんでも凄すぎる。

 では、今度は「地獄の口」の幅について考えよう。今話ではローニャとビルクがこの「地獄の口」を飛び越えるシーンが何度も流される。このシーンからこの「地獄の口」の幅が読み取れるのではないかと思いついたのだ。
 このシーンを見ていると、二人はジャンプして目測で15度程度の角度でジャンプしていることが解る。これを15度と仮定して、次に必要なのはこの二人の走力だ。これを推定するために二人の設定年齢を知りたいところであるが、「山賊の娘ローニャ」の設定を色々と調べてみたがローニャとビルクが出会う時点の二人の年齢は何処を見ても解らなかった。そこてとりあえず、この二人が現在9歳と勝手に仮定したいと思う。
 9歳児の平均走力は、文部科学省のサイトにあった「50メートル走の平均タイム」から算出した。これによると男子が秒速5.2メートル、女子が秒速5.0メートルである。ここでは中間値の秒速5.1メートルとして、二人が森で野性的な行動をしていることから平均より約2割速いと仮定して秒速6.0メートルとしたい。
 これで放物線運動の計算をすると…ダメだ、滞空時間は0.32秒で1.83メートルしか跳べない。大人の山賊なら簡単に谷のこっち側に来られてしまう。
 もう一度二人か「地獄の口」を飛び跳ねるシーンを見直してみた。二人は跳んだ際に、床面から1メートル程度まで上昇する放物線運動を描いていることが解る。ここから算出してみると滞空時間0.9秒で15メートル跳べるが…そのジャンプを実現するために、二人は秒速17.1メートルで走らねばならない。これは時速61.6kmであり、一般道を走る自動車並の速度となる。これは無理だ。
 ジャンプの角度や高さを考慮するから行けないんだ。もっとシンプルに二人が走る速度と、滞空時間からジャンプ距離を割り出してみれば良いんだ。ジャンプシーンの中盤、二人が「地獄の口」をジャンプするシーンを上から見たシーンでは二人ともジャンプから0.95秒で反対側に着地している。これを基に二人が前述のように秒速6.0メートルで走っているとすれば、ジャンプ角度は60度と大きくなるものの、到達高度はジャンプした床面から1.1メートル、そして到達距離は3.6メートルとなる。
 3.6メートルというと物足りないと思われる方もあるかと思われるが、実は前述の二人のジャンプを上から見たシーンを精査してみると、「地獄の口」の幅はローニャの身長の3倍程度と見積もることが出来る。二人が9歳児と仮定した場合、身長は130センチメートル程度と考えられるからローニャの身長の3倍とすれば3.9メートル、誤差を考慮すればあながち間違っていないと考えられる。ジャンプ角度は置いておいて、到達高度も画面上の数値とほぼ一致すると考えられる。

 前回の感想と今回の感想でこの「地獄の口」のサイズが見えてきた。「地獄の口」を挟んだ「北の城」と「南の城」の間の距離は3.6メートル前後、高さはせいぜい8メートル。日本の街の景色で言えば、一方通行の狭い路地を挟んで三階建て三世帯住宅が向かい合っているような状況だ。やっぱり高さ方向の迫力が欠けるなぁ…。 

第6話「にらみあう山賊たち」
名台詞 「ああ、年を取るというのは悔しいなぁ。何か面白いことが起きたって、もうみんなと一緒にはやれないんだから。だいいち、この城には階段がありすぎる。」
(ペール)
名台詞度
★★★★
 朝、「自称・ボルカ砦」に乗り込んだボルカからマッティスに会いたいと申し出があった。マッティス配下の山賊も家族も大慌てで朝食を取り、「地獄の口」へと向かう。だがここに一人この台詞を吐いてついていくことを諦めた男が、マッティス山賊の中の長老ペールであった。
