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第11話「最後の切り札」英名:Skyhook
名台詞 「やめろ、みんな騒ぐな! 認めたくないけど、インターナショナルレスキューも今回ばかりはお手上げだ。全員出来るだけやってみたが、もう誰も残ってない。」
(スコット)
名台詞度
★★★
 成層圏で遭難して下降不能となった気球形観測ステーション「シルス」を救助するため、バードルとゴードンによる2号による作戦、スコットによる1号による作戦、ジョンによる3号による作戦の全てが失敗に終わった。これを受けてスコット以外の兄弟達は次なるアイデアを出し合うが、その方法に問題があって口論となってしまう。見かねたスコットがそこへ割り込むように告げた台詞がこれだ。
 残念ながら、確かにこの場では失敗を認めざるを得ない。これまで様々な困難なシーンも乗り越えてきたであろう兄弟達だが、使えそうな策…「輸送機とこれに搭載されている機器による作戦」「支援用高速航空機による作戦」「宇宙航空機を活用した作戦」という、サンダーバードが持っている策はここまでに使い果たしてしまったのだ。
 それでも前進して何とかしたいという気持ちは痛いほど分かるが、ここで無理をすれば次は自分たちが危ない。だからこそ誰かが強力なリーダーシップを発揮しなければならず、それによって兄弟達が危険な作戦で消耗されるのを止めなければならい。ここでスコットがこの役割を取り、長男として強力なリーダシップを発揮させた台詞だ。
 その内容は厳しい現実を自分で受け止め、それを弟たちに理解させることであった。その上でそんなことは認めたくないという思い、みんな出来る限りのことをやったという皆を認める言葉。この長男として弟に「言うべき事」がキチンと再現されているという点で、とても印象的だったのは確かだ。そしてこの印象的な台詞が、物語を日本語サブタイトルである「最後の切り札」へと誘うのだ。
名場面 最後の切り札 名場面度
★★★★
 名台詞線シーンの台詞を受けて、「いやいや、諦めるのはまだ速いだろ? まだ一人残っているよ」とブレインズが返す。兄弟が口を揃えて「誰が?」と問うと、画面にジョンの顔が大きく洗われて「僕だ」と小さな声で答える。兄弟達が疑問に感じる台詞を吐くと、ブレインズが作戦の概要を語り出す。
 名台詞欄シーンからこの流れは、本作のだけではなく「サンダーバード」という素材をも根本的に破壊したと私は考えている。「サンダーバード」を知る人の全てが、ジョンが乗るサンダーバード5号は人工衛星で、宇宙空間にあって地球上でのSOSを監視し、サンダーバードによる救助活動を支援する役割であり、基本的には救助活動に参加することはなかった。だが本話ではそのサンダーバード5号が救助活動に参加しようというのである。「サンダーバード」を知っている人達はこの展開を誰が予想したことだろう。
 もちろん、「サンダーバード」を見たことがない人達にも「人工衛星がどうやってピンポイントに移動して救助活動をするんだろう?」という疑問を抱くことになる。これによって物語に対する期待感と不安感から、物語は一気に盛り上がっていったのは確かだろう。
 そして、この5号の使用こそが、本話の日本語サブタイトル「最後の切り札」であることが視聴者にも分かるのだ。
感想  まさか…まさか…サンダーバード5号が救助活動をしちゃうなんて、思ってもみなかった。「最後の切り札」という日本語サブタイトルに、1〜3号の救助が全て失敗したところで出てくる「最後の切り札」が、本作で追加設定された「サンダーバードS号」で、ケーヨが始めて自機で大活躍…という展開になるかと思っていたら、名台詞欄シーンの兄弟の口論で「ケーヨはフッドを追っているため不在」という設定が明らかになって「??????」になったもんなー。
 確かに、本話の最初の方ではジョンが5号に乗り込む過程をわざわざ再現し、5号に後付け設定みたいな「軌道エレベータ」という装備まで映し出している。そこをキチンと見ていれば、ああいう展開は想定可能だったかも知れないが、在来の5号に対するイメージが強烈だったからなー。
 5号ついでに言えば、8話で登場のEOSがちゃんとキャラクターとして5号にいた事は評価できる。ああいうキャラでも一発屋にせず、ちゃんとレギュラーキャラとして迎え入れる素地があることは、旧作に縛られない新しい「サンダーバード」を作るという上では必要なことだ。もちろん、今回の5号の活躍もそのひとつであり、私はとても面白かったと思う。でも5号の重力リングをリールにしてロープを巻き取るというのはなー、あんな無茶したら5号も壊れるし、何Gもの重力が掛かっているのに四つん這いってジョンは凄い体力の持ち主なんだなーと突っ込むしかなくなる。
 しかし、今回救助対象だった観測気球「シルス」に乗り込んでいた科学者のフィシュラーの声、どこかで聞いた声だなーと思ったら、「名探偵コナン」の高木刑事の声じゃないですかー。
研究 ・軌道エレベータと「サンダーバード5号」
 今話冒頭で「サンダーバード5号」への往来について始めて描かれた。旧作では「サンダーバード5号」への往来については宇宙航空機である「サンダーバード3号」が用いられ、乗員はジョンとアランが交代で行っていた。だが本作では5号の乗員は常にジョンであってアランと交代している様子は描かれず、今話冒頭ではジョンが地上で兄弟達とトレーシー島で過ごしているシーンも描かれた。すると視聴者が思うのは「ジョンがどうやって宇宙空間の5号へ行くのだろう」という疑問だろう。
 その往来方法として描かれたのが、軌道エレベータであった。劇中では「宇宙エレベータ」と呼称されていたが、これはどう考えても宇宙開発の場において「軌道エレベータ」と呼ばれているものだ。
 軌道エレベータは地上と地球の静止衛星軌道上にある物体をケーブルで繋ぎ、このケーブルに沿ってエレベータなどを昇降させて地球上と宇宙空間を往来するものであり、多くのSFでも描かれてきたものだ。「サンダーバード」でも他のSFに倣って本作で追加された設定であることは言うまでもない。ただし「サンダーバード5号」の軌道エレベータは、不必要な際は地上とは連結されず5号側で巻き取っていると考えて良いだろう。
 「サンダーバード5号」とトレーシー島がこの軌道エレベータで結ばれても問題がないと言うことは、「サンダーバード5号」はトレーシー島の上空に制止している静止軌道衛星であることは確かだ。つまり「サンダーバード5号」動力飛行をしない限りは、常にトレーシー島の上空 35786km にあることは間違いない。そうすれば「サンダーバード5号」は地球の回転と同期した飛行を勝手にしてくれるからだ。だがこれでは、トレーシー島から見える範囲からしかSOSを捉えることが出来なくなってしまう。旧作では5号の軌道は 445km と設定されていたため、様々な地域のSOSを受信できたのだが…。
 だが本話では「サンダーバード5号」は強力なスラスターを搭載していて、軌道を自由に変更できることが描かれている。つまり「サンダーバード5号」は普段は地球上の様々な地域のSOSを受信できる軌道を飛行しているが、ジョンが地上に戻るときだけトレーシー島上空の静止軌道に戻るということだ。だがいずれにしても「サンダーバード5号」には余裕も含めて全長 36000km ものケーブルが収納されているということだ。なんかこれだけであの機体には収まりそうにないんだけどもうそこは突っ込んじゃいけないですな。
 それに軌道エレベータの問題点として、静止軌道上の人工衛星から地球に向けてケーブルを下ろして行くと、人工衛星の重力バランスが変わって人工衛星が下降を始めて静止軌道から外れてしまうという問題がある。このため、軌道エレベータを実際に建設するなら地球とは反対方向にも同じ長さのケーブルを伸ばすことになる。つまりジョンが地球にいる間の「サンダーバード5号」は、地球から伸ばされた約 72000km もの長〜いケーブルの中心に位置する小さな人工衛星ということになる。そしてジョンが乗り込むと、 72000 kmものケーブルを巻き取ってって…なんか凄い話になってきたなぁ。
 このエレベータのケーブルを救助に使ったのだから、5号は軌道の調整が大変だったろうな…。

第12話「深海からの脱出」英名:Under Pressure
名台詞 「分かったぞ、よし。(息を吸い込む)助けてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

(ネッド)
名台詞度
★★★★★
 今話冒頭、海底で危機が起きる。海底で有害廃棄物除去をしていた海底車が遭難、このオペレーターとして乗っていたのが9話で小惑星鉱山での遭難を演じたネッドだ。彼は宇宙鉱山での遭難に懲りて、ごく短期間で海底での廃棄物業者に転職したようだが…。それはともかく、このピンチにネッドは友人である鉢植えのグランディスと乗り越えようとするが万策が尽き、叫んだ言葉がこれだ。この海底での叫び声が大気圏外のサンダーバード5号に届くという形でストーリーがサンダーバードに繋がる。
 担当する役者さんの魂の叫びと言って良いほどの雄叫びだ。本当に海底から宇宙まで届きそうな叫び声を上手く演じてくれて今話で最も印象的な台詞になったのは確かだ。そしてこの単純な叫びが5号に届く…これは「サンダーバード」という物語の基本であり、精神だと思う。旧作の「子供達のオモチャのトランシーバーによるSOSまで受信しちゃう」というストーリーも、こんな単純な「叫び」に対して応えるという「サンダーバード」の基本から生まれたものであり、本作でもそんな単純な精神が受け継がれていると明確にされたと感じた。
 ちなみにこの台詞、NHKによる放映では副音声で放映されているオリジナル版を聞いてみると、「I know ready(息を吸い込む)Help!」になっていて、カタカナで示すなら「アイノオ レディ ヘーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーールプ」って感じだ。もちろんオリジナル言語版でもここの「ヘルプ」は魂のこもった叫びになっているのは言うまでもない。演じているのは誰だ?
