第22章 「香料ちがい」 |
名台詞 |
「ああ、マリラ。私は永久に浮かばれないわ。今度のことはいつまで経っても消えないわ。みんなにも知れるし、アボンリーじゃ何でも人に分かるように出来てるんですもの。ダイアナは私にケーキの出来具合を聞くに決まっているし、そうすれば本当のことを言わないわけに行かないでしょ?
いつまでも痛み止めの塗り薬をケーキの香料に使ったんだって、指さされることになるわ。ああ、マリラ。少しでもクリスチャンらしい哀れみが残っていたら、こんな事の後で食器を洗えなんて言わないでちょうだい。牧師さんと奥さんがお帰りになったら洗うわよ。でも、私はもう二度とミセス・アランにはお目にかかれないわ。もしかしたら、私が奥さんを毒殺しようとしたなんて思うかも知れないし。リンドおばさんが恩人を毒殺しようとした孤児の女の子を知っているっておっしゃっていたもの。でも痛め止めは毒にならないわ。ねぇ、ミセス・アランにそう言って下さい。マリラ。」
(アン) |
名台詞度
★★★ |
香料を間違えた事件が発覚し、泣きながら部屋に飛び込んだアンの台詞。この台詞の何が面白いかって、アンは部屋に入ってきたのがマリラだと思ってしゃべっていたわけだが、実は部屋に入ってきたのがアラン夫人で、アラン夫人がこの台詞をにっこりした表情で全部聞いていた点であろう。ベッドに突っ伏して泣きながら語っていたため、後ろで話を聞いているのがアラン夫人だとも知らずに語り続けたアンに、アラン夫人は「飛び起きてご自分でそうおっしゃったらどうかしら?」と優しく声を掛ける。
アラン夫人はこの事件を「誰でもやりそうなおかしな間違い」とするが、「誰でもやりそうな」はともかく「おかしな間違い」は同意。その上でアラン夫人はアンに気を取り直してもらうよう説得する。アンが夫人のためにケーキを特別美味しく作ろうと頑張った気持ちは通じていた。例え痛み止めの塗り薬を食わされようが、「美味しくてもそうでなくてもあなたの心づくしは嬉しかった」とする。
またこの台詞は、このアボンリーという小さな田舎の村で、こんな失敗をしでかしたらどうなってしまうかという事も綴られている。レイチェル夫人は芸能リポーターおばはんだし、ダイアナが他人事とはいえアンのケーキがアラン夫妻に出されるのを楽しみにしていた。ま、ダイアナのような友ならばアンの失敗を正直に聞かされてもそれを吹聴するとは思えないが。。 |
(次点)「ああダイアナ、妖精を信じることをやめないで。」(アン)
…ドライアドの泉に現れるという妖精ドライアドの話をするアンに、ダイアナは懐疑的な台詞を投げかける。そんなダイアナにアンはこう訴える。だがこの台詞はダイアナだけでなく視聴者に向けているのかも知れない、「想像力を無くしたら人生面白くないし、この物語に付いてこれないよ」と。 |
名場面 |
香料ちがい発覚。 |
名場面度
★★★★★ |
マシュウも出席してお茶会は「婚礼の鐘のように」順調に進み、茶菓子については最後のアンのケーキを残すのみになった。お腹がいっぱいだからと一度は遠慮しようとした夫人に、マリラが「アンが特に奥様のためにとこしらえたもの」と説得すると、夫人はそのケーキを頂くことにした。「まぁ、美味しそうだこと」ケーキにフォークが入る、そして一口目…夫人の表情が歪む。アンは夫人がケーキを食べたことで嬉しい表情を崩さないでいたが、マリラは夫人の表情の変化を見逃さなかった。夫人が二口目を食べるのに続きマリラがケーキを口にする、食べた瞬間にマリラは驚いた表情に変わり「アン・シャーリー!」と声を掛ける。その声に我に返ったアンの後ろで、三口目のケーキに挑もうとする夫人。「いったいケーキの中に何を入れたんだい?」とマリラが聞くと、アンは驚いた表情で作り方の通りだと言う。マリラは三口目を口に入れたばかりの夫人を止め、さらにアンに何の香料を入れたのか問い詰める。「バニラよ」と答えてからケーキを口に運ぶアン、だがケーキが口の中に入った瞬間にアンの表情は驚愕の表情に変わり…そして俯いたかと思うと、「ふくらし粉のせいだ」と力説を始めるアンにマリラはとにかくバニラの瓶を持ってくるように命ずる。瓶に書いてある商標を確認して、「やっぱりバニラよ」と言いながら戻った来たアン。マリラは瓶を受け取ると栓を抜きも、臭いを嗅ぎ…「あらいやだ、あんたはこのケーキの香料に痛み止めの塗り薬を使っちまったんだ」と言うマリラ、驚くアン。マリラは何故バニラの瓶に塗り薬が入ってしまったのかを説明して自分の責任だとした上で、「でもどうして臭いを嗅いでみなかったんだい?」とアンに聞く。アンはもう泣く寸前で「臭いをかげなかったの、だって私、風邪を引いていたんですもの」と叫ぶと遂に泣き出して自分の部屋に走り去ってしまう。無言で見つめ合う残された4人、食べかけのケーキ、この無言の時間が何ても言えない間の悪さを描いている。
