第52話「かあさんとジェノバへ」 |
名台詞 |
「帰ってくるって…マルコは必ず、帰ってくるって。」
(フィオリーナ) |
名台詞度
★★★★★ |
マルコの帰路は母とともの旅であるが、この道中で立ち寄ったブエノスアイレスでバイアブランカを引き揚げてきたペッピーノ一座との再会を果たす。そしてしばしの再会の時を過ごし、マルコを乗せた船がジェノバへ向けて出港する後ろ姿を見送りながら、フィオリーナが笑顔で呟いた台詞がこれだ。
これでマルコとフィオリーナの「別れ」が描かれたのは三度目であるが、この別れは唯一二人が「笑顔で別れた」ものとなった。実はこの事実にマルコの成長が込められている。マルコはここでフィオリーナにだけ自分の将来の「決意」(前話名台詞欄参照)を語っていた。それを受け取ったフィオリーナは瞬時にマルコの決意が本物であると見抜き、この別れは「再会」が約束されているものと悟ったのである。そして大人になったマルコが医師になって戻ってくれば…もちろんフィオリーナはそれについていく決心も出来ている。そんなところまで視聴者が想像できるように上手く考えられたフィオリーナの呟きと、笑顔だ。
これまでの「別れ」はフィオリーナにしてみればマルコとの「再会」がなにひとつ確約されていなかったが、この別れはマルコの側から「再会」の約束が語られたことも彼女の笑顔の裏側にあったはずだ。つまりフィオリーナのマルコへの想いも本物であり、彼女はマルコの「決意」を聞いて惚れ直し、彼女の未来のお婿さんが決まった瞬間でもあろう。
また、この台詞のフィオリーナの笑顔もサイコーだ。
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(次点)「ううん、素晴らしかったんだ、僕の旅。おとうさんが行かせてくれたおかげで。」(マルコ)
…ジェノバに到着し船客の先頭を切って降りてきたマルコに、父は「苦労をかけたね」と声を掛ける。このマルコの返事がこれで、マルコがこの旅を通じて大きな物を得たという自覚と、行かせてくれた父への感謝が上手く述べられている。この台詞でマルコの旅は終わりを告げ、序盤の父との諍いに終止符をも打つことになった。名台詞欄はどっちにするか最後まで悩んだ。 |
名場面 |
旅の終わり |
名場面度
★★★★ |
いよいよ母を連れたマルコはジェノバに戻ってくる。甲板でイタリア人達が騒ぎ出すと前方にジェノバが見えてくる。ジェノバを見てはしゃぐマルコと、安堵の表情を浮かべるアンナ。やがて船が港に着き、タラップが付けられるとマルコは船客の先頭を切って下船し、兄トニオと一緒に出迎えに来ていた父ピエトロに抱き付く。名台詞欄次点のやり取りの後、タラップからアンナが下船してくるのをトニオが見つける。ピエトロがアンナのところに駆け寄ると、夫婦は手を取り合いそして感動の抱擁だ。これを見てトニオが「やったな、マルコ!」とマルコの背中を叩く、マルコにパンチで応え兄に機関士になった祝福の言葉を掛ける。トニオが「医者になるんだって?」と聞くとマルコは頷き、トニオは「お前になれるか?」と冗談でこれに返す。すると物語序盤のような雰囲気で兄弟が追いかけっこを始め。静かに挿入歌が流れ出し、最後にジェノバの街の全景が出てきて物語は幕を閉じる。
このシーンにはマルコが長い旅から戻って来て、また家族が一つに戻ったという安堵感と上手く表現している。特に一家の雰囲気を第1話のピクニックに合わせてあるのが面白い。ぐるーっと長いコースをめぐってまた元に戻ったというこの物語の構図を、最後の最後に上手く印象付けて物語を終えるのだ。
またトニオとアンナの夫婦も、最初に手を握り合うというワンステップを置いてから抱き合うのもらしくていい。最初は子供も見ていると遠慮するが、じきに二人の思いが盛り上がってそんなのはどうでもよくなるという様子が上手く描かれているだろう。絶対にこの日の夜はこの二人、何年かぶりのあんなことやこんなことが待ってるぞ。マルコに弟や妹ができる日も近い…って、最終回の考察に何言ってるんだか。
こうして物語は「一家が元に戻るむという大団円でもって幕を閉じる。文字通りこれは「母をたずねて三千里」のラストシーンであるのだ。
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感想 |
