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第21話 「かわいい恋のパーティ」
名台詞 「マミマミって言って、ちっとも私のことを構ってくれない俊夫なんて、嫌いだ!」
(優)
名台詞度
★★★★
 遂に優の本音が出る、パーティの席上でめぐみによってマミの恋人にされてしまった俊夫の前に、唐突に優が現れる。優は俊夫がこの日の自分とのデートをすっぽかしたことをバラした上で、俊夫にはスカートめくりをする癖があるとパーティの出席者にぶちまける。「いっそのこと君たちが婚約したら」と立花に声を掛けられると、優は「冗談、こんな浮気者なんかお断り」と吐き捨ててパーティのステージから逃げ出す。それを追う俊夫だが、優は振り返ると俊夫に向かってとどめの一撃となるこの台詞を吐く。
 この台詞に「クリィミーマミ」という物語の複雑な恋愛関係、つまり主人公少女が好きな男の子が、主人公が変身した姿に夢中という関係がうまく描き出されている。そして当事者である優がこの関係について、不満である旨をやっと明確にしたのだ。
 俊夫がマミに夢中になると言うことは、マミと優が同一人物だから問題ないようにも見えるかも知れない。だがマミというのは優が「自分が望まぬ方向」へ変身した姿のひとつであり、優そのものではない。優が俊夫に見て欲しい自分は美しく変身した自分の姿でなく、ありのままの女の子である自分の姿であり、たとえお転婆で生意気で可愛いところがひとつもないにしても、ありのままの自分を見て欲しかった訳である。そんな優の気持ちが明確に示唆されている台詞だ。
 もちろん俊夫も優の方向をキチンと見るようにはなっているが、これについては俊夫も気付いていないし優もまだ気付いていないというのが正しいところだろう。現時点では優がマミとの間を揺れ動き、それに合わせて俊夫も優とマミの間を揺れ動いている。さらに優までもがマミとも二重生活に振り回され、俊夫の本心を落ち着いて見つめるところまで来ていない。このような二人の恋物語の「途中経過」までも、この台詞は見事に浮き彫りにしてしまったのだ。
名場面 ワンダーランド 名場面度
★★★★
 この日、優は俊夫と「ワンダーランド」という遊園地でデートの予定だった。だが優がマミに変身したときに、立花の車にそのチケットを置き忘れたことに気付き、パーティたけなわの立花邸に立ち寄った時にこのパーティに俊夫の姿があるのを認めてしまう。名台詞欄の騒動の後、「ワンダーランド」に一人やってくる優。来るはずのない相手を待ちながら池の水をかき混ぜる優に、ネガが「俺疲れた、帰ろうか?」と声を掛けると優もこれに同意し掛かる。このやり取りが何とも言えない寂しさを醸しだしている。そして優が池の水をかき混ぜるのをやめると…池の水面に優の姿だけでなく、優の後ろに立つ俊夫の姿が現れる。優は「俊夫のバカタレ」と言いながら俊夫にすがって泣くと、俊夫は「泣くなよ」と言いながら優の手を引く。そして二人は仲良く手を繋いで、遊園地の喧噪の中に消えて行く。
 今回の物語にうまくオチがついたラストシーンだ。名台詞欄での騒動で俊夫は反省し、優が待ってると思いこの「ワンダーランド」に急いだに違いない。この俊夫の現れ方がとてもかっこよく決まっていて、見ていて気持ちいいシーンでもある。あんな現れ方をしたら優でなくても相手の男を許してしまうだろう。
 特にこのシーンでは、前半に優の寂しい気持ちを上手く描き出している。これによって俊夫が「背後からそっと現れる」という行為が重なることで、俊夫を上手くジェントルマンとして際立たせる効果があっただろう。また直前までのパーティのせいで俊夫が正装していたのが、このシーンをさらに盛り上げている。
 何よりも俊夫が優のこともちゃんと気にしているというのを上手く示唆するシーンでもあったと思う。今回は二人の恋物語については途中経過であるが、優と俊夫の関係も決して優の片思いではない、こんな側面をきっちり描いて終わって多くの視聴者が、ホッとしたのは確かだ。
感想  今回の話は一時はどーなることかと思った。立花の誕生パーティ、この中で繰り広げられる俊夫までをも巻き込んだめぐみとスネーク・ジョーの企み、立花の見合い問題、優と俊夫のデート…いくら何でも序盤で風呂敷を拡げすぎだ。だが物語が展開して行くとこれら全てが一本の物語としてまとまり、しかも今回の主展開は「クリィミーマミ」そのものの主展開である優と俊夫の関係を一歩進めたのだ。今回ハッキリしたのは、名場面欄にも書いた通り二人の関係は決して片思いではなかった点だろう。
 しかしプロダクションの経営者である割に、立花が独身と言うだけなら驚かないけど、親がそれを見て見合いを進めるなど気に掛けると言うことは、立花はまだ30にならない位の年齢だと言うことがハッキリしてくるわけだ。若い、こんな若さでプロダクションの社長だなんて…私の人生っていったい…?でなくて、凄いの一言に尽きる。前々から思っていたのは、マネージャーで一社員の木所の方がどう見ても年下だと言うことだろう。めぐみは…まだ十代なんだろう。
 また立花は凄いお屋敷に住んでいる。あの大きな家に一人で住んでいるとしたら、すごい空しいと思うぞ。あの若さであれだけの財力がありゃ、恋人の一人や二人いてもおかしくないだろーに。立花という人柄に惹かれなくても、彼の財力について回る女性は多く出てくると思うぞ。
 なんか立場にのことばっかりになっちゃったなぁ。
研究 ・ 
 。

第22話 「みどり君とプップクプー」
名台詞 「その笛ちゃんと聞かなきゃ、もう一度優ちゃんの夢見たいし…」
(みどり)
名台詞度
★★
 今回の物語が進む理由はたったこれだけ、みどりが昨夜見た「優ちゃんの夢」をもう一度見たいと思った事である。みどりが見た「優ちゃんの夢」の背後に流れていた笛の音(正しくはラッパだと思うが)をもう一度聞きたい、覚えたい、挙げ句は録音したい、それだけであとはノリだけで物語が進んで行くのだ。
 そして大食いの彼は、「優ちゃんの夢」がかかると惜しげもなくお菓子まで投げ出してしまう。彼の優に対する想いがよく分かる1話でもあった。
名場面 建設中のビル 名場面度
★★★
 迷子の天使パイパーは、帰り道が分からずみどりと一緒に都会をうろついていた。パイパーは建設中のビルを見上げると「あそこに登れば帰り道が分かるかも知れない」と言いだし、みどりも「帰り道を一緒に探す」と約束した事を思い出して同行する。もちろん天使であるパイパーは高いところなど問題なく登って行くが、みどりは途中で怖くて動けなくなってしまう。そんなみどりを見たパイパーは、「みどりちゃんは笛が好きだから」とみどりを慰めるべく笛を吹く。ところがパイパーは笛を吹けば自分の身体が宙に浮くことで、帰れる事に気付くのだ。
 このシーンこそが今回のみどりとパイパーの友情物語の結論と見て良いだろう、情に厚いみどりは迷子のパイパーの帰り道を探すと約束した以上、自分が登ることも出来なさそうな鉄骨の上まで付き合ったのだ。またこれを見たパイパーはそんなみどりを励ますために笛を吹く、このやり取りからパイパーは帰り道を見つけたのであって、まさにみどりのおかげで帰り道が分かったと言うことになる。
 もちろんノリが優先の物語はこの「本題」をほったらかしにし、優と俊夫によるみどり救出へと流れて行くわけだ。そのせいか二人の友情物語として見た場合の完結がちょっと目立たない印象もある。だけど私としてはこのシーンを名場面に取り上げないわけにはいかない、でないと大事なおやつを投げだし、鉄骨に登るという大冒険までしたみどりが浮かばれないってもんだ。
感想  物語はいつの間にかに冬になっている。その冬の都心や国立市の景色を背景に、今回は一話完結でみどりを主役にして、迷子の天使パイパーとの友情物語を演じる。みどりはパイパーの笛の音を聞けば優の夢が見られると思い込み、彼に笛を吹かせようとあの手この手でパイパーの気持ちをつなぎ止めようとする。一方パイパーは迷子なだけあって腹を空かせており、みどりが持ち歩いているお菓子に目を付ける。双方とも自分の欲求を掴むのが目的にに相手に取り入るのだが、じきに二人の関係はそれだけではない何かを掴むことになる。みどりは「迷子」の彼を放って置けずに手を貸すことにし、パイパーはそんなみどりを笛の音で励まそうとすることで物語は結論を迎えるのだ。