 年を取るというのは経験と引き替えに体力面などで身体の自由を失ってゆくことだという事が、ここにうまく再現されている。私は年齢的にそれを少しだけ実感することはあり、この台詞の意味は少し解るような気がする。何かあって体力が必要なときに20代や30代の時のような「無理」効かなくなり始めているのは事実だし、たまに腰が痛くなって横にならないと辛いときもある。だが私よりも年上の人々に言わせれば、まだ微々たるものだろう。とはいえこの台詞を吐くペールの気持ちは理解でき、今回最も印象的な台詞であったのは確かだ。
 そしてペールにとって「階段」が辛いことも、マッティスらが階段を上ってゆくシーンを組み合わせることで上手く再現されている。まぁ山城にはバリアフリーなんて考えはないと思うからなぁ。
名場面 「尋ねもしないで取るもの」 名場面度
★★★
 「地獄の口」を挟んでマッティスとボルカが向き合ったとき、ローニャはある事実を知ることになる。
 ボルカが代官の兵隊などの脅威にさらされていることからこの「ボルカ砦」に住むことを決心したことを訴えるが、「だからといって断りもなしに他人の城を奪い取るなんざ、恥を知る者のやる事じゃねーぜ」とマッティスは返答する。これにボルカが「そいつは山賊から聞かされるにしちゃ珍しい話だな」とした上で「お前だって欲しい物があったら、相手に尋ねもしないで取ってきただろうが」と突きつける。これにローニャが反応し、「尋ねもしないで取る物?」とマッティスに聞くが、マッティスは驚いた表情に続いて苦しそうな表情をし、横目でつぶらな瞳の娘を見た後に「その話はどうでも良い」と誤魔化した後に、ボルカにどうやって城に入ったかを尋ねる。
 これで確定だ、ローニャはマッティス達の仕事…つまり「山賊」の仕事を知らないと言うことだ。マッティスはこれを娘にずっと隠し続けてきたことで、「娘が山賊として生まれたこと」に向き合わずに来たことがよくわかる。本来なら山賊の頭領を次ぐはずの娘に「山賊」とは何かを物心つく前に常識として身につけさせなきゃならなかったはずだが…つまり、マッティスは「山賊」の仕事が「悪」であることを認識し、心のどこかで娘にはそんな悪いことをして欲しくないと思っているのだ。
 だがローニャは「山賊」とは何かに気付き始めている。後半最初のシーンでもマッティスに「尋ねもしないで取る物?」と尋ねている、だがマッティスはこれを無視して思考にふける。恐らくマッティスは、ローニャに事実をどう告げるかを悩んでいたのであろう。
 そして視聴者の焦点は、ローニャが「山賊」の仕事内容を明確に知るときと、それが悪いことと認識するとき、それに対してどのような反応をするかであろう。
感想  なんか話が進まないなぁ。今話は3分の2はマッティス山賊とボルカ山賊がにらみ合ってどうでも良いこと叫び合っているだけだし。だがその中で前進があったのは間違いなく名場面欄に書いたことだろう。恐らく数話以内にビルクから「山賊の真実」について知らされるのだろう。ビルクは山賊を継ぐ事なんか考えてなかったりして…。
 にらみ合いシーンが終わるきっかけも面白い。双方とも頭領の妻が「ここでの衝突は時も場所も良くない」として制止するのだ。この二人の女性は性格がよく似ているのだろう、似ているからこそ反発し合い女性というものを演じてくれるのかも知れない。それで仲の悪い組み合わせの女性同士というのを、一回だけリアルで見たことがあるからなぁ。
 今話のラストでいよいよ「森の中」でローニャとビルクが再会する。なんか次回予告では「私のアンネット」の1シーンみたいなのが流れていたぞ。この二人の関係がこの物語の主展開なんだろうけど、今後の二人の関係進展に注目だ。

第7話「霧の中の歌声」
名台詞 「嫌だわ! 私、死んでもならない! みんなが怒って泣くのなら、山賊なんて絶対に嫌!」
(ローニャ)
名台詞度
★★★
