第17話「海底急行の危機」(英名:Heist Society) |
名台詞 |
「ブレインズ、僕らのルールは解っているだろう? 現地へ行って確かめるまでは、何が起きているか決めつけるのは早い。」
(スコット) |
名台詞度
★★★★ |
ペネロープとモファッド教授が乗った海底トンネルを走る列車から救難信号が入り、その後消息を絶つ。この一報によりサンダーバードファミリーは出動の準備を始めるが、その中でモファッド教授に特別な想いを持つブレインズが取り乱し、二人が乗っていると言うことだけを根拠にこの事故がテロだと勝手に決めつけてしまう。これに対して長男のスコットがこの台詞でブレインズをなだめる。
そう、何が起きたかを自分の思いや偏見だけで決めつけては真実が見えなくなり、サンダーバードの仕事である「救助」に着いても正しい判断が出来なくなってしまう。だからこそ現場を目で見るまでは何も断定できないという彼らの「現場主義」をこの台詞は見事に体現している。その上で、この「現場主義」はブレインズも解っていて実行しているはずなのに、彼が取り乱しているという事実もうまく突きつけているだろう。結果取り乱したブレインズが冷静を取り戻すのに説得力を持った台詞となり、これに続いてスコットはブレインズが取るべき道をちゃんと諭したことで、この後のブレインズの冷静な判断による行道に説得力を持たせているのだ。
しかし、「現地へ行って確かめるまでは、何が起きているか決めつけない」というルールを守らない奴が一人いるよなー。末っ子で目立ちたがり屋の…(以下略)。 |
名場面 |
フッド逃走 |
名場面度
★ |
今回のお宝である「センチュリアム」を盗むために、海底列車に乗り込んだフッドはモファッド教授に変装してペネロープのいるコンパートメントへの潜入に成功する。だがペネロープの飼い犬であるシャーベットの動きからペネロープはモファッド教授が偽物である事に気付き、またモファッド教授本人がコンパートメントに戻って来たことでフッドはお宝を取り上げて逃走開始。彼はパーカーの攻撃を交わして作業口から列車の屋根へ上るが、ペネロープが果敢にもこれを追いかける。だが列車の屋根に上るとフッドは潜水艇の昇降梯子に掴まって上昇中で、ペネロープは発進機をお宝が入ったトランクに取り付けるのがやっとだった。フッドは「もっとお近づきになりたかったのに、残念だ」と捨て台詞を吐くとトンネル外へと姿を消し、フッドが潜水艇を出すとトンネル内部に大量の水が落ちてくる。今度はこの大量の水とペネロープの追いかけっことなる。
今話で最も盛り上がったシーンはここだと思う。視聴者はフッドがモファッド教授に変装してペネロープのコンパートメントに入り込んだところから、この変装がバレたらどう展開するかに注目を置いてみるはずだ。そして本話ではまさにこの「フッドの変装がバレる」をきっかけに、物語がペネロープらの「遭難劇」からフッドを追いかける物語へと変化する。その変化点でとても迫力のあるシーンを置いたことで、視聴者に期待と不安を煽る強印象シーンとなったのは間違いない。
そしてここでは、こういうときに活躍のはずのパーカーがあっさりとフッドに交わされてしまうことでペネロープ本人がフッドを追いかけるという意外な展開を迎えたのもこのシーンを盛り上げた理由の一つだ。それも機械などに頼らず、ペネロープは自分の足だけでフッドを追いつめようとするのだから凄い。だがこのシーンではフッドの逃亡を許してしまうことで視聴者の不安を余ると同時に、大量の漏水がペネロープの危機を描くことになってさらにこのシーンを盛り上げる。二重にも三重にも盛り上げる仕掛けが用意されていて、まさに「手に汗握る」シーンだった。 |
感想 |
ツッコミどころが多い話だが、本話はそれをカバーできる展開があったと思う。その展開とはなんてったって名場面欄に書いたフッドの逃走に二重三重の仕掛けが用意された点もそうだし、名台詞欄シーンを中心に登場キャラクターがしっかりと個性を持って演じている点も上げられる(これは脇役のモファッド教授やチョイ役の海底列車の運転士も含める)。さらにいえばモファッド教授に変装したフッドが最初に出てくるシーンも面白かったし、まるで007のようにペネロープ号が潜水艇になってフッドを追いかけるという「意外性」も物語を盛り上げた。第7話もこのくらい見どころがあれば、設定や考証不足をうまくカバーできて面白い話になったはずなのに…。