 しかし、このパイパーの「笛の音」は耳につくと離れない。この話を見るとあの「プップクプー」が2〜3日ほど耳にこびりつくのだ。それは本放映時も再放送時も経験していて、私の中での「クリィミーマミ」の記憶のひとつとなっている。また劇中では「笛の音」としているが、やっぱあれはどう見てもラッパなんだよなー。NHKの「おかあさんといっしょ」の前代キャラ「スプー」がラストで必ずラッパを吹くが、それを見る度に「クリィミーマミ」の今話を思い出したのはここだけの話。
研究 ・三角ビルが「鳴る」
 今回、劇中で俊夫が新宿のピル外を見上げて「三角ビルが鳴っている」と呟くシーンがある。劇中の描写を見るとビルの上の方から風が吹き抜けるような音が聞こえ、これを見たみどりが「三角ビルって大きな笛みたいなんだよね」と解説を入れる。今回はこの現象について調べてみた。
 まず劇中の「三角ビル」だが、これは西新宿の高層ビル街にある「新宿住友ビルディング」のことであろう。1974年3月に完成したこのビルは地上52階建てで、特徴は上から見ると巨大な三角形(厳密には角を取っているので六角形)に見え、さらに中央部が吹き抜けになっていることである。
 言われてみると中央部が吹き抜けになっていることで、笛と同じ原理で最上階に強風が吹けば音が出るような気がする。そこでこの現象について検索をかけてみたが…残念ながらこのような音が「鳴る」という現象について言及しているサイトは見つからなかった。いや、厳密には1件見つけたのだが、よく見ると「クリィミーマミ」の今話についての解説だったし。
 もちろん私も、このビルが強風で笛のような音を上げている光景には出くわしたことはない。少年時代に何度かこのビルの展望台レストランで食事をしたことはあるが…内部の吹き抜けが見事なのには毎度驚かされた。ちなみにこの特徴的なかたちのビルはSFアニメや特撮などで破壊の対象になることは多く、ゴジラやウルトラマン(の敵)は勿論、ドラえもんの敵にまで破壊された経験を持っている。

第23話「星のパラソル」
名台詞 「めぐみ、待ってろ。LPプロなんかに行くな。お前は、お前は…」
(立花)
名台詞度
★★★
 「星のパラソル」の暗号を残して姿を消しためぐみを追いかける立花だが、その暗号が判明してめぐみを追いかける車のハンドルを握りながら、こう呟く。
 この台詞の後がどう続くか、これは視聴者の想像に委ねられた形になったが、それでも立花にとってめぐみというのがどのような存在なのかがわかるってもんだろう。彼にとってめぐみは自分の会社の看板商品であり、彼にとってめぐみは仕事上の片腕であり、彼にとってめぐみはそれだけではない女性だと言うことがハッキリ読み取れる。立花がマミに肩入れするのは、彼自身が冒頭で言った通り自社の新しい商品を育てるためであり、めぐみへの想いとは全く異質のものである。この立花の本心…「めぐみは自分にとってなくてはならない存在」という点が、が初めて明確になる台詞だ。
(次点)「慎悟、覚えているかしら? もし、もしもよ、慎悟が忘れていたらどうなるの? あそこに来てくれなかったら私、どうすればいいの?」(めぐみ)
…上記の立花の台詞に対し、めぐみは「星のパラソル」と暗号に込めた地点へ行く最中でこう呟く。これも上記の立花の台詞と同じように、めぐみの立花への想いという本心を明確にしている。立花が自分との思い出を忘れているのではないかという不安、本当に忘れていたら生きていけないという想い。だがめぐみの立花への想いは、これまでの劇中でもそれを示唆するシーンが多かったため、やっぱ印象に残るのは立花の台詞の方だろう。評価はこのふたつの台詞ワンセットで。
名場面 若き日の回想 名場面度
★★★★
 「星のパラソル」というキーワードを残して姿を消しためぐみを探すが、いっこうに手がかりが掴めない。優の提案でめぐみが思い立ってスネーク・ジョーの車から降りた場所を重点的に捜索するが…そこに建っていた熱帯植物園を見て立花は思い出す、若き日の自分とめぐみの姿だ。
 それはある郊外の都市でのめぐみのコンサート、その開演前にまだ駆け出しで緊張するめぐみとそれをプロデュースする立花が、熱帯植物園の夜景を眺めながら会話したあの夜だ。その場でめぐみが夜の熱帯植物園を「星のパラソル」と名付け、立花は「めぐみをスターにして会社を大きくしたい」という夢を語っていた。
 ここで判明するのは立花とめぐみの「過去」である。二人はプロダクション社長として、アイドル歌手としてそれぞれ同時期にその道を歩み始めた関係だった事が明かされるのだ。そして当時、社長として、所属歌手として「社を大きくする」という同じ夢を見ていたことまで明らかになる。その上で共通の過去と共通の夢で二人は結ばれ、それは誰にも割けない仲であることが判明する。
 だからこそ立花は自分の会社からめぐみが出て行くなんてあり得ないと思っていたし、めぐみも自分が余所のプロダクションから引き抜かれようとしている現実が信じられなかったのだ。立花はその現実が突き付けられたときに強がってしまい、そんな立花を見ためぐみは動揺することで二人の間に危機が訪れる。
 だからこそめぐみはその過去に二人で見た「夢」にすがったのだ。同じ場所を見ていた二人の気持ちに戻れれば、二人はまた元に戻れる。もちろん立花もそれを忘れておらず(思い出すのに時間は掛かったが)、夢の続きを見るべくめぐみを追いかける。
 そんな別れを目前にさせられた男と女の真剣勝負に、この回想シーンがいい味を出していた。二人が切り離されるなんてあり得ない、これを見事に示唆したのだ。立花とめぐみの関係は「クリィミーマミ」の主展開ではないが、このシーンは良くできていると再放送時から思っていた。
感想  今回の物語は立花とめぐみの関係にスポットを当てた形になった。ここまでの物語で二人が単なる「プロダクション社長と所属歌手」の関係ではないことは何度か示唆されていたが、今回はついにこれが明白になる。マミの登場によって干されていると視聴者に勘違いさせるため、制作陣は今話のためにずっとその展開を暖めていたのだろう。そしてここでめぐみに「移籍話」を持ちかける形で二人の関係を揺るがせて、その上で二人の過去について明白にさせるという複雑な展開を取った。今回の物語のこの展開と、何よりも二人の関係や行動論理は子供の理解の域を超えていて、私が本放映時に脱落し掛かった話でもある。つまり「大人の恋愛」を、子供向けの「魔法少女アニメ」に持ち込んでしっかり描いていた点は特筆されると思う。
 特にここまで、立花が実はめぐみを想っているように描かなかったのはこの物語を際だたせるために正解だったと想う。冒頭で立花がマミばかりを気に掛ける理由として「デビューしたてだからそれなりに助けてやらねばならぬ」という趣旨の事を言っていたが、これは嘯いているわけでも言い訳でもなく本心だったことが物語を進めて行くと分かるというのは面白い。
 しかし、今回は街中のシーンが多いのでやはり80年代中頃ならではのシーンが多かったのも見どころだ。私がこのようなシーンで印象に残っていたのは、あの頃の地下鉄駅構内がかなり精密に再現されていたこと。狭い通路、そこに無理矢理作った改札口(もちろん自動ではない)、そして真っ直ぐに直立する自動券売機…なんかあの頃の地下鉄の「匂い」まで感じてしまいそうな光景だ。自動車のシーンでは相変わらず「ホンダ・シティ」が描かれており、よく見ると車に乗っている登場人物達はシートベルトをしていない。なんかすごく「時代」をも感じる1話だった。
研究 ・ 
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第24話「クマ熊オーディション」
