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第21話 「とどろく滝と鳥女」
名台詞 「ええ、そうよ! 私は11の冬を生きてきたけど、このままじゃ12番目の冬には生命を落とすことになるってね。だけど私、地上に生き残っていたいのよ。そういうことが、あなたには解るかしらね!?」
(ローニャ)
名台詞度
★★★
 クリッペンが説得を諦めて帰った後、ローニャとビルクは言い合いになるが、今回は珍しくビルクに「自分が間違っているのかも知れない」という思いがあり弱気だ。だがそれでも「君がここへ来てから、時々一人で何を考えているのか知っているんだ」とローニャに突きつける。するとローニャが叫び返す台詞がこれである。
 そう、ローニャは家に帰りたいのだ。ビルクはそれを見透かしていたことをローニャに告げたはずだった。だがローニャが家に帰りたい理由としてこの台詞に込めたのは、ただ単に家が恋してとか皆が心配しているとかそういう浅い考えでなかったことがビルクにとっての「予想外」だったはずだ。ローニャはこの台詞を通じて、この生活がいつまでも続くわけがないという「現実」を突きつけてきたのだから。冬になれば厳しい気象環境と食糧の枯渇で生きていけないことはビルクの目にも明かで、ローニャはその時に待っているのは「死」だという一歩踏み込んだ考えを持っていた。その上でそれによって死ぬことは本意でないことを訴え、そのために秋の終わりには帰らなければならない「覚悟」を決めていたはずだ。ローニャの「帰りたい」という気持ちはたとえ建前であったとしても、このような「現実的な問題」に裏打ちされたものなのだ。
 対してビルクはこの台詞に返す言葉がない。驚いた表情でローニャを見つめると、「そんな冬のこと忘れなよ、今は夏なんだよ」と返して問題を先送りするだけであった。
名場面 説得 名場面度
★★
 今話は、前話の続きのシーンとしてクリッペンが「熊の洞」を訪れたシーンから始まる。クリッペンはロヴィスがローニャに作ったパンを届けに来たとするが、パンを渡すと「もう家へ帰らないか?」と切り出す。ローニャの顔は瞬時に曇り14秒間の沈黙を挟むと「このごろマッティス城はどんな具合なの?」と返す。クリッペンは「この頃じゃ城の中は悲しいもんさ」とした上でローニャの肩に手を置き「帰っておいでよ」とする。「それを話すようにって母さんがあなたをここに寄越したの?」と問い返すローニャに、クリッペンは「あんたがいないと辛すぎる」「みんなが帰ってるのを待っている」と返すが、ローニャはマッティスのことを聞く。返す言葉がなくて震えるクリッペンは「何を考えているか解らない」と叫び返す。それでも「いつものあんたらしくしゃべってよ…あの人、私の名前を呼んだこと一度もないの?」とローニャが鋭く聞き返すと、クリッペンはそれを認めた上でマッティスの前でローニャの名前を出すことも出来ないと現状を語る。慌てて口を塞ぐクリッペンと悲しい顔のローニャ。ローニャが「私がマッティスの子供でないうちは帰らない」と宣言すると、クリッペンは頭をかきむしりそれが正論であることを認める。二人のやりとりを影から見守るビルク、ビルクの表情も悲しそうであった。
 ここまでの展開を見ていれば、クリッペンが説得したからと言ってローニャが城に帰る展開になるとは誰も思っていないだろう。だからローニャがどのようにそれをはね除けるかは視聴者の最大の関心事であるはずだ。もちろんクリッペンは彼なりに言葉を尽くしているが、根が正直なせいで言ってはならない余計な情報まで口走っている点が見ていて面白いところだ。だが山賊の他のメンバーであっても、もっとうまくローニャを説得できたとも思えないように微妙に描いてあるのもここでは注目点であろう。でもクリッペンの言葉からは、少なくともロヴィスと山賊達はローニャを心から心配していることは伝わってくる。マッティスがヤケクソになっていることも含めて。
 一方のローニャは、クリッペンの説得からまだ自分が家出してきた時のままであることを知る。だから帰るわけにはいかないという立場を取るのは当然だ。その決意の強さを改めて視聴者と劇中の登場人物に示すことになるだけだ。つまりクリッペンが現れた事で事態はなにひとつ変わらないということだ。
 だがこの説得過程を聞いていたもう一人の人物…ビルクの気持ちがとても微妙に描かれているのがこのシーンの一番の存在理由かも知れない。彼にとってローニャがクリッペンの説得程度で帰らないのは当然だろう。だが何かが面白くない、それはローニャが説得に来たクリッペンを快く出迎えたことかも知れないし、家出して来た城のことを聞き出そうとしていることかも知れないし、自分にはそのような迎えが誰も来ない事実の方に悲しんでいるのかも知れない。いずれにしてもビルクにとってこの使者は「面白くない」ものでしかないことが、うまく描かれた点は感心した。
感想  前話のラストに描かれたクリッペンの来訪は、名場面欄や名台詞欄のような展開を迎えたため、また二人の新婚生活が続く。しかし二人ともすっかり夏色にはまってのものだ。
 前半はとにかく名場面欄や名台詞欄で語ったとおりだ。クリッペンの来訪でローニャが帰宅の説得をされるが、予想通りローニャは帰宅を拒否する。その過程でのビルクの心の揺れを描き出し、名台詞欄までに二人の決定的な考え方の違いを浮き彫りにしてしまう。そしてその問題は棚上げにしたまま後半は別展開という忙しい話だ。