 いよいよローニャが、「山賊」という仕事の真実を知らされる。森を往来する人々から金品を奪い取り、それらより生計を立てているという真実だ。そしてマッティスは「そういうことになっている」とした上で、先祖代々自分たちはこうして生きてきたローニャに訴える。その真実を知ったローニャの返答が、この台詞というか叫びだ。
 これは本来、ローニャが無邪気になる前、物心がつく前から「そういうものだ」という常識として教え込まねばならないものだったが、マッティスはどこかで道を誤ってしまったのだろう。既にある程度成長し、「良いことと悪いこと」の分別がある程度出来るようになったローニャは、親の生き様でありこれから自分がなぞるべき道が「悪」であると認識してしまったわけだ。ローニャの場合、これに「自分たちの家の半分をボルカ山賊に黙って奪われる」という経験を通じて、「黙って奪われる」ことの悲しさや怒りというものを先に経験してしまったという問題まであった。ローニャが夕方になると山賊達が持ち帰る金品について「盗品である」と知ったとき、彼女が思いを寄せたのはその金品を盗まれた側の気持ちだったのは注目点だ。
 そしてこの時点でのローニャの思いこそが、この物語の出発点なのだろう。「山賊」という悪い仕事をしている父親、そしてそれを受け継がねばならない運命、ボルカとはその「悪いこと」をするために争っているのであり、後に自分のビルクがそのような関係になる運命…これをビルクと共にどう乗り越えて行くかがこの物語の本筋なのだろうと考えられる。しかしこのローニャ側の出発点に立つまで、7話も物語を消費するなんて…。
 ちなみに、ビルクは既にこのラインに立っていると思われる。だからこそビルクの方からローニャに接近してくるのだと考えられる。
名場面 霧の中の… 名場面度
★★★
 ローニャがビルクと分かれて山城へ帰ろうとすると、森の中に突然霧が立ちこめてくる。同時にビルクがローニャを追ってきて、「この霧、僕はちょっと怖いんだ」としてローニャに「君の上っ張りの端を掴ませてくれないか?」と道案内を頼む。最初は皮肉たっぷりに断ったローニャだが、結局は前々話に出てきたロープを「くれぐれもひもの長さより近づかないで」と差し出す。これにつかまって歩くビルク、森の中を山城を目指すローニャ。
 ローニャは濃霧の中でもいつも目印にしている岩を見つけるが、おかしいことにどう歩いても同じ岩のもとにたどり着いてしまう。3回目に岩の前に到達したとき、ローニャに異変が起きる。ロープの向こうにいるはずのビルクの姿は見えず、声を掛けても返事がない。代わりにどこからともなく聞こえる少女達の笑い声…そしてあるはずのない気配を感じ、不気味に思ったローニャは「もうじき家に帰れる、そして母さんの子守歌を聴くんだわ」と気を取り直してロープの向こうにいるはずのビルクを呼ぶ、だがロープを強く引いても何の反応もなくローニャは恐怖に震える。やがて先ほどは声と気配だけだった少女達の影が、ついに霧の中に現れる。少女達の影が回りながら歌い出すと、それまで警戒モードだったローニャの表情は突如として緩み「呼んでる…私…行くわ」とその影の方へとフラフラと歩き出す。するとロープを伝ってビルクがかけてくる、「何処へ行くんだ? 『地下のものたち』の誘うままになったら、君はもうダメになっちまう…解ってるはずだろう!」とローニャの肩を揺すって訴えるが、それでも少女の影の方へ歩き出すローニャを、ビルクは必死に食い止める。最初は腕を掴むとローニャは「私は行くの」と叫んでビルクを何度も殴る。続いてビルクはローニャを必死に抱きしめるが、それでも「行くの」と叫んでローニャはビルクの右頬をひっかき、左頬にかみつき、ビルクの頬にはその傷がしっかり残る。それでもビルクはローニャを抱きしめた腕を緩めず、なんとしてもローニャを行かせようとしない。やがて体力が尽きたローニャは「放して」と訴えながらもビルクに抱かれたままその場に座り込み、周囲の霧が晴れてゆく。