名台詞 「だったら少しくらい演技の基本でも勉強しておいた方がいいんじゃないのか?」
(ネガ)
名台詞度
★★
 クマと映画に出て、クマと友達になる…マミとなって受ける動物映画のオーディションに対し、優はこんな夢で頭が一杯だ。その少女らしい反応の優に対し、ネガがこのようなもっともな台詞で指摘する。相方のポジもこれに同意する。
 そう、ここまでマミは歌の仕事ばかりで「演技」の仕事はしていない。歌は魔法で何とかなっている面もあるが、「演技」はどうなんだろう?…これは今回の展開に入り掛かったときの視聴者が持つ素朴な疑問だろう。これに呼応するようなタイミングで、ネガが肝付さんボイスでこう指摘するのだから説得力ありすぎで見ている方は驚いてしまう。だが肝心の劇中の優はそんなこと意に介さず、「いいのいいの、当たって砕けろよ」とすましているのが何とも言えない味を出している。
 もちろん劇中の状況に置いて優(マミ)に全く演技に関する心得がないという設定なのだから、この台詞は的を射ているというほかはない。あまりにももっともな台詞という意味で、本筋とは関係ないが妙に印象に残った。
名場面 映画「北の動物家族」 名場面度
★★
 北の大地に降り注ぐ雪、その北の大地の中にまるで雪に耐えるように建つ農家。この農家の屋根の上で、今日も懸命に雪下ろしに勤しむマミの姿がある…「両親を幼くして亡くした少女は、北海道の大自然と闘いながら両親から受け継いだ牧場を立派に受け継いで行く…」と突然立花のナレーションが掛かったかと思ったら、シーンは突然北の大地からパルテノン・プロの一室へ。今回の「クリィミーマミ」はこんないつもと違う雰囲気で始まる。
 物語は恐らく「北の国から」のパロディなのだろうけど、それを全く感じさせないオリジナリティを出しつつやっぱパロディと分かるシーンに仕上がっているのに感心した。もしこのシーンを今のアニメが作ったら安易にさだまさしを流しそうだが、決してそうせずにBGMはマミが歌う挿入歌だ。
 そしてこの冒頭シーンが、今回のサブタイトルと並んで物語の方向性を期待させる。クマ、北海道の大地、これを武器にどう「クリィミーマミ」の物語が展開するのか…視聴者の視線はそこだろう。だんだん作り手も冒頭の期待感作りに「クリィミーマミ」という素材を上手く活かせるようになったと当時は感じた。ちなみに次話からはしばらく一話単独の物語が途切れてストーリーものとしての展開に変わるので、このようなワクワク感は「クリィミーマミ」ではしばらくお預けになる。のは、この手の物語の定番であろう。これを上手く表現し、優の体験をウソにすることもなく処理したと感心した。
感想    ∩___∩
   | ノ      ヽ
  /  ●   ● | 主役は俺だクマ──!!
  |    ( _●_)  ミ
 彡、   |∪|  、`\
/ __  ヽノ /´>  )
(___)   / (_/
 |       /
 |  /\ \
 | /    )  )
 ∪    (  \
       \_)
研究 ・ 
 。

第25話「波乱!歌謡祭の夜」
名台詞 「俊夫も楽しみにしてるんだろうな…これで最後にしよう、そういえば初めの頃もそんな事言ってたっけ? でも今度こそ、明日で…。」
(マミ)
名台詞度
★★★★
 俊夫と喧嘩して仲直りできないままの優、さらにその喧嘩の過程で俊夫が優とマミを比較して優を罵るという最悪の展開を迎えてしまう。これらの出来事は優にとって「魔法」による二重生活を送る精神的限界を告げたと言っていいだろう。遂にマミになったときに立花に「歌謡祭に出たくない」旨を伝える。これを聞いためぐみがマミをファンの前に連れ出すのだが…その場でマミはこう決意してしまう。これはマミの決意を告げるマミの心の中の呟きの台詞だ。
 普通の少女にとっては、好きな男の子と喧嘩になってしまい仲直り出来ない状況が続くというだけでかなり辛いはずだ。これに優の場合、その相手の男の子が自分の別の姿に夢中だという条件がつく。そしてそうとは知らずのこととは言え、その変身したマミとは大違いだと罵られた優の精神的疲弊は計り知れないものがあるだろう。結果優はマミに変身する事自体が嫌になり…いや、マミでいる事自体が自分でなくなってしまうと認識するに至ったのだろう。
 だが自分が好きで集まってくれるファンの姿を見てマミは少しだけ初心に返ることが出来た。元々好きな男の子である俊夫がマミが好きだから、その俊夫にマミを見せたくて始めたことだという事実である。歌謡祭に出て良いところを見せれば、何よりも大好きな俊夫は喜ぶだろう。初心に返ったことで優の思考回路は元に戻ったかに見えた。
 だがこの疲弊した彼女の精神状況では、もう「あと一回」が限界なのも事実だった。その精神的疲弊を自分自身で一番よく分かっていたからこそ、マミは「あと一回」と決意する。こんな複雑で深刻な優の精神状況が見事に語られている台詞なのだ。
 そしてこの台詞を聞いた視聴者は、この優の精神的疲弊で「あと一回」に同情はするだろう。だがこの先の物語がどう展開するのか不安になるところでもある。どんな事件があって優が立ち直るのか…まさか今話の終わりにあんなシーン(名場面欄参照)が用意されているとも知らず、ここを焦点にしてテレビに見入るのである。
名場面 俊夫が変身を目撃 名場面度
★★★★★
 歌謡祭当日、リハーサルを終えたマミは本番までのひとときを楽屋で1人で過ごさせて欲しいと懇願する。これが認められ楽屋に1人置き去りにされると、慌てて優の姿に戻って客席にいるはずの俊夫を捜しに行く。一方の俊夫も喧嘩してそのままの優が気になってしょうがない、優にそっくりな少女を見てからなぜか「優がいるのではないか」と辺りを見回す。優は俊夫を発見できないまま本番の時間が近づき、遂にタイムアウトとなって優がマミの楽屋へ向けて走り出したその時、優は俊夫に発見されるのである。俊夫は同行していたみどりに「トイレ」と言って、優を追いかけて走り出す。
 そして俊夫が優を追いかけてたどり着いた先は「クリィミーマミ様」と書かれた楽屋だった。この楽屋に何のためらいもなく入って行く優を見て「どうなってるんだ?」と呟く。一方優は誰もいない楽屋に入ったことに安心し、魔法のステッキを取り出して「パンプルピンプル…」の呪文を唱え始める。同時に楽屋のドアノブに俊夫の手が掛かり、俊夫がドアの隙間からみたものは…まさに優がステッキで宙にト音記号を描いている瞬間であった。そして見る見るうちに優の姿があのクリィミーマミの姿へと変わって行くのであった。驚きで声が出ない俊夫、魔法の力で震える扉…驚きのあまり俊夫は遂に楽屋の扉を開いてしまう、この音にネガとポジが驚きの声を上げると画面が白黒に変わり…そして驚愕の表情でマミが振り返る。俊夫がマミを指さして「優…」と呟き、マミが「俊夫」と名を呼ぶと、魔法が暴走を初めて楽屋中のあらゆる物、ネガとポジ、そしてマミと俊夫が宙で振り回される。魔法の暴走が止まるとステッキは優の手から離れ、色を失って固まる。傍らでは信じられない物を目撃して震える俊夫、「優…」ともう一度名を呼ぶとマミが「…見た?」と問う、俊夫は相変わらず震えながら「い、いったい…」と呟くのがやっとだ。冷たく流れる「開演5分前」を告げるアナウンス、この声に反応してマミは表情を見せずに走り去る。俊夫も立ち上がるが…黙って見送るしかできない。
 私が「クリィミーマミ」全52話の中でもっとも印象に残っているシーンのひとつだ。このシーンに「見てはいけない物を見てしまった」「見られてはならない物を見られてしまった」という優と俊夫の驚愕が見事に込められている。そして「魔法を他人に見られたらどうなるか?」という疑問にも答えが出る。魔法が暴走したかと思うと色を失って乾いた音で転がるステッキは、優が魔法を失ったという事実を告げるのに十分だ。
