「あにめの記憶」3

世界名作劇場「南の虹のルーシー」

・私が選ぶ「世界名作劇場」最高傑作
 このコーナーの初回で、私にとって「世界名作劇場」シリーズで一番印象に残っているのは1985年作品の「小公女セーラ」だと言った。それは間違いないが、「小公女セーラ」は確かに優れた作品ではあるけど、「シリーズ一番の傑作か?」と言われるとそうは思わない。つまり「小公女セーラ」が印象に残ったのは、当時の私を取り巻く環境や精神状況にこの物語が合致し、私の心を鷲掴みにしたからである。だからこそ主人公のセーラと共に笑い、セーラと共に泣きながら見ただけではなく、人生観まで変えさせられたのだ。
 要するに「世界名作劇場」シリーズで私が最高傑作だと思っている作品は他にある。「あにめの記憶」過去作品コーナーの3作目に選んだのは、現在のところ私が「世界名作劇場」シリーズで最高傑作と思っている作品を取り上げたい(1989年「ピーターパンの冒険」から2007年「レ・ミゼラブル少女コゼット」までは見ていないので)。
 それが1982年作品である「南の虹のルーシー」である。これには異論がある方もいらっしゃるかも知れないが、私はこの「南の虹のルーシー」こそがこのシリーズでの最高傑作だと思っているし、強印象の「小公女セーラ」も含めこれを上回る作品は「世界名作劇場」からは私が知る限り出ていないと思っている。
 その理由を列記しよう。
 まずは題材、ある一家がオーストラリアという新大陸に渡り、様々な苦労を経て農地を手にするまでの物語である。新大陸開拓の話というと日本人にはアメリカという印象が強いが、ここにオーストラリア開拓という日本人があまり知らなさそうな歴史を持ってきたことである。この意外性の強い題材は日本人には新鮮な物語として映り、さらに今まで知らなかった知識をたくさん吸収することとなるのだ。また新大陸の開拓という題材なのに物語の殆どがアデレードという都市で繰り広げられる意外性もポイントが高い。
 次に個性豊かな登場人物が揃っていること。主人公家族であるポップル一家だけでも父親から幼児まで多彩な年齢層と個性豊かな性格の人々が描かれているのだ。さらに家族の他にも近所の仲良しやライバルまで様々な人々が物語に絡んでくる。これはこのアニメを見る全ての人に「自分に当てはまる人物」が登場してくるので、実は視聴者が非常に取っつきやすい作りになっていると思う。さらに物語全体を通じて、その登場人物の精神的な成長が描かれている点も見逃せない。
 登場人物でのもうひとつの要素は、主人公ルーシー・メイが「普通の女の子」であること。お転婆や変わっている女の子という点を前面に押し出さず、特に優秀な訳でもないしセーラのような聖人君子でもアンのような空想屋でもない。孤児や親と別居という特殊な立場でもない「ただの動物好きの女の子」が主役を張っているのは、子供達にとって現実的でリアルな物語に映る。
 さらにこの物語には人間だけでなく、様々な動物達が現れては話を盛り上げる。この動物達の動きも現実的かつコミカルで、見ていて非常に楽しいのだ。
 次に物語だ。前回取り上げた「小公女セーラ」のように主人公が運命に翻弄されて立場や生活環境が一転する話はない。かといって「赤毛のアン」のように主人公達の日常生活と淡々と描いてそれを楽しませると言うわけでもなく、描かれた日常の背景に新しい土地での苦労やいつまでも土地が手に入らない苦悩と土地が手にはいるまでの道のり…つまり思い通りにならない家族の長い旅路(実際の旅行でなく)も同時に描かれている。その上で家族の死や別れという物語としてのイベントに頼ることもなく、それでいて見せ場もきちんとあって、物語の最後にはハッピーエンドで感動できる要素もあるのだ。主人公一家がその苦難を乗り越え、成長して最後は欲しいものを手に入れる。単純だが描こうとすると難しい物語を見事に描き上げた。
 そして「テーマ」。この物語には「家族」というテーマで貫徹しているように見える。家族だからこそ支え合い、我が儘を言い合い、意見が衝突すれば喧嘩をし、苦しみを分かち、目標が叶えば喜び合うという、家庭生活を家族と共に過ごせば体験するであろう全てのことをこの物語は描いている。何もかもがうまく行かず思い通りにならない暗い状況を「負」の部分として全体の流れとして背景に描き、前面にはルーシーをはじめとする兄妹や仲間達が支え合って生きて行く姿を明るく描いているのだ。
 またこの物語はちょっと変わった手法を採用している。それは主人公として物語の中心にいる人物と、「視点」として物語を進行する人物を別にしたことである。主人公は一家の三女であるルーシーだが、物語の視点は次女のケイトなのだ…つまり物語そのものはルーシー中心で進むのだが、物語の解説はケイト役の声優がケイトの視点で行うのである。これにより主人公ルーシーの心境が語られることはなく、視聴者がある程度自由に解釈を組み立てたり主人公の気持ちを想像できるようになっているのだ。ちなみに似たような構成は1987年作品「愛の若草物語」におけるジョオとエイミーの関係がある。
 さらにオープニングやエンディングの曲も画像も素晴らしく。このアニメがどれだけ力を入れて作られたかが分かる。
 ここまでに列記した点を総合的に考えると、「平坦な物語」という印象になるかも知れない。ただこの平坦な物語を楽しく見せるだけの様々な工夫や仕掛けが随所にしてある、それについては本文でその都度挙げて行く。だがよみ見ると平坦ではなく緩やかな下り坂で、最後は一気にハッピーエンドという切り返しがある物語なのだ。シリーズ他の物語と違って最終回まで結末が見えない、かと言って間延び感もない優れた物語なのだ。
 あらゆる面で優れているこの物語だが、ネットなどで調べてみると意外に取り上げているところが少ないのだ。だが取り上げているところではやはり高評価で、私の上記の判断は間違ってないと確信できるのだが…この原因は恐らく、原作が恐ろしくマイナーな点に絞られるだろう。そのせいか原作本は日本ではかなり長期間にわたって再版されておらず、現在は入手がほぼ不可能な状態に陥っている。さらにオーストラリアでの原作の連載が完結する前にアニメが始まったというのだから…つまり「赤毛のアン」や「小公女」や「若草物語」と違い、「原作から入ってくる人」が皆無だと思われる。このような物語を埋めておくのは勿体ない、だからこそ私も自分のサイトで優先的に取り上げることにしたのだ。
 それとここまで書いておきながらひとつだけことわりを入れておくが、「南の虹のルーシー」が最高傑作と言っても「世界名作劇場」の中で飛び抜けているとは思ってない、「世界名作劇場」シリーズは私が見た作品はどれも素晴らしく、その中で「南の虹のルーシー」は少しだけ抜きん出ているという印象である。