名場面 ペネロープと悪党 名場面度
★★★
 今回遭難した海底廃棄物処理車を運行している会社は、フッドに乗っ取られていた。これを掴んだペネロープが親がこの会社に投資しているという立場を利用して脅しを掛けると、会社からペネロープ達を亡き者にに使用と刺客が送られる。このうちの一人がバイクで転倒しつつも、ペネロープの車を崖下に落とすことに成功する。悪党は笑いを浮かべるが、ペネロープの車はその飛行機能によって無事であり、4号による廃棄物回収車救助作業シーンを挟んでペネロープとパーカーはこの悪党に迫る。逃げようとする悪党の足にパーカーが足を掛け悪党が躓くと、「何かに躓いたの?」とペネロープが涼しい顔で問う。恐怖に怯えて逃げようとする悪党にペネロープは「大丈夫、何もしないわ。ただ誰に雇われたのか教えて戴けるかしら?」と厳しい声で問う。
 これだけのシーンだが、今回最も印象に残ったのはここだった。やっとの思いで敵を追いつめて亡き者にしたと思っていた悪党の、「やっぱり敵は倒されていなかった」という戸惑い、それによって「何をされるか分からない」という恐怖、これがキッチリ演じられている。これを際立たせるためのカメラワークも凄く上手くて、怖がる悪党を出すときは上から見下ろす視線に、悪党に問い詰めるペネロープを出すときは下から見上げる視線にと切り替えている。こうすることでバイクというメカを失い抵抗が出来なくなった悪党側と、最新の装備によりメカが健在でまだまだ戦えるペネロープ側の「立場の差」を上手く再現し、悪党が震え上がることに説得力を持たせている。同時にペネロープが愛犬シャーベットを抱きかかえながらという事実は、彼女たちの側に余裕があることを上手く描いているだろう。こうして今回の「フッドの敗北」を上手く描いたことで、どってことないはずのシーンなのにとても印象に残ったのは確かだ。
感想  この話いい。サンダーバードメカは基本的に2号と4号のみで話が進み、あとは海底での救助活動とペネロープ達の悪党との戦いが二元中継で進む。話が単調にならずかつ緩急もしっかり付いていて、被救助者の廃棄物処理車のピンチや、4号のピンチも上手く描かれているなど手に汗握る展開もある。ペネロープもミサイルに追われるなど決して「楽に勝っていない」ように描かれているのも話を面白くしている。
 そして今話を面白くしているもう一つの要素は、9話で登場のネッドを再登場させたことだ。友人である鉢植えと会話したり、救助活動に不満を漏らしたりしながら、物事をユーモラスに進める彼のキャラクター性が、9話の時にウケたんだろうな。今回の彼の不満は「前回の救助活動とメンツが違った」事らしい。そういえばネッドは、9話ではアランとケーヨに助けられたが、今回はバージルとゴードンだからなぁ。でも考えてみれば海底での救助活動に宇宙専門の担当者が来たらやっぱり納得がいかないだろうと思う。
 さらに今回の救助の一件にフッドが絡んでいるというのも良い効果だったと思う。6話以降フッドが絡む話がなかったので、「サンダーバード」という物語に「フッドという悪党との戦い」という一面があったことを視聴者が忘れかけている頃だったからだ。でも、本作に出てくるフッドってなんかせこいなぁ。水道水を汚染して自分で浄化するというマッチポンプで一儲けしようと思っているんだから。
 今回はスコットとケーヨがなんかの訓練をしていることが示唆された。いよいよサンダーバードS号の活躍が近いのかな? S号って2話で印象的に出てきておきながら、全く出てこないもんなー。制作者側がその存在を忘れているんじゃないかと疑っている。
研究 ・ 
 。

第13話「重力の井戸」英名:Heavy Metal
名台詞 「でもここでボーッと見ているよりは良いよ。待っててみんな、今行くからね。」
(アラン)
名台詞度
★★★
 原子加速器を暴走させたために重力異常(重力の井戸)が発生し、今や巨大な宇宙ステーションが墜落しそうになっている。この危機を乗り切るためにサンダーバードでは最も強靱なボディを持つ潜水艇の4号が、2号からつり下げられる形で加速器停止のミッションを行うことになった。だが重力以上は強まるばかりで、2号の推力ではとても持ちそうにない。そこでアランがブレインズと共に乗ってきたポッドモジュールで2号を助けに行くことを提案するが、ブレインズはポッドの推力ではとても足りないと反対する。そのブレインズの反論に対して、アランはこう言い残してポッドに乗り込むべく走り出す。
 この台詞にサンダーバードと言う物語に秘められている一つのテーマを見ることが出来る。それは兄弟が力を合わせて難局を乗り切るという物語だ。一人で出来ないことも、兄弟が助け合って様々な知恵を出し合い、力を合わせて難しいミッションをひとつずつクリアして行くことも、「サンダーバード」という物語の醍醐味だろう。そんなこの兄弟の絆を、末っ子のアランが演じてみせる。そしてアランは、1号が現場に戻ってくるまでの短時間とはいえ、2号を何とか支えてミッション成功へと物語を導くのだ。
名場面 ブレインズとモファッド教授 名場面度
★★★
 名場面欄シーンを受けてアランが実験室を出て行くと、ブレインズとその友人で女性科学者であるモファッド教授の二人きりになる。「私、怖いわ」と恐怖に震えるモファッド教授に、ブレインズは自分が考えた数式を暗唱して気を紛らわせることを提案する。これにモファッド教授は「根っからの理系なのね、底が好き」と甘い表情を見せると、二人は何かに取り憑かれたかのように数式の暗唱を始める。
 今話で最も面白かったのはこのシーンだ。サンダーバードのエンジニア、ブレインズはどちらかというと変態的科学者であり、恐怖を感じると数式の暗唱を始めるなどその「変わり者」ぶりをさんざん視聴者に印象付けてきたところだ。そこへ今話では、ブレインズの思い人ともいえる女性が登場する。ここまでこのモファッド教授はブレインズと「お似合い」の女性であることを上手く演じてきたが、それはここまでブレインズがまだその変人ぶりを見せていないからこそ違和感がなかったといって良い。ではブレインズが本性を見せたらどうなるのか…という回答がこのシーンであると言えるだろう。
 そしてその結果は、このモファッド教授もブレインズと同傾向の変人だと言うことだ。つまりこれでブレインズとモファッド教授の「お似合い」感が確定したわけであり、また二人がいつ恋に落ちてもおかしくない状況になったし、かつラストシーンでモファッド教授がブレインズにキスをすることも不思議でなくなったといって良いだろう。二人とも互いが自分と同傾向の変人である解っているし、それを認め合っているからこそ、このような極限的な場面でこういうシーンを演じることは自然だし、かつ二人とも相手への思いを素直に言えないのである。それが言えない理由はもちろん「自分が変人だから」であろう。
 そんなモファッド教授が「ブレインズの恋人」としての地位を確定したといってよく、私がサンダーバードでは比較的好きなキャラであるブレインズの好印象シーンとしても、このシーンがとても気に入った。
感想  あのブレインズに恋人が出来るなんて…ブレインズの眼鏡が取れて素顔で演じるシーンも印象的だが、何よりもブレインズの恋人であるモファッド教授のその強烈なキャラクター性には参った。ブレインズにはこういう人というキャラクターを上手く演じていたからね。旧作のブレインズに恋人の存在はなかった…よね?
