第23話 「ナマズ釣りの日」 |
名台詞 |
「村のお母さん達はみんな子供が俺と遊ぶのを止めているらしいが、たいていの子供達は俺の友達さ。特にあのトムは俺の良い友達さ、まぁ俺の親友だな。トムが俺と付き合っているから、他の連中も親に何と言われようとも俺と平気で付き合うようになったのさ。あいつのこと、手に負えないいたずら坊主だって言っているけど、本当は優しい良いヤツさ。なぁ、そうだな?」
(ハック) |
名台詞度
★★★★ |
トムとハックはベッキーを連れてナマズ釣りに出かける。ベッキーは二人の分も含めたお弁当を持参するが、ナマズ釣りは見学だ。ハックが腹が減ったから弁当を食べさせて欲しいと訴え、トムは「弁当はナマズが釣れてから戴く」「静かなところで釣りを続ける」として席を外す。ベッキーはハックと二人だけになった事で、ハックの父親のことやなぜ一人暮らししているのかを聞く。ハックは「トムから聞いてないのか?」と聞き返したので、ベッキーは母親が早く亡くなったことや父親がだらしない酔っ払いでハックを捨てて何処かへ行ったという、トムから聞いた話をする。「その通りさ、俺が知っている親父はたいてい酔っ払ってた」とハックは語り出す、仕事もせずに大きな事ばかり言っていたことや、自分を殴ってばかりいたことを語る。「ひどい…」と改めて驚きと同情を込めて返すベッキーに、「親父と一緒にいるときは地獄にいるようだった、ところが今は天国さ」とハックが続ける。ベッキーが「今の生活が?」と聞き返したので「ああ天国さ」と答えた後に、ハックが続けた台詞がこれだ。
ここでハックがベッキーに語ったのはふたつあって、ひとつは自分の簡単な生い立ち、もうひとつは「なぜトムと親友なのか」と言う点で、この台詞は言うまでもなくその後者である。そしてその理由は簡単に言えば、ハックはトムの存在がなければ村の同世代の子供達から相手にされず、本当に孤独な日々を送っていたはずだという実態があるからだ。トムだけでなく多くの子供達がハックとの付き合いを禁止されていることは、劇中で何度も示唆されている。しかも16話では村人達の認識は「トムとベンの葬式」であって、ハックの葬儀も一緒だったのにそうは扱っていなかった。ハックが浮浪児と言うだけで差別され、虐げられているのがハックの実状なのだ。
ところがそんな中でも、トムだけはハックとの付き合いをやめていなかった。恐らくトムはハックが浮浪児になる前からの付き合いなんだろうけど、ハックが親に捨てられ一人になったときに友人が一人、また一人と離れてゆくのにトムだけはこれまで通り付き合ってくれたのだ。ハックはそれだけでトムに感謝しているのは想像に難くないが、トムがハックと付き合いを続けているのを見ると、他の子供達もこれに感化されて「ハックも仲間だ」と認めるようになり、親の目を盗んで付き合うようになってくれた。そこにハックがトムへの感謝の念と、敬意を抱いていることがよく見えている。
そしてハックはこの台詞の最後に、ベッキーに「そうだな?」と問うて終わっているのがこの台詞の良いところだ。ベッキーがトムと色々あってもトムから離れようとしないのは、やはりベッキーにもハックが知っている「トムの良いところ」が解っているからだと、ハックは解っているのだ。もちろんベッキーはこれにちょっと感動したような眼差しで「ええ、そうよ」と答える。ハックがこの台詞で語ったことは、ベッキーにも心当たりがあったからた。ベッキーとしてはドビンズ先生に鞭打ちされるはずだった自分を、自ら罪をかぶって身体を張って助けてくれたトムの行為にこれを見ているはずだし、何と言っても学校の仲間達とハックの人間関係はトムがキーポイントになっていることは自分の目でも見ているはずだ。当然ベッキー自身も親からハックの付き合いはしないよう言われているはずだが、トムが「ハックは良いヤツ」と教えてくれたから付き合っているはずだ。