 つまり、ローニャはビルクもろとも遭難し掛かったわけだ。その過程でローニャは「地下のものたち」と呼ばれる何者かに取り憑かれそうになり、ビルクが身体を張ってローニャを守る。これは今後ローニャとビルクが仲良くなるきっかけとなるんだろうな、きっと。
 そしてこの行為を通じて、ビルクが何で霧による視界不良でローニャに助けを求めざるを得なかったのかも見えてくる。それはそのような怖い存在に対して一人より二人でいた方が防御しやすいと考えたからだろう。ビルクも一人になってしまえば「地下のものたち」の餌食になった可能性が高い。ローニャという守り守られるべき存在があったからこそ彼は取り憑かれずに済んだし、ローニャを守ることが出来たのだ。
 それともう一つ、なぜビルクがここまでしてローニャを助けたのかという面も見えてくる。ここでローニャを放置しておけば、ボルカ山賊にとって「ライバル山賊の跡取りを亡き者にした」という手柄が立てられる。だけどそうしなかったのは…ビルクはローニャが好きなんだ、きっと。
感想  物語は前後半で完全に分かれた。前半は名場面欄が主となるローニャとビルクの関係強化と展開だ。森で再会した二人が不思議な出来事を通じて、接近するきっかけを得る話だ。もちろん物語をキチンと見ていた人には、ローニャにとってビルクを嫌う理由は「ボルカの息子だから」という理由だけであり、ビルクはローニャが気になって仕方がないという関係は理解できているだろう。この二人が接近し、物語を進めるきっかけを構築するのだ。
 そして前半でローニャとビルクが接近すると、名場面欄に書いたとおりローニャが「山賊」についての真実を知る展開だ。ここは名台詞欄に書いたとおり、やっとローニャの気持ちが「物語の出発点」に立つことになる。ここからローニャが「山賊」という仕事をどう捉え、どのように「将来」を決めるのかが主題のはずだ。もちろんそこに「山賊」という仕事が好きになれないビルクも絡んでくるだろう。個人的には、ローニャは「山賊」を継がないという展開になるのではないかと思うのだけど…。
 いずれにしても、名場面欄に書いたようにローニャはここまでに「山賊」に向かない育ち方をしてまったのは事実。この物語作った人、本当によく考えたと思うわ。

第8話「深まる森の秋」
名台詞 「マッティスがボルカ達を追い出すのに、あとどれくらい掛かるのかしら? それにあのろくでなし…今頃向こうで何をしているのかしら?」
(ローニャ)
名台詞度
★★
 今話冒頭、ローニャは山城の窓から「ボルカ砦」を眺めながらこう独り言を言う。その口調はなんか寂しそうなものであった。
 今話の最後のナレーションで、ローニャは霧の一件以来…つまり秋になってからビルクと会っていないことが明かされる。そのビルクと顔を合わせなくなったローニャの心境…つまりそれがとても寂しいということを上手く表現している。だが恐らく、この段階ではローニャはその「寂しさ」の自覚がないのも確かだ。その証拠に「マッティスがボルカを追い出す」というビルクにとって良くない状況が前提であるし、ビルクについても名前では「ろくでなし」呼ばわりだ。ローニャはただ単にビルクの行動が気になっているだけだと思っているはずだが、その気がかりこそが相手のない喪失感であることに気付いていない。そんなローニャの心境を上手く再現していて、冒頭の台詞ではあるが今話で最も印象的だった。
名場面 山賊達の苛立ち 名場面度
★★
