「あにめの記憶」12

「魔法の天使クリィミーマミ」

・「魔法少女アニメ」の変革を拡げた作品
 当サイトでは色々なジャンルのアニメを扱ってきた。名作アニメ、SF、ギャグ、スポーツ(野球)…まだまだ見落としているジャンルがある。そのうちのひとつに主に女の子向けとして多くの名作が生み出されてきた「魔法少女アニメ」がある。今回はその「魔法少女アニメ」の中から1作選んで考察していきたい。
 これまでこのサイトでは男女共に楽しめる作品か、どちらかというと男の子向けの作品を扱ってきた。特に古い作品では私の少年時代に印象に残ったアニメを取り上げているという展開もあり、男の子も見るアニメに路線が偏るのは当然の流れとして理解して頂いていると考えている。では女の子向けのアニメは見ていなかったのか?と問われると、やはり「見ていた」と言わざるを得ない。そう歳の違わない妹がいる以上、女の子向けのアニメとも親しんできたのは事実だ。
 そんな少年時代に見た女の子向けアニメから「魔法少女アニメ」の代表として、「魔法の天使クリィミーマミ」を選んだ。この考察作品の選択に驚いた方も多いと思われるが、しばらくお付き合い頂きたい。

 「魔法少女アニメ」は女の子向けのアニメでは定番であろう。日本のアニメ史を紐解くと、明確に「女の子」をターゲットに作られた最初のアニメは「魔法少女アニメ」の老舗である「サリーちゃん」だったことが分かる。アメリカABCテレビが世界に放った普及の名ドラマ「奥様は魔女」をヒントに、魔法使いを少女にして子供向け路線のアニメとしたという経緯は有名であろう。だが「サリーちゃん」はモデルの「奥様は魔女」の影響もあってギャグ路線に偏っていて、放映してみると男女共にウケが良かったという結果を出していたという(私も再放送で何度も笑わせてもらった)。
 「魔法少女アニメ」が少女向けとしての路線を確立したのは、赤塚不二夫原作「ひみつのアッコちゃん」のアニメ化からだと言われている。「サリーちゃん」では魔法を使えるのは魔女などの特別な人間に限られていたが、「ひみつのアッコちゃん」ではごく普通の少女があるきっかけで魔法を使えるようになるという設定を取った。この普通の女の子が魔法使いになるという設定で多くの女の子達の支持を得たことで、「魔法少女アニメ」は女の子向けとしての次々に制作されるが、「ひみつのアッコちゃん」で見られたような「普通の女の子が魔法使いになる」という設定はすぐ忘れ去られ、やはり魔女や人魚や花の精だけが魔法を使うという設定へ戻る。多くのアニメは女の子向けの定番としてそこそこの人気を保つが、やがてマンネリと受け止められるようになり、1980年代に入る頃には「魔法少女アニメ」は一時期ではあるがパッタリと途絶えてしまう。
 その「魔法少女アニメ」というジャンルを復活に導いたのが、1982年に放映されたのが「魔法のプリンセス ミンキーモモ」である。これは異世界から来た少女が魔法を使うという点ではこれまでの作品と大差ないが、魔法の「使い方」で他と変化を付けてきた。それは魔法の使い方が「変身」を主にしてきたことである。「ミンキーモモ」では主人公が魔法によって「その場面で必要な職を持つ人」に変身することで、その職業に特化した力を持つという設定を取った。これによって現実世界にも存在する様々な職業を持つ女性に変身する姿が描かれ、将来は社会で活躍したいという少女達の支持を取り付けたのは確かだろう。また男女共同参加型の社会へと移行を始めていた「時代」もこの作品を欲していたと考えられる。さらに主人公が魔法を使うシーンに新体操を取り入れ、その変身をダイナミックに演出。こうして「魔法=変身」という現在の「魔法少女アニメ」にも引き継がれてる基本設定を構築したのは否めない。
 そして変身した主人公は「大人の女性」として描かれたことで、このアニメはターゲットの女の子だけでなく、当時のアニメファンにも支持されて行くことになる。こうして現在の「魔法少女アニメ」にはつきものとなった「大きなお友達」のファンを、このジャンルのアニメは抱えて行くことになるのだ。