 劇中時間の数ヶ月後に訪れる冬のことは、夏のうちから対策を立てねばならない重要事項だが、ビルクはこれに真っ向から対処しようとせずにその対応から逃げているだけだ。だからローニャには「秋が終わったら帰るしかない」という考えに収束してしまうと言う、この思考の構造というものからも逃げているように描かれている。たとえばビルクが、冬の間の生活について何か具体的なアイデアを示してこれが実行可能と解れば、ローニャの「帰らなければならない」という心境は多少なりとも薄めることは出来たはずだ。ビルクがこの問題解決から逃げる理由は、やっぱりビルクにも帰りたいという気持ちがあるのだと思う。本当にビルクにローニャと共に家を捨てる気があるのなら、秋になったら人里まで行って誰かに保護してもらう等の手段があるはずだ。特に旅人を襲撃する山賊の子供だと解れば、村の人々からは絶対に返してもらえないことも解っているはずだ。ただ山賊をおびき寄せるための餌として使われる可能性はあるため、平和な暮らしにはならないだろうが。
 そして後半は、前話から出てきたあの滝と鳥女を巡る展開だ。こちらは「事件」のきっかけが描かれただけで、事件そのものは次話に回された形で今回はあまり見るべきところはない。だが今回ハッキリしたのは、鳥女は群れをなして生活をしているあろうことだ。今まで出てきた個体とは明らかに違う、毛の色が違う鳥女とかも出てきたし…やっぱりああいう姿形していても、あのうちの何羽かは雄なんだろう。
 二人は住んでいる「熊の洞」が鳥女に知られていない事を安堵するが、そういう問題ではないと思うぞ。クリッペンが探し当てたということは、少なくともマッティス山賊側は二人の居場所を掴んだわけだ。まだ誰かが説得に来るかも知れない、いや説得などどいう甘い言葉で済むものではなく無理矢理連れ戻しに来るかも知れない。二人は鳥女に見つかっていないこととは無関係に、住処を移すべきだと思うんだよなぁ。

第22話 「これかぎりの夏」
名台詞 「いいえ、私はきっと戻らないわ。その人がちゃんと戻って欲しいって頼まなきゃいけないのよ…ええ、そうしなきゃ行けないんだわ」
(ロヴィス)
名台詞度
★★★★
 詳しくは名台詞欄を参照して欲しいが、ローニャを連れ戻しに来たはずのロヴィスがローニャの問いに対して、現在のローニャの状況を自分に置き換えた場合の思いを語る。この思考を通じてロヴィスはローニャの家出の理由と、なぜ戻れないかを知ることになる。それはロヴィス自身がローニャの立場なら、やはりマッティスが頭を下げなきゃ帰らないであろう事実を思い知ったからだ。
 また、この台詞を語るときのロヴィスが険しい表情になっているのは、これはマッティスに対する怒りだろう。娘を傷つけ家出にまで追い込み、その現実から逃げているマッティスに「自分がやるべきことをさせる」という決意も表れているだろう。ロヴィスの性格がうまく出ていてとても印象に残った。
名場面 母の迎え 名場面度
★★★★
 ローニャとビルクが滝で鳥女に襲われた夕方、「熊の洞」に帰ってくるとロヴィスが来訪していることを知る。ビルクはローニャを連れ戻す迎えが来たことで不機嫌になるが、ローニャは母にすがって泣く。ロヴィスはなぜ自分がここへ来たかをローニャに確認するが、ローニャはそれが解っていない返答を返す。そして「二度と家に帰らないわ」と宣言するが、ロヴィスは「マッティスが川に飛び込むことになる」としてマッティスが寝ているときにローニャの名を呼びながらうなされている事や、マッティスがロヴィスのベッドで寝ていることを語る。そして「一番酷いときは誰かが支えにならないと行けない」と自分の役割を語り、「滅茶苦茶に自分をいじめている人を見るのは辛いもの」とする。ローニャはこれに驚くが、「自分がもし子供で倒産に酷く突き放されて名前すら呼んでもらえなかったとしたら、それでもその父さんのところへ戻って行く? もしその父さんが戻って欲しいと頼みに来なくても?」と問う。このロヴィスの返答は「(名台詞欄の台詞)」である。ローニャは「マッティスはそんなこと言いっこないんだわ」と叫び返し、また泣く。険しい表情で娘が泣く姿を見守るロヴィス、体育座りでふさぎ込むビルク。
 ローニャの説得にロヴィスが直接乗り込んでくるという重大局面を迎えた。もちろんこのシーンの最初の方で語られたとおり、ロヴィスの目的はローニャを連れ帰ることにあったはずだ。ロヴィスはマッティスのプライバシーに関わる部分もお構いなしに、マッティスの現状やこれに対する自分の対処を正直に話す。だが二人の会話が進むとロヴィスローニャがなぜ家出したかという理由を知ることになる。それはローニャが父親が大好きだが、その父親に裏切られたこと、それによって父に突き放されたことが理由であるという視聴者が既に認識済みの事実だ。自分を受け入れてくれない、たとえそれが形だけであってもそんな親の元に帰るわけに行かないというローニャの強い思いをロヴィスは見ることになった。
 だがらこのシーンのロヴィスは途中で考えが変わる。目的が「ローニャを連れ帰る」から「ローニャを理解し、ローニャが家に帰るようにするには自分が一人で帰った後どうすべきかを知る」ことに変わる。それが名台詞欄に記した台詞だ。ローニャを家に連れ返すには他の誰でもない、マッティスがここへ来なければならない。それも帰るように「説得」するのでなく「お願い」しなければならない、マッティスはローニャの親友に酷いことをして心を傷つけたことを謝罪させねばならない、そんなロヴィスの心の変化が上手く描かれている。