前回から「起きるぞ起きるぞ」とずっと視聴者炊き続けていた事件はこれだ。楽しく、しかもアンの憧れの人が来るというお茶の会が、アンの失敗(責任はマリラだが)で台無しになってしまった間の悪さ、そして悲しさが上手に描かれている。その上でこの事件が持つ面白さを描写することを忘れていないという素晴らしいシーンだ。後者から言うと、余程のことが無ければ「バニラを入れるつもりが塗り薬を入れてしまう」なんて事件は例えフィクションでも起きはしないだろう。それが起きてしまったのである。しかもバニラと間違えて入れたのが他の香料ではなく、「塗り薬」という全く関連性のなく間違えようもないものであった点も笑えるところだ。さらに「ケーキ」に何かが起きるとさんざん予測させられた上でのこの出来事に、画面の中がどんなに間が悪く、悲しいシーンでも視聴者は笑うしかない。
そして事件の悲しさと切なさ、このお茶会におけるケーキ作りにアンがどれだけ意気込んでいたかは説明するまでもないだろう。上手くやろうと頑張ったときほど失敗してしまい、その頑張りが全て無になる瞬間というのも上手に再現したと思う。
これらの要素が重なって、感想欄でも述べるが私が本放送時から30年の時を経てハッキリ覚えているシーンの一つとなった。石版事件やダイアナ泥酔事件等に比較すると地味な事件ではあるが、印象に残った人も多いことだろう。
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(次点)マシュウ登場
…アラン夫妻を家に迎えるマリラは、マシュウが身体を壊して出られないと夫妻に告げ、家に入ろうと扉を開けるとそこに正装したマシュウが立っている。それだけだがこの「間」が計算され尽くされていて好きだ。 |
今回の命名 |
新たな命名無し |
感想 |
アンがアラン夫人のために心を込めて作ったケーキに、香料としてバニラを入れたつもりが「バニラの瓶」に入っていた塗り薬を入れてしまう…この「痛み止めの塗り薬入りケーキ」の話は石版事件と泥酔したダイアナと共に、本放送リアルタイムで「赤毛のアン」を見た記憶にハッキリ残っているエピソードだ。特にこの回での記憶は事件が発覚した瞬間のアンとマリラの表情や、台詞のやり取りという細部まで覚えていた回である。アンとマリラが心を込めてアラン夫妻をもてなしたが、アンの失敗でそれが台無しになってしまうという悲しい物語と、アラン夫人の度量で救われるという展開が当時8歳小学3年生の私の脳裏にハッキリ焼き付けられたのである。そのシーンに至る前のダイアナとの会話や、アンが夢の中で「ケーキの鬼」に追われているシーンなども覚えていた。まさに「赤毛のアン」は、世界名作劇場の中でもっとも古い「ストーリーを理解した上での記憶」が残っている作品なのだ。
また今回に限らず、ここまでの物語で「ああ、見た見た」と思ったシーンは数知れない。それはこれから先もたくさん出てくるであろう。
最初の方でケーキが上手に作れるかどうかという不安をダイアナにぶちまけ、ダイアナが「上手く出来る」とアンを励ますシーンがあるが、これは前回から引き続いて「事件の予感」を表現している続きであろう。前回からわき出てきた「事件の予感」だが、前回では「アラン夫妻とのお茶の会で何かが起きる」という漠然としたものであったが、今回に入るとその事件のターゲットが「アンの手作りケーキ」であることをハッキリ示してくる。さらにアンが鼻風邪にかかってしまったことも「事件」の一因であることを予想させられるだろう。そしてケーキ作りのシーンでは不安がりながらも順調に作るが、何を混ぜたかを詳細に映し出すところは何かの意味を感じさせるだろう。勘の良い視聴者ならばケーキは無事焼き上がるが味がおかしいのでではないかと容易に想像できるようになっているのだ。だからこそお茶の会が無意味に盛り上げられ、アンが大げさに緊張するシーンが生きてくる。過去に見たことがあってどうなるか知っているなら、もう笑うしかないだろう。アラン夫人の言うとおり笑って済ませる程度の失敗なのだから。
しかし、↓これ何度見ても強烈だわ。それとアラン夫人に褒められて思わず飛んでしまう(想像の中でだが)アンも強烈。
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