 この俊夫に「真実」を目撃され、優が魔法を失う瞬間をまさに迫力を込めて印象的に描いた。まさに「クリィミーマミ」中盤最大のヤマ場と言っていいだろう。そして物語は優と俊夫の接近へと進み出す。ここをきっかけに新しい展開へと物語が回り出すのだ。
感想  今回の話は本当によく覚えている。特に名場面欄に記した俊夫が優の変身を目撃するシーンは、ものすごい迫力で描かれていてこれに圧倒された記憶がある。物語は前半は今までもよく見られた優と俊夫のすれ違いが描かれるが、後半に入るとこれまでと展開を異にする。これまでのように何らかの「事件」が起きて二人の関係がいつの間にかに元に戻るのでなく、この複雑な恋愛関係に悩む優の精神的疲弊が描かれるのだ。そしてこの精神的疲弊が頂点に達したその瞬間、優の魔法が当の俊夫に目撃されて「優=マミ」であると言うことがバレるという、破壊的な展開へと物語が進むのである。正直、この今話のラストには本当に驚いた。最終回が近いと錯覚した。
 いくつかの「魔法」もののストーリーでは、魔法は他人に見られてはいけないというルールが出来る。これは正義の味方が正体がバレてはならないのと似たような「おやくそく」だ。だが多くの作品ではこの「秘密」が物語終盤まで見破られることはない。だが「クリィミーマミ」ではこの「秘密」を見られるというこれまでにない展開で他と明らかな差別を付けてきたとも見られるだろう。一度「秘密」がバレるという展開で物語を(いい意味で)破壊し、主人公とその好きな人という二人の中にある本心を引っ張り出してしまうという役割があるのだ。だが勿論俊夫に正体がバレたままで物語が展開するわけはなく、この事件が二人の間の関係をこれまでとは異質にするという役割を担っていることも容易に想像できるだろう。
 そして物語は一話完結ではなく、魔法が目撃されるというショッキングなシーンで終わりを迎え、この大事件の「結果」は次回以降へと持ち越された。この衝撃的なシーンをきっかけに、物語はしばらく複数話にまたがるストーリーものとして展開することになって行くのだ。
研究 ・ 
 

第26話「バイバイ・ミラクル」
名台詞 「優、迎えに来たんだよ。多分ここじゃないかと思って。クリィミーマミが初めてテレビに出た日に俺、ここまで迎えに来ただろう? 覚えてる?」
(俊夫)
名台詞度
★★★★★
 歌謡祭が終わった後、元の姿に戻れなくなったマミは都会を彷徨う。最初は宛てもなく街を彷徨い、続いて一度はパルテノン・プロの宴会に入ろうとしつつも、「俊夫に会いたい」との思いできた場所は2話の名場面欄に出てきたあの公園だった。マミが寂しそうな表情でこの公園を歩いていると、背後から俊夫の声がしてこうマミに語る。
 ここは優と俊夫の複雑な関係の始まりの地点でもある。つまり単に優が俊夫に片思いしているだけの関係から、優が魔法で変身した姿に俊夫が惹かれるという形ながらもやっと相思相愛になれた場所でもある。優は俊夫に振り向いて欲しくて、魔法で俊夫が惚れてしまったマミに変身し、自分と仲良くするように促した場所だ。勿論前話の「目撃」によって俊夫もその時のマミの言葉の意味を理解し、優の気持ちを知ることとなるのだ。
 優はマミの姿になって俊夫に告白したのも同然であり、俊夫にとってはマミとの出会いで記憶していた場所だが、前述の通りこうして優の気持ちを知った俊夫としては優が現れるとしたらここしかないとすぐ分かったはずだ。そんな俊夫の優への思いが上手く描かれている台詞だと思う。
 しかし、このシーンでは2話に名場面欄シーンを伏線として上手く使ったと思う。確かこの公園、記憶に間違いなければOVA「ロング・グッドパイ」でもマミが優の姿に戻るシーンに使われていたはずだ。このように優と俊夫の思い出の場所としての演出も、素晴らしいと思った。
名場面 俊夫の願い 名場面度
★★★★
 魔法を失って優に戻れなくなったマミと、俊夫の頭上に再び「フェザースターの舟」が現れる。二人は宙を舞ってこの舟に吸い込まれ、その途中で俊夫は気を失う。次に俊夫が気が付くとマミと二人で不思議な空間にいることが分かり、ネガとポジがしゃべったことに驚く。続いて見合わせた二人の眼前にピノピノが現れ、俊夫は「出た!」と後ずさりして驚く。ピノピノはネガとポジから何が起きたのかを聞いたとした上で、俊夫が魔法を目撃した件について「不幸な事故」として「見た者と見られた者の問題で僕にはどうすることもできない」と困惑する。その上で「魔法の力は君が吸い取ってしまった」「だからできることはただひとつ、君の願いをひとつだけ叶えてあげること」と俊夫に告げる。驚く俊夫にピノピノは「君は見る事によってこの子の持っていた力を吸い取ってしまった、でもその力は元々君のものではないからね」と説明を続け、「どうする?」と俊夫に詰め寄る。俊夫は突然の事態に冷や汗をかきながら、マミの姿を見つめる。その間に真っ白だった背景は黄色から水色、そして緑色へと変化して「時の流れ」が演じられる。そして俊夫は振り絞るように言う、「マミを…彼女を、優に戻してやって下さい」…驚いた表情で俊夫を見つめるマミ、ピノピノは微笑んだかと思うと頷く。そして色を失った優のステッキが光り輝いたかと思うと姿を消す。マミと俊夫は光に包まれ…次の瞬間、元いた公園に立っていたのである。もちろんマミは優の姿に戻っていた。
 前話の「目撃」シーンを受けてマミのまま元の姿に戻れなくなった優がどうなるのか、まずは今回はここが最大の見どころだろう。この解決シーンを前話の「目撃」シーンほどではないにせよ、ダイナミックに描いている。そしてこのシーンに込められているのはただマミが元の姿に戻ると言うだけではない。俊夫が優とマミが同一人物だという事実を受け入れ、その上でマミというのは偶像に過ぎず優は優であるべきだと気付いたことだろう。だからこそ彼は何でも叶うという事態において、何よりも優を元に戻す事を優先させたのである。たとえマミの姿が見られなくなることになっても。
 さて、ここで次話に向けてのキーワードが出ている事も理解できるだろう。それは前話の「目撃」という事故が「見た者と見られた者の問題」という点である。この問題を解決しないことには物語が先に進まないという点までこのシーンで示唆している。こうやって「食べ残し」をひとつ置いて次回以降へとおいやるやり方で、嫌味無く視聴者に次話への興味を持たせて物語に引き込む役割をもこのシーンは担っているのだ。
感想  前話を受けて物語が「解決」へと向かう。ただ今回では完全には解決しておらず、俊夫が優の魔法を「見た」という記憶はまだ継承されている。名場面欄に書いた通り、この「見た者と見られた者の問題」が解決しないことには物語は先に進まない。
 これは私の勝手な想像だが、この話は本来最終回として作られたのではないかと思っている(もちろんその場合、前話が「最終回ひとつ前」ということだ)。今話までに登場した主だった単発キャラ(で非人間)がほぼ登場していることや、名台詞欄シーンも含めた伏線回収を派手にやったことなどが理由としてあげられる。内容的にも優がマミの姿のまま魔法を失い、俊夫が全ての願いを押しのけて「優を元に戻して欲しい」と願ったことでハッピーエンドで良いだろう。それともう一つの根拠が、全52話中のちょうど折り返し点であること。本来「クリィミーマミ」は全26話で計画され、好評により52話まで放映が延長されたという歴史を持っている。そうするとこの26話が当初最終回として用意されたという私の想像は説得力があるように思えてくるだろう。物語の続きを描くために、ラストシーン手前のネガとポジのシーン(雪の中でもう使えないはずの魔法のコンパクトを引きずっている)を追加するだけで良かったはずだ。
 この最後の方でネガとポジがコンパクトを引きずって出てくる点も重要だ。つまりここで、今後優の魔法は復活することが示唆されるのである。だから俊夫の問題が解決すればまた元の展開に戻ると言うことが理解できるだろう。その「見た者と見られた者の問題」がどうなるのかは、次回以降に期待だ。
研究 ・魔法が見られたらどうなったか?