 そして次のシーンでは夜のシーンが描かれ、ロヴィスはローニャに遠回しに「自分は一人で帰る」旨を伝えることになるのだ。
感想  鳥女襲撃(その2)というピンチで前話が終わるが、これは確かに生命を賭したピンチであったが意外にあっさりと終わる。だがこの2話にまたがるピンチがあっけなく終わってしまった以上、その裏側にはさらなる一大転機が描かれるのはおやくそくだ。私は前半の前半分も使わないうちに鳥女襲撃が解決したとき、今話の主題はこの後に重大事件として描かれるであろうことは予測できた。ただそれが今話の終わりでなく前半の後ろ半分という早い段階で来たのは驚いたが…この鳥女襲撃というピンチは「小公女セーラ」「母をたずねて三千里」のこれらのシーン(リンク先の名場面欄参照)と同じ役割を持っていたわけだ。多分これがリアルタイム視聴でなく、ある程度展開を知っている過去作品視聴であったら前話の名場面欄は「次回予告」になったはずだ。
 その一大転機とは、名場面欄に記したロヴィスの来訪である。やはりローニャとビルクはクリッペンの来訪を受けた段階で、住処を他へ移す必要があったのだ。だが名場面欄に記したとおり、ロヴィスはローニャの気持ちを理解して連れ戻すことなく立ち去る。この過程で出てくる名台詞欄シーンの次、夜の子守歌のシーンも印象的だったなぁ。
 そのロヴィス来訪の過程で、「ローニャの母とビルクの母の違い」というのも明確にされるから面白い。ロヴィスの来訪を受けてローニャとビルクが短くやり合うが、その中にビルクの母のキャラクターが上手く表現されているから面白い。もしこの時に迎えに来たのがロヴィスでなくウンディスだったら…多分息子の言い分や気持ちに理解を示さず無理矢理連れ帰っただろうという展開が誰でも想像できるように描いてある。その場合、駆け落ちを示唆したのはローニャだと決めつける点も含めて。
 続いてビルクが相変わらず「やがて冬が来る」という現実から逃避するシーンが「おやくそく」のように描かれるが、ここでビルクが冬になったら「ローニャは一人で城に戻り、自分は一人でここに残る」「ここで凍え死ぬのは自分一人だけだ」と一歩踏み込んだ台詞を語るが、これで問題解決になっていないのは誰の目にも明かだ。次回予告によるとその解決はどうも次回のようだ。
 だがその過程で、ビルクがローニャに迎えが来たときの悲しみを語るのも上手い。ビルクは自分には迎えが全く来ないことが不満なのはよく見える。だからこそローニャが迎えに来たときのローニャの反応に、彼はいちいち心を痛めることになるのだ。
 そして後半は、またいつもの「物語が進まない展開」だ。キノコ狩りから始まって、馬に乗って木に登り…だがローニャがこの夏の思い出を大きさを語ることや、秋の訪れが冬の匂いが漂い始めたことまで示唆している。その中で「地下のものたち」再登場、ローニャが過去にこいつに連れ去られそうになったことを忘れている点は意外だった。そして「地下のものたち」はこの世界では「秋の風物詩」だったなんて…。

第23話「命はむだにできない」
名台詞 「君の生命を無駄にしたくないよ。ぼくのきょうだい。それは僕の一番したくないことだ。君の行くところなら、僕は何処へでもついていくよ。ああ、もしも僕がマッティス山賊たちのところで暮らさなきゃならなくなって、それで息が止まることになろうともね。」
(ビルク)
名台詞度
★★★★
 詳しくは名場面欄を参照して戴きたいが、ビルクがローニャとの二人きりの生活に終止符を打った重大な台詞であり、これはそのままローニャに愛の告白といっても良いだろう。
 そう、ビルクはローニャが大好きなのだ。だからこそ自分の家出にローニャが加わると言ってもそれを拒否しなかったし、二人だけの生活を心の底から喜んだ。そして厳しい現実から逃避して無理にでも二人の生活を続けようとし、いよいよそれがダメならローニャ一人だけを帰らせようとした。だがローニャにはそれで済まされない気持ちがあり、それを知ったビルクの口から出てきた「ローニャへの素直な気持ち」がこれであろう。
 そう、好きな子となら何処へだっていける、ビルクのそんな思いが上手く表れているのだ。本当はマッティスに「家に来い」と言われたとき、彼はその言葉に乗りたかったはずだ。そんなビルクの気持ちをローニャの「ビルクが残るなら自分も残る」という思いによって素直に吐き出された。そんな二人の構図を上手く再現したといって良いだろう。
名場面 ローニャとビルクが二人きりで語り合う 名場面度
★★★★★
 秋の日、水汲みに森へ行ったローニャの前にマッティスが現れる。そしてローニャに城に戻るように頼むが、ローニャは答えに窮する。そこにはローニャを追ってきたビルクの姿があったからだ。マッティスはローニャとビルクの関係を理解した上で、ビルクもローニャと共にマッティス城に来るように提案する。だがビルクはその提案を受け入れるはずがなく、マッティスに悪態をつく。これを見たローニャが「ビルクと二人きりで話をしなければならない」と訴え、マッティスが席を外すところからが今回の名場面だ。
