第3話「春のあらし」 |
名台詞 |
「それよりねぇカトリ、僕、本当は嫌なんだ。カトリが僕の家で働くの。だって、君は僕の友達だろ? 友達には僕の家で働いてもらいたくないんだ。どうしても働きたいって言うんなら、他のところで働いてくれないかな?」
(マルティ) |
名台詞度
★★★★ |
嵐でボートが流されてしまい、カトリとマルティは無人島に取り残される。その洞窟で寒さに震えながら、マルティは唐突にカトリにこう告げる。
この台詞は「マルティの家でカトリが働く」ということはどういうことかを上手く示していると思う。つまりカトリはマルティの家の使用人になるわけで、マルティは雇用者の側に立つということだ。
この問題は働く立場のカトリにとってはさしたる問題ではない。だがマルティにとって重要な問題で、二人が雇用側と使用人に分かれるということは「対等の関係でなくなる」ということをマルティはこの歳にして理解しているということだ。マルティはカトリに命令できる立場になり、カトリはそれに従わねばならない立場だ。地域で最も裕福な屋敷に住んでいるマルティは、その関係では真の友情を築く事が出来ないことを幼いながらも見て育っていたのだ。
つまりマルティはカトリが好きになり、これからも対等の関係であり続けたいと考えているわけで、これが痛いほど伝わってくる好印象の台詞である。
もちろん、カトリはこの台詞に困惑する。カトリは賢いのでマルティの気持ちを受け止めたが、それでは自分の家の問題が解決しない事になるからだ。マルティは代案として、家に出入りする人にカトリを雇ってもらえないか聞いてみるというものを提示している。このように代案がすぐに提示できるからこそ、この後のカトリの指摘にあるようにマルティも頭が悪くないのだ。
そして、この台詞はカトリがマルティを心底信用するようになったきっかけであろう。マルティは家の人にカトリを雇うように頼まず、それは約束に反していたが、その本心を知りそれが自分を思ってのことだったことに気付いたのだ。だからこそ、マルティが示した代案を素直に受け入れたのだ。 |
名場面 |
カトリとマルティの救助 |
名場面度
★★ |
無人島で遭難したカトリとマルティの救助作戦、最初にマルティの屋敷であるハルマ邸の召使いがボートで荒れた湖にこぎ出すが、すぐにボートが沈没して泳いで戻るハメになる。続いてカトリの祖父がボートで湖に出る。彼は何とか嵐の湖を漕ぎきり、無人島で助けを待つ二人を救出した。
そして救出した二人をボートに乗せ、湖岸の船着き場へ戻る。二人は並んで座って、膝の上にアベルを載せて何とか暖まろうとしている。「カトリとマルティは無事に助け出されました。でも二人とも風邪を引いてしまいました」とナレーターが解説すると、二人は身体を震わせて、同時にくしゃみをする。膝の上のアベルが驚くと「二人はとても仲良しになったのです」とナレーターが続けると、本話が幕を閉じる。
いやーっ、うまくオチたと思った。無人島での二人の遭難は、二人が苦難を乗り越えただけではなく、名台詞欄の要素があってその友情が深まったという展開であったが、このラストシーンでそれを上手く強調してオチまで付けたと感心した。特にくしゃみのシーンは「二人が同じ困難を乗り越え、同じ苦しみを得た」という事を上手く示唆しており、二人の友情が確かであることをたったあれだけで上手く再現したと思った。
最後まで見ると今話は何も起きない平穏な話なんだけど、二人の友情が深まるという意味で一貫して描かれており、とても印象的だったが、このラストが違ったら印象がかなり変わったものになっただろう。 |
感想 |
無人島、釣り、嵐で遭難、ボート…なんかここまで数年の「世界名作劇場」各作品で印象的に描かれたものばかりで、その集成大みたいな話だったなぁ。無人島はトムソーヤとフローネ、釣りはトムソーヤとフローネとルーシーとアンネット、嵐で遭難はフローネ、ボートはトムソーヤとフローネとルーシー…「ボートで無人島へ渡り、ボートが流されて帰れなくなる」という流れは、まんまトムソーヤだ。さすがに街ではカトリとマルティの葬式を始めたりはしていなかったが。
今話は名台詞欄シーンが全てといって良いだろう。そのためには前半でマルティが「本当にこいつ、大丈夫なんか?」と思わせるボケぶりを演じるのは重要だ、それによってカトリに「信用できない」とまで言われちゃっているし。とにかくマルティがカトリに「働かせてくれ」と頼まれたことを、徹底的にボケまくるからこそ、後半の色んなシーンが活きてくる。名台詞はマルティがボケ続けたのはわざとであり、そこにはキチンとカトリを想う理由があったことを上手く突きつけてきたものであり、カトリがマルティを信じて二人の友情が深まるきっかけとして上手く描かれたと思う。名場面欄シーンは「そういこうなりました」というオチだ。
しかし、登場人物が増えたなぁ。箒を振り回しているだけのマルティの姉を見て、「こんな奴いたっけ?」と思うしかない。ああいうお転婆キャラがカトリにいれば、それなりに印象に残った筈なんだけどなー。牧師さんは「世界名作劇場」シリーズ共通の落ち着いて冷静な牧師さんだ。いずれにしろどのキャラクターもまったりしていて、なんかあの第一次大戦中だということを忘れがちな展開になってきたぞ。
いよいよ次回、カトリの働き口が見つかるのか? |