 メカ的にはもうこの無理矢理感がたまらなく好きだ。やっぱり暴走するならこれくらい派手に暴走しないと。重力異常が起きているところで「圧力に強い機体」ってあまり意味がないけどなー、でもそこを突っ込むと今回の目玉である「4号の空中作業」という滅茶苦茶なシーンが実現できなくなってしまう。さらに言えば4号のミサイルで全て解決という、終わり方の無茶苦茶感も溜まらなく良い。暴走トレインの時もこれくらい派手にやって欲しかったよ。
 ツッコミどころは沢山あるんだけどさ、もう気にならなくなるほどの名作といって良いと思う。今回の物語では東京から何処まで行くのかよく分からない旅客機に、9Gもの重力加速度が掛かるなんて、乗っているお客さん全員潰れているぞ、きっと。それは4号に乗っていたゴードンもそうだけど。
 本作はここまでの13話で一区切り、1ヶ月ほど休んでから14話以降の「第二シーズン」の放映へと切り替わるらしい。同時に新年度から放送時間も変更されるようだ。ここで物語の様相が変わったり、S号が活躍するようになるのかな? いずれにしても続きが楽しみになってきたぞ。
研究 ・ 
 。

第14話「狙われたスペースホテル」英名:Falling Skies
名台詞 「それはあんたが、いつも人間の良いところを見ているからさ。世界にはあんたみたいな人が必要なんだよ、あんたとその直感がね。」
(おばあちゃん)
名台詞度
★★★
 ブレインズが設計したスペースホテルが、フットのテロ活動で失われる。幸いにもサンダーバードによる救助活動により犠牲者は出なかったが、ブレインズはこの事件を受けて「設計を強化する」とした上で「あんな事をする奴がいるとは夢にも思わなかった。人間が分からなくなったよ」と呟く。これにたいするおばあちゃんの返答だ。
 全く、おばあちゃんの指摘通りだ。科学者としてのブレインズは最先端技術を開発する頭脳を持っているだけでなく、これを悪用するのでなくその技術が正しく使われることを願っている。その前提として自分が開発された技術が、万人に正しく活用されると信じている。だからこそ本来は国際救助隊なんて今回のようにテロとの対決もある物騒なところで働くのでなく、安全な研究室で働くのが本来の姿であるはずだ。だが彼は物騒なところにいたことで、自分の技術が誤った使い方をされる状況を目の当たりにしてショックを受けたのは確かだ。
 だからといって、多くの人はブレインズのような万能科学者にへこたれて欲しくないのは真実だ。このような人がいなければ、最先端技術が世の中に現れて我々の暮らしが豊かになる事は無い。テロリストを恐れず豊かさを追求する科学者の姿こそ、世間の人々が求めている科学者像ではないかと思う。
 そんな論理を、本作の制作者はこの台詞に込めたのだと思う。現実の世の中では悲惨なテロ事件が頻発し、今や核テロの恐怖まである時代。そんな時代でも科学者には夢のような技術を開発して欲しい、そんな応援メッセージにこの台詞が聞こえた。
名場面 ケーヨの脱出 名場面度
★★
 いよいよスペースホテルが大気圏に再突入、地上に墜落の危機をブレインズが「フッドが仕掛けた破壊工作を逆手にとる」という提案をし、これを内部に残っていたケーヨに実行させる。仕掛けを終わらせるともうスペースホテルは成層圏を突破して刻々と地面が近付く。回転する機体に従って走って脱出するケーヨは、何とか1号が置いていったポッドを発見して辛くも脱出に成功する。
 なんてことないシーンだが、このシーンの迫力が大好きだ。特に機体の回転に従って360度回りながら走るケーヨの姿はとても迫力があって良い。その間に挟まれる地上で過ごす人々とそこに迫る危機の描写も素晴らしい。どれもこれもピンチを上手く描いている。
 「現実的でない」「ツッコミどころ満載」だとしても、こういう迫力シーンがあるからこそ物語が盛り上がるのだ。7話みたいに中途半端で、ツッコミどころばかりが目立つとだとダメだけどね。
感想  今回からは「第二シーズン」ということらしいが、物語の雰囲気や展開は前話までとあまり変わらない。ケーヨとフッドの直接対決が久々に描かれたけど、これも「第一シーズン」で何度か描かれていた事なので真新しいことではない。
 今回の舞台は宇宙空間のホテル。奇しくも本話の日本での最初の放映は、アメリカで打ち勇ホテルの試験機打ち上げに成功したその日だった。宇宙ホテルについては詳細は研究欄に回そう。
 そして今回は、そんな夢の技術にフッドがテロ行為を仕掛けるという、これまた現代社会において他人事とは思えない設定だ。このところ世界各地で悲惨なテロ事件が頻発し、多くの犠牲者が出ていることはニュースなどでご存じと思う。それを思うと本当に怖い内容だ。
 ブレインズの新技術は、素材なのだろう。つまり彼が開発したのは耐熱性や高いことや強靱なだけでなく、分子構造をコントロールすることで形状を記憶させたりすることが出来るまさに夢の素材なのだろう。だとするとこの宇宙ホテルの作り方も現在の組み立て工場とは違うはずだ。化学工場で分子構造を調整するだけで素材がが勝手その形に出来上がってしまうのだから…壊れても自動修復されるというのも、このような素材であれば理解できる。分子構造が失われていなければ壊れたパーツは元の姿に復元しようとするのだろう。凄い、夢の素材だ…でもこんな新技術を、ろくにテストもしないで不特定多数を乗り込ませて宇宙に送り出しちゃうんだからなー、普通の人なら「フッドが化けた技術者」と同じ事を考えて当然だと思うけど。
 話が逸れた。このブレインズが開発した夢の素材が、事故発生によって一度は疑われたときのブレインズの苦悩も見過ごせない。本作ではブレインズを「完全無欠な科学者」として描くのでなく、「弱いところも持っている普通の人」として描いているのはとても好感がも持てるところだった。
研究 ・宇宙ホテル
 今回は宇宙ホテルについて考えてみよう。感想欄に書いた通り、日本で本話が初放映された2016年4月9日に、アメリカでは宇宙ホテルの試作機打ち上げに成功している。このニュースについてはこちらこちらを参照して戴きたい(リンク切れの際はご容赦ください)。
 また宇宙ホテルは世界各国でもその技術開発が進んでいる。日本でも清水建設がその構想を進めているし、ロシアなどでも構想や開発が進んでいる。いずれもこれらは、宇宙で不特定多数の人々が打ち勇空間で数日間過ごせる施設であり、人の宿泊設備だけでなく地上のホテルで食べるのとほぼ変わらない豪華な食事を供給する設備や、シャワーなども備える構想もある。ただし酒だけは徹底的に禁止される模様で、これは宇宙酔いとの関連と考えられる。
 本作に出てきた宇宙ホテルも、これと同じ趣旨の物と考えて良いだろう。救助シーンから見ると収容人数は10人程度と考えられ、恐らく現実に宇宙ホテルを建設してもこの程度が限界だろう。これにホテルの職員も最小限の5人程度という感じだろう。今回はオープニングセレモニーということで報道陣もいたが、これは収容人数に含まれていると考えるべき。だから画面に出てこない「その他大勢」のお客はせいぜい6人程度だろう。
 というか、この程度の人数でないと運営は難しいと思う。ホテルへは定期宇宙船で地球と結ばれていると考えられるが、これが毎日運行だとしても必要な物資を積み込まなきゃならない。宿泊者の食事、空気、水、その他もろもろ…これらは人数が増えれば増えるほど一回の運搬量が雪だるま式に増える。すると宇宙船も宇宙船も雪だるま式に大きくなってしまいどんどん不経済になるはずだ。
 また物資を運び込むだけではない、今度は宿泊客が帰るのと同時に不要品を運ばねばならない。そのゴミやもちろん、お客や従業員が出した排泄物も運び出さねばならないのだ。こうなると往路に運ぶ物資と袋に運ぶ不要品は同じ貨物室に入れるわけに行かない、だってさっきまで排泄物を運んでいた貨物室に次は食糧を積み、その食糧を食えといわれて納得する人はいないだろう。