 前話から今話では、優がフェザースターから授かった魔法が他人に見られたらどうなるかについて描かれている。第1話で優が魔法を授かるに当たって、ピノピノから「他の人には内緒」という条件を付けられたのだから、それが破られるとどうなるかは大きな問題であろう。
 結論を言ってしまうと魔法を失うということになる。ピンク色に彩られていたステッキは色を失い、これはステッキを効力を失ったことが示唆されているのであろう。原理的には(魔法に原理もクソもないが便宜的に)何らかの形で「魔力」がステッキに封じ込められているのが、他人に見られることで封じ込めの制御が出来なくなるのだと考えられる。だから優が変身しているところを俊夫に見られた瞬間、魔法が暴走したのだと考えられる。この暴走時はステッキに封じ込められていた魔力が開放されているのであって、これによって魔力が無くなったことで魔法を自在に操ることが出来なくなったのだろう。だが今話ではピノピノが、目撃によって俊夫が優の魔法の力を吸い取ったとしているので、ステッキに封じ込められていた力が俊夫に吸い取られ、その影響で魔法が暴走したと判断して良いだろう(俊夫は魔法を吸い取ったが、それは俊夫に与えられた力ではないので俊夫が制御することは出来ない…だからピノピノの力を使って俊夫の願いを叶える、つまり俊夫のためにしか使えなかったと考えられる)。
 ただこの時点でステッキを収納していたコンパクトがどうなっていたのかは定かではない。恐らくコンパクトはステッキを収納するためのケースと思われ、優が魔法を失っても変化は無かったと思われる。もちろん魔法の使用法なども今まで通り表示可能であっただろう(ただし誰も読めないが)。またネガやポジとの会話も可能だったようで、この2匹はフェザースターと連絡を取るべくテレパシーを駆使していたので、魔法は失っていなかったと思われる。
 そして今話で優が魔法を失ったことで、マミの姿から戻れなくなったと言うことでこの「変身」についての仕組みが分かったと言っていいだろう。それは魔法の力を使うのは優の姿からマミの姿に変わるとき、あるいはその逆の時であり、優がマミの姿を維持するのに魔法は必要がないと言うことだ。これは魔法を失った段階で、その時点の姿で保持されて元に戻れなくなることからも明かである。マミの姿で舞台演出などの魔法を使ったのは、変身とはまた別の魔法を使ったという事だろう。優がどういう仕組みで肉体的成長をしたか、あるいはその逆については魔法だから気にしないことにしよう。

第27話「フェザースターへ!」
名台詞 「仕方が無かったんだ、急にマミがいなくなったらどうなると思うんだ? 例えばパルテノン・プロの人たち、例えば彼のようなもう一人の君のファン、もう一人の君を夢見、待ち焦がれている人たち…。」
(ピノピノ)
名台詞度
★★★★
 ピノピノが指示した通りに、優と俊夫は「誕生の泉」から生まれる「星の子」を撃つことに成功する。すると優は新たな魔法のアイテムを手に入れて、魔法を取り戻す事が出来たのだ。と同時に俊夫はフリーズして動かなくなってしまう、優が心配するとどこからともなくピノピノの声が聞こえ、星の子を撃ったことで俊夫は優の魔法を目撃してからここまでの記憶を失ったと解説する。「どうしてそんな余計な事を!」と抗議する優に、ピノピノの声はこう説明するのだ。
 そう、ピノピノが何よりも懸念したのは「クリィミーマミという存在による影響力の大きさ」であっただろう。芸能界にデビューしたことで多くの人にその存在を知られたマミは、優の好む好まざるのは別に多くの人に多大な影響を与えていたのである。多くの人が「アイドル歌手」という存在を通じて夢を見て、またパルテノン・プロの人たちのようにそれを糧にして生きている人たちもいる。だからマミの存在は簡単に消せないというのがピノピノの言い分だ。これは確かに言う通りで、このままマミが消えたら社会的影響も大だろう。もしマミが社会からいなくなるのであれば、山口百恵のファイナルコンサートのようにそれに相応しい舞台を経なければならないはずだ。それが未消化の現段階では、マミの姿を消すわけに行かないのである。
 3話の研究欄で、優にはステッキを利用して自分自身で操る魔法と、フェザースターによって優が行くべき方向を操られる魔法の二種類を持っているはずだとの解釈を述べた。実はこの論拠がこの台詞である。ピノピノには優を「クリィミーマミ」として人間社会に送り出して、それを通じて優を成長させることと、フェザースターからの何らかのメッセージを人間社会に伝える役割があったと解釈している。だからこそピノピノにとってマミは消してはならない存在であるし、なんとしても芸能界に存在して欲しいものなのだろう。だからピノピノは優にもう一度魔法を与えなければならない立場となるし、俊夫の記憶が消えることを承知で優が自分の力で魔法を得る「方法」を授けたのだ。
 これに対し優は「魔法なんかいらないから俊夫の記憶を返して!」とさらに抗議をする。優は自分がマミであると俊夫が知ったことで、複雑な恋愛関係から開放されて楽になったばかりでなく、やっと俊夫が自分の方を見てくれるようになった喜びがあったから無理もない。だがピノピノが俊夫が了承の上である事を語ると、優は驚きの声を上げて俊夫に手を合わせる。優は俊夫の気持ちに感謝し、「俊夫が魔法をくれた」と思うことでこのショックを乗り越えたのだ。
名場面 マミの復活 名場面度
★★★
 名台詞欄のシーンを受け、優と俊夫の二人は唐突に地球の元の水たまりに戻る。通行したトラック(なんで正月に物流が動いているかという点は気にしない)の運転手にどやされて我に返る。俊夫が「マミのコンサートに行くぞ」と声を掛けると、優は驚いた表情をしつつも「そっか」と返す。そしてコンサート会場に着いた二人だが、優は「ちょっと先に行ってて」と俊夫に言って人気のない非常階段へ行く。ここで初めて新しいアイテムである「タンバリン」を使って変身する。その際に「俊夫がくれたんだ…」と呟き、いつもの「パンプルピンプル…」の呪文でマミに変身。しかも変身の前も後も正月らしい晴れ着姿。「行こっか、今年最初のステージに」とマミが気勢を上げると、ポジが「いつものマミに戻ったのね」と返す。「元気出さなきゃ、私のために頑張ってくれた俊夫に申し訳ないもんね」と言って、ステージに立つ。
 前話では魔法が使えなかったため、今回の変身は「マミの復活」と言うに相応しいだろう。しかも前述した通りであるが、今回は正月と設定されたこともあって優は晴れ着姿だったし、変身したマミも晴れ着姿と大サービスだ。
 そして優の俊夫への感謝、俊夫が身体を張って自分に魔法を取り戻してくれたという想いがしっかり描かれている。いつの日か俊夫が振り向いてくれるという未来を信じることが出来たことで、優はマミとの二重生活という悩みから解放され、新たなスタートを切ったのだ。
 こうして物語後半の新展開へと駒を進めることになる。
感想  いよいよ俊夫による「目撃」について決着の時を迎える。前話でピノピノが言っていた「見た者と見られた者の問題」という部分にメスが入れられたのだ。それ以前に名台詞欄で解説したように、ピノピノにはマミに消えられては困るという問題を抱えていたし、何よりもマミの社会的影響が大きすぎてこのまま無かったことに出来ないという問題を持っていた。そこでピノピノは再度優に魔法を与えることになるが、ピノピノが魔法を授けるのでなく、優と俊夫の協力によって自ら魔法を取り戻すという展開にすることで、1話との差別化に成功していると感じた。
 そして「見た者と見られた者の問題」については、「俊夫の記憶が一定期間消える」という方策をとった。非科学的な設定ではあるがこれはやむを得ないだろう、物語展開を考えれば俊夫がマミの正体を知ったままでは話を進めることが出来ないのだ。「魔法」を絡めて無理矢理な解釈を取れば、俊夫は魔法の力で特定の記憶だけをなくす健忘症に罹ったということだろう。もちろんこれは何らかのきっかけで思い出す、というのが前提だ(でなきゃ話を終えることは出来なくなる)。
