第35話「おかあさんの懐かしい文字」 |
名台詞 |
「待ってくれ、マルコ。実はその、ブエノスへ帰る旅費のことなんだが…。いや、金はあるんだ。かあさんがその手紙に同封しておいたお金を、メレッリはある男に預けてある。今日は間に合わなかったが、明日汽車が発つまでには必ずこの私が…。そうだよ、ブエノス行きは明日発つんだ。わしらが今朝見たあの汽車さ。金は必ずこの私が宿に届ける。あんたは一日も早く、あの汽車でアンナのところへ…。」
(エステロン) |
名台詞度
★★★ |
マルコが駅で出会った浮浪者風の男、エステロン。彼はメレッリを知っているとマルコに語り、そのメレッリは死んだとマルコに告げた。だがエステロンはメレッリの家を調べるから午後3時に逢おうと約束してマルコの前から立ち去る。
そして再びエステロンと会話をした店に来たマルコの元に、一通の手紙が届く。それに従ってやってきたのは。ある牧場の納屋だった。そこでエステロンは母がマルコに宛てた手紙をマルコに渡す。その手紙の内容とエステロンの一言で、母の居場所がわかるという展開を見せた。これを受けて母発見の報せをフィオリーナにしようと飛び出したマルコを、エステロンが止めてこう語るのだ。
いやー、もう古いアニメなのでネタバレさせてしまうが、この台詞にエステロンの正体を暴露する内容が全部詰め込まれている。この前のシーンでエステロンはアンナからピエトロへの手紙を燃やすシーンが流され、続いてアンナの勤め先を「メキーネスさんの家」とあっさりと告げた辺りから、ペッピーノだけでなく視聴者も「なんかおかしいぞ」と感じた事だろう。その上でのこの台詞だ。マルコが何も言ってないのに手紙に仕送りが入っていたことを知っている点、その金をこの男が用意すると言い出す不審さ、そして最後にマルコの母の名を口に出してしまった点。これでエステロンの正体について、多くの視聴者が気付いただろう。
もちろん気付くのは視聴者だけでない、この台詞を横で聞いていたペッピーノもだ。マルコはこのエステロンの台詞がおかしいことに気付かずエステロンに感謝を告げているし、コンチエッタもこのシーンに感動しているだけだ。だがペッピーノは髭を動かしながら「これはおかしい」という表情を繰り返し、帰りの馬車では考え込んでしまう。そう、彼は見破っていたのだ。
このエステロンが我を忘れて自分の正体に繋がる言葉を、不自然さもなくさりげなく口にしてしまうという意味で、上手く言葉を選んだと感心したシーンだ。同時にマルコの「希望」も描かれ、物語は長いトンネルを脱出した。 |
(次点)「マルコ…よかったわね…よかったわね…マルコ!」(フィオリーナ)
…宿に帰ってきて「母発見」を知らせるマルコに、フィオリーナはこう声を掛ける。この台詞のフィオリーナの感情がとてもよく演じられていて、これまでのフィオリーナ最高のシーンだと思った。
この台詞を吐きながらマルコを押し倒すフィオリーナ…う、羨ましすぎる。 |
名場面 |
マルコVSエステロン |
名場面度
★★★ |
傷心のまま街を彷徨い、駅へやってきたマルコはそこでエステロンという男と出会う。エステロンは自分の軽率な行動でマルコに迷惑を掛けたと、マルコを近くの店へ誘って話をする。そこで出てきたマルコの口から出てきた言葉は「メレッリおじさんを捜さないと…」という言葉であった。エステロンが反応しているのに気付かずマルコはなぜメレッリを捜しているかを語る。それを聞いたメレッリは、突然周囲を片付けて「急な用事を思い出した」と席を立つ。だが彼は店の入り口まで行くと振り返って、たった一人でここまで来たのかを問う。頷いたマルコを見届けるとまた帰ろうとするが、再度振り返って「マルコはこれからどうするのか?」と問う。するとマルコは「わかりません」とした上で、こうなったのはメレッリのせいだとし、「散々迷惑駆けた人なんだけど…」と言いかかる。身を乗り出して聞くエステロン、「メレッリおじさんは本当は良い人なんだとみんな言ってました」「もしそうなら僕が来ていると知れば名乗り出てくれると思う」と続ける。エステロンはちょっと表情を変え、「何故バイアブランカにメレッリがいると?」と問うと、マルコはここで目撃情報があったからそれを頼りに来た事を語る。エステロンは一瞬驚くが、すぐ持ち直して「今度こそ失礼するよ」と立ち去ろうとするが…またすぐ立ち止まって振り返る。そして少し悩んだ後、言いにくそうな感じで、「間違いかも知れない」と前置きして「メレッリと同じと思われる人間を…」と言いかかる。そこでマルコは表情を変えて「メレッリおじさんを知っているのですか?」と問い詰める。たじろぐエステロンに「教えて下さい、間違いだって構いません」と食い下がるマルコに、エステロンは少し悩んだ後「気をおとさんで聞いてくれ、その男はもう半月前に死んだよ…」とマルコに告げる、そしてエステロンはその男について語る。「メレッリおじさんが…死んだ…」と呟きながらふらつくマルコに、エステロンはこれまた少し悩んでから、3時まで待ってくれればメレッリの家へ行って、マルコの母さんの手がかりを捜してくると提案するのだ。「本当ですか?」と問うマルコに「ここへもう一度来てくれ」と言い残して、エステロンは店を去る。
