第39話 「良心の痛み」 |
名台詞 |
「メアリー姉さん、ミッチェル先生が殺されたんじゃなくて良かったね。ロビンソン先生が死んじゃったから、ミッチェル先生のところこれから患者が増えるね、メアリー姉さんも忙しくなる。」
(シッド) |
名台詞度
★★ |
ロビンソン医師殺害事件が発覚した日の夕刻、トムの家もいつも通りの時間に夕食になったが、トムはもちろん、ポリーおばさんもメアリーも食欲がない様子だ。「どうしたんだろうねぇ、私はちっとも食べたくない」とポリーおばさんが口に出す。「お母さんも?」と返すメアリーに「きっとあの恐ろしい事件のことが頭にこびりついて離れないからだね。この村にあんな恐ろしいことが起きるなんて信じられないわ」とポリーおばさんが訴え、メアリーがこれに「マフが人を殺すなんて…」と呟くように返した後、今度はシッドが続けた台詞がこれだ。
本話ではトムとハック以外の「子供達」の出番はほぼ皆無だ。「ほぼ」としたのは冒頭やここのシーンで僅かにシッドの出番があるからだ。ここでシッドは家族が昼間の事件で衝撃を受けて食欲が湧かないのに、その空気を読めずにひとりで夕食をパクパクと食べている。まずこのシッドの行動そのものが、幼いシッドに「事態の重要性」というのが全く理解できていないことを上手く描いている。よその土地からの情報が少なく、また人の出入りなどほとんど無い当時の田舎の村にあって「殺人事件発生」というのはもの凄くショッキングな出来事のはずだ。それもただ殺人事件が起きるだけならともかく、その犯人が村人の一人とあれば他の村人は様々なショックを受ける。悪い人はいないと思っていたこの村に、また良い人と信じていた村人の一人が人を殺したとあっては誰を信用して良いのか解らない。ミッチェル先生がマフのことを「人の良い酔っ払い」と思っていたとするが、それは村人みんながそうであってそんな一人が殺人をしてしまった重要性というのをシッドはまだ理解できていないのである。
そしてジッドのこの台詞の内容は、恐らくはその重大性を認識しない村の子供達の平均的な意見だろう。子供に限らず村人にとってのこの事件の重大性を無視した場合、ロビンソン医師の死去は村に小さな村に二つもある診療所の力関係に興味が湧くことだろう。もちろんこれまで行われていた「競争」はなくなり、村の病人をミッチェル先生が独占することになるという結論は簡単に導き出せるので、これは子供にも理解可能なことだ。そんな子供にも理解可能な「事件の影響」をシッドは純粋に口にしただけだ。
やはり本作は視聴者層が子供であること、そしてこの物語が「劇中の子供達が作る物語」という側面があることで、今回の事件をキチンと子供の目で見て子供の理解で示してきたのである。この台詞に対してメアリーはシッドを「あんたにはデリカシーってものがまるっきり無い」と叱るが、このメアリーの反応はシッドが語った「純粋な子供の分析」に対する普通の大人の反応に過ぎない。シッドは自分が何で叱られたのか理解できていない様子だったが、たぶんこの作品を見た子供達の中にも「シッドが何故メアリーに叱られたのか」を理解できなかった子供はいると思う。同時にこれが今話の「大人の物語」に子供が入って行ける部分でもあり、本話を見た子供達は劇中にちゃんと自分と同じ子供がいることに安堵するのだ。 |
名場面 |
保安官事務所 |
名場面度
★★ |
ロビンソン医師が殺害されているのが発覚し、現場にマフのナイフが落ちていたことからマフが逮捕されて保安官事務所に連行される。そしてマフは取り調べにおいてインジャンに話を聞くように訴えたため、インジャン・ジョーが保安官事務所への出頭を命じられて事情聴取された。
このシーンはそのインジャンから聴取した内容を保安官の助手が書き取って調書を作り、保安官がその調書にサインを求めたところから始まる。「私の言ったとおりに書いたのでしたら結構ですよ」と紳士的に答えたインジャンは調書にサインをするが、その光景をマフが絶望的な眼差しで見つめた後、ガックリと頭を垂れる。「裁判では証人になってもらうから、黙って余所へ行くな」との保安官の命令に「わかりました」と答えてインジャンへの事情聴取が終わり、保安官はマフを牢に入れるように助手に命ずる。助手によって牢へ連れて行かれるマフに「気の毒だな、お前さえ捕まらなければ黙っててやろうと思ったのにな。勘弁してくれ」とインジャンが声を掛けると、「いや、こうなっちゃ仕方ねぇよ。でもなぁ、俺は未だに自分がロビンソン先生を殺ったような気がしねぇんだ」とマフは力なく語る。それを遮るようにインジャンは「お前は酒をたらふく呑んでいたから覚えてねぇのは当たり前だ。裁判の時はそのことをちゃんと言ってやるぜ。悪いのはお前じゃねぇ、酒のやつだってな」と告げる。この言葉に反応できないままのマフは、助手によって牢に入れられる。するとマフはガックリと腰を落とし、泣き出すのだ。
マフと思いとインジャンの思惑、それに保安官の思索までもが見えてくるシーンだ。もちろんその3点の中で上手くいっているのはインジャンの思惑だけであり、マフの思いはインジャンに否定されるばかりだし、保安官の思索は証拠がないので表に出すこともできない。
