第39話「ハルマ屋敷のパーティ」 |
名台詞 |
「今度行くトゥールクのお屋敷ってどんなかしら? 奥様のお父様は貿易のお仕事をなさっているの。麦を作ったり、牛を飼ったりするのとはまるっきり違うのよ、貿易っていうのは(中略)。おじいちゃん達には心配しないでって言ったけど、本当は私、とても不安なのよ。今までの生活と、都会の生活では大分違うと思うのよね。アベル、お前だってそうよ。トゥールクへ行ったら、今までと大分勝手が違うことになるわ。どうしてクウセラ屋敷にいなかったの、お前?
私は嬉しかったけど、ペッカはがっかりしていたわね(以下略)。」
(カトリ) |
名台詞度
★★ |
アベルが帰還し、ペッカが旅立ったその日、カトリはアベルの身体が汚れているのを見かねて川でアベルの身体を洗うことにした。そしてカトリが川で、アベルの身体を石けんで洗いながら語る独り言がこの台詞だ。
前話までのカトリは、奥様から相互信頼関係にあること、何よりもトゥールクで勉強ができることを根拠に、トゥールクでの新しい生活に期待を抱いているように見えた。だが実は「都会での生活」というものに対して不安を感じ、この不安を誰にも語らず胸に秘めていたのだ。この胸に秘めた不安をアベルだけに語った…というか語らずにはいられなかったと言うのが正しいところだろう。
カトリは都会で生まれたとはいえ、物心ついたときには既に祖父母との田舎暮らしが始まっていたので田舎の生活しか知らないはずだ。もちろんライフスタイルは変わるし、仕事の内容が変わってくるのも確かだろう。雇用される屋敷も農家ではない、都会の家だ。食事の時間からその内容まで変わってくるであろうし、何よりも食材も家に蓄えてある物を使うのでなく店で売っている物を買いに行くことになる。何から何まで生活が変わるのだ。
もちろんアベルの生活スタイルも変わる。恐らく屋外で繋がれるか室内での生活となり、これまでのように気ままにそこいらをうろつくことはできないだろう。こんな生活の変化が、カトリにとって一番の不安であることはこの台詞から読み取ることができる。
そして付け加えて一つの情報…アベルの面倒見から解放されたペッカの反応だ。やはり彼はアベルの帰還を歓迎していなかった。なぜならそれはアベルがやはりカトリの元で暮らすことであり、ペッカにとってはカトリと定期的に逢える理由を失うことであった。この情報が追加されたことで、この台詞シーンの前で演じられた「ペッカとの別れ」が、多少オーバーでも許されるようになる効果がある。つまりカトリとペッカが長期逢えないことが確定するからだ。 |
名場面 |
カトリvsヘレナ |
名場面度
★★★★ |
ハルマ屋敷のパーティで、カトリは主賓であるマルティの父に挨拶を済ますと、子供の招待者が集まっている部屋に通される。まずはマリにあって本を贈ってくれたお礼を言うと、待ってましたとばかりにヘレナが登場し「どうして家畜番がこんなところをウロウロしているの」と予想通りの台詞でカトリを迎える。これにはマルティが父の招待であることを説明、すると今度はヘレナがカトリをここの子供達に紹介すると申し出る。そしてヘレナがカトリを紹介し、カトリは自己紹介しつつ皆に一礼する。「カトリは皆さんと違って学校でのんびりと遊んでなんかいないのよ、家畜番をなさっているのよ」とヘレナの攻撃が始まる。だが部屋の子供達は「まさか、冗談が上手いな」「こんな可愛い家畜番がいるわけない」「ドレスが立派」「着こなしが最高」と声を上げて、ヘレナに「冗談はやめなさい」と反論する。するとヘレナは「カトリがこんな服を持っているはずがない、これは盗んできたんだわ」と力説を始める、これにマルティが怒りを露わにしてヘレナを突き飛ばす。これに頭来たヘレナは、持っていたビールをカトリの服に掛ける。「何するんだ、ヘレナ!」またも怒りの声はマルティだ。ヘレナは悪びれる様子はないまま、自分のきれいな刺繍がしてあるハンカチでこぼしたビールを拭くと言い出す。これにカトリは「けっこうよ、ヘレナさん」とキッパリと断る。ヘレナはそれに構わず「こんなきれいな刺繍のハンカチは初めてでしょう?」とハンカチの自慢を続ける。だがカトリはこれまでになかった険しい声で「どこに刺繍がしてあるんですか?」と応戦、「あなたには見えないの? よく見てご覧なさい」と自信たっぷりに返すヘレナに「刺繍なんかしてありません」とキッパリ告げる。それでも「この刺繍が見えないの?」と自信たっぷりのヘレナに、「このハンカチには何処にも刺繍はしてありません。ただのレース編みです、それも機械で編んだ安物です」とカトリはキッパリと真実を突きつける。「何も知らないくせに、口ばかり達者なんだから。そんな嘘を並べても誰もあなたを信用しないわ」とのヘレナの応戦に、「信用しなくても良いわ、でも本当の刺繍というのはこういうのを言うんです」とカトリは自分のハンカチを出す、「これがドロンワーク、人の手で何日も掛けなければできないものです。ヘレンさんのハンカチには一箇所も刺繍がしてあるところはありません」…と語ってハンカチを畳んで片付けるカトリには怒りの表情はなく、落ち着き払っていた。「そんな…そんなバカな…」とカトリのカウンターパンチをもろに喰らったヘレナのショックは大きい。こうなると部屋の子供達から「いい加減にそのハンカチしまいなさい」「みっともないわ」と声が上がる。マリがヘレナにそっと近付いて「あんた、ちょっとやり過ぎだわよ」とジャッジを入れる。ハンカチを床に叩き付けて無言で部屋から出て行くヘレナ、そしてパーティを退席する旨を宣言するカトリ。