 ちなみに今回からオープニングの背景が一部変更になっている。曲途中の優がマミに変身するシーンが、劇中での設定変更にあわせて「ステッキでト音記号を描く」というこれまでの変身方法から、今回新たなアイテムとして登場したタンバリンを用いた変身に変わった。同時に変身直後ではステージカーに乗って歌っていたが、これも19話で事故を起こしてそれきりなので劇中設定と合わなくなってしまったため、テレビ収録シーンで出てくるDJブースで歌うシーンに改められている。
研究 ・フェザースター
 今回、初めてピノピノやネガやポジの故郷であるフェザースターが出てくる。「スター」と言うからには星であることは確かだが、宇宙空間とは似つかない不思議な空間に浮いている。この空間は優や俊夫が何の説明もなく飛べたことから、無重力空間なのだろう。だが呼吸に困った様子がないのは、宇宙の真空状態によって生じる問題を魔法で解決していたと考えるべきだろう。
 出てきたフェザースターはせいぜい直径3メートルと非常に小さなものだった。だが星が大きくなったのか魔法によって優や俊夫が小さくされたのかは分からないが、その後は優や俊夫を基準に地球とほぼサイズとなっている。重力はあるがごく小さいようで、手で羽ばたくような仕草をすることで空を飛ぶことが出来る。ただその動作を止めると地球上での自由落下とほぼ同じ加速度で落下してしまうようだ。
 この星の地球との最大の違いは、生態系の違いだろう。これは解説すると長くなるのでカット。さらに人間レベル以上の高等生物が存在し、ピノピノやネガやポジはこれに相当する。彼らは科学力ではなく魔法によって豊かで文明的な生活をしているのだろう。魔法の元となる魔力の総量は、地球より上である事は確かだ。
 その魔法についてであるが、ピノピノなどのこの星の人間が一定量持っていて地球人などに分け与える事が出来ることは1話で判明している。だが「誕生の泉」と呼ばれる星が生まれるとされる場所からわき出していることも確かだろう。ここは地球で言う火山だと考えられ、泉の中から定期的に「星」が飛び出す場所だ。恐らくその「星」は魔法の力で恒星へと変化するのだろう。従って魔力を多量に秘めているはずであり、優がこれを手にすることで魔法を手に入れられるという設定には説得力がある。同時に俊夫が一時的な記憶を失っているが、それは「星」にあった魔力が瞬時に二人の関係を読み取って「優が魔法を手にするために必要な事」を魔法として実行したのだろう。これは魔法における原理的な面だと考えられる。
 しかし非科学的なことを少しでも科学的に考えようというのは、疲れることだなー。

・「魔法の天使クリィミーマミ」前期エンディング
「パジャマのままで」
 作詞/作曲・古田喜昭 編曲・大村雅朗 歌・太田貴子
 このエンディングも凄く懐かしかった、特に背景画像のネガやポジがとても可愛らしく描かれていて印象に残っている。内容的にはネガとポジがコーヒーを作り、寝ている優を起こしに行くというものだが、この内容が歌詞と上手くあっていて好印象だ。メロディも耳につくと離れない点はあるものの、いい味出してる。
 だけど歌詞については…

…こんな際どい歌を子供に聴かせようとするな!

って、高校時代の再放送でもこの歌詞が何を意味しているのか全く理解していなかったが。

第28話「ふしぎな転校生」
名台詞 「北海道の大寒町からきたんだけど、ちょっとズレてんのよ。」
(優)
名台詞度
★★
 転校生、日高守君にクレープを食べさせようと優は彼を自分の家へ招待する。そこで守がクレープを初体験しているときに、店に俊夫とみどりが現れるのだ。俊夫が「優のボーイフレンドか?」「優も手が早い」と茶化すと、みどりは当然のように嫉妬する。そのシーンを挟んで優が俊夫とみどりに守を紹介する台詞がこれだ。
 確かにズレてる、と視聴者は思っただろう。北海道生まれだからって真冬の東京を半袖で過ごし、教室の窓を全開にし、日本全国的なブームであるはずのマミを知らなかったり、当時も若い子の間で流行していたクレープを知らないなど、ズレてるにも程があるってもんだ。だがこんな守ですら、優に掛かると「ちょっとズレてる」で済まされてしまう。この紹介に対して俊夫が「かなりズレてる」と訂正を入れるが、多くの視聴者はそう感じた事だろう。
 この台詞には優の特殊な感受性と、心の寛大さが描かれているように感じてならない。守のような特殊な人間でも「ちょっとズレてる」で済まし、普通に対応できる心の広さを持ちたいものだと、今回の視聴でこの台詞を聞いて感じた。
名場面 ネガ・ポジと守の出会い 名場面度
★★★
 優のクラスにやってきた転校生は、真冬に教室の窓を全開にしたことをクラスメイトに非難され、自分がこのクラスにやってきた転校生であることも告げずに姿を消してしまう。ネガとポジがこの転校生を捜しに学校中を駆け回るが、どうしても見つからないので探索を諦め、屋上へ通じる階段の踊り場でひなたぼっこをすることに決め込んだ。そこに屋上で時間を潰していた守と鉢合わせることになる。
 屋上への扉の向こうから守が現れたとき、ネガとポジは「いたー!」と抱き合って驚く。そんな2匹を守は捨て猫だと思って優しく声を掛けるのだが、これに対して2匹は気味悪がって「逃げようか」「逃げる理由がない」等と話し合う。これを見た守が「何を話し合ってるんだ?」と声を掛けてからが面白い、守はこの2匹が「猫としてはおかしい」と喝破するが、それを聞いたポジがネガに「何か猫らしいことしなさいよ」と声を掛ける。すると2匹は「猫らしさ」について語り合いながら、日なたで丸まったり、頬を掻いたり、日なたで転がったりと猫らしい動作を必死にするのだ。そしてネガが後ろ足で頬を掻く仕草をしてみると、「下手だなぁ、最近覚えたのか?」と指摘、あまりにも図星だったのでネガはズッこける。ネガが反応してしまったため、守は「ネガが人間の言葉が分かる」と疑うきっかけにもなっている。
 この間のネガとポジと守の掛け合いは最高に面白い。守の言うことに反応してしまう2匹と、それを必死に誤魔化して猫になりきる2匹。それにその構図を見破っているかのようにツッコミを入れる守が加わったことで、今までもネガとポジの会話は面白い掛け合いが多かったが、新たなバリエーションが増えて新鮮な思いをした人も多かったと思う。基本的にネガがボケで、ポジがツッコミだったのだが、守の登場で守のツッコミに対してポジはさらにツッコミを入れるという役割を得ている。この変化が自然に描かれていて本当に面白かった。
 またこのシーンで守のネガとポジに洞察力を見せることで、この転校生がただ者ではないという点を視聴者に示唆する。ただ物語が進むと守はただの野生児だということが分かるのだが、視聴者を序盤の段階で物語にしっかりと引き込むという点で優れているシーンでもあろう。
感想  前々話で物語は折り返し点に到達し、前回からは後半戦に突入して物語の設定や展開に色々な「変化」が付けられ始めていることは多くの視聴者が感じた事だろう。前話では優の魔法のアイテムがステッキからタンバリンに変わり、優が変身する際のポーズも「宙にト音記号を描く」から「片足で跪いてタンバリンを掲げる」とものに変更。同時にオープニングテーマの背景もこれに連動して変更されたことは前話で述べた。
 次なる変化は「キャラクターの追加」だ。まず最初に出てきたのはこれまでになかった「優のクラスメイト」を準レギュラーキャラとして迎え入れた点だ。優の学校シーンはこれまで何度か描かれたが、優のクラスメイトが物語に絡んだことは一度もない(俊夫やみどりは「優の幼なじみのお兄さん」であり、クラスメイトではない)。これまで存在しておきながら全く物語に絡んでこなかったキャラを、今更準レギュラーとして迎える事は不自然なこともあって、「転校生」という設定にしたことは頷ける話だ。
 しかも、この転校生がただの少年ではなく色んな意味で「ズレてる」ことは名台詞欄で語った通りだ。だが優というキャラが既に極端であることを考えると、この新キャラにはこの優のキャラクター性に対抗できるキャラが必要だったのだろう。だから「北海道生まれだから」という枕詞で解決する「極端な設定」を数多く設定したとみるべきだ。
