第25話「ひとつの強い山賊団」 |
名台詞 |
「兄弟のボルカよ、これから俺たちは兄弟だ。あんたは頭という名前と名誉をこれから一生持ち続けるし、あんたの子分達も今まで通りでいい。だが忘れるなよ、この俺、マッティスはあらゆる山や森のうちでも一番に勢力がある山賊の頭なんだ。これからは俺の言葉が、あんたの言葉よりも大事なものになる。わかってるな!」
(マッティス) |
名台詞度
★★★★★ |
詳しくは名場面欄を参照して戴きたいが、マッティスとボルカの決闘に決着がついたときにマッティスがボルカとその手下達に向けて「勝利宣言」として語った台詞がこれだ。
マッティスがこの決闘の勝者としてとても相応しい台詞を吐いたと思う。決闘の目的が「山賊の統合に当たり、どちらが統合した山賊の頭に君臨するか」を決めると言うものであり、これを自然に受け取れば勝った山賊は負けた山賊を乗っ取る形で合併するという方針と言うことになる。
だがマッティスのこの言葉はそれと違うことが解る。彼は自分が勝ったことでボルカ山賊を我が物にしようとしたわけではなく、ボルカ山賊を独立した山賊として存続することを認めた上で、ボルカがマッティスの傘下に入り共に生きるという形を取ったのだ。ボルカに言わせれば独立性を維持できないことは、ボルカ自身の立場上の問題だけでなく手下の山賊達の士気に関わることだ。ボルカの手下達の士気が崩れれば、日に日に活動を活発にして行く兵隊達との戦いだって上手く行かない。
だがマッティスの思いはそれだけでない。彼はローニャのことで悩み苦しんだことで優しさを獲得していたのだ。だからこそ問題があるときは自分が上だという「組織運営上どうしても必要なこと」はハッキリさせた上で、後は対等という道を選んだのだと思う。そして今、マッティスはボルカとの関係を強固にしておかないと、ローニャが山賊を継がないことはハッキリしているマッティス山賊はゆくゆくは消えてしまう。その時にはボルカの時代が来ることも計算に入れていたことは物語後半で判明して行く。
色々書いたが、何よりもこの台詞にはマッティスの成長とかっこよさの両方が出ていて、とても印象に残ったということだ。 |
名場面 |
決着 |
名場面度
★★★★★ |
マッティス山賊とボルカ山賊の統合に向け、「どちらが頭になるか」を決めるためのマッティスとボルカの決闘は「けだもの試合」という決闘法であった。二人の戦いは膠着状態であったが、一度はボルカのアッパーパンチが決まってマッティスがリング外に倒れる。だがペールが試合終了のゴングを鳴らそうとしたクノータスを制したことと、ボルカがカウントを取るフョーソクを制して「こんなんで終わりだなんて言ってくれるなよ」とマッティスに向かって叫んだことで試合続行となる。ボルカに胸ぐらを掴まれたまま立ち上がるマッティスは「もちろんだぜ」と返すと、手下の山賊達から歓声が上がる。城の見張りをサボって駆けつけたチョルムのシーンを挟んで、二人の殴り合いの大喧嘩が続く。だが殴り合いの中でマッティスがボルカに飛びつき、肩を押さえて馬乗りになる。必死に抵抗しようとするボルカの身体はみるみる動きが弱り、やがて力尽きる。マッティスの手下達が歓声を上げるとマッティスは立ち上がり「(名台詞欄の台詞)」と勝利の宣言をする。ボルカが頷くとマッティスはボルカに手を差し出し、ボルカはその手を掴んでしっかりと立ち上がる。そしてマッティスとボルカはしっかりと抱き合い、山賊達は「一つの強い山賊団」が出来上がった喜びに歓声を上げる。
凄い戦いだった。このマッティスとボルカの戦いが本作のハイライトであり、最大の見どころだったはずだ。これは序盤でマッティスとボルカの対立構造が明確になってから、本作で運命づけられた展開だったといって良いだろう。とにかく何らかの形で二人が決闘することで、二つの山賊間にある対立を解消しないことには氏湯人口であるローニャとビルクにハッピーエンドが回ってこない。この物語の構図の上で本シーンがハイライトであることは確かだ。
そしてそのハイライトシーンはそれに恥じないほどの大迫力シーンとして描かれた。「けだもの試合」という「1対1なら何をしても良いが、股間を蹴り上げることだけは反則」という決闘方法も凄いが、そのルールの上でマッティスとボルカが手加減なしのガチな戦いを見せてくれるところは痛快だ。暴力絶対反対の現代の風潮に呑まれることはなく、戦っている二人と、応援がエスカレートして喧嘩をしてしまった手下の山賊達、青あざや腫れ上がった顔をキチンと再現し、同時にマッティスとボルカについてはその外観のダメージに応じた疲弊までキチンと描いている。同時に二人の「自分こそがナンバーワン」というプライドと、その意地もキチンと描き、さらにだまし合いなど小汚い手段まで使っている点も包み隠さずシーンに取り込んだことで、この二人らしい戦いになった。だからこそ迫力があるし、私は本作で最も印象的なシーンになったと思う。
もちろん、主役がローニャである以上は勝つのがマッティスであるという展開は予想通りだ。そしてローニャによって悩み苦しんで「優しさ」を獲得したマッティスは、ボルカを傘下にしつつも共に生きる道を選んだ点も注目される(名台詞欄参照)。つまりこの決闘の結果を持って物語はひとつの結論を見せ、後はローニャとビルクが幸せになる大団円を待つだけとなったのだ。 |
感想 |
名場面欄にも書いたが、凄い決闘だった。あまりの迫力で手に汗を握り、前半がとても長く感じられた。これは悪い意味で長く感じたのでなく、自分がこの戦いの迫力に物語に引き込まれたからこそだと思う。
またこのような決闘シーンは延々と見せられると疲れるという点も考慮されていて、適当なタイミングで「見張りのために留守番させられているチョルム」や、「街道を行く商人や兵隊達」の様子が割り込むようになっている。その割り込みのタイミングも割り込んでくる時間の長さも、戦いばかり見せられて疲れてくる頃合いを見計らって、かつ本筋の無関係な者を長々と見せられていると感じない範囲で上手くコントロールされている。さらに言うとここで割り込んでくる別シーンがローニャやビルクやロヴィスでない点は、視聴者を決闘に集中させるという点でこれまた評価が高い。おかげで今回は主人公であるはずのローニャが殆ど出でてこないし(前半は全く出てこない)、主人公が活躍するシーンがほぼ皆無というとんでもない展開となった。こうして主人公不在で本作最大のハイライトシーンを演じちゃったんだから、凄い物語と言わざるを得ない。
そして後半は、決闘を通じて和解したマッティス山賊とボルカ山賊の融合と、ふたつの山賊の「これから」が語られる。マッティスはローニャが後を継がないことは織り込み済みであったが、今回はなんとビルクまでもが「山賊は継がない」と宣言して親を驚かせる。これに「子供の考えには慣れるしかない」とマッティスがボルカに語るのは面白かった。さらにその背景で、女二人で静かに盛り上がっているロヴィスとウンディスという組み合わせは珍しくて良かった。
そして今後この山賊をどうするか、ペールがボルカに語るシーンがラストに加わる。その内容については視聴者にも聞こえないように語られていたが…これはペールの「死亡フラグ」じゃないかな? 本作は「この話で誰が死ぬんだ?」的に進んでいたが、やはり誰かの生命が主人公に貴重な教訓を与える展開があるのだろう。
いよいよ次は最終回、どんな終わり方をするのかなぁ? |