今回、カトリがヘレナを完膚なきまでにたたきのめしてしまう。だが仕掛けたのはヘレナであり、ヘレナが墓穴を掘った形だ。立場がどうあれ、カトリがパーティに正式な招待をされていることが解った時点で、この日は自分に勝ち目がないことを気付けなかったヘレナの自業自得と言えばそれまでだが、負けず嫌いでプライドが高い彼女がそれを認められない性格だからこそ、その「今日はカトリに対して勝ち目がない」ことを気付けなかった事を上手く描いている。まずカトリの立場の暴露だが、カトリが美しく着飾っている上にカトリはこの時点で「家畜番」ではなく「家政婦」であり誤った情報であった。ここで辞めておけば良いのに、カトリに何の根拠もない盗みの疑いを掛けてもそれこそ誰も信じない。恐らくヘレナにとって、自分の自慢のハンカチは最終兵器だったはずなのだが、カトリの前ではそれは兵器にすらならず惨敗。主人公に散々意地悪をしてきたとは言え、この結末もちょっとやり過ぎたように感じた。
だがカトリの方も決して争いに勝ったことで喜んではおらず、怒りをこらえて冷静に応戦した上でやはり「自分は気分を害した」ということをキチンとマルティに伝えている。カトリが貧しい家の娘であっても、パーティに席でやって良いことと悪いことがある事を知っている。その上で明らかに「やっては悪いこと」の対処をされたことに対して、自分がどう立ち回るべきかを知っていたはずだ。「やって悪いこと」をされたのは自分とは言え、それによってパーティの席の空気が悪くなり、原因の一人である自分がここにいるべきでないと冷静に判断しているのだ。
だがこのシーンではカトリとヘレナの対決その者も印象的だが、パーティの客としてのカトリの言動も印象に残るところだ。やっぱり賢いんだ、安物のハンカチに騙されるヘレナとは違うってことで。 |
感想 |
今回もカトリとペッカの別れが描かれる。何回目だ? この二人の「別れ」が演じられるのは。だが今回は明確に「これが最後」という描き方をしている。周囲の状況を朝霧に包んでしまって登場人物だけの世界にしてしまい、その上でカトリと別れたペッカが目から汗を流しちゃうもんなー。
そして前半は名台詞欄の要素を引き出すことと、後は今話の本題に繋がるハルマ屋敷のパーティに招待されるまでの話だ。つまり名台詞欄シーンが終われば、もう何も起きないいつもの「牧場の少女カトリ」である。カトリと祖父母との会話もありきたりと言えばありきたりだし…。
そして後半、前話の次回予告で「事件」と「思いがけない人との再会」が示唆されていた。「事件」は名場面欄に書いたように、ヘレナがカトリに喧嘩を売ることで二人の対決が予想通り演じられたと言っていい。問題は「思いがけない人との再会」だ、確かにヘレナの母とアッキが知り合いなのだからアッキが出てきてもおかしくない所だが、彼がこのパーティに出てきてももう今更サプライズ感はない。かといってもうカトリと出会った人でこのようなパーティに出られるような人はネタ切れだと思う。「実はハルマの旦那様とクウセラの奥様は知り合いでしたー」なんて展開も不自然、それがソフィアであっても同じ事だ。
で見ていたら、ハルマ屋敷の旦那様となんか若い女性が会話している。最初は「ああ、新キャラの登場だったんだな、恐らくアッキ(またはソフィア)かロッタの関係者なんだろう」と思って見ていた。いや、マジでそうだと思った。で物語が進み、名場面欄シーンの後でカトリがコケるとその女性がカトリに手を差し出し…「どっかで見たシーンだな」と思ったら、「このまえ逢ったときもあなた転んでいたわね?」とした上で「私、エミリア」と自己紹介、カトリがこの女性を思い出しても嬉しそうしても、見ていた私は「こんなのいたっけ?」…。
カトリがマルティにエミリアのことを説明して、やっと思い出した。24話に出てた看護師ね…って、随分初登場と違わないか? 言われてみれば外見は服装が違うだけであの時の看護師だが、声が全然違うぞ…スタッフロール見たけど、ここまでに山本百合子さんの名前は見ていないので担当声優が変わったのは確かだ。24話の感想欄で「この女性は印象に残らないぞ」と書いたが、その通りになってしまった上に、再登場で「まるで別人」では誰なのか解らないよ…これって、絶対に私だけじゃないと思うんだけどなー。
次話ではカトリはエミリアと一緒にトゥールクへ向かうことに、エミリアも実はアッキの知り合いなんて展開はやめてくれよー。エミリアとアッキやソフィアがカトリを通じて知り合いになるという展開でありますように…。
あと、今話で笑ったのはパーティ衣装を着たカトリを見て、服だけ褒めて中身を褒めないマルティに対して気を悪くするカトリの様子だ。これがペッカだったら、ちゃんとカトリを褒めたと思うぞ。 |