インジャンの思惑は、当然のことながらマフをこの事件の犯人に仕立て上げることだ。インジャンはこういう事態に発展することを予期していて、事件の前にマフに酒をたらふく酒を呑ませたのはインジャンとみて間違いないだろう。結果マフは酔ったままロビンソン医師の仕事に参加するが、色々あっての殴り合いで気絶していただけというのが真相だ。だがこれがインジャンにとってプラスに作用する、酒で記憶が曖昧なマフに罪をなすりつける格好の条件が揃ったのだ。インジャンは過去にもロビンソン医師の仕事をしたと考えられ、またインジャンが他の人は誰も知らないはずの傷害事件の犯人であることも掴んでいる。つまりインジャンにとってロビンソン医師を殺害する「理由」は出来上がっている。それが表沙汰になる前に、マフに罪をかぶせられる条件が揃ったのだからこれを使わない手はない。
マフの思いは、「自分か殺ったわけではない」というものだ。だがそこに確固たる証拠がなく、ロビンソン医師の殺害には自分のナイフが使われたという物的証拠がある「自分がやったもの」と思い込むしかないのだ。だけどどうしても腑に落ちない、いくら酔っていても「自分が人を殺す」ということはこれまでになかった。酔って喧嘩はしたけどナイフには手を掛けなかった自信が彼にはあるはずなのだ。だから「自分が殺った気がしない」のである。
そして保安官の思索は、インジャンが怪しんでいるということだ。保安官はインジャンの証言に僅かな「内容のズレ」みたいなものを見つけていたのかも知れないし、また自分が手を掛けていないに自信を持ちすぎているのを怪しんだのかも知れない。その小さな「おかしい」が、殺人事件の目撃者に過ぎないのに犯人に対しての態度の大きさが不自然なのを見て大きくなったのは間違いない。だがこれも証拠がなく言い出せない。
この三者の思いと思惑と思索がキッチリと描かれ、なんか推理ドラマのワンシーンを見ているような「大人向け」のシーンとして出来上がっていて、とても印象的なところだ。そしてこの三者の状況は、トムが知っている真実を持ってひっくり返ることを視聴者は先回りして知っている。だからもどかしい思いをして見守るしかない、辛いシーンであることも印象的だ。 |
今話の
冒険 |
今回の冒険は、殺人者の犯人に仕立てられてしまったマフに差し入れをすることだ。まずハックがタバコを持って、続いてトムが美味しいハムを持って、それぞれ別々に保安官事務所へ向かいその裏で偶然に会う。保安官事務所の牢には外に繋がる鉄格子窓があり、ここから二人がのぞき込むとマフは眠っていた。声を掛けるとマフは気づき、二人が持ってきた差し入れを見てこれまでにない嬉しそうな表情をする。だがその帰り道、二人はインジャンとばったり出会って「こんな時間まで外をうろついているとろくな大人にならない」と笑われるが、その間ずっと震えることに。 |
ミッション達成度
★★★ |
感想 |
今話では事件の発覚とその後の展開を軸に、トムの精神的疲弊というものもキチンと描かれる。ロビンソン医師殺害が発覚したことで村人達が全員事件を知ることになるとともに、事件現場の遺留品を根拠にマフが犯人として逮捕されて牢に入れられてしまうのだ。この過程で事件を目撃してしまっているトムは、それを誰にも話せないことで恐怖を自分で処理するしかなく、精神的に疲弊してゆく。だが勘違いしてはならないことは、今話の最後の方までトムの心を支配しているものは「事件を見てしまった」恐怖を誰にも話せないことが主で、「真実を知っている」苦悩まだ従だ。今話のラストで牢に入れられたマフを見舞ったことで、この主の恐怖と従の苦悩が逆転し掛かるところで話を切っている。トムの心境的には中途半端だが、ここで完全に主と従を逆転させてしまうと、最後のオチ…トムがインジャンに襲われる夢を見てうなされ、シッドが眠れない夜を過ごすとことが描けなくなってしまう。かといって「オチなし」で次話に進む手を使えば、ここまで本作がずっと続けてきたパターンを破ることになってしまうだろう。
名場面欄シーンについて、私は「実は保安官がインジャンについておかしいと気付いている」という解釈を取っているが、これには「そうでない」と思う方もあるかも知れない。だがインジャンがマフに声を掛けている時の保安官の様子を見ていると、そうとしか思えないのは確かだ。やはり嘘の証言というのをすれば、何処かに必ず綻びが生じてそこから嘘がバレてゆくものであり、保安官はその綻びを見つけているのだと思う。同時にマフが「何も覚えていない」と証言しているのに、保安官は引っかかっているはずだ。だがこの事件の場合、問題は「殺害に使用されたのがマフのナイフ」ということで物的証拠が挙がっているので、インジャンの証言をひっくり返すのは困難だ。保安官としてはこの村の治安を揺るがすインジャンを何とかしたいのは事実だろう、そして過去にもインジャンの言動が怪しい事件はいくつかあったがやはり証拠面でどうにもならなかったことを繰り返したのだろう。保安官は一度インジャンを事件の犯人として確保して取り調べれば、きっといくつもの余罪が出てくると解っているのだと思う。
しかしトムの恐怖心は本当に大きいな、食事中に殺人事件の光景がフラッシュバックしたり、眠れば必ず夢でうなされるという状況だ。これは現代流に言えばやっぱり「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」ってところなのかな?
実は私も過去に一度罹ったことがあるけど、本当にフラッシュバックしたり、それによって全く意味不明な行動をしたりしちゃうことがあって、その行動が制御できない時もある。私の場合は夢は見なかったから寝ている時は問題なかったと思うけど…それで精神科の医師の世話になったのは15年位前だったか…。 |