 「マッティスは僕をぶたれ役の子供にでもするのかな? そんなの絶対になるものか!」と棘の口調で叫ぶビルクに、「あなたは熊の洞で凍え死ぬ方が良いっていうの?」と問い返すローニャ。続けてローニャは生命の大切さを説き、熊の洞に残ることは自分の生命だけでなく自分の生命をも無駄にする行為だと説く。これに「どうしてそんなことを言うんだ? どうして僕が君の生命を無駄に捨てなきゃならないんだ?」と絶叫で返すビルクに、「だって、あなたが熊の洞に残るなら私も一緒に残るからよ」とローニャが力強く返し、「この分からず屋!」と叫んでビルクの頬を殴る。「あなたがそうしたくても、嫌でもね」とローニャは続けているが、この一発でビルクは目が覚めたようだ。殴られた頬に手を当てながらローニャの方へ視線を移すビルクの表情は、怒りの表情は消えていた。「君、自分が今何を言っているのかわかているのかい?」と静かに問うビルクに、「解ってるわよ、私たちを別れさせるものは何もないってことにね。それにあなたもそれは知っているはずなのに…この分からず屋!」とローニャは叫び返す。するとビルクに笑顔が戻り「(名台詞欄の台詞)」と優しくローニャに語りかける。ローニャはここで満面の笑みを浮かべ、ビルクに抱きついて「私、あなたが大好きよ。ビルク・ボルカソン!」と語る。これを優しく受け止めるビルク。
 解説が長くなったが、このシーンは17話から続いてきた二人の新婚生活に幕を引くシーンであったことは確かだ。これを簡単に解決させず、ローニャとビルクの複雑な心境をあぶり出しながら丸く収まるよう、上手い具合に二人の「思い」を吐露させているという点でといも印象的なシーンとなった。
 もちろん、マッティスがやっとローニャを迎えに来たことはローニャにとって嬉しいことだったに違いない。だがそれはここでのビルクとの生活の終わりを告げるものであり、かつビルクを放って家に帰れないというローニャの心境、そしてそれがお見通しのマッティスの気持ちをもうまく描き出した。
 対するビルクは、ローニャに何度も迎えが来ていることが気に入らなかったと思うし、なによりもこの生活を終わりにして帰宅する決心もつかないままだ。ましてや自分を酷い目に遭わせたマッティス山賊の元に行きたくないのは当然だろう。
 だがここはローニャの「ビルクと一緒にいたい」という思いが全てを上回った。例えマッティスが迎えに来るという「家出終了のきっかけ」があったにしても、ビルクがここに残るなら自分も残るという思いをキチンと表明し、その結末として待っているものは二人がこの世の者でなくなるという「現実」。それをしてもローニャはビルクを放っておけないと訴え、そこにどんな思いがあるか気付かないビルクを殴ることでビルクの目を覚まさせた。このローニャの本気度がビルクの目を覚ますに説得力があるものとなった。
 そしてローニャの思いを知ったビルクは「いつものビルク」に何話かぶりに戻り、ローニャに改めて愛の告白、ローニャもこれに「大好き!」と答えたことで、この家出劇に見事オチがついたといって良いだろう。
感想  予告編では秋が深まりが予告され、マッティスの再登場が示唆されていた。これでローニャに「家出終了のきっかけ」が訪れたこととになり、これに対するマッティスの対応とビルクの反応をするかは今回の見所であっただろう。まさかマッティスがビルクを受け入れるとはなぁ。
 しかし、前回ロヴィスがローニャの説得に現れてから劇中時間で2ヶ月くらい、この間にマッティスに色々葛藤があったんだろうな。娘に頭を下げられないとか…でも結局は、ロヴィスに押し切られたのだろう。名場面欄のローニャとビルクのような出来事がマッティスとロヴィスの間にもあって、マッティスの目が覚めたという想像が出来る物語だ。
 そしてこの「家出生活」の終わりに前半を費やし、後半で何かが起きるように見せかけておいて何も起きない。ビルクも帰宅すれば両親が素直に受け止めたため、マッティス城で暮らすことはなさそうだ。こうして後半は、「何も起きない」話となってしまいちょっと拍子抜け。
 そして次回、何がどうなってマッティスとボルカが決闘することになるのか。これは楽しみだ。ひょっとしてこの家出について互いに相手の子供がけしかけたとか言い合うのか、それともペールが言うようにマッティス山賊とボルカ山賊の合併話が現実になるのだろうか。よく考えればあの森に山賊が2族もいるのはちょっと無理があるような気がする。
 そして残りはあと3話、どういう風に物語が結末を迎えるのかも見所になってきたぞ。

第24話「決闘の朝」
名台詞 「私、一番抜け目なくて利口なのは、山賊を辞めることだと思うわ。私、いつも、ずうっと、そう思っていたの。」
(ローニャ)
名台詞度
★★★
 マッティス城の夜の宴で、活動が活発になった代官の兵隊対策としてペールの口から出てきた提案は、マッティス山賊とボルカ山賊を統合して「ひとつの強い山賊団」となって兵隊と対峙するというものであった。その提案に対して「そのひとつの強い山賊の頭っていうのは、一体誰だ?」と問うた上で自分こそがそれに相応しいと力説するマッティスに、ペールはマッティスにボルカとの決闘をけしかける。そして決闘に勝ったマッティスが強い山賊団をまとめ上げ、兵隊達と対峙する方法を語る。これに「そいつは抜け目のないことだ」とマッティスが答えると、端でこのやりとりを黙って聞いていたローニャが立ち上がって、このように言うのだ。
 実はこのローニャの提案こそが、兵隊の活動活発化に対してマッティス山賊が取る最適解であるのだ。いまここで山賊を辞めてしまえば、兵隊達がマッティス達を排除する理由すら消えてしまうのである。同時にこうすることでボルカとの対決構造も消え失せ、ローニャとビルクは平和に仲良く暮らすことも出来るようになる。これはローニャが山賊のファミリーを乗り越え、ビルクと付き合っているだけでなく共同生活をしてきたから出てくる答えでもあり、ローニャが求めている「ビルクと平和に暮らすための未来」でもあろう。恐らく、このマッティスとボルカの対立構造が消え、ローニャとビルクの未来が約束されることが本作の結論であり、物語が目指す結末なのだと思われる。
