第3話「あぶない!早く逃げて!」 |
名台詞 |
「私を信頼してちょうだい、ジョン。」
(メアリー) |
名台詞度
★★★ |
ベスを人質にとってマーチ家の物置立てこもっていた逃亡兵ジョンだが、人質の母メアリーの登場で態度を一変させる。人質の母は娘の口を塞いでいる逃亡兵にあくまでも穏やかに自己紹介と挨拶をし、「娘を離して欲しい」と頼む。それにハンナが口添えをすると、しばしの睨み合いの後ジョンはベスを解放する。解放されたベスは母に抱きつき、母はベスに家へ戻るよう促す。そこで下記の名台詞次点シーンが挟まる。
そのベスの言葉でジョンが優しい人間だと知ったメアリーは、直前のジョーと会話もあって(「その人を助けたい?」「もちろんよお母様」)ジョンを匿うと宣言する。そして夫のこと、自分たちが奴隷という制度に反対していることをジョンに告げる。そして物置なら見つからないというジョンに家の方へ来いというのだ。
むろんジョンは見つかったときのことを考えて拒否するが、それに対する返事がこの台詞である。メアリーはこの台詞を吐きながらジョンを見つめるのだ。
メアリーのこの台詞と視線でもってジョンは家で匿って貰うことにした。この物置シーンもそうだし、これまでのメアリーの子供を思う気持ちやその頭の良さを見ていると、子供達に危害が及ぶようなアホな真似は絶対にしない。つまり黒人を匿って奴隷という制度から逃がすという崇高な趣旨があっても、それによって子供達に危険が及ぶならその道を取らないはずなのだ。つまりメアリーにはなんか秘策があるはずで、この短い台詞はジョンと視聴者にそれを示す役割があるのだ。
私も本放送時にはその「秘策」がなんなのか?と思わされたものだ。まさか今のカーペットの下に地下室があるなんて…秘密の地下室っていうのはSFアニメの定番かと思ったら「世界名作劇場」で出てくるとは思わなかった。
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(次点)「お母様、ジョンは仕方なく私を捕まえたんだと思うの。さっきからずっと私にひどいことをしてごめんなさいと言い続けていたわ、だから…」(ベス)
…ベスは解放されると真っ先に母に抱きつくが、続いてジョンを優しい瞳で見つめてから母に向かってこの台詞を吐くのだ。この台詞がメアリーがジョンを匿うと最終的な決断を下した理由だろう。また、自分を人質にして拘束した相手にもピアノを弾いて心を落ち着けてあげようだと考えたのは、このようなジョンの性格を見てしまった点にもあっただろう。 |
名場面 |
ベスが人質に取られる。 |
名場面度
★★ |
ミルキー・アンのトイレに使う箱を捜しに行ったベス、その帰りを待つジョオはしばらくの間はミルキー・アンと戯れるが、やがてベスが帰らないことを不審に思い物置へ捜しに行く。しかし物置へ行くとそこは静まりかえっていて誰もいないのだ、おかしいと思ってさらによく見るジョオ、この際にBGM等が一切無く鳥の鳴き声だけという沈黙シーンに、視聴者はベスに何かが起きたと悟り不安になる。
やがて物置に置かれた古いソファーの影にベスのスカートの裾が見えた。何が起きたんだ?と視聴者が思うと立てかけてあった木の板が倒れ、ジョオもやっと変状に気付く。ジョオが驚いて見ると、ソファの向こうからベスを人質に取って立てこもる黒人の姿が現れる。
「妹を離して」と強気に言うジョオだが、「騒ぐなよお嬢さん、騒ぐとこの子がどうなっても知らないぞ」と脅す黒人。ミルキー・アンがにぁあと鳴くと「その猫も黙らせろ」とさらに脅す。そして「俺は南軍から逃げてきた奴隷だよ」と彼は告白するのだ、その告白を聞いてジョオは母に話さねばならないと思ったのだろう。
もうハッキリ言って「世界名作劇場」全シーンの中で1・2を争う緊迫したシーンだと思う。主人公姉妹、か弱き少女が見知らぬ男に人質に取られるなんて…手に汗握る展開とはまさにこのことだろう。しかもこのシーンの直前、ジョオが物置でベスを捜しているときの静けさがこの後の悲劇を見事に演出したと思う。あまりにも静かな描写と姿が見えないベス、ベスに何かが起きたと視聴者は感じ取り一気に物語に引き込まれる作りになっているのだ。この演出でジョン初登場シーンは否応無しに盛り上がるのだ。
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今回の主役 |
・サブタイトル表示→エイミー
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・物語展開上→ベス