この台詞にはハックが何故トムと親友かという要素でもって、ベッキーが改めてトムを尊敬することとなる。この台詞があるから、この直後にトムが「大物」を釣り上げたときにベッキーが喜んで手伝いに行く事に説得力が出るのだ。 |
名場面 |
トムとベッキーのナマズ釣り |
名場面度
★★★ |
名台詞欄シーンの直後、少し離れたところで釣りを続けていたトムが一人で騒いでいる声が聞こえる。どうやらトムの竿に「大物」が掛かって難儀しているらしい。これを見たベッキーはトムへ向かって走り出す。丸太の上を歩くときは転びそうになって悲鳴を上げるが、嬉しそうな顔でトムのもとへ一目散に駆けてゆく。そしてトムの竿に掛かっている魚を見て「わぁ、大きい」「トム頑張って」と声を上げるが、トムは深刻な表情で「ハックを呼んでくれ」と頼む。「一人じゃダメなの?」「こいつは大物だからな」「私が手伝うわ!」…ベッキーはそう宣言すると有無を問わさずトムが握っている釣り竿に手を掛ける。「君じゃダメだよ」「大丈夫よ」「ダメだってば」「ホラ、もうちょっと岸の方へ引っ張りなさいよ」「強情っぱり!」…ここの竿を引っ張りながらの会話は好きだ。しかし竿に掛かったナマズは大暴れして、なかなか釣り上げられない。「ホラ、こっちへ来る、もっと引っ張って!」とベッキーが叫んでもどうにもならない。「畜生、力のあるヤツだな」とトムが呟くと、「トム、持ってて、しっかり持ってて」と竿を掴み続けるように促し、ベッキーは竿を離して水辺へ駆けてゆく。そして水の中へ入り掛かったナマズと格闘を始め、見事に自分がかぶっていた帽子でナマズを捕まえることに成功。「ベッキー…」と驚くトムに、ベッキーは「ほらトム、捕まえたわよ。思ったより小さいのね、あんなに暴れたからもっと凄く大きいのかと思ったけど」と語りながら近付き、帽子ごとナマズを差し出す。帽子の中を見て「うわーっ、大きいよ」と叫ぶトムと「そうね大きいわね…」と返すベッキー、この二人が仲良く語り合っているのを遠くから見守るハック。
当時は「男の遊び」だと思われていたナマズ釣りについてきたベッキー、釣りの経験もなくただトムに着いていきたいというだけでこれに参加するが、ベッキーの立場が本作のヒロインと言うこともあって「ただ釣りを見学する」だけでは話が成り立たない。やはりここはベッキーの「魚釣りに来て良かった」を描かねばならないし、トムとハックについての「ベッキーがいてよかった」がないと、ベッキーがただ邪魔な存在でしたで終わってしまう。同時にこの話を通じて示唆してきたことは、名台詞欄シーンの要素である。ハックがトムを慕っている理由を明確にし、これにベッキーが同意することでベッキーのトムへの想いを明確化するものだ。だからこの魚釣りが「トムとベッキーの共同作業」になれば話が盛り上がることは誰もが認めるところだろう。こうしてトムが「大物」を釣り上げ、ベッキーがこれを捕獲するという本話のクライマックスとなったわけだ。
またこの展開には予想外のもう一つの効果がある。これはベッキーの新たな一面を見せることで、ベッキーが意外に強情なこと、そして男の子の遊びであるナマズ釣りについての素質があることだろう。これに驚くのは視聴者だけでなく、劇中のトムについても同じだ。こうして「トムとベッキーが同じように遊べる」ことをキチンと示すことで、視聴者も劇中のトムやハックも「お似合いだ」と感じることができる。
そして何よりも、このシーンの魚の動きに迫力があると同時に、これを釣り上げようと必死になっているトムとベッキーが感じる「重量感」をキチンと再現しているからこそ、このシーンは際だって印象に残るのだ。 |
今話の
冒険 |