 「魔法少女アニメ」に一大変革を起こした「ミンキーモモ」に続いて制作されたのが、今回紹介する「魔法の天使クリィミーマミ」である。この作品は「ミンキーモモ」の路線を引き継いでいるのは確かだが、さらに新しい試みがされているのが注目だ。
 まずは「ひみつのアッコちゃん」と同じように、魔法を使う主人公は「普通の女の子」とされた点である。主人公はあるきっかけにより1年間だけ魔法を与えられるという設定を取り、主視聴者層である少女達が主人公に感情移入いやすい作りとした。
 「魔法=変身」「魔法によって大人の女性になる」という魔法の使い方は変わらないものの、変身した後の姿をひとつに絞り込んで「変身した姿でのドラマづくり」を意識した点もみどころである。つまり魔法によって変身した主人公の姿は、これまではその物語での問題を解決するための一時的なものに過ぎなかったのを改め、変身した姿も一人のキャラクターとして成立させてしまったのだ。またこれによって主人公の女の子が恋をするボーイフレンドが、主人公が魔法を使って変身した姿に惚れて夢中になってしまうというこれまでになかった三角関係を描いた点は、野心的な試みであったが視聴者を飽きさせる事のない重要な点として物語を牽引する。
 変身した主人公の姿が「職を持つ人」というテーマである点を「ミンキーモモ」から引き継ぎつつも、前述の点によってこれもひとつに絞り込んだ。それは主人公は変身するとアイドル歌手として芸能界で働いているという設定で、これまで子供向けの番組で描かれることの無かった芸能界の事情が良いところも悪いところも描かれたのは特筆ものだ。当時は「おニャン子クラブ」などのアイドル量産システムはまだ存在しておらず、テレビの中で歌って踊れるアイドルは自分とは別世界だと思っていた少年少女の方が多かったはずだ。そんな世界で働く神のような存在に、普通の女の子が魔法ひとつで飛び込んでしまうという設定を取ったのは主視聴者層である少女達の興味を引くのに十分であっただろう。これと関連して主人公少女の声優にこのアニメのオープニングテーマでデビューとなる新人アイドル歌手を起用することで、「現実世界とのリンク」まで実現させた上に「現実にありそうな話」としての味付けまでしてしまったのだから凄い。このアニメのオープニングテーマやエンディングテーマは、主人公が変身した歌手の持ち歌として劇中でも使用されている(当然主人公の担当声優が歌っている)。
 この設定の中から少年少女の様々な物語を浮かび上がらせ、主人公と憧れの男の子の恋愛を主軸の物語を展開して行く。この「つくり」に当時はとうも感心してみていた記憶がある。そしてこの「クリィミーマミ」をもって「魔法少女アニメ」の現在へ続く「おやくそく」である、「魔法=変身」「変身によって主人公が新たな力を身につける」という方向性が確立する。現在の「魔法少女アニメ」も主人公が「魔法で変身」することによって新たな魔法を手にしたり、強い戦士になったりというものが多く、そういう意味では「ミンキーモモ」や「クリィミーマミ」の影響を引きずっていると言えるだろう。

 当サイトではこの「魔法少女アニメ」を、これまでの「世界名作劇場」の考察などと同じフォーマットで考察し、特に物語や設定という面から考察していきたいと考えている。なおいつものことではあるが、公式設定よりも私の解釈を優先して考察をしたい。

・「魔法の天使クリィミーマミ」と私
 さてこの「魔法の天使クリィミーマミ」であるが、本来「魔法少女アニメ」の対象外(当時は現在ほど製作サイド側が「大きなお友達」を意識していなかったと考えられる)である当時男子中学生の私に見る機会がなかったはずだ。だが前述のように私に妹がいて、それによって女の子向けのアニメも何本か見た記憶がある。しかし、既に妹が小学生高学年という世代になってきていたこともあって、「クリィミーマミ」の前後に「魔法少女アニメ」というどちらかというと低年齢層向けのこのジャンルのアニメは見ていない。この頃に妹と見ていた「女の子向け」のアニメは、恋愛ものの少女漫画をアニメ化したものばかりだった。
 だが我々兄妹がなんかの偶然でこの「クリーミィマミ」の第1話を視聴したのはハッキリと覚えている。そして続きが気になって2話・3話と続けてみているうちに兄妹でハマって毎週見続けていた記憶と、放映後に内容について妹と語り合っていた記憶がハッキリと残っている。設定や展開に前述したような他作品との違いをハッキリと認識し、「魔法少女アニメ」が低年齢層向けから脱している事を理解したのだ。
 私が中学2年生の頃に本放送が終わり、物語が完結したこともあってこの「クリーミィマミ」から一度は離れることになる。1年もすればこのアニメのことについては存在以外殆ど忘れていたと言っていいだろう。だが「クリィミーマミ」との再会は唐突に高校1年の時にやってくる。
 高校時代、クラスの友人にアニメファンと呼ばれる人物が複数いた。高校1年も終わりに近いある春の日、その友人の家に遊びに行ったときに見せられたのが「クリィミーマミ」のOVAであった(ちなみにこれは今回考察する全52話で完結したテレビシリーズの続編として製作された完結編「魔法の天使クリィミーマミ〜ロング・グッドバイ〜」というビデオであった)。
 その後、平日夕方に「クリィミーマミ」の再放送が始まる。するとアニメファンの友人達が「クリィミーマミ」について熱く語り始めたため、「クリィミーマミ」の再放送を毎日見ないと翌日の仲間達の話題について行けないという状況となった(ちなみに仲間達の話題に乗るためには「水戸黄門」の再放送もチェックしなければならなかったので、平日夕方の下校後は時代劇と魔法少女というとんでもない組み合わせでテレビ視聴をしていたことになる)。この再放送の視聴で再度この物語にはまり、男子高校生でも楽しめる魔法少女として私の記憶に残ることになった。
 ちなみに私は、この前後の「魔法少女アニメ」は全く見ていない。製作会社のスタジオぴえろは「ぴえろ魔法少女シリーズ」として「クリィミーマミ」を1作目に5作の「魔法少女アニメ」を制作したが、3作目まではタイトルのみ知っていて以降は存在すら知らなかったという状況である。前に関しては「魔法少女アニメ」自体が少なかった時期だったこともあり(「ミンキーモモ」は存在のみ知っていた)、やはりこの手のアニメは見ていない。恐らく「クリィミーマミ」の前に見た「魔法少女アニメ」は「花の子ルンルン」まで遡ると思われる(再放送ならば「サリーちゃん」などは見ていたが)。
 そんなこんなで、私にとって一番記憶に残っている女の子向けアニメが、「クリィミーマミ」だったりするのである。だから今回、「女の子向けアニメ」を取り上げようと思った時に、真っ先に思い浮かんだのも「クリィミーマミ」だったのだ。