 このローニャの台詞を聞いたマッティスや山賊達は驚く、だがペールは笑っていて、ロヴィスは微笑んでいる。これを聞いたペールの笑顔の理由は物語を追って行くと明らかになるし、ロヴィスはローニャとビルクの関係をよく見ているからローニャが出す当然の提案としてみているのだろう。そして実は、物語を追うとマッティスもこのローニャの言葉こそが最適解だと解っている事も判明する。だがマッティスは山賊として生きて行くこと以外の道を知らない人間だということも解ってくる。これらの思いをどうまとめて物語を決着に持ち込んで行くのか、このローニャの台詞は「その物語の終わり」を最初に思い起こさせる台詞であることは明白だ。
名場面 マッティスvsボルカ 名場面度
★★★★
 ある日のこと、「仕事」に出かける準備をしていたマッティスをボルカが呼び出す。ボルカは「手下二人を代官の牢屋穴から救い出した謝礼」として、今日は代官の兵隊が待ち伏せしているから山賊仕事は中止すべきと進言する。これを聞いたマッティスはボルカの前へ向かって歩きながら「どうやら俺たち、兵隊共にお行儀ってもんを教えてやらねばならないようだな」と語る。だがマッティスがボルカの前にたどり着くとボルカをまじまじと見つめながら「俺たち…?」と呟く。「何だよ、気持ち悪い」と返すボルカに、マッティスはため息をついて「俺たち、もしかしたらひとつになるのがいいかも知れないな」とペールから提案されている統合話を持ちかける。「お前、初めて利口なことを言ったもんだぜ」とボルカは感激した口調で返すと、ひとつの強い山賊団にはひとつの強い頭が必要でその適任者を知っていて、「そいつは俺だ」と力説する。だがマッティスがこれに高笑いで返すと自分もその頭に相応しい人間を知っていると語り、「そとつは俺だ」と力説する。ここで画面は次シーンへ切り替わる。
 物語が結末へ向けて大きく動き出す。前話でマッティスの口から「ペールがそう言っている」程度で出てきた「マッティス山賊とボルカ山賊の統合」という話は、今話の名台詞欄シーンでさらに強い提案として明確に浮かび上がってきた。そして名台詞による補強は、これこそが物語が結末へ向かう最大要素であることが示唆されたと言っていいだろう。こうなるとこの「統合話」は、何らかのきっかけでボルカ側にも提案されないと話が進まないことが見ている方にも解ってくるだろう。その「統合話」がボルカ側に伝わると共に、その方針が具体化して次の「決闘」へ話を進めたシーンがここといってよい。つまり物語は、このシーンをきっかけに本格的に結末へ向けて舵を切り、物語が結末を迎える前のクライマックスへと一気に突き進み始めたわけだ。
 前述したように、ペールの提案である「山賊の統合」の話がボルカにも伝わらないと話が進まなくなったわけだが、これを解決するためにペリエとボルカの手下二人が兵隊に逮捕されて同じ牢獄に閉じ込められたという設定を伏線としてうまく活用した。ペリエらがマッティスによって助けられたことで兵隊の活動が活発化するという展開が自然なものとなり「兵隊が待ち伏せしている」という展開に唐突感を与えなかっただけでない、ペリエと共にボルカの手下を救出したことでこの事実をボルカが伝えに来るということで、ペールの提案がボルカにも伝わるよう上手く話を作ったのだ。同時にボルカも「兵隊と対峙するためには山賊の統合は回避できない」と考えていたと言うことも、話を円滑に回した一因である。
 そして統合提案がボルカに伝わった瞬間から、潔く話は次へ向かっているのである。それこそがマッティスとボルカか互いに、「ひとつになった強い山賊の頭は自分だ」と言い張ったことである。そしてそこでこのシーンを突然切ってしまったことがこのシーンを印象付けたといって良い。二人の性格を考えれば「ではあなたがどうぞ」と譲り合うはずはなく、ここでの会話を続けても冗長になり白けるだけである。二人が項言い張れば決闘になるしかないのは誰の目にも明かで、無駄なことを省いて次のシーンへと急いだのは正解だ。
 さぁ、いよいよ物語はクライマックスへ。本作の設定がハッキリしたときから避けられないと解っていた「マッティスとボルカの決闘」というクライマックスへと突入して行くのだ。
感想  ローニャの「家出編」と言うか、ローニャとビルクの「新婚生活編」というか、とにかく森の中でローニャとビルクが生活する展開は前回で一区切り付き、今回からは新展開というかいよいよ物語が結末へ向かって本格的に動く。今話では冒頭のナレーション解説以外は、前話までの「家出」の余韻はほぼ引っ張らない。「ほぼ」としたのは前半にワンシーンだけ余韻を入れたからだ。最初の解説が済むと、早くも牢獄に入れられたペリエとボルカの手下達がマッティスによって救出されるシーンとなる。そしてそれを通じて何が起きたかをローニャがビルクとの会話を通じて解説するという形で「家出編」の未練を完全に断ち切ったように見せかけつつも、家出していた頃の話に少しだけ引き戻すという進め方は今話で感心した点の一つだ。もちろん、前話までの「家出」の話を引っ張るのも良くないが、何も語らないと「そりゃないよ」って感じにもなる。その辺りのさじ加減が上手く出来ていると本当に感心した。