 私の経験上、北海道の人って寒がりが多いと思うんだけどなー…もし北海道で生まれ育った人が東京に越してきても、「寒いところで育ったから」とか言って薄着したり部屋の窓を全開にすることはあり得ないと思う。多分外では普通に厚着をして(北海道にいた頃と比べれば薄着だろうけど)、外が寒ければ窓を閉め切って暖房を付けるはずだ。私の経験で言うと、むしろ寒さに強いのは西日本方面や九州・四国出身の人たちだ。意外だろうけど、部屋の暖房を掛けすぎるとすぐに「暑い」と反応するのはこれらの人たちだし、暖房の設定温度で見てもやはり西日本の人の方が低くする傾向があるように感じる。同じ温度で見た場合の冬場の服装も、西日本の人の方が薄いように見える。まぁ、野暮なツッコミですね。
 さらに言うと、今回からはエンディングテーマが変更になっている。今話でマミの新曲と設定された曲がそのままエンディングで掛かったときは、正直驚いた。
研究 ・ 
 

第29話「ロープウェイ・パニック」
名台詞 「もうがっかり、0010なんか見たくもないわ。でもね、0010より素敵で頼りがいがある人、見つけちゃったんだ。」
(優)
名台詞度
★★★
 劇中での人気テレビドラマ「0010(ゼロゼロテン)」の収録を見に行ったことになっている優(もちろん実際にはマミに変身して出演している)が帰宅した際、優と共に主演男優のファンであるなつめが「どうだった?」と期待を込めて優に問う。すると優は前半はがっかりした表情で、後半は嬉しそうな表情でこう答える。
 この台詞の要素のひとつは、「テレビの中のカッコイイ人」の実態を見せつけられ、夢を壊されてしまった少女の率直な気持ちが描かれている。私も似たような経験があり、子供の頃に住んでいた近所の公園で特撮ヒーローの撮影があったので見たことがあるのだが、この時に顔だけ普通の人間(しかも劇中で変身する人とは別人)の特撮ヒーローが情けない姿勢で必死にブーツを履いている姿を見てしまったことがある。優が「0010」の実態…高所恐怖症で恥ずかしがり屋…を見た時の気持ちと多分同じだと思う。その「見てはいけないものを見てしまった」というか、「知らなくても良いことを知ってしまった」という寂しさが込められている。
 反面、この台詞の後半では憧れの男の子である俊夫が自分をピンチから救ってくれたことに対する感謝と、その時に得た嬉しい感情がしっかり描かれている。例えその時の姿がマミであったとは言え、助けてくれたのには変わりはないのだ。だから優はマミの姿のまま礼を言うという、俊夫が喜ぶ行為でもって感謝を示したのだし、この台詞においても俊夫を「頼れる男」として両親に報告するのである。本来なら俊夫が優を差し置いてマミのために行動したのだから、優が嫉妬して悩むべきところではあるが、そうはならなかったのは俊夫が結果的に助けてくれたことと、「頼れる男」として誇れる存在となったことからだ。
名場面 ロープウェイ・パニック 名場面度
★★★
(研究欄参照)
感想  劇中世界が芸能界を中心に回っている以上、マミが映画やドラマの収録に参加するのをネタにした話はいつか来ると思った。24話は出演の話が来てオーディションを受けただけであり、マミは実際には出演していないので除外すべきだろう。そして冒頭で印象的に見せる劇中劇「スパイハンター0010」、これがまさに「時代」を感じさせてくれて良いね。この雰囲気は80年代じゃなくて70年代のテレビドラマのイメージだったが、ヘリコプターから縄ばしごがヒュルヒュルッと降りてきて、悪役がこれに捕まって華麗に逃げる…「クリィミーマミ」が放映された当時でもこういうドラマはなかったと思う。
 そして劇中に描かれる「ヒーローの実態」については、名台詞欄で語った通りだろう。どんなテレビの中でカッコイイ人でも、やっぱり一人の人間でしかないというテーマに深く切り込んではいると思う。その結果が名台詞欄の台詞であるわけで、「本当のヒーローはテレビの中ではなく近くにいる」という重大なテーマを、この物語を見ていた子供達に伝えるのに成功していると思う。
 ちなみに今話の考察は、名場面欄に書くことと研究欄に書くことに重複した内容が多くなる上、書いているうちにその境界すら怪しくなってきたので研究欄の方にまとめて書くことにした。
研究 ・ロープウェイ・パニック
 今回の物語の根幹はスキー場でのテレビドラマのロケであるが、この中で撮影に使用していたロープウェイが暴走事故を起こす。ロープウェイ上で「マミが悪役にさらわれた」という設定のシーンを撮影していたところ、ネガが芝居と現実を混同してしまいマミを助けようとロープウェイの運転操作盤を勝手に動かしたのが原因であった。ロープウェイは撮影地点から山頂方向へ向かって暴走し、ネガを見つけた撮影スタッフがネガを捕まえようとした際に誤って操作盤を破壊してしまったことでロープウェイが停止する。
 その時、マミは悪役と一緒に車内に、「0010」役の俳優が屋根上にという状況であった。「0010」役の俳優は高所恐怖症で、ロープウェイ停止地点がかなりの高所だったこともあってそこで気絶してしまう。この俳優が気絶した際に足を滑らせ、ロープウェイの屋根から転落し掛かった状態となってしまう。悪役の俳優がこれを助けようと非常ドアコックを操作して屋根上に上がろうとするが、「0010」役俳優の腕を掴んだところで誤って転落。これをマミが慌てて捕まえてなんとか落下だけは防げた。だが二人の俳優の生命はマミの片腕に掛かったわけだ。
 マミは見たところ十代後半の少女と思われ、16〜17歳程度と考えられるだろう。体型は大人との比較で見れば小柄な方だと思われるので、体重は50kg前後と思われる。そのか弱い少女の片腕に、一般的な体型の成人男性二人の体重が掛かっているのである。遠慮気味に一人60kgとしても合わせて120kg。これは重い、重すぎる。逆に言えばマミはちょっと太めの男性ならば片手で持ち上げることができるということである。すげー力持ち…魔法を使っているのではないかという声もあるが、このシーンでマミが魔法を使ったのは呪文を唱えた途中からである。つまり最初の数分は魔法に頼らずに自力で二人の男を片腕だけで持ち上げていたことになる。恐るべし、怪力マミ。
 マミが途中から魔法を使ったことで、二人は何とか落ちずに済む。そのうちに俊夫がロープウェイの制御盤を修理して無事にロープウェイは動き出したのも束の間、マミの魔法にも限界が来てロープウェイから3人とも落下してしまう。この時の落下時間は下にいた二人の俳優基準で3.2秒、二人の体重を60kg、空気抵抗係数0.24で計算すると、落下距離は47メートル、地面到達時の速度は99.9km/hとなる…ってちょっとそれは。少し遅れて地面に到達したマミ基準の場合は(マミの体重を50kg・空気抵抗係数0.24・落下時間3.8秒)、落下距離63メートルで地面到達時の速度は110km/hにもなる。これはどう考えても助からん、ロケスタッフは暢気に拍手している場合じゃないぞ。特に首から落下した「0010」担当俳優はマジでヤバイ状況だろう。地面の雪がクッションになっているのではないかという指摘もあるかも知れないが、これは石鹸の泡から作った擬似的な雪であることは物語中盤でハッキリしている。泡と言うことは気体と同じような物で、クッションとしての効果は全く期待できないと言うことだ。
 ただこのシーンが他のアニメの落下シーンよりリアルなのは、落下したマミは「魔法が効かなくなって手を滑らせた」事によって悲鳴を上げており、落下中は無言である点だ。何度も言うように落下はあっという間なので、悲鳴を上げている余裕など無いはずだ。でも落下して助かるという設定を取るなら、それこそ魔法の出番じゃないかと突っ込みたくなるぞ。
 またヤボなことを調べてしまった…。

第30話「前略おばあちゃん」
名台詞 「帰らない、ばあちゃんいつだってそうじゃないか! 僕が失敗するとすぐに横から口を出して、それじゃいつまで経っても一人前になんかになれないもん。だから、一人前のマネージャーになるまで帰らん! 帰らんとよ〜!」
(木所)
名台詞度
★★★★
 木所の失敗は、マミが歌うときに装着するカチューシャ「ルミナウォーク」を間違って大量発注してしまったことだ。その失敗をしたちょうどその時に、木所の祖母タケが都会でいつまでも成功しない木所を連れ戻しにやってくる。立花が「ルミナウォークを責任もって処理すること」を提案することで3日間の猶予が与えられるが…その条件は達せられそうにないところまで木所は追い詰められた。