・「南の虹のルーシー」と私
 この物語は私が小学5年生だった時の正月に始まり、6年生の頃の年末に終わったことになる。この前の「ふしぎな島のフローネ」からが私にとって「世界名作劇場」で印象が強いところで、その中でもこの「南の虹のルーシー」はそれまでの「世界名作劇場」でちょっと毛色が違うと当時から感じていた。私はルーシーとケイトの楽しい会話が当時から大好きで、またアデレードの地で次々に起こる事件に胸をドキドキさせながら見ていたものだ。そしてその物語の質の高さ、特に人の死や別れなどで感動させる作りじゃない部分には非常に感心させられた。前作「ふしぎな島のフローネ」が殺伐とした物語だったから、このほのぼの系の物語に安堵したのも印象に残った一因だろう。
 それと当時感心したのが、物語の明るさと主人公一家に立ちはだかる「土地が手に入らない」という苦労とのギャップである。だからと言って物語が暗くはならず、明るくほのぼのと展開していたのは本当に感心した。ルーシーやケイトが前面で明るく楽しく話を進めていく背景として家族の苦労が「全体の流れ」として描かれていて、「日常系」なのに退屈しなかった記憶があったのだ。これでやっぱ当時から「世界名作劇場」で一番出来が良いのではないかと感じていた。
 それと、当時この物語を見た感想としてもうひとつは、それぞれの役を演じている声優さんが聞き覚えのある声ばかりだったこと。この頃からアニメを見て声優さんの聞き分けが出来るようになったというのもあるけど…ルーシーはキャンディ、ケイトはマチコ先生、ペティウェルはドクロベェ、デイトンは999の車掌、パーカーはマスオさん、ジョンはムテキング、ロングはレレレのおじさん…てな感じで声を聞いて「あっ!」と思ったのも覚えている。
 この物語も近年まで再放送を見たことがなかった。去年秋に「セーラ」と再会した時に真っ先に「世界名作劇場」なら次は「ルーシー」が見たいと思った。某動画投稿サイトでオープニングとエンディングに再会、特に改めて見たオープニングは懐かしさもあったけれどその素晴らしい仕上がりを再認識し、涙が出た。
 また前述のように物語自体がとても良いので、全話見れる機会ができ次第当サイトで優先的に取り上げよう…などと考えていた矢先、今年1月からNHK−BSでの再放送の情報が入り、非常に喜んで予想以上に早く当サイトで取り上げることにした。NHKタイミングよすぎ。