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2回連続でベス、やはり今回は人質に取られたり、奴隷から逃れるために脱走してきた黒人兵のためにピアノを弾いたり、目立つシーン満載だ。
・次回予告→メグ…「戦争がはじまる! どうぞお楽しみに!」って…。 |
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感想 |
この回はハッキリと内容を覚えていたし、本放送時の感想も覚えていたのだが、やはり2話を見てベスに対する評価が変わると感想までがらりと変わってしまうものだ。本放送時の感想では父のいない一家を取り仕切る母が最も印象に残ったのだが、今回見直してみるとベスの優しさが光っているのが分かる。いや、ベスがジョンを悪い人じゃないといって怒らなかった点や、ピアノを弾いたシーンは覚えているのだが、それが生粋の優しさから来ていると素直に見られなかったのだ。第2話のベスを本放送時に見逃していなければ、当時の印象もがらりと変わっただろう。
「愛の若草物語」を素直に見て行くと、この第2話と第3話でベスが凄く印象づけられるのだと今見てみると納得する。どちらかが欠けたままだとベスの印象度はかなり薄まってしまうようで、私は第2話を初めて見たつい昨日までは他サイトで第3話のベス拘束のシーンについて「てめー俺のベスに指一本触れてみろ〜」みたいな発言している人を見て、ちょっと書き過ぎじゃないの?と冷めた目で見ていた。ところが第2話のベスの優しさを見てしまった後に第3話を見てしまうと、不思議に私もそう感じてしまったのである。多分本放送時にこの2話を立て続けに見た人全員がそう感じたであろう。ベスの優しさを知ってしまうと、あれは「萌え〜」な人の特別な感情でなく、普通の人のごくありふれた反応だってことがよく分かるのだ。
それと南軍兵士の動きを見て冷静に戦況分析するジョオはまた凄かったと思う。物事をじっくり見て冷静に判断し、例えその結果が自分の望まない結果でも冷静にそれを口に出来る剛胆さは凄い。ジョオは小説家にも慣れるし、学者にもなれるんじゃないかと思った。
ジョオの判断力は母メアリーの判断力を引き継いだのかも知れない。メアリーもこの非常事態に上手に子供達を操って危機に対処したと思う。それだけではない、ジョンを匿ってまでもである。同じ声でも目先の利益に左右される何処かの寄宿学院の院長先生とは逆だなぁ。この母の活躍もこれからどんどん多くなるのだ。
う〜ん、メロン頭とエイミーの話題が出てこない。ま、この二人は今回は確かに影が薄いし。
最後に、なんでこの回のサブタイトルが「あぶない!早く逃げて!」なのか未だに理由が分からない。 |
研究 |
・「南軍」とは?
劇中ではアメリカ唯一の内線である南北戦争について語られている。今回、マーチ家に逃げ込んできてベスを人質に取って脅したジョンは南北戦争の兵士で、「南軍」に属する黒人だ。
劇中では単純に彼らを「南軍」と呼び、フレデリックが従軍する側を「北軍」と呼んでいるが、かえってこれではわかりにくい気がする。「北軍」というのは現在のアメリカ合衆国の事だと言えば話は早いのだが、ではこれに対抗する「南軍」というのはどういう存在だ?というのはこのアニメを見るだけではいまいちよく分からないのだ。せいぜい黒人を奴隷としてこき使おうとしている人たち、くらいにしか見えないのだ。
19世紀中頃から、アメリカの産業は大きく二つに分かれていた。
アメリカ北部では工業を中心とした産業が栄えており、労働者の動きが流動的なために「奴隷」という制度は非効率で必要がなかった。このために奴隷廃止運動が盛んになり、また工業製品に関税をかけたり、輸出入に制限をかけるなどの保護貿易が必要となっており、さらに流通や商業振興のための交通網整備などを求めていた。
対してアメリカ南部では農業が盛んで、労働者の動きは固定的で奴隷制度は安価かつ固定的な労働力を確保するために無くてはならない制度だった。綿花を中心とした農業は奴隷という安い労働力で支えられていたと言っても過言ではなかっただろう。さらに穀物などを大量生産して自由に輸出出来ることが彼らにとっての利益であったため、自由貿易を望んでいた。つまりアメリカの南部と北部で産業構造そのものが違い、それによって求めているものが正反対で対立する構図が出来上がっていたのである。
そして奴隷制度撤廃と保護貿易拡大を狙うリンカーンが大統領に就任すると、奴隷制度存続を求めていたサウスカロライナ、ミシシッピ、フロリダ、アラバマ、ジョージア、ルイジアナの各州がアメリカ合衆国から離脱した。これらが集まって出来たのが「アメリカ連合国」、つまり南北戦争の「南軍」である。
南北戦争については回を改めて研究しよう。 |