 そんなとき、タケは木所を自分が宿泊しているホテルに呼び出す。そして札束を渡して「これで解決して一緒に帰ろう」と迫る。この祖母の行為に木所はこう反論したのだ。
 この台詞には間違いなく「木所がなぜ何をやっても上手く出来ないのか?」という疑問に対する答えが入っているのは言うまでもないだろう。要は木所のドジで間抜けな部分は、このばーさんが原因なのである。タケがさんざん甘やかしてきたからこそ木所はいつまで経っても独り立ちできず、出世も出来ないのだ。そしてその構図を木所本人が一番よく知っていたからこそ、彼は実家を出て都会で生活する決心をしたと考えられる。
 その木所はただ都会で漫然と過ごすのではなく、今まで自分を甘やかしてきた祖母から独り立ちするという目標があるのだ。だから祖母が連れ返しに来たことに危機感を感じたのだろう、祖母に連れ戻されれば自分が独り立ちする機会は永遠に失われるからだ。そのままもし祖母が他界するようなことがあれば…結果は火を見るより明らかだ。
 この台詞にはそんな木所の「心の叫び」が見え隠れしており、まさにこのアニメを見ている子供達に「大人の世界」をまざまざと見せつける役割がある。この台詞の内容がこのアニメを見た当時の子供達の胸に響いていることを、願わずにはいられない。
名場面 「期限」の朝 名場面度
★★★
 「ルミナウォーク」処分の猶予期限である3日目の朝が来た。流石に会社へ行きたくないと思った木所は、アパートの自室を訪れたタケによって「早く挨拶に行け」と叩きだされる。そしてパルテノン・プロの事務所に着くと、立花が「ルミナウォークはマミのファンクラブが全部持って行った」と喜んでおり「早く追加注文だ!」と木所に向かって叫ぶ。だがその木所は「長い間お世話さまでした」と事務所を出て行く、彼は「ファンクラブが全部持って行った」というのは祖母が仕組んだものだと思い込んだのだ。
 なにがいいって、この「お世話様でした」と言って事務所を出て行く時の木所の姿だ。やはり自分は祖母という存在がないと生きていけないという不甲斐なさ、都会でも上手くやっていくことが出来ず負け犬になって故郷に帰らざるを得ないという悲しみ、これがうまく濃縮されている。このシーンに哀愁を感じ印象に残ってしまうのはおじさんになった証拠だろう、本放映時や再放送時の視聴では全く気にならなかったシーンだったのに。
感想  今回の主役は木所だ、この年齢になって「クリィミーマミ」を見てみるとこの木所というキャラクターが気になってしょうがない。自分なりに仕事に打ち込み、上手く行かなくてもそれなりに頑張っている姿と自分の姿が重なるという人は多いかも知れない。だがこの物語は「魔法少女アニメ」だ、木所の思いが分かるような年齢層の人は本来の視聴者層ではない。だがその大人にしか理解できないような木所の哀愁や心の叫びを敢えて子供に見せることで、子供達に「大人の世界」を垣間見せることが今回のテーマだと思う。この点は物語の前半部分で、優が「なんかこう、大人の世界を覗いちゃったって感じだな」と口走ることから間違いないと思われる。
 ここで木所の設定も固められる、木所のフルネームが「木所隼人」であることはこの話で初めて判明するのだ。これはマミまでも「やだー、木所さんって隼人って名前なの?」とケラケラ笑うことで確認が出来るし、エンディングのスタッフロールでも木所の欄は「マネージャー」(後期エンディングでは「木所マネージャー」)とされていたので下の名前は分からないままだった。名前からして、鹿児島出身かな?
 この過程でルミナウォーク配りが主軸となって行くわけだが…その中で守が二度目の登場を果たし、後ろからコッソリ現れて目隠ししたのが優であるのを「匂い」で分かるという特技を見せるのは笑った。「まるで犬か猫みたい」と優が突っ込むと、本人も「たまに自分でもそう思う」と返すやり取りは守のキャラを確定化させるためにも重要だろう。やっぱズレてるだけでなく、何処かに正常な神経があるってことだ。
 そして物語は最終的に、「何故木所がドジで間抜けなのか」という謎解き(名台詞欄)をした上で、祖母がこれに気付き逆に木所に厳しい試練を与えて去るという展開を見せる。この展開の何処までが主視聴者層である世代に伝わったか分からない、だが「クリィミーマミ」を小学生時代に見た世代ならもう30代、そんな人たちにこの物語を再度見せたら面白いだろうなと感じたのは確かだ。
研究 ・ルミナウォークはいくつくらいあったのか?
 今回の物語の主軸に、木所がマミ一人が着用するはずのカチューシャ「ルミナウォーク」を大量発注してしまったという間違いがある。その量はかなり膨大でパルテノン・プロの事務所の壁を埋め尽くす位の量があった。木所が連れ戻されないための条件として、これを3日で処分するという難題を科せられる。
 このルミナウォークの量を知るには、二つの要素があればあとはかけ算するだけだ。ひとつは段ボールがいくつあるのか、もうひとつは1つの段ボールにルミナウォークがいくつ入っているかである。
 1つ目の段ボールの数であるが、これは物語後半でめぐみが「段ボールを壁に寄せたのね」と立花と会話するシーンから推定することは可能である。この一連のシーンを繰り返し見てみたところ、最低でも89箱の段ボール箱が積まれていることが分かる。この段階では既に木所や優によっていくつかは持ち出されていることと、シーンの中で同一とは思えない段ボールがあと数個あること、その他パルテノン・プロ社員が全員1つずつ装着していた点を考えると、元々段ボールは100箱あったと考えていいだろう。100箱なら発注単位としてちょうどキリもいいし、この説はかなり説得力があると我ながら思う。
 問題は段ボール1箱に何個のルミナウォークが入っているかだ。これが判明しそうなシーンがひとつだけある、それは木所の誤発注が最初に発覚するシーン、立花が事務所に入ってきて多量の段ボールに驚いて転ぶシーンだ。この時に段ボールの山が横転して、中身が箱からこぼれる。
 このシーンを根気よく見てみたところ、画面左下の段ボールの中に12個のルミナウォークを確認できるコマがあった。段ボール箱が崩れるシーンをよく観察したところ、だいたい1箱あたり10〜15個程度のルミナウォークが入っていたと考えられる。これもキリがいい数字で、1箱あたり12個、つまり1ダースと考えて良いだろう。
 これで決まった。あとは1ダース×100箱のかけ算だから、木所が発注したルミナウォークの数は1200個であろう。前述のシーンで立花は実に段ボール9箱分・108個ものルミナウォークに埋もれたことになる。確かにこの個数だと優が友達全員に配ったり、森沢家がクレープ3個につき1個配ったとしても後者でも3日で300個程度だろう(全員にプレゼントならもっと大量に捌けるはずだが)。マミのスタジオ収録のシーンでは、木所と俊夫とみどりが会わせて10箱のルミナウォークを持ち出しているので、この収録の観客は最低でも120人いたことになる。しかも既に何人かに配った上で「足りないから持ち出した」という状況のようなので、観客数は150〜300人程度であった可能性がある。
 つまりパルテノン・プロの社員全員の装着で1箱、優が自分で配布したり自宅の店で配布して貰うのに持ち出したのが段ボール5箱で60個、木所がマミのテレビ収録に最初に1箱だけ持ち出し、その他画面に出てこない分の箱も足して計11箱分がなくなって残り89箱と推定することができる。これに従って木所が考えなければならなかったことは、1068個のルミナウォークをいかに処分するかだったわけだ。テレビ収録の観客が300人なら、これが毎日あるとすれば3日で…まだ168個も残ってしまう。彼が注文した数はそれほどの量なのだ、やっぱり木所は連れ返されるしかなかったようだ。
 だがテレビ収録も毎日ある訳ではないし、現在ほど通信販売も確立されていない時代だから短期間で一気に売るのは無理だ。この1200個のグッズを3日で処分するという問題が、当時はどれだけ大変だったかよく分かる。だがファンクラブがあるんだったら、最初からそっちに話を持って行けばいいのに。マミほどの人気があればファンクラブは最低でも10万人規模だろう。すぐに「足りない」と大騒ぎになるのに…。

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