 食糧だって「素材」のまま運んで現地で料理すれば良いという簡単な話ではない。機内食のように一食ずつ調理を全て完了した状態でトレイに乗せて輸送し、ホテルでは電子レンジで温めるだけという対応になるだろう。すると食糧を運ぶ体積は素材のまま運ぶよりも体積が大きくなってしまう。
 こう考えると、その上でホテルに必要なもの…つまり万が一壊れたときの備えや予備パーツなどを積載するスペースがなくなってしまう。だからこそブレインズが開発した夢の素材が重要なのだ…やっと本作の設定に繋がったなー。
 宇宙ホテルが本当に実現したら行ってみたいけど、多分私が生きているうちには「誰でも行ける」ところにはuらないんだろうなー。

第15話「月面基地アルフィー」英名:Relic)
名台詞 「他にトンネルはないし、あったとしても時間がないだろう。こうなったら道はひとつだ……走るしかない!」
(テイラー)
名台詞度
★★★★
 月面基地に隕石軍が降り注ぐ中、月面基地に駐留していたテイラー大尉とスコットは月面バギーで避難を決行する。ところが月面バギーが格納されている格納庫へ通じるトンネル通路は既に隕石で破壊されていた。「他にトンネルはないのか?」と問うスコットに、テイラーが返した台詞がこれだ。
 このシーンになったとき、これまでの本作の展開からてっきりサンダーバードチームが何らかの秘密兵器を出してこの難局を乗り越えるのかと思っていた。このような困難に最新技術で立ち向かうのは、「サンダーバード」の醍醐味であるからだ。ところが6話の例を出すまでもなく、本作ではそんな過去のサンダーバードの展開に対するアンチテーゼが物語にさりげなく仕込まれているのも一つの見どころだ。最新機械がどんなに万能でも限界があり、結局は人の力がものを言うというメッセージが本作の根底に込められている。
 このテイラーの台詞はまさなこんな台詞の一つだ、やっぱり「逃げる」のには自分の足で走って逃げられるかどうかで最後は決まるという、彼のこだわりが見えてくる台詞だ。やっぱりどんな物語でも「走る」という要素は、物語を地味に盛り上げてくれるものだ。本話でもここで走らずにいきなりスコットが乗り物を出してこれで逃げたら白けたことだろう。「クレヨンしんちゃん」の劇場版が何で面白いかの理由の一つに、しんのすけをはじめとする登場人物がよく走るからという要素があるのは避けて通れない事実だと思う。相手が何であれ生身の人間が走って逃げる…それによる盛り上がりが約束されたのがこの台詞だ。
名場面 月面バギー 名場面度
★★★★
 名台詞欄シーンによって二人が月面バギーの格納庫にたどり着き、後は隕石衝突エリアから月面バギーで避難するだけだ。だけどこれが上手く行かない、まずは格納庫の扉が開かず(強行突破で解決)、続いては降り注ぐ隕石を避けながらの逃避行となり(スコットの超人的な視力によって目視回避)、続いてバギーがクレーターの斜面を登れずに難儀する(スコットが月面着陸時に使用したジェットパックをブースターとして使用)…といった困難が描かれる。そして最後は射出座席で飛び出してサンダーバード3号に飛び乗るという離れ業を演じてくれる。
 もう掛け値無しの面白いシーンだ。名台詞欄では生身の人間が走ることによる盛り上がりというのを取り上げたが、そこで盛り上がった土台があるからこそこの月面バギーでの逃走シーンが盛り上がる。しかもこの逃走も素直に行かないから面白い、様々なところで上手く行かないからこそ盛り上がるし、手に汗握って見ることが出来るのだ。
 そしてこのシーンのもう一つの見どころは、科学的に起こるべき事よりも非科学的で現実的でなくても迫力を優先して描いた点も面白い。まずは月面バギーがどんな騒音をまき散らしても真空に近い月面ではその音は聞こえないはずだが、そんなことはお構いなしに月面バギーは轟音を立てて走るからこそ迫力が出る。これが科学的見地に沿って無音で走っていたら全く面白くなかったはずだ。さらにその月面バギーのエンジンがロケットエンジンなのに、地球上のバギーと同じくピストンエンジンの音で走っているからこそ「力強いバギーが力に物を言わせて走る」という描写に説得力が出る。ここはピストンエンジンの「ブロロロロロロロロロロ…」という走行音だから迫力があるのであり、ロケットエンジンで動いているからとサンダーバード3号と同じ音では迫力に欠けるのは誰もが認めるところだと思う。決して「科学的におかしい」と揚げ足を取って愉しむシーンではないはずだ。
感想  正義の味方アクション仮面、キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 今回のゲストキャラ、月面基地「アルフィー」を守るため孤軍奮闘する宇宙飛行士・テイラーの声は、アクション仮面(クレヨンしんちゃん)でおなじみの玄田哲章さんではないですかー。こんなところであの凜々しいお声を聞くことが出来るとは思わなかったなー。
 正直言って前半はとても退屈な話だった、サンダーバードが月面基地へ救助に行って、スコットがシューティングゲームに興じるなんて展開は正直つまらなかった。それが戦争などの戦い出ないにしてもシューティングと言うのはやっぱり「サンダーバード」でやるべき事ではないという固定概念があるのも確かだが、それで解決するような問題だったら「物語」が生まれないという点があるのも事実だ。シューティングは相手も人間でその駆け引きがあるから面白いのであり、そうなると戦争や決闘だから「サンダーバード」の物語とは合致しない…その上で物も言わない隕石相手にビームを撃ちまくって見ている方は退屈なだけなのだ。だけど制作者側はそれを解っていてやったんだと思う、これは前半で視聴者を退屈させて後半(名台詞欄シーン以降)でひっくり返すという緻密な計算の上で作った1話だと最後まで見て感じたのは確かだ。
 その中で、前半シーンで面白かったのはテイラーが月面基地のシステムを修理するシーンである。上手く動かなかったらとりあえず機械を叩く…まるで昔のテレビを直すみたいなことをやっているのだ。昔のテレビやラジオが叩くととりあえず治るのは、叩いた衝撃で接触不良が治るからであって…でも月面基地のシステムはそれでとりあえず治ったんだから、やっぱり原因は接触不良だったんだろう。こういう人間味のある機械が出てくるのは大好きだ、昔の「サンダーバード」だったら絶対にそんな機械は出さないと思う。これは半世紀の時を経た当時と今とで「機械」に対する考え方が違うからだ。叩いてとりあえず治る機械に視聴者がときめくのは何でもかんでもデジタルになった今の時代だからであって、半世紀前にそういう機械をSFで描いたら遅れていて「かっこわるい」だけだ。
研究 ・ 
 。

第16話「バースデー・プレゼント」英名:Breakdown)
名台詞 「ふんっ! 指をへし折られてもいいっていうんなら、やってみな。」
(おばあちゃん)
名台詞度
★★
 皆がバージルのことを心配しているドサクサに紛れて、アランがテーブルの上に置いてあったパイをつまみ食いしようと接近する。その時におばあちゃんはアランの手を掴んで、このように凄むのだ。
 この時のおばあちゃんの勢いが凄い、「こんなキャラだったっけ?」と誰もが思ったことだろう。指をへし折っちゃうんだぞー、怖いなー。
 この一言でアランは怯んで退散するが、この後のおばあちゃんの行動がお茶目で良い。アランにこの台詞で凄んだことなど瞬時に忘れて、自分がパイをつまみ食いするのだから…このサンダーバードは、やっぱりおばあちゃんのキャラクターが大きいなぁ。
名場面 バースデープレゼント 名場面度
★★★
 この日はバージルの誕生日、だが救難信号が入ったことでバージルだけが出動させられる。その間にサンダーバードファミリーの面々はバージルの誕生パーティを準備するが、バージルの救助活動が長引いて待ちきれずに主賓がいないままパーティはお開きになってしまっていた。