 そして名台詞欄シーン、名場面欄シーンと物語が進む。ここで語られるのは詰まるところは「マッティス山賊とボルカ山賊の未来」だ。このふたつの山賊が対立していれば、森で活動を活発化している兵隊達にみんな捕まってしまうという劇中のマッティスらの問題としてだけでなく、ローニャとビルクの物語としての本作の結末にも関わってくることだ。二人のハッピーエンドは対立する二つの山賊の対立関係が解消することであり、物語はペールが「マッティス山賊とボルカ山賊の統合」という提案を出したことで確実に対立関係解消へ向けて動き出している。名台詞ではその方向性を確固たるものとし、名場面欄シーンではそこへ向けて物語が具体的に動き出すという、二段階のステップを踏んで物語が結末へ向けて舵を切ったわけだ。
 そしていよいよやってきたマッティスとボルカの決闘の日、今話はこの決闘のゴングが鳴るところで終わったのも評価したい。これが決闘に首を突っ込んで終わっていれば、視聴者はなんとも気持ち悪い思いをしたことだろう。古今東西、決闘というのはこのタイミングで話を切るのが多いし、それが正解だ。
 しかし、マッティス城を自由に歩き回るビルクに慣れない一話だったなー。マッティスに捕まって吊されて牢屋に放り込まれていたビルクがウソのようだ…ま、そのマッティスの変化もこの物語のみどころの一つなのだが。
 いよいよ次回はクライマックスだ、残り放映回数2回でやってきたマッティスとボルカの決闘、これがクライマックスでない訳はないだろう。もちろん、何らかの形でこの決闘にローニャとビルクが加わるわけだ。次回が楽しみだなぁ。

第25話「ひとつの強い山賊団」
名台詞 「兄弟のボルカよ、これから俺たちは兄弟だ。あんたは頭という名前と名誉をこれから一生持ち続けるし、あんたの子分達も今まで通りでいい。だが忘れるなよ、この俺、マッティスはあらゆる山や森のうちでも一番に勢力がある山賊の頭なんだ。これからは俺の言葉が、あんたの言葉よりも大事なものになる。わかってるな!」
(マッティス)
名台詞度
★★★★★
 詳しくは名場面欄を参照して戴きたいが、マッティスとボルカの決闘に決着がついたときにマッティスがボルカとその手下達に向けて「勝利宣言」として語った台詞がこれだ。
 マッティスがこの決闘の勝者としてとても相応しい台詞を吐いたと思う。決闘の目的が「山賊の統合に当たり、どちらが統合した山賊の頭に君臨するか」を決めると言うものであり、これを自然に受け取れば勝った山賊は負けた山賊を乗っ取る形で合併するという方針と言うことになる。
 だがマッティスのこの言葉はそれと違うことが解る。彼は自分が勝ったことでボルカ山賊を我が物にしようとしたわけではなく、ボルカ山賊を独立した山賊として存続することを認めた上で、ボルカがマッティスの傘下に入り共に生きるという形を取ったのだ。ボルカに言わせれば独立性を維持できないことは、ボルカ自身の立場上の問題だけでなく手下の山賊達の士気に関わることだ。ボルカの手下達の士気が崩れれば、日に日に活動を活発にして行く兵隊達との戦いだって上手く行かない。
 だがマッティスの思いはそれだけでない。彼はローニャのことで悩み苦しんだことで優しさを獲得していたのだ。だからこそ問題があるときは自分が上だという「組織運営上どうしても必要なこと」はハッキリさせた上で、後は対等という道を選んだのだと思う。そして今、マッティスはボルカとの関係を強固にしておかないと、ローニャが山賊を継がないことはハッキリしているマッティス山賊はゆくゆくは消えてしまう。その時にはボルカの時代が来ることも計算に入れていたことは物語後半で判明して行く。
 色々書いたが、何よりもこの台詞にはマッティスの成長とかっこよさの両方が出ていて、とても印象に残ったということだ。
名場面 決着 名場面度
★★★★★
 マッティス山賊とボルカ山賊の統合に向け、「どちらが頭になるか」を決めるためのマッティスとボルカの決闘は「けだもの試合」という決闘法であった。二人の戦いは膠着状態であったが、一度はボルカのアッパーパンチが決まってマッティスがリング外に倒れる。だがペールが試合終了のゴングを鳴らそうとしたクノータスを制したことと、ボルカがカウントを取るフョーソクを制して「こんなんで終わりだなんて言ってくれるなよ」とマッティスに向かって叫んだことで試合続行となる。ボルカに胸ぐらを掴まれたまま立ち上がるマッティスは「もちろんだぜ」と返すと、手下の山賊達から歓声が上がる。城の見張りをサボって駆けつけたチョルムのシーンを挟んで、二人の殴り合いの大喧嘩が続く。だが殴り合いの中でマッティスがボルカに飛びつき、肩を押さえて馬乗りになる。必死に抵抗しようとするボルカの身体はみるみる動きが弱り、やがて力尽きる。マッティスの手下達が歓声を上げるとマッティスは立ち上がり「(名台詞欄の台詞)」と勝利の宣言をする。ボルカが頷くとマッティスはボルカに手を差し出し、ボルカはその手を掴んでしっかりと立ち上がる。そしてマッティスとボルカはしっかりと抱き合い、山賊達は「一つの強い山賊団」が出来上がった喜びに歓声を上げる。
 凄い戦いだった。このマッティスとボルカの戦いが本作のハイライトであり、最大の見どころだったはずだ。これは序盤でマッティスとボルカの対立構造が明確になってから、本作で運命づけられた展開だったといって良いだろう。とにかく何らかの形で二人が決闘することで、二つの山賊間にある対立を解消しないことには氏湯人口であるローニャとビルクにハッピーエンドが回ってこない。この物語の構図の上で本シーンがハイライトであることは確かだ。