 ある雨の日、山賊達は仕事もなく山城の食堂ですることもなくたむろっていた。フョーソクは槍を研ぎ、ラッパスはギターの調整、チョルムはぬいぐるみを縫っていて、クノータスは野菜を切っているようだ。クリッペンが鼻毛を抜きながら「暇だなぁ」と声に出せば、チェッゲは「こうやることがないと身体がなまっちまう」とこれに返す。ペリェが「今日の晩飯ってなんだろう?」と問えば、チョルムが「羊肉のスープ、旨いよな」と返すとストゥルカスが「鶏のスープの方が旨い」と口を挟み、この二人が口論となり喧嘩が始まろうとする。だがこれにフョーソクが「やめねぇか、くだらねぇことで」と制止すると、チョムルとストゥルカスが「くだらないとはなんだ!?」「味のわからないロートルは引っ込んでろ」と反論し、今度は3人でのにらみ合いとなる。これにチェッゲが「バカバカしい」と忠告すると、今度は3人揃ってチェッゲに「バカとか言うな」と言い返して4人でのにらみ合いに。そこへクリッペンが鼻毛を抜きながら「やめとけやめとけ、大人げない」と口を挟み、チェッゲが「小僧は黙ってろ」と、チョルムが「ボルカにやられて泣きながら帰ってきたくせに」と返すと5人でのにらみ合いに発展。この過程でクリッペンがチョルムを「お前は見張りしかしてないだろ」と批判し、「見張りは大事な仕事なんだぞー」と反論したチョルムを笑ったペリェに飛び火する。「誰のおかげで野菜が食べられると思ってるんだ?」と突きかかるペリェの言葉に、クノータスが「俺は鶏も羊も野菜も好きだなぁ」と空気を読まずに口を挟む。これににらみ合っていた全員が「無駄飯喰らいは黙ってろ」と反論、これを聞いたクノータスは静かに立ち上がり、クリッペンを殴ったところで全員での派手な大喧嘩となる。BGM担当のラッパスを除いては…。
 なんかこのシーンがやたら印象に残った。どう見ても本筋とは無縁なシーンなのだが、やることはない、当面の問題は解決しないと、苛立ちが募っている山賊達の「一触即発」の状況が上手く再現されている。なんてったって、発端は「羊肉が好きか鶏肉が好きか」というとてもくだらない1対1の口論が、山賊全員での大喧嘩になるのだから…しかも喧嘩になってみると誰と誰に諍いがあったのか解らなくなっている。この構図がとても面白い。さらにこの大喧嘩、最終的にはロヴィスの一喝で終わるのも面白い。ラッパスだけが「BGM担当」のため口論に加わっていないのもこれまて自然で面白い。
 しかし、このシーンでクノータスが切っていた野菜は何だったんだろう? カブか何かに見えたんだけどなぁ。
感想  話が進まねー。今回、殆どが山賊の日常を再生するだけに費やされているぞ。その中で自称「ボルカ砦」のボルカ山賊を駆除しようというストーリーらしいものはあるけど、これは劇中でペールが指摘しているように何ら成果も上げていない。結局は山賊達が苛ついて、気晴らしに鹿狩りに行って冬の間の肉の備蓄が出来ましたよって、それだけ。
 でも今話はよく見ると「それだけでいい」のもこれまた事実。今話はローニャのビルクに対する「想い」を膨らませる時間が強調できれば良いのだからだ。今話のローニャの「気持ち」的な起点は、名台詞欄シーンの台詞であることは間違いない。ローニャはビルクが気になっている事には気付いているが、それによって「寂しい」という気持ちが生じている自覚がない。だが時を経ることでローニャがビルクがいない「喪失感」を感じるようになって、少しずつ自分の中にある「寂しさ」に気付いて行くという点が再現できればOKなのだ。そしてそのつもりで視聴し、ローニャが森の中でビルクと再会した思い出に浸っているシーンまでは良かったんだけど、最後はローニャにそういう演技をさせるのでなくナレーターの解説だけで済ませてしまったのは正直「それだけかよ…」と思ってしまった。ローニャが「寂しさ」を自覚する名場面を期待してみていたんだけどなぁ…だから名場面欄はあのシーンになったのだし、名台詞欄の★マークも数が減ってしまった。
 今回は山賊一人一人の「性格」っていうのがうまく描かれていると感じた。特に名場面欄シーンはその最高潮のものだ。同時にクリッペンがいじられ役としてうまく機能していると思う。名場面欄の口論にしたって、大元をただせばクリッペンの何気ない一言で始まっているし、ボルカ山賊が放った矢の直撃を受けて怪我をしたという点は彼の「いじられ役」としての地位が与えられただけでなく、「いつまでの語られても仕方が無いいじられポイント」を植え付けたのは凄い。その前のボルカへの攻撃シーンでは、ハシゴに乗って「地獄の口」への向こう側に行かされたのがクリッペンだったのも印象的。彼は今後、ことあるごとに「いじられる」のだろう。