最終回は物語に上手く「オチ」を付けると共に、最後まで残った未回収の伏線をキチンと回収して終わった。その最後に残っていた伏線は27話の名台詞欄等が参照となるが、フィオリーナやコンチエッタがマルコの母捜しを通じて、まるで自分の母を捜しているかのような感情移入をしていた点である。マルコが母と出会うことは自分達が母に出会うことと同じだと感じ、それでマルコの旅を支援してきたのであった。だから当然、コンチエッタはともかくもっともマルコに感じよう移入していたフィオリーナと、アンナの対面というのは無くてはならなかった要素となってくる。これがあった上に最終回でパブロやフアナ、それにマリオなども再登場したことで多くの視聴者がペッピーノ一座との再会を期待したことだろう。そしてその通りになり、フィオリーナはアンナと対面して「おかあさん」と呼んでマルコのように甘える。名場面欄はどっちを取るかで最後まで悩んだし、このシーンと名場面欄シーンのためにこの最終話が設定されたと思っていいだろう。
特に後半でペッピーノ一座だけでなく、旅行中で出会った多くの協力者と再会するから前半の展開を忘れてしまうのがこの最終回の欠点だ。だが前半ではマルコの到着によってアンナとピエトロの音信不通が解除されたことが判明すればそれで良いのだから、あんまり問題ではないのだが…だがマルコが頼まれたメキーネスから夫人への伝言がちゃんと伝わったのか、気になってしょうがない。
いずれにしろ長い物語が終わった。最後にフィオリーナが出てきて最高の笑顔を見せてくれて嬉しかった。フィオリーナはマルコの元に嫁に行くのは確定だろうけど、久々に一人の少女を気にしつつの視聴となったのは私としては珍しい。これに続いて総評だけでなく、リメイク劇場版の考察も少しだがしてみたいと思うので、皆さんにはもう少しマルコとその物語にお付き合い頂きたい。
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研究 |
・帰路
最終回ではマルコがアンナを伴って、今回の旅の行程を逆に辿る。ただしバイアブランカへの往復は省略され、南米からの船便もリオデジャネイロ経由ではなく直通の「ダビンチ号」であった点が違う。旅費はアンナから仕送りとしてロッシ家に送ったが迷子になって戻って来てしまった仕送りを使ったようだ。
まずトゥクマンからコルドバへ、約560キロの汽車の旅。これはブエノスアイレスからバイアブランカへ向かう旅客列車が3日掛かるという24話で語られた設定を元に、2日掛かったと考えよう。前話研究欄で考察した貨物列車より足が遅くなるが、これは一等乗客の食事などで足が鈍っていると考えるべきだ。というのはこの時代の食堂車は食事時間には列車を停止させていたらしいのだ。その最たる理由は食事を車内で作るのでなく、駅など地上設備で作っていたからだ。コルドバでパブロが何でマルコの到着を知っていたのかというツッコミは厳禁、手紙が行ったのではないかと考えるあなたは甘い、パブロは字が読めない設定になっているのだ。
続いてコルドバからロサリオ行きの汽車に乗り換え、約390キロの旅が続く。往路での描写を考えるとコルドバとロサリオを結ぶ列車は1日1本と考えられ、恐らくこの街に泊まったことだろう、だったら宿泊時にパブロの家をゴニョゴニョ…。ロサリオまでは往路と同じく1日で到着できると考えられる。ロサリオでは「イタリアの星」に立ち寄った事が描かれているので、ここでも1泊しているのは確かだろう。
続いてロサリオからブエノスアイレスの川船であるが、帰路ではちゃんとした客船を利用しているので往路に乗った小型貨物船のアンドレアドーリア号より船足は速いと考えられる。この間の350キロを平均時速20キロ程度で航行できれば18時間、途中で寄港地があれば24時間程度といったところだろう。つまり昼に出れば翌日の昼に着き、ここでつごう2日消費したことになる。またブエノスアイレス港でペッピーノ一座と再会したのは昼頃の描写なのでこれとも一致する。
そしてここで何泊したか解らないが、最低1泊したのは間違いない(ただ「ダビンチ号」の運行スケジュールに合わせてトゥクマンを出発しているだろう)。最後に乗ったのはジェノバとブエノスアイレスを結ぶ定期船「ダビンチ号」、この間12400キロの旅路である。「ダビンチ号」が往路にマルコが乗った「フォルゴーレ号」と同じ性能だとすると、この間に25日掛かることになる。12話辺りまでの劇中ではもっと頻繁に運行されているように描かれていたけどな…恐らくこの船会社は「ダビンチ1号」「ダビンチ2号」って形で「ダビンチ号形」として同形船を何隻か持っているに違いない、片道25日なら2隻と予備が1隻あれば1ヶ月1往復だ。これでだいたい劇中の描写と一致してホッと安堵する。