 そしてそのハイライトシーンはそれに恥じないほどの大迫力シーンとして描かれた。「けだもの試合」という「1対1なら何をしても良いが、股間を蹴り上げることだけは反則」という決闘方法も凄いが、そのルールの上でマッティスとボルカが手加減なしのガチな戦いを見せてくれるところは痛快だ。暴力絶対反対の現代の風潮に呑まれることはなく、戦っている二人と、応援がエスカレートして喧嘩をしてしまった手下の山賊達、青あざや腫れ上がった顔をキチンと再現し、同時にマッティスとボルカについてはその外観のダメージに応じた疲弊までキチンと描いている。同時に二人の「自分こそがナンバーワン」というプライドと、その意地もキチンと描き、さらにだまし合いなど小汚い手段まで使っている点も包み隠さずシーンに取り込んだことで、この二人らしい戦いになった。だからこそ迫力があるし、私は本作で最も印象的なシーンになったと思う。
 もちろん、主役がローニャである以上は勝つのがマッティスであるという展開は予想通りだ。そしてローニャによって悩み苦しんで「優しさ」を獲得したマッティスは、ボルカを傘下にしつつも共に生きる道を選んだ点も注目される(名台詞欄参照)。つまりこの決闘の結果を持って物語はひとつの結論を見せ、後はローニャとビルクが幸せになる大団円を待つだけとなったのだ。
感想  名場面欄にも書いたが、凄い決闘だった。あまりの迫力で手に汗を握り、前半がとても長く感じられた。これは悪い意味で長く感じたのでなく、自分がこの戦いの迫力に物語に引き込まれたからこそだと思う。
 またこのような決闘シーンは延々と見せられると疲れるという点も考慮されていて、適当なタイミングで「見張りのために留守番させられているチョルム」や、「街道を行く商人や兵隊達」の様子が割り込むようになっている。その割り込みのタイミングも割り込んでくる時間の長さも、戦いばかり見せられて疲れてくる頃合いを見計らって、かつ本筋の無関係な者を長々と見せられていると感じない範囲で上手くコントロールされている。さらに言うとここで割り込んでくる別シーンがローニャやビルクやロヴィスでない点は、視聴者を決闘に集中させるという点でこれまた評価が高い。おかげで今回は主人公であるはずのローニャが殆ど出でてこないし(前半は全く出てこない)、主人公が活躍するシーンがほぼ皆無というとんでもない展開となった。こうして主人公不在で本作最大のハイライトシーンを演じちゃったんだから、凄い物語と言わざるを得ない。
 そして後半は、決闘を通じて和解したマッティス山賊とボルカ山賊の融合と、ふたつの山賊の「これから」が語られる。マッティスはローニャが後を継がないことは織り込み済みであったが、今回はなんとビルクまでもが「山賊は継がない」と宣言して親を驚かせる。これに「子供の考えには慣れるしかない」とマッティスがボルカに語るのは面白かった。さらにその背景で、女二人で静かに盛り上がっているロヴィスとウンディスという組み合わせは珍しくて良かった。
 そして今後この山賊をどうするか、ペールがボルカに語るシーンがラストに加わる。その内容については視聴者にも聞こえないように語られていたが…これはペールの「死亡フラグ」じゃないかな? 本作は「この話で誰が死ぬんだ?」的に進んでいたが、やはり誰かの生命が主人公に貴重な教訓を与える展開があるのだろう。
 いよいよ次は最終回、どんな終わり方をするのかなぁ?

第26話「春の叫び
名台詞 「けれど冬は過ぎ、そして春が来ました。それは誰が生きていても、死んでも、いつでもそうなるのです。マッティスは前よりも陽気になりました。それはいつの春にもそうなるのです。」
(ナレーター)
名台詞度
★★
 劇中に3度目の春が訪れる。初冬にペールの死が演じられ、冬の間ずっとマッティスがその悲しみに暮れていた事を示唆するシーンの直後、春の景色を背景にナレーターかこのように解説をする。その解説と並行して、すっかり元気を取り戻したマッティスの様子と、それを見つめるローニャの姿が流される。
 本作でひとつ一貫していることは、「春」という季節のすばらしさと開放感と安堵感であろう。寒くて辛い冬が過ぎた後の春という季節は、人々を明るくする季節であることは私が説明するまでもないことだ。その春の訪れを上手く解説するだけでなく、ここではマッティスやローニャにあった「時の流れ」というものを上手く織り込んで解説している。この春は劇中のマッティスやローニャにとって初めての春ではない、大事な仲間であり人生の師であったペールを喪って最初の春だ。その悲しみを癒やすにはただ春が訪れれば良いのではなく、「時の流れ」が必要だ。その「時の流れ」というのを上手く表現した解説だと感心して聞いてしまった。
 また誰が死んでも時の流れは変わらないという論理も、この台詞に込められているだろう。時の流れの前に人間の存在は小さく、だからこそ大事な人を喪った程度では挫けてはならない。そんな思いが解説に込められているのは確かだと思う。
 そしてマッティスが陽気になった理由として「いつの春もそうなのです」としたことは、ペールを喪った悲しみから立ち上がって「いつもの生活」が始まったことを上手く示唆していると思う。つまりはいつまでもひとつのことで悲しんでいられない、人はどんな悲しいことからも立ち上がる日が来るということを、この最終回の物語が告げるところであるのは確かだ。
 この解説は、本作の最後のナレーターによる解説となった。このナレーターは色んな名解説を残したとも思う。
名場面 ラストシーン 名場面度
★★★