 しかし、「地獄の口」を挟んでの戦いだけど、その深さが高く見積もって「せいぜい8メートル」と思うと迫力に欠ける。自分であんな計算しなければ良かったと後悔していたりして…。

第9話「ぬけられない雪の穴」
名台詞 「なにをメソメソ言ってるの。あの娘はどの山賊よりも、ちゃんとうまく自分でやっていけるわ。同じ事をなんべん言ったら解るのかしら?」
(ロヴィス)
名台詞度
★★★
 ローニャが森でスキーを楽しんでいるのを見たマッティスは、頭を抱えながら山城の居間とも言えるところに降りて「うまくいってさえいりゃいいんだが。ローニャに危ないことが怒らなきゃな。なにしろそんなことがあったら、俺は生きていられない」と呟く。これを聞いたロヴィスが少し呆れた表情で、かつ若干の不安を漂わせながら返す台詞がこれだ。
 このロヴィスの台詞に込められているのは、娘に対する絶対の信頼であることは間違いないが。厳しく寒い冬の森に娘を送り出した母親が娘を信じることで「なにも起きない」と自分で自分に言い聞かせる台詞にも聞こえた。恐らくロヴィスは、夫が娘の行動に対する「根本的な不安」を語っているのでないことは見抜いているだろう。マッティスの不安は「今日は嫌な予感がする」というレベルのものなのだ。
 もしマッティスが「ローニャが確実に事故を起こす」という不安を抱えているのなら、スキーなんか与えなきゃ良いだけの話だ。つまりマッティスは「ローニャなら大丈夫」と判断したからスキーを与えたのであって、現に冬に入ってからここまで何の事故も起きていないことからマッティスはローニャの冬の森での行動については信頼しているはずなのだ。その上での「今日は何かが起きる」という悪い予感…マッティスが演じているのはまさにここで、そしてロヴィスも同じ予感を持っていることをこの台詞を通じて演じているのだ。
 そして物語は、その予感の通りに進むから視聴者の期待を裏切らない。
名場面 穴にはまったローニャ 名場面度
 いっやーっ、「ずんぐり小人」サイコーっ!
感想  「ずんぐり小人」が面白すぎ。穴にはまったローニャの前に出てきたとき、「またローニャを襲う妖怪の登場か?」と思ったが、「親切で大人しいし酷いことなんかしない」とローニャの口から出てくる。だがそんな「ずんぐり小人」の欠点が「空気が読めない」点であるという設定は大笑いだ。ローニャの救助要請を理解せず家に戻ってしまったと思えば、家の屋根を突き抜けて刺さっているローニャの足にゆりかごをつけて赤ん坊をあやしているもんなー。
 しかし今回は放映時間の25分で話が進んだのは、ローニャの足が「ずんぐり小人」の家の屋根に刺さってしまい遭難したことだけ。前半なんか雪合戦しかしてないぞ、こいつらは。遭難し掛かったローニャの顛末を次回に回す位なのだから、次回ではきっとこの遭難をきっかけにした物語の大展開があるのだろうと期待してしまう。次回予告にはまたビルクの姿があるし、次回サブタイトルは「きょうだいの誓い」と来ている。紆余曲折の上で遭難しているローニャのところビルクが現れ、ローニャを救出したらあんなことやこんなことになる…NHKだからそれはないか。いずれにしてもローニャとビルクがただならぬ関係へと発展するきっかけであるとどうしても期待しちゃうぞ。