 そのパーティの後に戻ってきて、主賓である自分がいないままパーティをした家族のことを愚痴るバージルの元に無線通信が入る。先ほど救助したテック博士からで、テック博士本人が無事だっただけではなく、救助活動中に採取したバクテリアによって娘の生命が助かったという報告だ。同時にテック博士の娘も通信に割り込んで、その元気な姿を見せる。「ほんとうにありがとう、それと誕生日おめでとう」と通信を切るテック博士。これに対してバージルは「本当に最高のプレゼントだ」と呟いて本話が幕を閉じる。
 物語に良いオチが付いたと感心した。冒頭ではバージルが「今日は自分の誕生日」とアピールしているのにこれをみんなが無視、その後にはコッソリと一家がパーティを飾り付けしているシーンを見たら、誰もが今話のラストでバージルの誕生日が一家によってお祝いされると思うことだろう。だがそれでは展開としてはガチ過ぎて、実際にそういうラストにしたら盛り上がらないのも確かだ。
 そこで一家のキャラクター性をフル動員して、バージルの誕生日は当人が帰宅する前に当人抜きで終わらせてしまう。これに対し、最もこういうのを制止しそうなケーヨに一言も喋らせないのは恐れ入った。その上で演じられる「オチ」は、この日のバージルの活躍に上手く応えたもので、本人に対する何よりも励みになる内容として上手く描かれた。
 家族から誕生日を祝ってもらうのも重要だが、ここではこのバージルの誕生日がそれ以上のものとして描かれた。バージルが持つ使命、その使命が確実に人の役に立っている事、それだけではなく本来の使命の外にあった「お節介」とも言える部分で、本来業務から外れたところで一人の生命を救った達成感と充実感、それに伴うバージルの喜びがキチンと描かれたことで「仕事」とは何だというメッセージがこのオチに上手く描かれていると思う。
 「仕事」とは人の役に立つことであり、それが出来ていることが証明できたことで、バージルは生きて行く励みを得たはずなのだ。これは何にも代えがたい彼の誕生日プレゼントだったことだろう。
感想  サブタイトルと冒頭シーン、これを見たときはどう見ても「バージルの誕生日をネタにしたドタバタ」が演じられるだけかと思っていたら、名場面欄シーンに書いたラストがとても良いので感心した一話だ。誕生日の救助活動を通じてキチンと重いテーマで物語にひとつオチをつけた、こんな優れた物語だと今回は思う。
 でもツッコミどころが多いのも確かだ、氷山から未知のバクテリアを持って帰ってその日のうちに薬にして娘に投与するなよ…こういうのはキチンと研究してだな、動物実験から臨床試験を経てから使うべき物だろうに。確かにその行為はテック博士の娘の生命を救ったけど、これはどう見ても娘を使った人体実験だぞ、現実だったら感動的な話でなくて児童虐待で捕まるぞ、マジで…ってツッコミをしちゃダメですよ。
 ポッドで作られたメカも素晴らしい、氷山に空いた穴を上り下りするのにキャタピラだもんなー、あれはキャタピラなんか使わずに、射出銃があるんだからそれを使ったエレベータ機能だけでいいと思うぞ…って、それじゃ盛り上がらないか。こういうSFって、余計な事をやるからこそ盛り上がるんですよね。サンダーバードは、オリジナルの時代に既にそれを確立していても、今話はまさにその血を受け継いでいるとも感じた一話だ。
 次は大相撲夏場所により放映がまた少し先に…なかなか連続でやってくれないな。
研究 ・ 
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第17話「海底急行の危機」英名:Heist Society
名台詞 「ブレインズ、僕らのルールは解っているだろう? 現地へ行って確かめるまでは、何が起きているか決めつけるのは早い。」
(スコット)
名台詞度
★★★★
 ペネロープとモファッド教授が乗った海底トンネルを走る列車から救難信号が入り、その後消息を絶つ。この一報によりサンダーバードファミリーは出動の準備を始めるが、その中でモファッド教授に特別な想いを持つブレインズが取り乱し、二人が乗っていると言うことだけを根拠にこの事故がテロだと勝手に決めつけてしまう。これに対して長男のスコットがこの台詞でブレインズをなだめる。
 そう、何が起きたかを自分の思いや偏見だけで決めつけては真実が見えなくなり、サンダーバードの仕事である「救助」に着いても正しい判断が出来なくなってしまう。だからこそ現場を目で見るまでは何も断定できないという彼らの「現場主義」をこの台詞は見事に体現している。その上で、この「現場主義」はブレインズも解っていて実行しているはずなのに、彼が取り乱しているという事実もうまく突きつけているだろう。結果取り乱したブレインズが冷静を取り戻すのに説得力を持った台詞となり、これに続いてスコットはブレインズが取るべき道をちゃんと諭したことで、この後のブレインズの冷静な判断による行道に説得力を持たせているのだ。
 しかし、「現地へ行って確かめるまでは、何が起きているか決めつけない」というルールを守らない奴が一人いるよなー。末っ子で目立ちたがり屋の…(以下略)。
名場面 フッド逃走 名場面度
 今回のお宝である「センチュリアム」を盗むために、海底列車に乗り込んだフッドはモファッド教授に変装してペネロープのいるコンパートメントへの潜入に成功する。だがペネロープの飼い犬であるシャーベットの動きからペネロープはモファッド教授が偽物である事に気付き、またモファッド教授本人がコンパートメントに戻って来たことでフッドはお宝を取り上げて逃走開始。彼はパーカーの攻撃を交わして作業口から列車の屋根へ上るが、ペネロープが果敢にもこれを追いかける。だが列車の屋根に上るとフッドは潜水艇の昇降梯子に掴まって上昇中で、ペネロープは発進機をお宝が入ったトランクに取り付けるのがやっとだった。フッドは「もっとお近づきになりたかったのに、残念だ」と捨て台詞を吐くとトンネル外へと姿を消し、フッドが潜水艇を出すとトンネル内部に大量の水が落ちてくる。今度はこの大量の水とペネロープの追いかけっことなる。
 今話で最も盛り上がったシーンはここだと思う。視聴者はフッドがモファッド教授に変装してペネロープのコンパートメントに入り込んだところから、この変装がバレたらどう展開するかに注目を置いてみるはずだ。そして本話ではまさにこの「フッドの変装がバレる」をきっかけに、物語がペネロープらの「遭難劇」からフッドを追いかける物語へと変化する。その変化点でとても迫力のあるシーンを置いたことで、視聴者に期待と不安を煽る強印象シーンとなったのは間違いない。
 そしてここでは、こういうときに活躍のはずのパーカーがあっさりとフッドに交わされてしまうことでペネロープ本人がフッドを追いかけるという意外な展開を迎えたのもこのシーンを盛り上げた理由の一つだ。それも機械などに頼らず、ペネロープは自分の足だけでフッドを追いつめようとするのだから凄い。だがこのシーンではフッドの逃亡を許してしまうことで視聴者の不安を余ると同時に、大量の漏水がペネロープの危機を描くことになってさらにこのシーンを盛り上げる。二重にも三重にも盛り上げる仕掛けが用意されていて、まさに「手に汗握る」シーンだった。
感想  ツッコミどころが多い話だが、本話はそれをカバーできる展開があったと思う。その展開とはなんてったって名場面欄に書いたフッドの逃走に二重三重の仕掛けが用意された点もそうだし、名台詞欄シーンを中心に登場キャラクターがしっかりと個性を持って演じている点も上げられる(これは脇役のモファッド教授やチョイ役の海底列車の運転士も含める)。さらにいえばモファッド教授に変装したフッドが最初に出てくるシーンも面白かったし、まるで007のようにペネロープ号が潜水艇になってフッドを追いかけるという「意外性」も物語を盛り上げた。第7話もこのくらい見どころがあれば、設定や考証不足をうまくカバーできて面白い話になったはずなのに…。