 春が訪れ、ローニャとビルクは再び「熊の洞」での生活を再開することになった。ローニャはロヴィスに、ビルクはウンディスに別れを告げてから、城の門から出て行く。BGMに主題歌が流れる。笑顔で城を出て駆け出す二人は、山賊達の見送りを受けて城壁から「おおかみ谷」へと走る。その間にマッティスとボルカが共同で街道を行く馬車を襲うシーンが挟まれるが、すぐに笑いながら森を駈けるローニャとビルクにシーンは戻る。そして二人が「熊の洞」にたどり着くとBGMに流れていた主題歌が止まる。このまま物語が終わるように見せかけておいて、ローニャがビルクに「怖がらないでね…今私、春の叫びを上げるんだから!」と語る。するとローニャは大きく息を吸い込んで、「わ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」と緑の森へ向かって叫ぶ。この叫び声がこだますると、画面に「おわり」の文字が浮かんで物語が全て終わる。
 本作らしいラストシーンだ。ここに到達するまで最終回の名場面欄に書くシーンは「ペールの死」かなと思ったけど、このラストシーンが何もないのに妙に印象に残った。
 まず結末そのものだ。私はローニャとビルクの仲についてどんな終わらせ方をするのか全く予測がついてなかった。23話で二人の仲を引き裂く要素は既に消えており、さらに前話でマッティス山賊とボルカ山賊の統合が決まったことで二人の仲という要素については決着がついていた。だからどのような形で「二人の仲がずっと続く」という今後を示唆して終わるかという点が物語に「オチ」をつけるためとても重要だったところだ。私はエンディングテーマに少し成長したローニャとビルクが出てくる事から、将来の二人が描かれるようなオチを想像していたがそうではなかった。なんと23話まで演じられていた「熊の洞」での楽しい新婚生活の再開で幕を閉じたのである。この終わり方は予想外であったが、必要以上にこの新婚生活が楽しく描かれていたことを思えば「なるほど」と思う展開でもあった。
 そしてそのラストシーンで突然「熊の洞」の前に二人が立っているようなことはせず、その間の道のりにマッティスとボルカの和解の結果も挟まれたことで、「物語が終わってこうなりました」ということを上手く差し込んでいる。この間の二人が笑顔であることもハッピーエンドとして重要だ。
 何よりも最後は、あのローニャの「春の叫び」で終わったことだ。これで本作ではローニャの叫び声がオチとなり、主題歌の内容やさんざん描かれた「春のすばらしさ」がひとつの線として繋がった。本当に物語がうまくオチたと思う。どっかの某長い旅には見習って欲しい結末だった。
 しかし、このシーンで流れた主題歌は、歌詞が日本語じゃなかった。こんなんサントラにも入ってなかったぞ。気になる。
感想  物語は前話までにもう結論は全部出ている。最終回である今話ではどんな「オチ」をつけるかが見どころであったのはいうまでも無い。これが名場面欄で前述の某長い旅だったら、前話で最終回だ。
 そして前話の感想欄で語った「死亡フラグ」…ペールの死が前半で描かれることになった。ペールがマッティスに進むべき道を説いてきたシーンが描かれ続けたことが、このシーンで活きていると思う。マッティスが何よりも頼りにしているのがペールだということがハッキリしたことで、マッティスが大袈裟に悲しむことに無理がなくなったのだ。またペールがローニャを可愛がっていたことも、ローニャが涙を流すだけの説得力に繋がっている。だがこの「ペールの死」については物語を料理する方向を間違ったと思う。あそこでマッティスが悲しみに耐えられなくなったことでロヴィスとローニャが抱き合って泣くことに何の意味があったか理解不能だ。ここはロヴィスが上手くマッティスを操縦することが期待されるべきところで、そのロヴィスの言葉にペールの死によって主人公や視聴者に伝えたい何らかの言葉があると期待して身を乗り出して見たところだったのに…ペールが死ぬ必要あったんか?と見終えた後に感じてしまったのは事実である。
 さらにペールの葬儀には、「ひとつの強い山賊団」として提携しているボルカ山賊からは誰も出てないし…マッティスとボルカの対立を解決した張本人だぞ、なんか扱いが小さくないか?
 後半はひたすらオチだ。マッティスの悲しみは「時と春が解決した」という、本作だから仕方が無いかという内容で解決したのはアレだったが、ここまで食べかけの伏線であった「ペールがローニャに語った秘密」についてキチンと明かされた点は評価できる。その内容が事実なのかペールが考えたおとぎ話なのかは解らないという風に作ってあるのも面白い。いずれにしろローニャとビルクは自分たちの将来を決め、これに向かって前進するという展開が最後は描かれた。その将来に向かっての前進の一つが「熊の洞」での共同生活であり、これは二人が将来結婚するしかないという未来をさりげなく示唆したとも考えられる。「熊の洞」での新婚生活を毎年続けているうちにあんなことやこんなことがあって…いかんいかん、これはHNKだ。
 それついでに言うと、前半にあったマッティスとペールがベッドの上で抱き合っているシーンはオエーッだったなぁ。でも人肌恋しかったんだろう、ということにしておこう。

…無事に半年間のリアルタイム視聴連載が終了しました! お付き合いくださった皆さん、ありがとうございます。あとは後付けの概要と総評をつけて連載を終わりますので、もうしばらくお付き合いくださいね。

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