 ちなみに、前半の雪合戦シーンでペリエが屋根から落ちるシーンがあるが、ここで落下時間が2.9秒掛かっているが、これは実は大問題だ。ペリエの体重を70kg、空気抵抗係数をスカイダイバーと同じ0.24として計算すると、ペリエが落ちた屋根の高さは39.4メートル、落下速度は93.7km/hにもなる。これはどう考えても高すぎ、雪がクッションになるような高さや落下速度ではない。約40メートルと言えば、マンションなら15階建てくらいの高さになるぞ…。それより、この屋根の高さの方が第4話シーンで判明する「地獄の口」の深さよりも(高く見積もって8メートル)よりもずっと高いんですけど…。
 あーあ、またヤボなことを調べちゃったなぁ。「地獄の口」って調べれば調べるほど迫力が無くなって行く…。

第10話「きょうだいの誓い」
名台詞 「ローニャ、僕のきょうだい…。」
(ビルク)
名台詞度
★★★★★
  ビルクに助けられたローニャは、ビルクに伴われて山城の入り口の谷間までたどり着く。さすがにここからはビルクの助けを借りるわけには行かない。ここでローニャは振り返り少し照れた表情で笑顔のままのビルクに「ねぇビルク、私あなたか私のきょうだいだといいって思うんだけど」と告白する。ビルクはまた一瞬驚いた後、いつもの笑顔で「君がそうしたいなら、僕はそうなっても良いよ。山賊娘」と答える。「私、そうしたいわ」と返答するローニャだが、「でも、あなた私をローニャって言ってくれさえすればいいんだけど」と付け加える。これを聞いたビルクは小さく笑った後、いつもの笑顔で力強く答えたのがこの台詞だ。
 いや、決まった。今話の主展開…「雪で遭難して死にかかったローニャをビルクが助け出す」という展開について、見事な決め台詞になったと思う。これまでビルクはローニャの事を名前で呼ばす「山賊娘」と称することが多かった。ここはローニャのビルクに対する潜在的な不満点である事は、これまで二人のシーンの隅々で積み重ねていたことでもある。この伏線を上手く利用し、「助けられる」ということでビルクに対し心を開いたローニャに対する、ビルクの返答として上手く決まった「決め台詞」となり、短くてありきたりで何の変哲も無いこの台詞がとても印象に残った。
(次点)「ああ、だが君がひもの長さだけ離れているならね…。まあ、そう泣くなよ。僕を放しておくれ。そしたら君を穴から引っ張り出せるかやってみるよ」(ビルク)
…詳細は名場面欄を参照して欲しいが、今回のビルクの登場を印象的にしたのはこの台詞だと思う。ビルクは最初、予想外のローニャの反応に対して一度は「これまでの関係」を維持しようとする言葉を吐き、その上で救助活動を宣言する。これは二人の関係が「転換中」であることを上手く示すだけでなく、これまでの二人の会話をうまく伏線として利用した「自然な台詞」に仕上がっているのがとても印象的だ。正直、名台詞欄でどっちの台詞を挙げるか最後まで悩んだ台詞だ。
名場面 ビルクがローニャを発見 名場面度
★★★★
  前話でのローニャのピンチがどう解決するか、これは今回のサブタイトルと前話の終わりに見た次回予告で「ビルクが助けに来る」という展開が見えていた。だからこそその「解りきっているシーン」をいかに印象的に描くか、ここは今話での最も重要なポイントだったはずだ。
 まず遭難したままのローニャは、雪の中に自分の名を呼ぶ声を聞く。ローニャはそれを「夢を見ている」として信じないが、これが現実であることは中間ジングルを挟んだ後に判明する。倒れているローニャに「ローニャ、もう家に帰らなくて良いのかい?」と問うビルクの声に、ローニャは時間を掛けて気が付いてそこに立っているビルクの姿を見上げる。このときのローニャ目線のビルクが凜々しい笑顔で描かれているのはポイントが高い。上半身を起こすローニャにビルクはローニャのスキーを片方だけ発見して探し出したこと、これが運が良くそうでなかったらローニャがここに倒れているより他はなかったことを告げる。スキーを脱いでローニャを救助すべく準備するビルクを信じられない表情で見上げたローニャは、「君、きっと助けがいるんだろ?」と声を掛けたビルクを見上げたまま表情を崩して声を上げて泣く。そしてローニャを助け上げようとしたビルクに抱きつき、「私から離れないでね、もう決して離れないでね」と訴える。一瞬驚いたビルクはすぐ笑顔になり「(名台詞次点欄の台詞)」と告げる。涙を拭って静かにビルクから離れるローニャ、こうしてローニャの救出活動が始まる。