今回の冒険は「ナマズ釣り」、トムは「久々に大物を釣り上げたい」としてハックを誘い、ハックはトムが「食べ物を持って行こう」と言ったことで話に乗る。そして釣りの準備のために一度帰宅した家を、ベッキーがトムを茶に誘おうと訪れていたことで、この話にベッキーも乗ることになる。ベッキーは弁当持参で待ち合わせ場所に来たので、ハックの「食べ物目当て」も解決。そして名場面シーンにあるようにトムとベッキーが「大物」を釣り上げで大成功。釣り上げた「大物」はベッキーの晩ご飯のおかずになりましたとさ。 |
ミッション達成度
★★★★★ |
感想 |
今回は夏休み序盤ののんびりした1日を描いたと言っていいだろう。トムの学校の友人達が泊まりがけで親戚の家へ出かけたり、旅行や農場の手伝いに出かけてしまいみんな留守になってしまう。もちろんそんな行事のないハックと過ごすことになり、トムとハックのナマズ釣りが描かれるんだ…と思って見ていると、そこへベッキーが現れる。トムをお茶に誘うはずだったベッキーがどうするのかと思ってみていると、ベッキーもナマズ釣りに参加する展開となるのだ。やっぱり当時「ナマズ釣り」は「男の遊び」なので、最初はトムもハックもちょっと困る。そしてその通りにベッキーは「着いていくけど釣りは見るだけ」になり、ついには余計なおしゃべりで邪魔になる。だが腹を空かせているハックはベッキーの弁当が目当てで、早い段階でベッキーのバスケットを開かせることに成功。そこから話が名台詞欄シーン、名場面欄シーンのように流れていって面白かったのなんの。
また今話では、以後何処かで話に出てくることになるであろうことが予測できる「ハックの親」についてキチンと伏線を張っているのが興味深い。マフが本話に出てくるのはまさにこの「伏線張り」のためだろう。ハックの父親がどうしようもない男だったことが示唆され、その結果でハックが一人暮らししていることもハッキリする。母親についてもベッキーがトムから聞いた話として「早く亡くなった」ことが明確になり、今話でハックが何であんな生活をしているのか、なのにハックが不満そうでない(むしろ本人は天国と思っている)理由や、何故トムを慕うのかも明確になる。要はトムとベッキーの絆を強める過程において、ハックの謎をキチンと解いている話でもあるのだ。
そしてこの二つの要素で名場面欄シーンまで描ききり、3人が夕焼けの川辺をあるいて帰宅するシーンで物語が平穏に終わるように視聴者に感じさせる。ベッキーがトムに「ハックの話も聞けた」としたとき、後ろでハックが少し得意げな顔をしているのが良かったな。口には出さないけどちゃんと「お前のことは良く言っておいた」という顔をしているのが面白いが、ハックの名台詞は間が得ようのないハックの本心であって事実だと思う。
であの夕方の川辺のシーンで終わりかに見せかけて視聴者が「めでたしめでたし」と言いかかった頃合いを見計らって、画面にシーザーの姿が大映しになる…この瞬間に「オチ」が残っていたと視聴者は思い、もうトムがシーザーに追われているシーンを想像するはずだ。シーザーが起き上がって走り出すと、その先に帰宅したベッキーがトムと一緒にいる。「ただいま、シーザー」とベッキーは笑顔だが、やはりシーザーはトムの存在に気付くと攻撃的になり…あとはトムとベッキーが一緒の時に物語が終わる時の「おやくそく」になるが、ここまで来るとトムがシーザーに終われて終わるオチは良い意味でのマンネリとして定着しているので、見ていて面白い。
しかし今回のベッキー、いつもと違う服で印象が変わって良かったなー。トムも今回の服については可愛いとしているが、確かに釣り向きではない。港で荷物に腰掛けてトムを待つベッキーの姿は、描いた人が子供ではない魅力を付け加えちゃっているぞ。 |