 この物語の原作はメルボルン出身のフィリス・ピディングトン著「南の虹」。新天地を求めてイギリスからオーストラリアに移民してきたポップル一家の物語で、前述の通りオーストラリアの雑誌に1982年まで連載されていた。日本ではアニメ放送があった1982年6月に訳本が出版されているがこれが入手困難状態で、今国内で手に入るの印刷媒体はアニメ「南の虹のルーシー」を再度小説化したもの(セーラの時と同様「小説版」とする)やアニメを元にした絵本だけのようだ。

 今回の研究考察では「小説版」の他、原作についての考察も必要としたが、前述のように原作の日本訳本が入手困難状態であった。私も探してみたがどうしても手に入らなかったので、原作「南の虹」について紹介されている下記のサイトの文章を参考とさせて頂いた上で私の考察を進めたい。

「みなりんの世界名作雑文集」
みなりん様の「世界名作劇場」に関するサイトです。
歴代の「世界名作劇場」の中から女の子が主役の作品と「フランダースの犬」「ポルフィの長い旅」について原作紹介の他、感想を独特の視点で書かれています。私はここのノリが大好きです。
「世界名作劇場・虹の牧場」
Nori様の「世界名作劇場」に関するサイトです。
「南の虹のルーシー」「牧場の少女カトリ」(1984年)の情報満載です。本放送当時販売されていたグッズの紹介は見物です。恐らく、現在は「南の虹のルーシー」について最も詳しいサイトと思われます。

 当サイトの趣旨をご理解頂き、原作紹介ページの参考としての利用を認めてくださった上記2サイトの管理人様にはこの場を借りてこの場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

・サブタイトルリスト

第1話 新しい土地へ 第26話 病気になった!
第2話 可愛いヤツ  第27話 凧に乗って
第3話 かわり者 第28話 川の向こう岸
第4話 はじめての探検 第29話 リトルの訓練
第5話 雨のち晴 第30話 誕生日のおくりもの
第6話 アデレードという町 第31話 リトルと黒い犬
第7話 ベンの災難 第32話 虹の橋のたもと
第8話 出発の前夜 第33話 失われた夢
第9話 アデレードへの道 第34話 リトルと学校
第10話 緑の町 第35話 対決
第11話 小さなわが家 第36話 巣の中の5シリング
第12話 アデレードの夜 第37話 草原の強盗団
第13話 ベンがやって来た! 第38話 ルーシーは名探偵
第14話 たくましい男 第39話 二つの別れ
第15話 二つの家 第40話 わたしは誰?
第16話 ずぶぬれのお医者さん 第41話 見知らぬ町・見知らぬ人
第17話 不幸な出来事 第42話 エミリーと呼ばれる子
第18話 木登り 第43話 すれ違い
第19話 今日は買い物 第44話 リトル!リトル!
第20話 井戸の水 第45話 トヴが消えた
第21話 アデレードの設計者 第46話 穴の中のウォンバット
第22話 レンガとディンゴの子 第47話 とうさんの決意
第23話 お前の名はリトル 第48話 大金持ちの子に…
第24話 夏の終りの日 第49話 クララの結婚
第25話 ついてない時は… 第50話 虹に向かって

「南の虹のルーシー」総評はこちら
(オリジナル小説等はこちら経由行けます)

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