・サブタイトルリスト

第1話 フェザースターの舟 第27話 フェザースターへ!
第2話 スター誕生! 第28話 ふしぎな転校生
第3話 デビュー!デビュー!! 第29話 ロープウェイ・パニック
第4話 スクランブル トップテン 第30話 前略おばあちゃん
第5話 あぶない!?マミの秘密! 第31話 優のフラッシュダンス
第6話 伝説の雄鹿 第32話 二人だけのバレンタイン
第7話 大親分に花束を! 第33話 恐怖のハクション!
第8話 渚のミラクルデュエット 第34話 スネークジョーの逆襲
第9話 ま夏の妖精 第35話 立花さん、女になる!?
第10話 ハローキャサリン 第36話 銀河サーカス1984
第11話 パパは中年ライダー 第37話 マリアンの瞳
第12話 スタジオは大停電! 第38話 ときめきファンクラブ
第13話 鏡の向こうのマミ 第39話 ジュラ紀怪獣オジラ!
第14話 私のMr.ドリーム 第40話 くりみヶ丘小麦粉戦争
第15話 虹色の天使 第41話 勉強しすぎに御用心
第16話 海に消えたメモリー 第42話 ママの思い出ステージ
第17話 時のねむる森 第43話 走れ優!カメよりも速く
第18話 ざしきわらしの冒険 第44話 SOS!夢嵐からの脱出
第19話 マミの一番長い日 第45話 悲しみの超能力少年
第20話 危険なおくりもの! 第46話 私のすてきなピアニスト
第21話 かわいい恋のパーティ 第47話 マミのファーストキス
第22話 みどりくんとプップクプー 第48話 優とみどりの初デート
第23話 星のパラソル 第49話 潜入!立花さんちの秘宝
第24話 クマ熊オーディション 第50話 マミがいなくなる…
第25話 波乱!歌謡祭の夜 第51話 俊夫!思い出さないで
第26話 バイバイ・ミラクル 第52話 ファイナル・ステージ

