第10話「きょうだいの誓い」 |
名台詞 |
「ローニャ、僕のきょうだい…。」
(ビルク) |
名台詞度
★★★★★ |
ビルクに助けられたローニャは、ビルクに伴われて山城の入り口の谷間までたどり着く。さすがにここからはビルクの助けを借りるわけには行かない。ここでローニャは振り返り少し照れた表情で笑顔のままのビルクに「ねぇビルク、私あなたか私のきょうだいだといいって思うんだけど」と告白する。ビルクはまた一瞬驚いた後、いつもの笑顔で「君がそうしたいなら、僕はそうなっても良いよ。山賊娘」と答える。「私、そうしたいわ」と返答するローニャだが、「でも、あなた私をローニャって言ってくれさえすればいいんだけど」と付け加える。これを聞いたビルクは小さく笑った後、いつもの笑顔で力強く答えたのがこの台詞だ。
いや、決まった。今話の主展開…「雪で遭難して死にかかったローニャをビルクが助け出す」という展開について、見事な決め台詞になったと思う。これまでビルクはローニャの事を名前で呼ばす「山賊娘」と称することが多かった。ここはローニャのビルクに対する潜在的な不満点である事は、これまで二人のシーンの隅々で積み重ねていたことでもある。この伏線を上手く利用し、「助けられる」ということでビルクに対し心を開いたローニャに対する、ビルクの返答として上手く決まった「決め台詞」となり、短くてありきたりで何の変哲も無いこの台詞がとても印象に残った。 |
(次点)「ああ、だが君がひもの長さだけ離れているならね…。まあ、そう泣くなよ。僕を放しておくれ。そしたら君を穴から引っ張り出せるかやってみるよ」(ビルク)
…詳細は名場面欄を参照して欲しいが、今回のビルクの登場を印象的にしたのはこの台詞だと思う。ビルクは最初、予想外のローニャの反応に対して一度は「これまでの関係」を維持しようとする言葉を吐き、その上で救助活動を宣言する。これは二人の関係が「転換中」であることを上手く示すだけでなく、これまでの二人の会話をうまく伏線として利用した「自然な台詞」に仕上がっているのがとても印象的だ。正直、名台詞欄でどっちの台詞を挙げるか最後まで悩んだ台詞だ。 |
名場面 |
ビルクがローニャを発見 |
名場面度
★★★★ |
前話でのローニャのピンチがどう解決するか、これは今回のサブタイトルと前話の終わりに見た次回予告で「ビルクが助けに来る」という展開が見えていた。だからこそその「解りきっているシーン」をいかに印象的に描くか、ここは今話での最も重要なポイントだったはずだ。
まず遭難したままのローニャは、雪の中に自分の名を呼ぶ声を聞く。ローニャはそれを「夢を見ている」として信じないが、これが現実であることは中間ジングルを挟んだ後に判明する。倒れているローニャに「ローニャ、もう家に帰らなくて良いのかい?」と問うビルクの声に、ローニャは時間を掛けて気が付いてそこに立っているビルクの姿を見上げる。このときのローニャ目線のビルクが凜々しい笑顔で描かれているのはポイントが高い。上半身を起こすローニャにビルクはローニャのスキーを片方だけ発見して探し出したこと、これが運が良くそうでなかったらローニャがここに倒れているより他はなかったことを告げる。スキーを脱いでローニャを救助すべく準備するビルクを信じられない表情で見上げたローニャは、「君、きっと助けがいるんだろ?」と声を掛けたビルクを見上げたまま表情を崩して声を上げて泣く。そしてローニャを助け上げようとしたビルクに抱きつき、「私から離れないでね、もう決して離れないでね」と訴える。一瞬驚いたビルクはすぐ笑顔になり「(名台詞次点欄の台詞)」と告げる。涙を拭って静かにビルクから離れるローニャ、こうしてローニャの救出活動が始まる。
こうして文章にして見るとどってことないシーンになってしまうが、このシーンは実際に見ているとそこにたどり着くまでの「ローニャの心細さ」が根底にあり、そしてそこにまさに救世主のようにビルクが現れたという点をうまく描いて印象的なシーンとして仕上がっている。特に何も説明していないのにビルクが状況を理解し、ローニャには救助が必要と判断済みである点は彼がローニャにとって「必要なときに必要なことをしてくれる」という状況が無言で説明されている意味でとても良いところだ。
だからこそこのシーンをきっかけにローニャがビルクに対して心を開くのは説得力があるし、ビルクを頼りにするという心境変化が生まれるのにも説得力が出る。ローニャの脳裏にはこれまでもビルクが自分のピンチを救ってくれたことがよぎったのも事実であろう。
またこのシーンを印象的にしているのは、何よりも名台詞次点欄の台詞だ。 |
感想 |
名台詞欄にも書いたとおり、前話で遭難したローニャを救助するのがビルクであることは、前話の次回予告で示唆されていた。そしてこれをきっかけに二人がただならぬ関係になる事も今話のサブタイトルが示しているのは確かだ。いよいよ物語は最初の大きな転換点を迎えたと言って良いところだろう。ローニャとビルクの物語が新展開に踏み出したのだ。
前半はひたすらローニャの遭難光景だけが描かれるが、ここにこれまで何度か出てきて「とにかく怖い奴」という印象だけしかない鳥女を上手く使ってきた。鳥女が遭難して動けないローニャを襲うことで、ローニャの危機がまさに生命の危機でもあることをうまく描き出し、ローニャの恐怖心や心細さをしっかりと演出することは名場面欄でのビルク登場を盛り上げる大きな要因であるのは確かだ。鳥女には姉妹がいるのか、なるほど。でも生き物なんだから雄もいるはずだって、脱線した。
そして満を持してビルクの登場だが、正直言ってこのビルク登場から名台詞欄シーンまで全てを名場面欄として挙げたいほどの内容だった。このふたつのシーンを繋ぐビルクによるローニャ救出シーンも様々な点で見所が多く印象に残るし、助けられたローニャがビルクを伴って山城の入り口にたどり着くまでのシーンもとても印象的。特にこちらのシーンでは、たまにビルクの方向を振り返るローニャの姿や、ビルクの口笛を聞いて安堵するローニャの表情など、彼女の中でビルクの存在が明らかに変わった事を上手く示唆している。そして「きょうだいの誓い」というただならぬ関係は、今後の二人の関係をより密接化して「敵対する山賊の間」という物語をうまく紡ぎ出してくれるのだろうと、期待を寄せるしかない。
あとはオマケだが、これらのシーンは上手く「次話」に繋げるためのものだろう。今話の主展開が終わったから今話はここまで、とせずにちゃんと次の方向性を決めておくのは大きい。その中でローニャが病に倒れるのは実はたいした話ではないのかも知れない。それがきっかけでローニャがビルクに会いたいと強く感じるようになる「次のステップ」を、既に踏み出しているのだと私は考える。
あともうひとつ、ビルクのローニャ救出シーンで、ローニャの足下にいる「ずんぐり小人」の存在を忘れていなかったのもポイントが高い。ローニャの足にぶら下がったままのゆりかごが赤ん坊を乗せたまま落ち、「ずんぐり小人」が混乱している様子を忘れずに描いたからこそあのシーンは盛り上がる。相変わらず攻撃的ではないけど、空気が読めないやっちゃな。 |