さて、これで出てきた。帰路の旅程は13700キロ(下表ではトゥクマンのメキーネス邸からトゥクマン市街への移動分を加算している)、さらっと描かれたがこれも丸々1ヶ月の大旅行なのだ。まぁ往路のあの旅を考えれば、この復路が苦しみも何にもなくて「オチ」程度でしかないのだが…でもマルコがアンナを連れ帰って家族が一つに戻るという大団円のためには、どうしても必要な旅だったのだ。
・今回の旅程
(トゥクマンのメキーネス邸〜ジェノバ) |
移動距離 |
13710km |
3491里 |
合計(ジェノバから) |
28931km |
7366里 |
・ペッピーノ一座の「その後」
最後に考察したいのは、37話で物語から降板したペッピーノ一座のその後についてだ。この最終回でマルコはブエノスアイレスの港で路上ライヴ中のペッピーノ一座と再会する。ペッピーノはバイアブランカで腰を落ち着け、フィオリーナやジュリエッタに定住する環境を与える決意をしていたが、どうもこれが上手く行かなかったようだ。愛しのフィオリーナたんの将来にも関わることだけでなく、実はこれを考察することでマルコがどれくらいの期間トゥクマンに滞在したかを推測する材料にもなる。だから、これだけはちゃんと考えておきたい。
まぁ、結論だけ言えばのた32話の名台詞欄の通りになっただけなのだろう。バイアブランカという街は一座を暖かくは迎えてはくれなかったのだ。
一座はバイアブランカで、イタリア人有力者のモレッティから劇場を建設しその際には自由に使って良いとのオファーを受けていた。だがこれが破綻したのは間違いないだろう。まぁ34話当たりをじっくり見ていれば解ることだが、モレッティが一座に求めていたのはペッピーノがバルボーサ大牧場でやったことと同じこと、つまりマルコとアメデオの物語を上演して一儲けすることであった。ところがマルコとアメデオがエステロン(メレッリ)と出会ったことでさっさとブエノスアイレスに戻ってしまい、ここでモレッティの態度が一変したのは想像するのは難しくないだろう。さらに最終条件で恐らくペッピーノにはマルコ主役の芝居を上演することを求められたと思われるが、これを娘達に反対されて進退窮まったわけだ。そこで一座はバイアブランカを引き払う決心をしたのだろう。多分ここまではそう日数が経ってなかったであろう事が想像され、この頃にはまだマルコはロサリオに着くかどうかの頃だ。
だがペッピーノの資金も底をついているわけで、そこで鉱山の給料日にまた一大公演を打つことにしたと考えられる。これが当たったことで資金を得て、一座はまた馬車に乗ってブエノスアイレスに戻ったであろう。バイアブランカ出発はマルコと別れて一ヶ月後、マルコがトゥクマンに到着して母と再会した直後辺りに一座はバイアブランカを引き払ったに違いない。
そこから馬車で順調なら20日、恐らくまたあちらこちらで公演しながらの旅だから1ヶ月近く掛かっている事だろう。ペッピーノ一座はブエノスアイレスでフォスコの店にしか頼るところはなかったが、フォスコはペッピーノ一座に一儲けさせてもらった事をちゃんと覚えていたので、フォスコの店を根城に活動することに決めたのだろう。この頃にはマルコと別れてから2ヶ月が過ぎていたはずだ。
マルコがトゥクマンからブエノスまで戻ってくるのに必要な日数は、上記の通り一週間程度だと推測される。マルコはバイアブランカから約1ヶ月弱でトゥクマンに到着しており、アンナが「手術をした」という設定を考えれば彼女は1ヶ月近くは起きることが出来なかったと推測される。またこの間にトゥクマンからジェノバまで、手紙が一往復しているのは確かのようなので、マルコがトゥクマンに2ヶ月程度滞在していたと考えるのが自然だろう。
するとペッピーノはブエノスアイレスに戻ってから、フォスコの店を根城に一ヶ月ほど活動してからマルコに再会したと考えられる。恐らくペッピーノはブエノスアイレスでこれまでにないほどの大当たりを出し、フォスコという仲間にも恵まれたことでここにしっかり根を張って活動することになっていったのだろう。 |