DISC1−11 「赤ズキンと紫ズキンだゾ」 |
名台詞 |
「東山三十六峰俄に起こる剣劇の響き。頑張れ赤ずきん、負けるな赤ずきん。日本の夜明けは近い。」
(ナレーター) |
名台詞度
★★★★ |
このナレーションが「赤ずきん」の終幕と、誰が思うだろうか? お使いで出かけた赤ずきんちゃんが、新撰組の沖田総司を倒したことで追われる身になるというとんでもない「赤ずきん」が演じきられたラストシーンを、このナレーションが締める。
「赤ずきん」という物語に相応しくない幕末の京都でのチャンバラ劇を否応なしに想像させられるこのナレーションを聞いて、多くの人が「『赤ずきん』の物語が何でこうなった?」と感じることであろう。いろいろ手違いがあって討幕派が高杉晋作に送ったと思われる密書を持たされた赤ずきん、沖田総司を倒しただけでなく密書を持つことで新撰組に追われる赤ずきん。本話冒頭でネネが赤ずきんに扮し出てきたときに、多くの人は今話は「赤ずきん」のパロディだと気付いたはずだが、その誰もがこの結末を予想していなかったはずで、それをしみじみと視聴者に感じさせるために言葉が選ばれていると思う。そして倒幕のために戦わされている赤ずきんを想像して、多くの人がニヤリとすることだろう。
そしてこの台詞の後、残った僅かな時間でしんのすけが画面を横切った後、ちゃんと本来の「赤ずきん」に出てくるはずのオオカミが出てくる点がこの台詞をさらに印象付けている。「赤ずきんちゃん遅いなぁ」と呟きながら画面を横切る組長先生扮するオオカミこそが、本来の物語の行き先だったはずだからだ。ちなみにこのナレーションも「クレヨンしんちゃん」では組長先生が持ち役の納屋六郎さんである。 |
(次点)「この美しい顔に傷でも付いたらなんとする? あー心配だ心配だ。よかった〜、美しい〜、あ〜ん、あ〜ん…。」(ぶりぶりざえもん)
…ぶりぶりざえもんが扮する沖田総司が、「人を期待させておいて、ただのブタじゃないの」と怒り狂った赤ずきんにぐりぐり攻撃をされる。その赤ずきんを投げ倒して、鏡を見ながら沖田が語る台詞がこれ。自分に惚れているぶりぶりざえもんの性格をよく示しているだけでなく、視聴者に「あんな顔の何処がいいのだ?」と思わせるだけの「ありえなさ」も上手く演じている。特に最後のオカマ声は印象的、同じ塩沢兼人さんが演じていた「ハイスクール!奇面組」の大くんを思い出したぞ。 |
名場面 |
新撰組登場 |
名場面度
★★★ |
「紫ズキン」というしんのすけ扮する怪しい忍び姿の武士に出会った赤ずきんは、さらに森を進むと男の声で呼び止められる。「今度こそオオカミさん?」と舞い上がる赤ずきんであったが、そこに現れたのは3人の武士にであった。袖口のダンダラ模様を見れば大人の視聴者は「なぜこいつらが…?」と思うシーンである。赤ずきんの後頭部に汗マークが浮かぶと、風間扮する武士は「新撰組、近藤勇!」と、マサオ扮する武士は「お、同じく土方歳三」、ボーちゃん扮する武士は「同じく、永倉新八」と名乗る。そして近藤が「ふところにある物を渡せ、紫ズキン!」と声を上げる。赤ずきんは自分のズキンの色は赤だと反論するが、「ズキンの色を変えても無駄だ」と近藤に返され「こちらには紫ズキンの素顔を知るものがいるのだ。総司、総司…」と沖田総司を呼ぶ。もちろん、沖田総司はぶりぶりざえもんが扮しているというオチだ。
このシーンは、今回の物語が「赤ずきん」の物語から大きく離脱し、そのまま戻ってこれなくなってしまう最大の転換点だろう。「赤ずきん」の物語とは本来無関係なはずの新撰組が出てきただけで、「赤ずきん」という物語が根底から崩れて消えてしまう。そしてさらに、新撰組のメンバーも風間=近藤勇、ボーちゃん=永倉新八は良いとして、カッコいいはずの土方歳三にマサオくんというアンバランスで既に大きな違和感のある新撰組になってしまっているのは注目点だ。さらに沖田総司がぶりぶりざえもんと来れば、その破壊力は留まるところを知らず、物語は完全に「赤ずきん」ではなくなってしまう。
実は出てきたのがしんのすけ扮する「紫ズキン」だけであれば、「赤ずきん」の物語としていくらでも展開しようがあったはずだが、新撰組が出てしまったことがそうは行かなくなる重要な要素だ。この瞬間に「赤ずきん」の舞台は日本の京都になってしまい、時代も日本の幕末期になってしまう。そんな赤ずきんなんて、普通の人には想像も付かないだろう。だからこそここは物語に視聴者を引き込む要素として重要なのであり、私も視聴を終えた後に最も印象に残ったシーンとして記録された。 |
感想 |
「クレヨンしんちゃん」のキャラで「赤ずきん」を演じる。これはそう難しい話ではないはずだ。「クレヨンしんちゃん」のメインキャラにネネという女の子がおり、その女の子の性格から考えれば「赤ずきん」のシナリオまんまでもギャグはかなり広がるはずだ。だが本作の制作者達はそんな簡単な物語にはしなかった。「赤ずきん」の物語に新撰組を出すことで「赤ずきん」物語を根底から転覆させただけでなく、出てきた新撰組の「クレヨンしんちゃん」キャラにおける配役で今度は「新撰組」も根底から転覆させる。こうして破壊力を持ったところでぶりぶりざえもんが沖田総司として登場し、しんのすけ扮する「紫ズキン」は幕末キャラになりきって無くていつものしんのすけまんまという展開で、「赤ずきん」の物語を再起不能なほどに破壊し尽くす。そしてその結果は、新撰組に追われる身となって戦う赤ずきんの姿と、行き場を失った本来の物語の行き先であるオオカミの姿であり、そのシーンをちゃんと見せつけて終わるから面白い。今話も本DVD収録作の中で強く印象に残った作品だ。
実は本話は、本DVDでの視聴より先にテレビアニメでの放映を先に見ている。「ぶりぶりざえもんほぼこんぷりーと」のDVD発売と前後した時期に、本作がレギュラーの「クレヨンしんちゃん」で再放映されたのを偶然見たのだ。その時の衝撃と言ったら本当になかった。「赤ずきん」の物語がしんのすけとぶりぶりざえもんと新撰組によって破壊し尽くされる展開を、大笑いしながら見た記憶がある。またぶりぶりざえもんが穿いている服が、今回だけは新撰組と同じようにダンダラ模様になっている点も笑った。ぶりぶりざえもんが出した鏡には「誠」って大きく書いてあるし。 |