説明が長かったが、このマルコとエステロンの会話シーンで、マルコにとっての長いトンネルといえるシーンが終わる。絶望の底にあったマルコはこのエステロンという男から「希望」を見いだすのだ。もちろんこれには「メレッリは死んだ」というマルコにとって最悪の情報も入っていたが、エステロンがメレッリの家を捜索すると提案したことで、とにかく皮一枚で首が繋がった形で物語が展開を始めるのだ。
もちろんこの男は怪しい、怪しすぎる。だがこの怪しい男に、藁にもすがる思いでマルコは食い下がる。どう考えても「メレッリが死んだ」以上は、この男にメレッリの情報提供を託すしかてはないのだ。そのマルコの心境を上手く描き出し、演じられていると感じた。
さらにエステロンの方だ。これは彼の正体を知っていて見ると、ここでの彼の悩みや気持ちが良く描かれている。その正体はやっぱ物語の展開を待つことにして、その彼のリアルな動きこそ、「ただの怪しい男でない」という印象と「確実な情報を持っている」という印象を視聴者に植え付け、物語が進んでいることを印象付けてくるのだ。そういう意味でこのシーンを見た人の多くが「停滞していた物語が進んだ」と感じた事だろう。
|
感想 |
停滞していた物語が動く、バイアブランカへ来て八方ふさがりの状態になってしまい、進むことも退くことも出来なくなってしまったマルコに、マルコの母に関する確かな情報が突然降って湧いてくる。しかもその情報主が前話でマルコから食べ物を奪った浮浪者だから、視聴者は最初信じられなかっただろう。だがそういう信じられないところから話が降って湧いてくるのが、リアルな点でもあると思う。
ペッピーノ一座は相変わらず、マルコが自分達の想像以上に情報収集を進めていたことに気付いてなかったが、今話でその情報のズレも修正される。前半のラストでマルコが「メレッリを見つけた」とペッピーノに打ち明けたことで、一座はマルコが予想以上に探索を進めていたことを初めて知ったのだろう。それまではモレッティに頼るのが一番の近道と信じており、コンチエッタはその考えに従った台詞をフィオリーナに告げる。フィオリーナはマルコの情報収集が一座の想像を超えていたことに気付いていた可能性は高い、前話の名場面シーンでマルコの悩みが「母を捜す」から「何とかして帰る」に変わっていたのに彼女が気付かないはずはない。
そしてペッピーノとコンチエッタがエステロンの元に行くマルコに同行するという設定はこれまた良い。名台詞シーンではこの二人の反応の対比こそが、物語を盛り上げて視聴者を物語に引き込むのだから。
あーあ、いよいよフィオリーナも次話で終わりかぁ。なんか寂しくなるなー。それを理由に考察を途中で止めるようなことは…たぶんしないと思う。
|
研究 |
・バイアブランカ
前々話からの物語の舞台はバイアブランカという街である。ここはアルゼンチンの首都ブエノスアイレスから南へ約600キロ、ブエノスアイレスから弓なりに大西洋へ着き出している海岸線が次に凹んだ場所となる。その湾の奥に街が位置し、バイアブランカとは「白い湾」という意味を持っている。湾奥にあったこともあって古くから港町として栄え、2001年現在の人口は27万人だ。
…って、やはり物語の舞台としてのバイアブランカの考察を期待していた方も多いと思うが、ブエノスアイレス同様に劇中に出てくるバイアブランカは架空の要素が強く、ペッピーノ一座が宿を取った場所、住所がハッキリしているモレッティの家(ラパス通り…ホテルから南へ3丁、そこを右へどんどん行った先のお屋敷街)やドメニコの家(サン・パブロ12番…ホテルから北へ3丁、西へまっすぐ行って橋を渡った向こう)、次話でフィオリーナとの別れを演じる駅の位置すらも確定することが出来なかった。南米は鉄道事情が悪いせいか、ネットで参照できる地図にアルゼンチンの鉄道路線が書かれていないのが痛い。とても痛い。
なお、バイアブランカからブエノスアイレスまでの鉄道路線ルートがわからないので、旅程計算は往路と同じものとする(次話研究欄)。 |