 今話のビジュアル面を見ていて、一つ気付いたのは各所に出てくる「水」の質感にこだわっているであろうことだ。これまで本作で「水」が出てくるシーンの多くは、穏やかな海面や海中シーンであることが多かった。これに対して今話では「水の流れ」というシーンが多かった。それもただ単に水が流れていれば良いのではない、その水の流れが登場人物達にとって脅威でなければならないという点に力点が置かれていたと思う。そのためには水をリアリティに描くことは重要だったはずだ。
 昔のサンダーバードは特撮だったせいもあって、「水」の再現が困難だったのは否めない。それはかつて円谷プロだったが言っていた「水は縮小できない」という言葉の通りで、精密なミニチュアを使っても水は等身大のままで変わらないという厳然たる事実があるためだ。たとえば海のシーンでは波があるのに白波が立たない、大きな波は再現できてもさざ波が再現できない、水の流れのシーンでは飛沫が再現できないなど、ミニチュアを使った特撮では「水」の再現に限界があったのだ。
 だが現代ではこの「水」をCGで再現することができる。ここをキチンと活かして「昔のサンダーバードのような画面」にはせず、水で迫力を出さねばならないシーンをちゃんと作ってその中でサンダーバードのキャラクターが活躍するというシーンを描き出した。これは昔のサンダーバードを知っている人なら新鮮なシーンとして移ったはずで、サンダーバードの新たな方向性を作ったかも知れないと私は感じた。
研究 ・レイキャビク急行
 今回のゲストメカは、なんてったってペネロープとモファッド教授を乗せていた海底列車「レイキャビク急行」だろう。今回はこれについて考察したい。
 「レイキャビク急行」がイギリスとアイスランドを結ぶ列車であることは、サンダーバード5号が出てきたシーンから解る。列車の遭難地点としてグレートブリテン島とアイスランドを結ぶ線上にポイントが示されていたからだ。恐らくイギリスの首都ロンドンと、アイスランドの首都レイキャビクを直接結んでいる列車と考えられる。
 このうち、グレートブリテン島とアイスランドの間が今回の舞台となった海底トンネルで結ばれているはずだ。この間の約860キロに及ぶ長い海底トンネルを「レイキャビク急行」はくぐり抜けているはずなのだ。ただ現実的に言えば少しでも水深が浅いところを通りたいだろうから、フェロー諸島を経由して南側約400キロと北側約480キロの2本のトンネルに分割することだろう。トンネルの構造は水中にパイプを通す方式だが、実際にはこんな工法を大西洋のような広大に海で使うのはムリのはずだ。海底に橋脚を建てることが困難で、青函トンネルのように海底下にトンネルを設置した方が早いからだ。
 そんな工法的な話をすると物語が成り立たなくなってしまうので置いておくこととして、次に列車の速度を考えたい。劇中の様々な描写や台詞から列車はリニアモーターカーであることは確かだ。しかも浮上・着地を停止時に行う運転方法を見ると、日本のJR東海が開発しているマグレブとは違う方式だが、ここはその辺りを無視して第7話に出てきた列車と同じシステムと仮定する。恐らく日本式とドイツ式のリニアモーターカーの技術を掛け合わせて、世界標準のリニアモーターカーのシステムが開発されて世界各地を結んでいるのだろう。
 第7話に出てきた「日本の高速鉄道」は、最高速度が600km/hであると推定した。だから本話のリニアも同じ最高速度と仮定して計算してみる。ロンドンとレイキャビクの間は直線距離で1900キロ、この間の道のりが2000キロと仮定すれば、この間をずっと最高速度で走れば3時間20分だが、最高速度までの加速と減速もあるし、何よりも途中の都市を無視することは出来ないだろう。途中イギリス中部の工業都市マンチェスターや、スコットランド最大の都市であるグラスゴーは避けて通ることは出来ず、この2駅は停車することになるだろう。各国の高速列車などのデータを見ると、始発駅から終着駅までの停止や時間も加味した平均速度(表定速度)は最高速度の2割減程度なので、この列車はロンドンとレイキャビクの間を4時間10分で結んでいると考えられる。現在、この間の旅客機によるフライトタイムが3時間だから、実現すれば飛行機より便利な乗り物になっていることだろう…今回のお宝「センチュリアム」を飛行機で運ぶ事なんか考えなくて良いはずだし、こんな乗り物で世界中が結ばれているなら旅客機なんかないんじゃんいか?
 グレートブリテン島とアイスランドを結ぶトンネルは無停車でほぼ全線最高速度で走れるはずなので、1時間半程度で走破できてしまう。考えれば考えるほど凄い列車だって解った。

第18話「マックス 北極圏へ出動!」英名:Recharge
名台詞 「やあマックス、もう何ヶ所か調整すれば新品同様になるぞ。ハハハッ、戻ってくれて良かったよ。次は耐熱率を上げようか?」
(ブレインズ)
名台詞度
★★★★
 名場面欄シーンで高電流を浴びて失われ、メインの基板だけがトレーシー島に帰ってきたマックスを見て、「これがマックスだ、他の部分はみんなただのスペアパーツだよ」「君たち、ただの機械に入れ込みすぎじゃないか」と語ったブレインズだった。しかし彼はその基盤を持って自分の研究室へ行き、マックスを元通りの身体に入れる。そして再起動したマックスにこのように声を掛けたのだ。
 ここでハッキリするのはブレインズが作ったのはマックスの身体ではなく、マックスの「心」だということだ。マックスを最初にプログラミングし、自分のペットとして記憶を蓄積させて育ててきた。つまりブレインズにとってはそのメインの基板こそがマックス本体であり、顔や手足といった身体はコミュニケーションや移動や仕事をするためのパーツに過ぎないのである。
 これはマックスに限らない、ロボット全体に言えることだろう。ロボットを動かすためのプログラムと、ロボットが活動してきた事による記憶、これが納められているメモリが入っている基板が本体なのだ。手足などの身体はあくまでもその本体を活かすためのツールに過ぎない、そんなロボットの「本質」をうまく体現したのがこの台詞である。これは本作において、ウィルスとして5号に入り込み、色んな機械に身をやつして登場人物とコミュニケーションを取って活動するEOSを通じても描いていることだ。
 ただそのロボットと本質とはもう一つ違うところに、ブレインズが「人間らしさ」を演じているのもこの台詞である。ブレインズはマックスが基盤だけの姿になっている時はこういう心を込めた台詞は吐かないが、基盤が身体に取り付けられてマックスとして動き始めてやっとこういう台詞を語るのである。つまり身体があって人間とコミュニケーションを取れるものになって始めて、ブレインズはマックスが生き物として認識して優しい言葉を掛ける…やはりいくらブレインズでも、基盤の姿でなくこの心を表現できるからこそ可愛く感じるところが人間らしいのだ。
 この台詞で終わった本話は、本当に奥が深いと感心させられた台詞だ。
名場面 マックスの活躍 名場面度
★★★
 オーロラ発電所の暴走を止めるためには、発電装置に「エネルギーレシーパー」を取り付けねばならない。だが発電装置からの放電によって人が近付くのは危険、そこで今回は寒冷地での稼働テストとして連れてきたブレインズが作ったペットロボ・マックスをこの作業に投入することになる。マックスは発電装置によじ登り、その課程で脚についているキャタピラを失う。スコットとバージルと発電所の係員が避難する中、トレーシー島のブレインズだけがモニターカメラを通じてマックスの動きを見守る。「君を成長させたのは、こういう時に役立つためだ。君なら出来るよ、君ならきっと出来る」とブレインズの台詞が流れる中、マックスは「エネルギーレシーバー」の取り付けに成功する。発電所の暴走は停止するが、ブレインズはマックスを作った頃の写真をじっと見つめてる。