・「魔法の天使クリィミーマミ」主要登場人物

優の家族および周囲の人々
森沢 優
(クリィミーマミ)
物語の主人公で10歳の少女。ふとしたことから1年間だけ魔法を得て、それを使って歌手クリィミーマミに変身する。
 …男勝りの行動派の少女だが、妖精が見えるなど元々「魔法使い」の素質はあったらしい。このお転婆がアイドル歌手としてデビューするという内容には本当に驚かされた。
森沢 哲夫 優の父で移動クレープ屋「クリィミー」を経営している。娘を男の子っぽく育てた張本人。
 …色んな意味で「一人娘の父」を演じてくれる、今になって見ると彼の娘に対する言動には頷かずにいられない。
森沢 なつめ 優の母で夫と共にクレープ屋を経営。話が進むと色んな過去が明らかになる凄い人。
 …娘に甘い父に代わって厳しく躾けようとするが、いつも娘と夫のテンポに飲まれていた印象が…。
大伴 俊夫 優のボーイフレンドで14歳、マミがデビューするとすぐファンになって夢中になってしまう。
 …この作品の特殊な三角関係の頂点を成す(底辺は優とマミ)、優の気持ちに対しては鈍いにも程がある。
如月 みどり 俊夫の友人で優に惚れてる太った男の子、サブタイトルリストの通り48話で遂に優とのデートを果たすが…。
 …彼の「優ちゃんラブ」モードはとても印象に残ってる。常にお菓子を食べているぐうたらメタボキャラ、名前にコンプレックスがあるらしい。
日高 守 物語途中(28話)で優のクラスにやってくる転校生、ネガやポジが普通の猫でないと喝破するなどの活躍を見せる。
 …「北海道出身」の人に対する偏見を極限までオーバーに描いたキャラ、北海道はそこまで未開じゃないぞと文句言いたい。
フェザースターの妖精
ネガ フェザースターの舟から優に魔法が与えられた際、「相談役」として優の元に付けられた猫のような妖精。こちらは雄。
 …実は「クリィミーマミ」で有名な魔法の呪文(パンプルピンプル…)を最初に言ったのは彼、声は999の車掌のあの人だ。
ポジ 同じくフェザースターの舟から優の相談役として付けられた猫のような妖精。こちらは雌。
 …ネガがボケ役ならこっちはツッコミだがすこしおとぼけてる。この猫コンビがこの物語を面白くしていたのは確かだ。
ピノピノ フェザースターの舟の代表者らしい妖精、「夢嵐」から舟を救ってくれた優にお礼として1年間だけ魔法を授ける。
 …なんだかよく分からない相手にホイホイと魔法を与えてしまう辺り、ちょっと怖い人だと思っていたりして。
パルテノン・プロダクションなど芸能関係の人々
立花 慎悟 パルテノン・プロの若社長、素性の分からぬマミをアイドル歌手としてしまう。
 …二枚目からギャグのためのネタシーンまで幅広い役をこなす、ある意味この作品の当たり役かも?
綾瀬 めぐみ パルテノン・プロ所属のアイドル歌手だが「落ち目」の烙印を押されていた上、マミの登場でトップスターの座を追いやられる。
 …マミをライバル視するが、元はと言えばこいつがマミを芸能界デビューさせるきっかけを作った。
木所 隼人 めぐみのマネージャであったが後にマミの専属マネージャになる。気苦労が多く胃薬が飲んでいた姿が印象に残る。
 …情けないキャラだが仕事に対する情熱は見せてくれる。このマネージャでなかったらマミは芸能界でやっていけなかったかも。
星井 守 テレビ番組のディレクターで通称「マモちゃん」。モデルは外見も性格も「オシイ星人」(byタイムボカンシリーズ)でお馴染みの押井守氏だそうだ。
 …立花と同じく物事を勢いで進めるが、立花との違いは失敗を恐れるタイプか。マミのピンチに涙を流しているもう一人の人物。
スネークジョー 芸能界の様々なスキャンダルで名を馳せるパパラッチ、次のターゲットをマミに定めるが…。
 …パパラッチとして印象的に初登場するが、最後はそれとは全く違う印象で物語から退場する。予備のカメラくらい持てよ…。


・「魔法の天使クリィミーマミ」オープニング
「デリケートに好きして」
 作詞/作曲・古田喜昭 編曲・大村雅朗 歌・太田貴子
 今回の視聴において、このオープニングが凄く懐かしかった。歌っている太田貴子さんの声質、独特の歌い回しもあってまさに「耳につくと離れない」曲として仕上がっていると思う。事実、私もこの曲の歌詞は今日までしっかり覚えていた。もう曲の内容は女の子の気持ちを歌い上げているもので、私にはその内容が正しいかどうかはよく分からない。ただ歌い出しの「男の子と違う女の子って 好きと嫌いだけでふつうがないの」という部分は、大人になってからの自分の経験と照らし合わせると何となく理解できる点だ。
 なお、この曲は劇中でアイドル歌手としてのクリィミーマミのデビュー曲という設定にもなっている。それを考慮しながら、この先のオープニング画像の考察を読んで頂きたい。
 背景は優とマミの顔を交互に出す事で、本編に出てくる「魔法」が「変身」を中心にしたものであることをうまく示唆していると思う。ボーカル部分の背景は前半は優と俊夫がベタベタくっついたり離れたりするシーン、サビの入り口で劇中と同じく優が魔法でマミに変身すると、後半はマミのイメージシーンで繋ぐというつくりである。これも優の「変身」にマミが生まれるというこの物語の特性をうまく描いているだろう。
 だがやはり女の子向けらしく、随所に出てくるハートマークは見ているこちらが恥ずかしくなってしまう。だがこのオープニングは本編の内容を上手く示唆しているという点ではとても優れていると考えられるだろう。

総評はこちら
(2010年12月19日公開)

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