今話のビジュアル面を見ていて、一つ気付いたのは各所に出てくる「水」の質感にこだわっているであろうことだ。これまで本作で「水」が出てくるシーンの多くは、穏やかな海面や海中シーンであることが多かった。これに対して今話では「水の流れ」というシーンが多かった。それもただ単に水が流れていれば良いのではない、その水の流れが登場人物達にとって脅威でなければならないという点に力点が置かれていたと思う。そのためには水をリアリティに描くことは重要だったはずだ。
昔のサンダーバードは特撮だったせいもあって、「水」の再現が困難だったのは否めない。それはかつて円谷プロだったが言っていた「水は縮小できない」という言葉の通りで、精密なミニチュアを使っても水は等身大のままで変わらないという厳然たる事実があるためだ。たとえば海のシーンでは波があるのに白波が立たない、大きな波は再現できてもさざ波が再現できない、水の流れのシーンでは飛沫が再現できないなど、ミニチュアを使った特撮では「水」の再現に限界があったのだ。
だが現代ではこの「水」をCGで再現することができる。ここをキチンと活かして「昔のサンダーバードのような画面」にはせず、水で迫力を出さねばならないシーンをちゃんと作ってその中でサンダーバードのキャラクターが活躍するというシーンを描き出した。これは昔のサンダーバードを知っている人なら新鮮なシーンとして移ったはずで、サンダーバードの新たな方向性を作ったかも知れないと私は感じた。 |
研究 |
・レイキャビク急行 今回のゲストメカは、なんてったってペネロープとモファッド教授を乗せていた海底列車「レイキャビク急行」だろう。今回はこれについて考察したい。
「レイキャビク急行」がイギリスとアイスランドを結ぶ列車であることは、サンダーバード5号が出てきたシーンから解る。列車の遭難地点としてグレートブリテン島とアイスランドを結ぶ線上にポイントが示されていたからだ。恐らくイギリスの首都ロンドンと、アイスランドの首都レイキャビクを直接結んでいる列車と考えられる。
このうち、グレートブリテン島とアイスランドの間が今回の舞台となった海底トンネルで結ばれているはずだ。この間の約860キロに及ぶ長い海底トンネルを「レイキャビク急行」はくぐり抜けているはずなのだ。ただ現実的に言えば少しでも水深が浅いところを通りたいだろうから、フェロー諸島を経由して南側約400キロと北側約480キロの2本のトンネルに分割することだろう。トンネルの構造は水中にパイプを通す方式だが、実際にはこんな工法を大西洋のような広大に海で使うのはムリのはずだ。海底に橋脚を建てることが困難で、青函トンネルのように海底下にトンネルを設置した方が早いからだ。
そんな工法的な話をすると物語が成り立たなくなってしまうので置いておくこととして、次に列車の速度を考えたい。劇中の様々な描写や台詞から列車はリニアモーターカーであることは確かだ。しかも浮上・着地を停止時に行う運転方法を見ると、日本のJR東海が開発しているマグレブとは違う方式だが、ここはその辺りを無視して第7話に出てきた列車と同じシステムと仮定する。恐らく日本式とドイツ式のリニアモーターカーの技術を掛け合わせて、世界標準のリニアモーターカーのシステムが開発されて世界各地を結んでいるのだろう。
第7話に出てきた「日本の高速鉄道」は、最高速度が600km/hであると推定した。だから本話のリニアも同じ最高速度と仮定して計算してみる。ロンドンとレイキャビクの間は直線距離で1900キロ、この間の道のりが2000キロと仮定すれば、この間をずっと最高速度で走れば3時間20分だが、最高速度までの加速と減速もあるし、何よりも途中の都市を無視することは出来ないだろう。途中イギリス中部の工業都市マンチェスターや、スコットランド最大の都市であるグラスゴーは避けて通ることは出来ず、この2駅は停車することになるだろう。各国の高速列車などのデータを見ると、始発駅から終着駅までの停止や時間も加味した平均速度(表定速度)は最高速度の2割減程度なので、この列車はロンドンとレイキャビクの間を4時間10分で結んでいると考えられる。現在、この間の旅客機によるフライトタイムが3時間だから、実現すれば飛行機より便利な乗り物になっていることだろう…今回のお宝「センチュリアム」を飛行機で運ぶ事なんか考えなくて良いはずだし、こんな乗り物で世界中が結ばれているなら旅客機なんかないんじゃんいか?
グレートブリテン島とアイスランドを結ぶトンネルは無停車でほぼ全線最高速度で走れるはずなので、1時間半程度で走破できてしまう。考えれば考えるほど凄い列車だって解った。 |