 今話のサブタイトルは明らかにペットロボであり本作のオリジナルキャラクター、マックスを主人公に据えているが、そのマックスがブレインズと共に主役をトレーシー兄弟からかっさらったのは間違いなくこのシーンだ。人間ではどうにもならない現場(本来ならそれに対する装備をサンダーバードは持っているはずだというツッコミをしてはいけない)、そこに敢然と立ち向かうマックスの姿に多くの人が感動したことだろう。これまでロボット的に動きに徹していたマックスが、本話中盤から生き物的な動きを見せるようになり、このシーンでは誠に人間くさい。そしてそのマックスの姿は、生命を賭して世の中の人を守ろうとする悲壮感を巧く再現している。特に「エネルギーレシーバー」を取り付け、放電が始まった時に周囲を仰ぎ見るマックスを見ていると「たんなるペットロボ」とは思えず、このキャラクターの印象がさらに強まったのは事実だ。
 こうしてマックスは失われたかに見えたが、本作ではこの後にうまくオチがついたのも面白いところだ。
感想  正直言おう、本話のサブタイトルを最初に見た瞬間の感想は「今度はマックスの話か…いい加減ケーヨとサンダーバードS号の話はいつやるんだ?」と思ったぞ。このところケーヨのケの字も出てこないし、ここまで来ると彼女はS号もろとも制作者に忘れ去られているんだじゃないかな。ケーヨの源流キャラはオリジナルのサンダーバードに出ていたミンミン(Tin-Tin)だと思うけど、ミンミンの方がまだ目立っていたぞ。おまけにS号がなかなか出てこないのももどかしい、S号がトレーシー島からどうやって発進するかずっと楽しみに待っているのに。それ以前にS号のデザインは日本人によるものという点も、ずっと活躍を楽しみに待っている理由の一つなのに…。
 愚痴った。でも今話は面白いと思う。スコットが暴走して「こいつ事故るぞ」と思ったら本当に事故るけど、その事故の瞬間を描かなかったのは正解だと思う。スコットのマシンがクラッシュする瞬間を克明に描いたら、彼の長男としての面目丸つぶれだからあれで良いのだ。本作の兄弟でリーダーシップがあるのは、長男スコットでなくて次男バージルなのは、次男坊の私としては見ていて嬉しい限りだ。
 後は本作の面白い面は、名台詞欄と名場面欄に書いたので重複するからここまで。
 それにしても冒頭シーンで、1〜4号まで全部の帰還シーンを描いたのは面白かった。でも2号帰還シーンだけ画面がおかしい、2号の出撃シーンではあれほどの質感があったのに、この帰還シーンでは2号の質感が全然無い。「これはCGでーす」という感じになってしまっている。1号と3号の帰還シーンはそんなでもないのに…CGアニメーターか合成担当がこの2号帰還シーンで新人のデビュー戦だったとか、そんなんなのかな? とにかく2号が帰ってくるシーンだけなんか変だった、そう見えたのは私だけなのかな?
研究 ・ 
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第19話「小さな科学者」英名:Extraction
名台詞 「エイデン、聞いて。深呼吸してごらん、落ち着かなきゃダメだ。これが緊急事態の鉄則なんだよ。」
(ゴードン)
名台詞度
★★★
 遭難したウイリアムズ親子の息子エイデンが作った手作りの無線機により、やっとサンダーバード4号と連絡が付いた。その通信の中で息子が訴えるのはコントロールルームの内部や父親の容態についての冷静な内容と、コントロールルームを襲う振動に対する恐怖だ。これにゴードンが応えた台詞がこれだ。
 そう、緊急事態にあるときはとにかく落ち着くことを考えなきゃダメなんだ。慌てたらそれがパニックを引き起こし、事態はどんどん悪化することは日本でも過去の災害が教えてくれたことだ。だからこそ日本人は災害時にどう行動すれば落ち着いていられるかを身をもって知っている、それが今は東日本大震災の映像などを通じて世界に広まったいるが、その根底にある考えはここでゴードンが語った「鉄則」だ。本作では「インターナショナルレスキュー」の活躍を通じてこういう教訓をもつっかり教えてくれる作品になったと感心させられた台詞であり、それは世界各地で災害が発生してその映像が瞬時に全世界に広まる時代だからこそのものぶあり、旧作との違いの一つだと感じたのがこの台詞だ。
名場面 無線機 名場面度
★★★★
 メタンハイドレートの違法採掘マシンに閉じ込められたウィリアムズとその息子エイデンだが、父は怪我をして動けずエイデンが外と通信を取ろうと通信機に声を掛けたが通信機は事故で故障している…という前段シーンを置き、サンダーバード2号発進シーンを挟んで次にマシン内部が出てくるとなんとエイデンが無線機を自作して外と通信しようとしていたのだ。ところが今度は電波が弱くてやはり何処とも通話が出来ない。
 この流れは本話で一番「面白い」と思ったところだ。冒頭シーンではサンダーバード3号のラジコンを作って無邪気に遊んでいた子供が、たったワンシーンで「ただものではない」と明確になるところである。同時に本話ゲストキャラの主役が彼であることまで明確になると言って良いだろう。いくら40年以上未来の世界でも、子供がラジコンを改造して通信機を作るなんてだれもがあり得ないと感じるはず。
 だがこのシーンは「無線機を作れる凄い子供」だけで終わらせないのがさらに好きなところだ。もちろんその無線機の電波が弱すぎるというのはどうしても必要な要素だし、その後に彼らが遭難しているコントロールルームが振動に襲われると、今無線機が作った天才的な子供が瞬時に普通の子供に戻って父親に抱きつく点なんかとてもリアルだと思う。こうして子供がどんなに凄くてもやっぱり親が必要という常識的に構図をキチンと置くことで、「エイデンは子供である」ことも明確になると同時に、だからこそいきなり無線機を作ってしまった彼が凄い子供だと印象付けられるのだ。
感想  日本語のサブタイトルを見て、「ブレインズをそのまま小さくしたような子供がでてきたらどうしよう?」と思ったが、今回出てきた子供は色んな意味で子供であった部分は本当に感心した。だからこそその子供がいきなり無線機を自作したり、挙げ句はソナーまで作ってしまうのが「凄い」と見えてしまう風に巧く作っている。エイデンのそのような機械をその場で作ってしまう「天才ぶり」と、父親に抱きついて恐怖に震えたり、誰も聞いてないのに友だちの話を始めたりという「子供らしさ」が交互に出てくるからこそ、今回のゲストであるエイデンというキャラが立ったのだと思う。日本語版でこのエイデンを演じているのは、当サイト考察済み作品で数々の役を演じてきた藩恵子さんの娘さんの藩めぐみさんだ。
 あと好きなシーンとして、これは本話の本題からは逸れるがマックスが前話を引きずっているのが面白いと思った。バージル達が出動しようとすると「自分の出番だ」と思って付いて行こうとするとブレインズに「掃除当番だ」と止められ、その後トレーシーアイランドのシーンになるとちゃんと部屋の片隅で掃除をしているシーンが描かれるなど、マックスが地味に目立っているのに本当に笑った。
 あとはいつも通りの救助活動、ここは一瞬「ゴードン死んだ」と思うシーンがあったが、あんな形で助かるのはおやくそく。またバージルがパワースーツだけでなく、肩に背負った溶断機でマシンを切り刻むシーンは新鮮で良かったと思う。そして最後はみんなで合い言葉は「F.A.B」とは…エイデンがサンダーバードヲタという設定をうまく使ったオチになったと思う。
 あとこれも本編にはあまり関係ないが、オープニング終了直後ののサンダーバード5号シーンをよく見ると、5号が飛行しているのは日本列島上空なのね。なぜわざわざ日本列島を描いたのかと身を乗り出して見ちゃったじゃないか…。
研究 ・メタンハイドレート採掘
 今回はメタンハイドレートの違法無人採掘マシンの登場で物語が始まる、この装置の稼働を目撃した親子がマシンに乗り込むという考えられない行動により物語が回り出すのだ。普通はどう考えても乗り込まないだろって、そういうツッコミはこの際置いておこう。