 こうして文章にして見るとどってことないシーンになってしまうが、このシーンは実際に見ているとそこにたどり着くまでの「ローニャの心細さ」が根底にあり、そしてそこにまさに救世主のようにビルクが現れたという点をうまく描いて印象的なシーンとして仕上がっている。特に何も説明していないのにビルクが状況を理解し、ローニャには救助が必要と判断済みである点は彼がローニャにとって「必要なときに必要なことをしてくれる」という状況が無言で説明されている意味でとても良いところだ。
 だからこそこのシーンをきっかけにローニャがビルクに対して心を開くのは説得力があるし、ビルクを頼りにするという心境変化が生まれるのにも説得力が出る。ローニャの脳裏にはこれまでもビルクが自分のピンチを救ってくれたことがよぎったのも事実であろう。
 またこのシーンを印象的にしているのは、何よりも名台詞次点欄の台詞だ。
感想  名台詞欄にも書いたとおり、前話で遭難したローニャを救助するのがビルクであることは、前話の次回予告で示唆されていた。そしてこれをきっかけに二人がただならぬ関係になる事も今話のサブタイトルが示しているのは確かだ。いよいよ物語は最初の大きな転換点を迎えたと言って良いところだろう。ローニャとビルクの物語が新展開に踏み出したのだ。
 前半はひたすらローニャの遭難光景だけが描かれるが、ここにこれまで何度か出てきて「とにかく怖い奴」という印象だけしかない鳥女を上手く使ってきた。鳥女が遭難して動けないローニャを襲うことで、ローニャの危機がまさに生命の危機でもあることをうまく描き出し、ローニャの恐怖心や心細さをしっかりと演出することは名場面欄でのビルク登場を盛り上げる大きな要因であるのは確かだ。鳥女には姉妹がいるのか、なるほど。でも生き物なんだから雄もいるはずだって、脱線した。
 そして満を持してビルクの登場だが、正直言ってこのビルク登場から名台詞欄シーンまで全てを名場面欄として挙げたいほどの内容だった。このふたつのシーンを繋ぐビルクによるローニャ救出シーンも様々な点で見所が多く印象に残るし、助けられたローニャがビルクを伴って山城の入り口にたどり着くまでのシーンもとても印象的。特にこちらのシーンでは、たまにビルクの方向を振り返るローニャの姿や、ビルクの口笛を聞いて安堵するローニャの表情など、彼女の中でビルクの存在が明らかに変わった事を上手く示唆している。そして「きょうだいの誓い」というただならぬ関係は、今後の二人の関係をより密接化して「敵対する山賊の間」という物語をうまく紡ぎ出してくれるのだろうと、期待を寄せるしかない。
 あとはオマケだが、これらのシーンは上手く「次話」に繋げるためのものだろう。今話の主展開が終わったから今話はここまで、とせずにちゃんと次の方向性を決めておくのは大きい。その中でローニャが病に倒れるのは実はたいした話ではないのかも知れない。それがきっかけでローニャがビルクに会いたいと強く感じるようになる「次のステップ」を、既に踏み出しているのだと私は考える。
 あともうひとつ、ビルクのローニャ救出シーンで、ローニャの足下にいる「ずんぐり小人」の存在を忘れていなかったのもポイントが高い。ローニャの足にぶら下がったままのゆりかごが赤ん坊を乗せたまま落ち、「ずんぐり小人」が混乱している様子を忘れずに描いたからこそあのシーンは盛り上がる。相変わらず攻撃的ではないけど、空気が読めないやっちゃな。

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