 メタンハイドレートとは、地下の低温だけど高圧という環境で生成される炭化水素(メタン)の結晶体であり固形物で外観が氷に似ているため「燃える氷」とも称される。解凍するとメタンガスと水に変化するため、固形物のメタンハイドレートが燃えているのでなく気化したメタンガスが燃えることで「氷が燃えている」ように見えるのだ。
 このメタンハイドレートは日本近海などにも多く埋蔵しており、次世代のエネルギー源として注目されているから近未来を描く「サンダーバード」の世界でエネルギー源として活用されていてもおかしくない。メタンハイドレートの生成過程は今だ諸説あるが、太古の生物の死骸が地中深くに堆積したことが由来とみる説が主流である。ただし日本近海に埋蔵されているメタンハイドレートは、火山ガスなど非生物由来であるという説も強い。
 メタンハイドレートが採れる場所は、陸地から大陸棚へと繋がる水深500メートルから1000メートルの海底下や、シベリアなどの永久凍土の地下数百メートルだとされている…って、こりゃダメだ。本作の描写と合点が合わない。本話の舞台はイギリスのダンスリー、下記の地図に示すイギリス中部の北海に面した場所だが、ここじゃ海の水深もそんなに深くないし永久凍土でもないしでメタンハイドレートが本当にあるのか?とツッコみたくなる。ま、未来技術で現代ではメタンハイドレートが無いと思われている場所からも発見されたのだろう、そう信じるしかない。
 問題はどのような形で未来世界でメタンハイドレートをエネルギーとして実用化したかだ。恐らくメタンハイドレートを解凍して水と分離し、メタンガスの形で可燃燃料として全世界に供給されているのだろう。メタンを燃やした場合に排出される二酸化炭素(CO2)は石炭や石油を燃やしたときより少なく(だがメタンガスは化石燃料の一種とされ再生可能エネルギーではない)、またメタンハイドレートは放置しておくと二酸化炭素より強力な温室効果ガスであるメタンを自然排出するため積極的な利用が推進されている。恐らくこんな背景から「サンダーバード」が描く未来世界では、メタンハイドレートの掘削が推奨されているだろうから、闇市場が成立しないような気がしないでもないが…。
 いかんいかん、またヤボな事を調べてしまった。

第20話「伝説の金庫破り」英名:The Hexpert)
名台詞 「金庫破りの名人だったというのは噂です。証拠は一切ございません。」
(パーカー)
名台詞度
★★★
 反物質の研究をしている施設で、その格納容器に研究者が閉じ込められるという事故が起きる。その報せを聞いた世界防衛軍はペネロープに相談し、格納容器のロック解除をかつて金庫破りで有名だったパーカーに依頼する。ケイシー大佐がその理由として、件の格納容器のロックシステムと同じシステムの金庫を破った唯一の人物である旨を告げると、パーカーはこのように返すのだ。
 これはパーカーの言う通りだと言わざるを得ない。金庫破りの名人であれば、「誰が金庫を破ったか」バレないようにやるのが筋のはずだ。だからパーカーは自分が「金庫破りの名人だった」たからこそ、このケイシー大佐の指摘を否定し続けなければならない、そのパーカーの仕事に対する誇りが見えてくる。
 だがどういう訳か、その金庫破りをしたパーカーの仕業はどこからか漏れている。だからこそケイシー大佐がパーカーがロックが厳重な金庫を破ったのも知っているし、その経歴からこんな依頼が舞い込む。
 この台詞にはパーカーが持つ誇りと、ケイシーがこのような依頼をした事実のギャップが出ていた本当に面白い。
 そしてこの台詞、本話においてひとつの伏線を張っている台詞であることも事実だ。この先のシーンでパーカーが過去に金庫を破ったときの経験談を語るとき、必ず語尾に「…といわれてます」と付け加えるネタへの伏線となっているのだ。
名場面 ラングレン教授救出 名場面度
★★★
 反物質研究施設に閉じ込められているラングレン教授を救うべく、パーカーとペネロープは様々な手段にょって外部の格納容器のロックを解除し、内部のロック装置の所まで来ていた。ところがここで外部のロックが再び作動したことでラングレン教授だけでなくパーカーとペネロープまでもが格納容器に閉じ込められてしまう。パーカーはアイスピックで内部格納容器の扉を叩き、その上でその破壊状況などを点検しつつ「金庫を作る人間は、金庫破りがハイテクな手段を使うと想定して対策を練るんです。昔ながらの蹴ったり叩いたりという手段は想定外」と語る。そして扉に×印を書くと「あの×印が急所です、お嬢様」とペネロープに語りかけ、これを受けてペネロープがこの×印を派手に蹴飛ばすと扉の下半分が開いて中からラングレン教授が出てくる。
 このシーンには作り手が色々込めているんだなと思った。どんな最先端技術を集めても、それを動かすのはやはり人の手であるように、それを破壊するのは人の手でしか出来ないということだろう。どんなハイテク装置も結局はそれを操るのは人間でなければならす、ハイテク装置が正しく後いているが故に事故になったときに「融通が利かない」のでは困ると言うことだ。こういうことを伝えたくて、このシーンではパーカーがハイテクをハイテクで打ち破るのでなく、誰でも出来る「蹴飛ばす」という手段を選択したのだと思う。これがよく伝わった来て好きなシーンだ。
 例えばよく話題になる自動運転車、多くの人が「寝ていても目的地に着いてくれる夢の車」だと思っていて、特にこの平和大国ニッポンでは首相までがそう勘違いしているというアホらしさだ(私が最近安倍首相を信頼していないのはこの点による)。確かに自動車が全自動で寝ていても目的地に着いてくれればいい、ハイテク装置が正しく判断して正常に動作すれば夢ではないところまで来ている話だ。だが現実は違う、ハイテク装置が「正しく動作している」が故に起きる事故というのは絶対にあるはずだ、そんな時は人間が手でその自動車を停めるか、ハイテク装置に成り代わって手で運転するかのどちらかをするしかないはずで、いずれにしても人間の判断と操縦は必要だということだ。だから自動運転車が登場しても、私は免許を持った人が運転席に座ってハンドルに手を掛けブレーキに足を掛けて前を見ていなければならない事になると思うし、そうならないと困ると思っている。
 今話のこの事例は、まさに「ハイテク装置が正しく動作している故の事故」であり、その問題定義だと思う。そしてこのシーンが「その解決にはどうしても人の力が必要」と上手く突きつけてくるのだ。
感想  まさか、パーカーが完全に主役を乗っ取るとは…本作品はパーカーのキャラクターが際立っていて、たまにペネロープより目立ってしまうことがあるのも難だったが…今回はサンダーバードファミリーまでも飲み込んじゃった。パーカーが持つ技術力とユーモアセンスのバランスが良すぎて、本当に他のキャラを繰っちゃっているんだよなー。
 そのパーカーが「金庫破り」を演じて視聴者に訴えていることは、名場面欄で語った通りだ。ハイテク装置と人間の関係、ハイテク装置を作る側はその装置が完璧だと思うがそこに落とし穴がある事実。その詳細については名場面欄で自動運転車を例に語ったから、ここで語ることが減ってしまっている。
 しかし、生産中止のガムって私は口に入れるのが嫌だぞ。作られてから何ヶ月経っているんだそれ?って感じで、ホントに怖いよー。しかも劇中のイギリス首相は、そんなガムは大量にストックしてあるって言うんだからさらに怖い。元々ガムは金庫破りにおいて指紋を採るためのアイテムに過ぎなかったと思うんだけど、何処で話がおかしくなったんだ?
 しかし、金庫破りに海賊って、そりゃ世界防衛軍を敵に回すなぁ。さすがパーカーの過去は凄い。
研究 ・ 
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